「こうのとり」の荷づくり(8月17日改訂版)

2015年8月17日(月)

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2015年8月14日の、「こうのとり」5号機プレスキット改訂にともない、速達対応サービス(レイトアクセス)についての記載を中心に更新しました。

国際宇宙ステーション(ISS)の補給機である「こうのとり」の物資搭載部分は、補給キャリア与圧部・補給キャリア非与圧部・暴露パレットで構成されています。今回は、どのように物資を搭載しているのか、補給キャリア与圧部への搭載方法を「こうのとり」4号機(HTV4)の実例と、「こうのとり」5号機プレスキットからの引用を合わせてご紹介します。

補給キャリア与圧部(PLC)とは?

補給キャリア与圧部(PLC)は、ISSの船内補給物資を積み込むためのスペースです。前方にはISSの結合部となる共通結合機構(Common Berthing Mechanism:CBM)およびハッチが設置されています。内部は1気圧に保たれ、温度は単独飛行中やISS結合中も制御されます。ISS結合中は、1.3m四方の大きさのハッチからISSクルーが直接内部にアクセスし、補給物資の荷降ろしや、不用品の積み込みを行います。「こうのとり」5号機(HTV5)では、油井宇宙飛行士が出入りする姿を見られることでしょう。

「こうのとり」5号機はどんな物資を運ぶの?

ISSの船内で宇宙飛行士たちが活動するために必要な食料・水・酸素をはじめ、ISSで行う実験の装置やサンプルなどが積み込まれます。5号機では合計約5.5トン(船内物資約4.5トン、船外物資約1トン)をISSに運びます。船内物資の約4/5はNASAの物資で、残りの約1/5はJAXAの物資です。

表:「こうのとり」5号機で輸送する主な船内物資
機 関 分 類 物資例
NASA システム補給品 水再生システム用ポンプ/フィルタ、ISS保全用品、宇宙服用高圧ガス推進装置など
飲料水 飲料水用水バッグ30個
食 料 レトルト品、乾燥食品、生鮮食品など
生活用品 衣類、シャンプー/歯磨き粉等の生活用品
実験関連機器 小型衛星放出機構など
JAXA システム補給品 きぼう保全用品など
実験関連機器 小動物飼育装置、静電浮遊炉、小型衛星放出機構など

物資輸送用バッグ(Cargo Transfer Bag: CTB)

ISSへの輸送に使われている物資輸送用バッグ(CTB)の各種サイズ (NASA/JAXA) (クリックして拡大)


船内補給物資は種類に合わせて、物資輸送用バッグ(CTB)に収納されます。CTBはシングルサイズ(標準サイズ)を中心に、様々なサイズが用意されています。
搭載可能な物資輸送用バッグ(CTB)の数は、初号機208個から5号機242個へと34個(約15%)増強されました。より多くの物資を届けることでISSの円滑な運用に貢献します。

物資輸送用バッグ(CTB)
(写真はシングル(標準)サイズ(左)とハーフ(1/2)サイズ(右))

輸送用バッグ(CTB)にぎっしりと
詰められた実験用品 (C)NASA

HTV補給ラック(HTV Resupply Rack: HRR)

物資を詰めた物資輸送用バッグ(CTB)は「こうのとり」の機体が一つに組み立てられる前に積み込まれます。船内補給物資を収めた物資輸送用バッグ(CTB)は、補給キャリア与圧部(PLC)の搭載可能な容積を最大限に活用するため、補給ラックに収められます。物資輸送用バッグ(CTB)はHTV補給ラック(HRR)の前面にも張り出す形で、ストラップで固定されて運ばれます。また、「こうのとり」5号機では、与圧部の底の部分のスペースを有効に活用するため、新たな搭載用ラック(HRR Type-D)を設置し、物資を搭載しています。

HTV補給ラック(HRR)に搭載される
物資輸送用バッグ(CTB)

HTV補給ラック(HRR)


「こうのとり」5号機で新設したHRR Type-Dの搭載構造


補給キャリア与圧部内で物資輸送用バッグ(CTB)を積み込んだ様子(「こうのとり」4号機)


レイアウトが肝心! カーゴレイアウトシステム

補給ラックは与圧部内に、ただ積み込めば良いというわけではありません。「こうのとり」本体を無事に届けるための制御を行う都合上、機体の重心位置を把握し調整しなければなりません。物資は増えるほどに重心のバランスを取ることが難しくなります。積み荷のサイズと重量だけではなく、種類や性質、打ち上げ方向まで考慮して技術者の経験によるレイアウトを行い、システム上で緻密に重量バランスを計算して、重心位置を検証しています。(※下の写真は「こうのとり」4号機のときのものです。)


速達対応サービス(レイトアクセス)とは?

