種子島宇宙センター
鹿児島県熊毛郡
打上げとJAXA
現在、種子島宇宙センターでは㈱三菱重工業が打上げ実施者となり、H-IIAロケットおよびH-IIBロケットの打上げが行われています。
これらに対して、JAXAはロケットを安全に打ち上げるための「打上安全監理業務」および発射場設備の維持保全等を担うことで貢献しています。
業務の内容
ロケット飛行中のトラブルに対応する
ロケットは飛行中、常に位置や速度などのデータを地上に送り、地上ではそれをもとに、予定通りの飛行コースに乗っているかどうかを確かめています。
万一、予定のコースを大きく逸れることになった場合は、被害を最小化するために、命令を送りロケットの飛行を中断します。これが、JAXAが担う「飛行安全」と呼ばれる業務です。
JAXAでは毎回、打上げ前にロケットがどのような経路を飛行し、どこに落下するかを確認して地上/海上の安全を確保しています。またどんな状況でも確実な判断が下せるよう、機体の故障や地上設備の故障といった様々な不具合を想定した打上げのシミュレーションを行い、打上げに臨んでいます。
作業員と周辺地域の安全を守る
数百キロメートルの上空に人工衛星を運ぶため、打上げの際、ロケットは液体酸素、液体水素、固体推進薬(火薬)といった様々な危険な物質を燃料として搭載します。そして運ばれる側の人工衛星も、推進や姿勢制御のために燃料を搭載します。
こういった化学物質の取り扱いには大変な注意が必要です。一例として、人工衛星の燃料としてよく使用されるヒドラジンは人間にとって猛毒であるため、その充填に際してはスケープスーツと呼ばれる全身を覆う防護服を着用した必要最小限のスタッフが作業にあたります。
JAXAは、このような打上げに必須の燃料などを取り扱う作業の手順を定めることで打上げに関わる作業員の安全を確保しています。また打上げ時にはロケットに搭載されている燃料などの量から立入を規制する範囲を算出・設定し、これに基づいて打上げが安全に行われるよう陸上・海上・上空の警戒を行っています。
電波でロケットを追尾し見守る
ロケットは打上げ後、予定の軌道へと到達するため秒速数キロメートルという速さで飛行しますが、その際地上から機体の状態を確認するために、電波を用いて地上の通信局とロケットの間で通信を行い位置、速度などのデータを取得する必要があります。
ロケットはその速さから、地上の通信局の上空を短時間で飛び去ってしまい、通信できる時間が非常に限られるため、複数の地上の通信局で連携してロケットと通信を行う必要があります。そのため一例として、H-IIBロケットの打上げ時には種子島に加え、小笠原諸島、そしてグアムにある通信局を運用します。
JAXAは打上げ時、こうしたデータ取得のための通信局の運用を担い、種子島宇宙センターにある管制室と世界各地の通信局からロケットの追尾管制を行って、そのミッションが終わるまで見届けています。
天候からロケットと作業員を守る
降雨量、風速、落雷。ロケットは、こういった天候について、あらかじめ定められた基準を1つでも満たしていないと打ち上げることができません。
これは、天候が打上げの成否に大きな影響を及ぼすためであり、一例としてロケットが飛行中に雷に打たれると、機体やその搭載機器がダメージを受け、正常な飛行が出来なくなってしまいます。
JAXAは自前で気象観測設備を保有しており、確実に打上げを成功させるため、打上げ数日前から24時間体制で天候を監視・予測しています。また打上げ直前にはバルーンや航空機も用いて発射場上空の天候を確認しています。
地上の設備をパーフェクトに保つ
ロケットは打上げ前にVAB(Vehicle Assembly Building、大型ロケット組立棟)という建物で組み立てられ、人工衛星を搭載します。この時点でロケットとその発射台は、合計で約1,100トン(H-IIAロケット打上げ時)という大変な重量を持っていますが、打上げ時にはドーリーと呼ばれる運搬台車がこれらを丸ごと持ち上げて射点へと移送し、打上げが行われます。
また打上げの際は、これに伴う轟音を低減し、ロケットの火炎から設備を守るために放水が行われますが、その設備は毎分約20万リットル、標準的な25mプールを約1分で一杯にするほどの勢いで放水が可能な凄まじい能力を持っています。
打上げはこういった機械設備に支えられており、設備の中で想定通りに動かないものが1つでもあれば、打上げを行うことはできません。設備を日頃点検し、打上げに使えるよう万全に保つのもJAXAの役割です。