プロジェクトメンバーが語る「ここがすごいよ」イプシロン2号機 #2 井元隆行
2016年11月22日(火)
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井元隆行(いもとたかゆき)
イプシロンロケットプロジェクトチーム サブマネージャ(打上管制隊ではロケット主任)
イプシロン2号機の強化ポイント
宇宙航空研究開発機構はイプシロンロケット試験機打ち上げのあと強化型イプシロンロケットを開発しました。強化型の目的は簡単にいうと、より多くの人工衛星や探査機に利用してもらうことです。そのために、より重く、より大きな衛星を軌道に投入できるロケットを開発しました。公式の文書では打ち上げ能力の向上と衛星包絡域の拡大という言葉を使っています。
2013年9月にイプシロンロケット試験機を打ち上げました。試験機ではM-VロケットやH-IIAロケットの技術を最大限に活用して短期間で新型ロケットを完成させました。その際、自動点検機能を盛り込んで運用性を向上させ、振動や音を低減する工夫を盛り込みました。強化型では主に2段モータ大型化、構造の軽量化、電力シーケンス分配器(PSDB)の小型軽量化を実現しました。2段モータは試験機ではM-Vの4段に相当するキックモータを活用したのでフェアリングの中に入っていたのですが、強化型では2段モータを大きくしてフェアリングの外に出して能力を向上させるとともに衛星を搭載可能な容積を広げました。構造は1段と2段をつなぐ部分に複合材構造を採用するなどで軽量化を、PSDBは大きめの機械式リレーから小さい半導体リレーを採用することにより小型軽量化をそれぞれ実現しました。
試験機と2号機の違いでいうと、2号機で強化型を適用したこと以外には、試験機はPBSという小型液体推進系を3段の上に搭載していました。これをオプション形態といいます。一方、2号機はPBSを搭載しない基本形態です。
試験機と強化型の比較
同時進行でH3ロケットとのシナジー開発の検討を進めています。固体燃料ロケットのイプシロンと液体燃料ロケットのH3は違う部分も多いですが、共通する部分もあります。共通する部分についてはそれぞれ個別に進めるのではなく、相乗効果を発揮して技術を高めたり効率化しようというものです。例えば、強化型の2段モータで開発した技術の一部をH3の固体ブースタに適用します。逆にH3の固体ロケットブースタをイプシロンの1段に使います。また、我々はアビオニクスといっていますが、ロケットに搭載する電子機器の一部についても共通化が可能です。例えば、ロケットは自らの位置や姿勢を検知して目的の軌道に向けた誘導制御と風などの外乱に対して機体を安定させるための姿勢制御をロケット自身が実施しており、その原理はイプシロンもH3も同じなので一部の機器や機能は共通化できるのです。今まさにその方向性について話し合いを重ねています。また、これとは別に、複数衛星を搭載して打ち上げるシステムの開発にも着手しました。
試験機では打ち上げが二度延期しました。そこで得た共通的な教訓は当たり前のことですが「事前の確認をしっかりやること」です。2号機では事前に十分確認してから打ち上げにのぞむよう計画しています。さらに、試験機の時はスケジュールが厳しかった、つまり、短い期間内で打ち上げる必要があったということも遠因だったので2号機ではスケジュール余裕をとることも考えていました。しかし、H-IIAやH-IIBの打ち上げなどが立て込んでいるので余裕を持つことが難しくなりました。そのためスケジュール余裕がなくなり、これまで我々が準備してきた成果が問われる状態になってきました。試験機の時には二度の延期以外にも1段モータ輸送時もJAXA敷地内に入る直前の国道で止まってしまいました。2号機ではこれら3つをきちんとクリアすること、つまり、リベンジを私は目標に掲げており、ひとつめの1段モータ輸送は無事クリアしました。あと2つリベンジします。
1段モータ輸送
ただ、ロケットの打ち上げは天候には勝てません。また、打ち上げを成功させるためには異常を内在している可能性がある状態では打ち上げないことが重要と考えて入り、少しでもその兆候がある場合は打ち上げを中止します。これだけは強調しておきます。
肝付町の担当者から応募キャンペーンで集まったメッセージを受け取りました。
これからの夢
今の夢は?まず2号機の打ち上げを成功させること。これなくして次はありません。やはり将来的には再使用や有人の輸送手段を実現することですね。あと、英語が得意な大学生の娘たちといっしょにTOEICを受験して点数で上回ることを密かな目標にしています。
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