速達対応サービス(レイトアクセス)とは、打ち上げ4カ月前までに積み込む「通常の搭載形態」とは区別し、ライフサイエンス実験に使う実験サンプルや生鮮食料品など、積み込む時間の制約が厳しくフレッシュな状態でISSに輸送する必要のある物資、当初から調達に時間がかかり直前積み込みが計画された物資を打ち上げ直前に「こうのとり」に積み込み、打ち上げる形態を指します。最後に積み込むため、ISSに「こうのとり」が到着したら、一番最初に取り出せる利点もあり、こういった搭載形態によって、時間制約のある物資へ対応できます。

「こうのとり」5号機は、打ち上げの1週間前くらいの8月上旬に、ロケットのフェアリングにあるアクセスドアを開いて、「こうのとり」のハッチを再度開き、物資の最終積み込みを行います。大型の実験装置や多くの物資がすでに搭載されているので、速達対応サービス(レイトアクセス)によって積み込める容積は限定されますが、ISSでの実験が多様化するなか、「こうのとり」は初号機以降サービスの対応を拡大しています。


「こうのとり」4号機 レイトアクセス作業風景


大型ロケット組立棟(VAB)内でのレイトアクセス模式図


「こうのとり」5号機のココがすごい!

「こうのとり」は初号機以降、段階的に物資の最終積み込み(速達対応サービス)可能量を増やしています。4号機では搭載可能バッグの許容上限を広げ、大型バッグにも対応できるよう能力向上を図りました。物資輸送用バッグ(CTB)のサイズは、従来のダブルCTB(約50×43×50cm)から、約2倍の体積であるM02バッグ(約90×51×54cm)まで対応可能になり、またバッグ質量も従来の20kgから、5号機では70kgへ引き上げました。5号機では速達対応で搭載可能なバッグの数を4号機での80CTB分から92CTB分へ増加させました。他国のISS補給船と比較してもサービスの能力(速達サービスで搭載可能な量)は、ドラゴン(米)では14個、シグナス(米)では10個、と最大の搭載可能量になります。

表:各補給機のCTB搭載状況
  シグナス(米) ドラゴン(米) HTV4 HTV5
船内物資として搭載可能なCTB換算総数(※) 112 141 230 242
速達サービス対応可能なCTB換算数(※) 10 14 80 92

※標準サイズ(502mm×425mm×248mm)を1CTB分として容積を換算。実績の搭載バック数とは異なります。


NASAの緊急要請

「こうのとり」5号機では、NASAの緊急要請に応え、搭載計画をこまかく調整、搭載の仕方をさらに工夫して、物資を搭載しています。

種子島に到着したNASAの輸送機から
緊急物資を取り出す様子

取り出されたNASAの物資


飲料水の輸送

人が生きていくために必要不可欠なものの一つが水です。「こうのとり」5号機の搭載物資のうち、飲料水は26.7%(重量比)を占めています。「こうのとり」による飲料水の輸送は2号機で初めて行われました。5号機では3回目の輸送が行われます。水バッグ(Contingency Water Container-Iodine: CWC-I:容量20リットル)は2号機の4袋(80リットル)、4号機の24袋(480リットル)からさらに増えて今回は30袋(600リットル)となります。

飲料水を充填した水バッグ(CWC-I)と梱包材(上:2号機、下:5号機)
(上の写真で紫色のラベルがつけられた袋が水バッグで、周りは梱包材です)

飲料水の搭載イメージ (クリックして拡大)


種子島宇宙センター内のシンク

「こうのとり」5号機でISSに運ばれる水は、
この蛇口から供給しました

今回の5号機に搭載された水は写真の蛇口から出されたものです。
水はNASAの飲料水基準を満たすものを種子島の水道水から精製し、殺菌成分として微量のヨウ素を添加したものを水バッグに充填しています。種子島の水が宇宙飛行士たちの活動を支えます。



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