「すざく」の10~100倍暗い天体が観測できる検出器 ここがスゴイ!ひとみ [その3]

2016年2月8日(月)

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世界に誇る日本の半導体技術を用いた検出器 (SXI, HXI, SGD)

国内外の大学・研究機関の250名を超える研究者が開発に参加するX線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)。その多くのメンバーは、「ひとみ」の根幹というべき、望遠鏡と検出器の開発に携わっています。「ひとみ」には、2種類の望遠鏡と4種類の検出器が搭載されており、それぞれ特徴があります。「その1」ではX線望遠鏡、「その2」では4種類の検出器のうちの1つである軟X線分光検出器(SXS)を紹介しました。ここでは残りの3つの検出器(SXI, HXI, SGD)を紹介します。

軟X線撮像検出器
Soft X-ray Imager (SXI)
硬X線撮像検出器
Hard X-ray Imager (HXI)
軟ガンマ線検出器
Soft Gamma-ray Detector (SGD)

図1:各検出器の全体写真(上)とセンサー部分(下)



図2:各検出器が捉える波長域

※「軟X線」「硬X線」「軟ガンマ線」…文字から、硬さがあるように感じますが、実際にはエネルギーの高さに応じて “エネルギーが低め=軟”、“エネルギーが高め=硬”と呼び分けています。

撮像と分光が両方できる!X線撮像検出器の仕組み

これら3種類の検出器のうち2つ(SXI、HXI)は、X線撮像検出器と呼ばれるもので、X線望遠鏡(SXT、HXT)と組み合わせることで、可視光と同じように天体からやってくるX線を捉えて画像を撮る(撮像)ことができます。市販されているデジカメと同じように、小さな半導体素子がたくさん並んでおり、どの素子に何個X線が入ったかを調べることでX線画像が得られます。実際は、素子に当たったX線によって飛び出した電子を電気信号として読みだします。

デジカメとの違いとして、可視光線の場合は光子が1つ当たると電子が1つだけ飛び出すのに対して、X線の場合は光子エネルギーが大きいため、1つの光子のエネルギーに比例した数の電子が飛び出します。これにより、光子1つ1つの持つエネルギーを測る(分光)こともできます。

原理は、普通のデジカメとあまり変わりはないんだね。でも、可視光では3色のフィルターをつけないとカラーの画像が得られないのに対して、X線ではフィルターを使わなくても、画像と同時に色の情報も得られるんだ。

広い視野で軟X線の撮像と分光をします!軟X線撮像検出器(SXI)

SXIのセンサ
赤い丸枠内が4枚のX線CCDカメラ

「その2」で述べたSXSは従来の検出器より30倍も精密にX線光子のエネルギーを測ることができますが、視野が3分角(※)程度しかありません。それを補うために「ひとみ」には、X線CCDカメラを用いたSXIが搭載されます。X線CCDは1993年に打ち上げられた「あすか」で初めて実用化されて以降、X線望遠鏡の標準的な検出器として広く使われています。「あすか」「すざく」の技術を継承・発展させて、「ひとみ」では新しく開発した日本製を採用しています。SXIの特徴は広い視野です。左図のように大型の国産X線CCDカメラを4枚、2×2のモザイク状に並べることで、これまでのX線天文衛星に搭載されたCCDカメラの中では、最大の38分角という広い視野を実現しています。これは満月(約30分角)をまるごと覆える視野です。

※分角=「分角」角度の単位で1分角は1度の60分の1です。ここでは、視野を示すために角度を利用しています。
右図の青丸で囲った範囲はおよそ3分角、白い丸で囲った範囲がおよそ30分角(満月を覆う)。とても視野が広くなったのがわかりますね。

◆エネルギーの高い硬X線でも撮像と分光をします!硬X線撮像検出器(HXI)

硬X線望遠鏡(HXT)の焦点に置かれるHXIは、日本独自の新型の撮像検出器で、エネルギーの高いX線、すなわち硬X線で天体を撮像する目的で開発されました。軟X線を検出するSXIがシリコン(Si)半導体を一層だけ用いるのに対し、HXIはシリコン半導体を4層、さらにその下部にテルル化カドミウム(CdTe)半導体を一層、積み重ねて用います。これは高いエネルギーのX線ほど、検出器を素通りしやすくなるからです。こうしてHXIはSXIより大まかに10倍も高いエネルギー範囲で撮像・分光を行うことができます。視野は9分角になります。HXIの先輩にあたる装置は、硬X線検出器として「すざく」に搭載され活躍しましたが、HXIは硬X線望遠鏡と組み合わせることで撮像が可能となり、また感度もざっと100倍にも向上します。

◆X線よりも高いエネルギーの軟ガンマ線を捉えます!軟ガンマ線検出器(SGD)

日本独自のコンセプトである「狭視野コンプトンカメラ」を「ひとみ」に応用した装置です。望遠鏡は使わないので天体の細かい撮像はできませんが、硬X線よりも高いエネルギーの軟ガンマ線をとらえることにより、高エネルギー現象の解明に活躍します。

コンプトンカメラの原理(簡略図)

SGDは「コンプトンカメラ」と呼ばれるガンマ線の検出器を6台ならべたもので、それぞれはHXIと類似の構造を持ちますが、シリコン半導体が32層、CdTe半導体が8層と、さらに多層化されています。光子エネルギーが高くなり軟ガンマ線になると、検出器のどこか1か所でまず散乱され、ついで別の場所で吸収されるという、2段階の反応が多く起こります。
これら散乱や吸収が起きた位置と、そこで検出器に与えられたエネルギーを記録すれば、ガンマ線の到来方向とエネルギーがわかります。

さらに、コンプトンカメラの周りを井戸型シールドで囲み、視野を絞る「狭視野コンプトンカメラ」にすることで、到来方向がシールドの視野と一致しない場合は、信号はガンマ線ではなくノイズ(天体に無関係な雑音)だったと判断として除去することができます。このようにして極限までノイズを下げることで、世界最高に達する高い感度(「すざく」の10倍)を実現します。

SXI, HXI, SGDは、どれも国産技術で作られているんだね。世界に誇れる半導体技術の1つだね。 また、コンプトンカメラの技術は地上でもこれから医療などで役立てられようとしているんだ。

軟X線、硬X線、軟ガンマ線を同時に観測します!

「ひとみ」は、SXSも含めこれらの4種類の観測装置を組み合わせて、同じ天体を同時に観測します。これにより、図2のように、軟X線・硬X線・軟ガンマ線帯域というとても広いエネルギー帯域で、同時に観測することができます。これらの検出器の感度は、「すざく」の10倍から100倍にもなります。

その結果、従来は測定できなかった超高温プラズマの温度を測定したり、厚いガスに囲まれた銀河中心の巨大ブラックホールを検出したり、超新星残骸や高速で自転する中性子星の近傍で粒子が加速される様子を調べるなど、格段に進んだ研究が可能となると期待されます。

図3:ブラックホールが、それを取り込む熱いガスを照らす様子の想像図