サイエンティスト&プロジェクトメンバーが語るERGへの期待 #6 西谷望
2017年1月18日(水)
- プロジェクト
- 人工衛星・探査機
西谷 望(にしたに のぞむ) 名古屋大学宇宙地球環境研究所附属国際連携研究センター准教授
SuperDARNと呼ばれる大型短波レーダー網のデータを活用して、上空約90~1000km高度に位置する、電離圏と呼ばれるプラズマが充満している場所における流れの速さなどの様々な変動の原因について研究しています。電離圏におけるプラズマの流れは時に秒速2キロメートル以上になることもありますが、この流れは主として、太陽風と呼ばれる太陽からやってくるプラズマの流れが地球内部の磁石が作り出す磁場(磁気圏)とぶつかることにより生じる起電力(電離圏電場)のために発生します。
SuperDARNは、地球的規模でのプラズマの流れの分布を1-2分ごとに知ることのできる、現在では唯一の観測手段であります。今では日本を含む10か国の国際協力により、南北両半球合わせて35基のSuperDARNレーダーが設置されて稼働しています。 |
10年ほど前までは、SuperDARNレーダーは北極や南極付近の、頻繁にオーロラが見える地域にのみ設置されてしましたが、オーロラ帯より低緯度側(サブオーロラ帯や中緯度)でも高速プラズマ流を含む様々な大きさの流れが存在し、これが磁気圏-電離圏の中で重要な意味を持っていることが認識されるようになり、2005-2006年より日本やアメリカ合衆国本土といった、より低い緯度の地域へのSuperDARNレーダーの設置が始まりました。日本国内では北海道陸別町において2006年および2014年に一基目と二基目のSuperDARNレーダーが完成し、継続して運用を行っています。私はその運用責任者を務めています。
図2: 北海道陸別町に設置された二基目のSuperDARNレーダーのアンテナと筆者
(撮影: バージニア工科大学 Mike Ruohoniemi氏)。
「あらせ」ではSuperDARNを始めとする地上観測機器では直接観測することのできない、磁気圏の中の電磁場およびプラズマの振る舞いを計測することができます。これにより、SuperDARNで観測されているオーロラ帯やサブオーロラ帯・中緯度におけるプラズマ流の分布の変動が磁気圏内のどのような過程により引き起こされるかを詳しく調べることができます。一方で、「あらせ」での主要なサイエンステーマである、内部磁気圏における粒子・波動変動過程の研究にとって重要な意味を持つ、電離圏における直流成分から周期数秒にいたる、様々な電場変動分布のデータを提供することにより、内部磁気圏変動メカニズムの解明に貢献できると考えています。
「あらせ」とSuperDARNとの共同観測をより効率的に実施するために、2010年ごろから双方の研究者が協議を重ね、ERG-SuperDARN共同観測の準備を進めてきました。「あらせ」の軌道が確定し次第、本格的な共同観測体制を開始する予定です。
電離圏においてはその電磁場環境の変化により、地球全体で1~10メガアンペアという巨大な電流が流れます。この電流の変化により地上付近に誘導電流が誘起され、送電や通信に悪影響をもたらすことが知られています。このような事象をできるだけ事前に正確に予測することを目標として、電離圏および磁気圏の研究者が協力して基礎的な研究を進めていくことが重要です。
プロフィール: |
ERGプロジェクトチーム
ERGプロジェクトは、衛星観測と地上観測、シミュレーションを密接に連携させて地球周辺の宇宙空間(ジオスペース)を調べる研究プロジェクトです。 |
※ ERG衛星は、打ち上げ後、愛称が「あらせ」に決まりました。