サイエンティスト&プロジェクトメンバーが語るERGへの期待 #3 尾崎光紀

2016年12月12日(月)

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  • 人工衛星・探査機
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尾崎 光紀(おざき みつのり)
金沢大学理工研究域電子情報学系 准教授

ERG衛星では、プラズマ波動の交流磁界観測(数Hz~100 kHz)をつかさどる磁場観測センサ(PWE-MSC)の責任者を務めております。南極での地上電磁波観測システムの開発経験はありましたが、衛星搭載用観測機器は地上観測と異なり質量、耐放射線に対する制約が厳しく、特に苦労しました。質量を数十グラム削減するために製造をご担当いただいた日本飛行機(株)様と電線一本一本のサイズを見直し、放射線に対する耐性を確認するために実際に放射線試験を実施するなど、軽量化と耐放射線向上を図りながら科学目標を達成する世界トップクラスの高感度MSCを開発することができたと自負しております。
我々が開発したMSCは、地球周辺宇宙のプラズマの揺らぎによって発生するプラズマ波動を高精度に計測することを目的としています。プラズマ波動は地球の磁力線に沿って地上まで到達することができるため、地上観測も可能です。このため、ERG衛星の詳細なその場観測と広範囲の現象把握を得意とする地上多点ネットワーク観測の協同により、グローバルな地球放射線環境を把握することを目的としたPWING project(研究代表:名古屋大学 塩川和夫教授)での地上電磁波観測の責任者も務めさせていただいております。

プラズマ波動・電場観測機(PWE)の観測エレクトロニクス(PWE-E)と磁場観測センサ(PWE-MSC)の電気機能試験の様子
(C)金沢大学/JAXA


* 用語解説:「その場観測」とは…
調べたい現象が起こっている現場に行って、直接的な観測を行うこと。地上からオーロラを観測したり、遠くの星を望遠鏡で見るのと違い、ERG衛星は宇宙の電波(プラズマの波)が生まれる現場で直接観測をします。

ERG衛星への期待

電子機器に電流が流れると電波が発生しますが、同じように宇宙でのプラズマ粒子(電子やイオン)が活発に運動すると、空間に電流が流れ宇宙には多種多様なプラズマ波動が発生します。ERG衛星は、地球周辺の宇宙(ジオスペースと呼称)でまさに宇宙の電波(プラズマの波)が生まれる発生域での詳細計測を行い、同時にPWING projectは地上観測網により発生域から地上に到達するまでにプラズマ波動がどのような伝搬過程を経てきたかを知ることできます。この伝搬過程には、どんな場所で、どれくらいのプラズマ密度が存在したか、伝搬経路上のプラズマ状態を知る手がかりとなり、ERG衛星とPWING projectの協同は、グローバルかつ詳細なプラズマ密度分布を明らかにできると期待されています。編隊飛行による複数衛星観測と異なり、ERG衛星は1機での点観測であり、広大なジオスペース・プラズマ環境を明らかにするには限界があります。このため、ERG衛星によるその場での観測に加え、PWING projectや他の地上ネットワーク観測との協同により新しい科学成果を創出できると期待しています。

PWING projectの地上アンテナ

発生域を探査するERG衛星は長さ0.2mの棒状センサでプラズマ波動を検出できるが、地上到達までに1/100~1/1000まで強度減衰するため、地上では5m程度の大型アンテナを使用します。(写真提供:尾崎 光紀)



ジオスペース探査が拓く“新しい世界”

ERG衛星によるジオスペース探査は、将来の人類の宇宙圏での活動拡大に向けた安心・安全なプラズマ環境を明らかにするだけでなく、ERG衛星開発で得た耐放射線技術が、地上の高濃度放射線環境下における高信頼自動計測システムなどの開発に貢献できると確信しています。残念ながら東日本大震災から日本は放射線の存在を頭の片隅に誰もがもつ生活を送っています。ジオスペース探査による科学成果はもちろんですが、工学系を主軸とする私は、ERG衛星開発を機に耐放射線に優れたアナログ集積回路の基礎研究にも着手し始め、衛星搭載用科学機器開発で得た知見を基に産業応用を通じて社会に貢献していきたいと考えております。

プロフィール
小学校の頃は、ガンプラの製作やミニ四駆の改造に夢中になりました。それが関連するのか分かりませんが、ものづくりは好きです。
福井工業高等専門学校時代に光では知ることができない昼間のオーロラや曇空の上のオーロラの様子を電波で知ることができるということに興味を持ち、磁気圏観測衛星「あけぼの」、磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL」のプラズマ波動観測を世界的にリードされていた金沢大学 長野勇教授(現 小松短期大学学長)、八木谷聡教授(ERG プラズマ波動・電場観測機 Co-PI)の電波情報工学研究室への配属を希望し、金沢大学へ編入をしました。研究室配属後は、宇宙プラズマ波動はもとより雷や地震から発生する電磁波現象の解析、自然VLF波動地上観測システム、ERG衛星搭載用磁場観測センサ(サーチコイル)の開発などに携わり、2009年より同研究室で教員として勤めております。この間、第47次南極地域観測隊(宙空部門 越冬、2005~2007年)に参加し、国立極地研究所 佐藤夏雄教授、山岸久雄教授、門倉昭教授の強力なサポートの基、南極昭和基地周辺3地点で自然VLF波動の無人自動観測の現地責任者を務めさせていただきました。現在は、集積回路技術を用いて観測性能を維持しつつ観測システムの超小型化の開発研究にも取り組んでおり、近い将来の超小型衛星群を用いたプラズマ波動多点観測に貢献したいと思っております。

ERGプロジェクトチーム

ERGプロジェクトは、衛星観測と地上観測、シミュレーションを密接に連携させて地球周辺の宇宙空間(ジオスペース)を調べる研究プロジェクトです。
ERGプロジェクトの推進には、研究チームとして国内外の約30の大学・研究機関から100名以上の研究者が参加しています。
また、研究チームに加えて、JAXA宇宙科学研究所と名古屋大学の共同運用によるERGサイエンスセンターが設置され、科学データの公開やソフトウェアの開発を行っています。