ESAの彗星着陸機「フィラエ」がチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸!

2014年11月18日(火)

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2014年11月12日、欧州宇宙機関(ESA)の彗星探査機「ロゼッタ」に搭載された着陸機「フィラエ」がチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸しました。彗星の上に探査機が着陸するのは史上初の快挙です。すごい! おめでとうございます!

フィラエ(英語ではPhilae は「フィーリィ」や「フィレー」という感じの発音ですが、ここでは国内で一般的な呼び方に統一します)は、おおよそ1m四方、ちょうど洗濯機ほどの大きさの探査機です。3本の脚を持ち、搭載された様々な観測装置で彗星の表面の組成や内部の構造を調査します。

彗星着陸機「フィラエ」(欧州宇宙機関 ESA)
ESA/ATG medialab

彗星を表面を調べると何が分かるのでしょうか? たとえば、これまでの研究から彗星にはわずかながらアミノ酸が含まれていることが分かっています。アミノ酸は生命の重要な材料の一つですが、生まれたての頃の地球はとても暑く、アミノ酸は存在することができません。では、私達の体にあるアミノ酸はどこからきたのか? 自然に生まれた? あるいは……地球に落ちてきた彗星がアミノ酸を地球にもたらしたかもしれない、そう考える学者もいます。彗星の表面の物質を詳しく調べることで、もしかしたら生命の起源につながる発見があるかもしれません。なんだかわくわくしますね。

フィラエの製作にはオーストリア、ベルギー、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、イタリア、アイルランド、オランダ、ポーランド、スペイン、スイス、イギリスと13カ国もの国々が参加しています。そうそう、フィラエ本体を作ったドイツ宇宙局(DLR)、そして通信装置や観測装置を担当したフランス国立宇宙研究センター(CNES)は「はやぶさ2」に搭載される着陸機MASCOTも制作しています。私たちの次の旅の仲間ですね。

いよいよ2014年11月12日、フィラエがチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸する日がやって来ました。

ほとんど重力のない彗星に安全に着陸するのはなかなか大変です。下手をするとバウンドしてまた宇宙に飛び出してしまうかもしれません。そうならないためには、なるべくゆっくり降りて、着地したらすぐさま機体を固定する必要があります。フィラエは秒速1mという人が歩くより遅い速度で彗星へと降下し、着陸の瞬間にスラスタと呼ばれる小型のジェットを吹かして機体を水星の表面に押し付けます。そして火薬の力で発射される銛(アンカー)を地面に打ち込み、さらに足につけたドリルでネジで止めるように地面に機体を固定します。

しかし、フィラエは事前のチェックで、着陸時に使用するスラスタが動かないという問題があることが分わかりました。これでは彗星表面に着陸したフィラエがバウンドしないように機体を地表に押し付けることができません。頼みの綱はアンカーとドリルだけです。フィラエの旅は少し不安含みのスタートでした。

11月12日17時35分にフィラエはロゼッタから切り離されました。彗星の表面まで7時間の道のりです。

左:フィラエが分離直後に撮影したロゼッタの様子
Credit: Credit: ESA/Rosetta/Philae/CIVA
右:ロゼッタがとらえた降下していくフィラエの姿
Credit: ESA/Rosetta/MPS for OSIRIS Team MPS/UPD/LAM/IAA/SSO/INTA/UPM/DASP/IDA

彗星上空3kmからフィラエが撮影した表面の様子
Credits: ESA/Rosetta/Philae/ROLIS/DLR

13日0時34分に彗星表面に接地。その信号が地球に届いたのは28分後(彗星と地球の間は5億kmも離れているので電波を使っても片道28分かかるんです)の1時2分。管制室は大きな歓声に包まれました。史上初の彗星への探査機着陸の瞬間です。

着陸の瞬間、歓声に沸く管制室
Credit: ESA/J.Mai

しかし、その後に得られたデータを調べたところ、フィラエを彗星表面に固定するために打ち込まれるはずのアンカーが発射されていないらしい、ということが分かりました。しかも、データはフィラエが動いているということを示しています。どうやら、機体が表面に固定されずに大きくバウンドしてしまったようです。

もしこれが地球ならフィラエは動かなかったか、あるいはすぐに表面に降りてきたでしょう。でも、差し渡し数キロしかない彗星にはごく僅かな重力しかありません。フィラエから再び着地したと思われるデータが届いたのは2時間後。このときフィラエは1kmも跳ね上がったと考えられています。さらに機体はもう一度跳ね上がりましたが、今度は数分で降りてきました。なんとフィラエは一度ならず三度も彗星表面に着陸したということになります。

そして、フィラエが送ってきたデータは……

"Welcome to a comet (ようこそ彗星へ)"
Credit: ESA/Rosetta/Philae/CIVA

これが、人類が初めて目にする彗星表面の風景です。空気の無い宇宙ならではの陰影の強さがとても印象的です。ゴツゴツした岩場のような場所ですね。

実は、フィラエが2度目に着陸した場所はかなり起伏の大きい場所だったようです。実はこの写真、向かって左側の黒い境界線が地平線だと考えられています。そう、フィラエは岩場のような場所に大きく機体を傾けた状態で着陸していたんです。でも、1kmも飛ばされて、本来降りられるような場所ではない所に降りたにもかかわらず、フィラエに搭載された機器は問題なく動き、科学データや写真を地球に送ってきました。これはすごいことです。

ひとつの問題は太陽電池に光が十分に当たらないこと。起伏のある場所に降りたために機体が傾き、太陽電池に光が当たらず十分な電力を発生できません。これは、フィラエはロゼッタからの切り離し前に充電された内蔵電池の電力だけで必要な操作をしなければならないということです。もうひとつの問題は姿勢が不安定なこと。重力の小さな彗星で不安定な状態のまま探査機の機器を動かすのは大きな困難が伴います。なにしろバランスを崩すと簡単にひっくり返ってしまいますからね。

フィラエの内蔵電池が切れるまで2日しかありません。慎重にフィラエの姿勢と残りの電力を確認しながら調査を進めます。まずは、機体を動かさずに使える観測装置。その次に、機体の一部を動かしたり、直接彗星のサンプルを採取する調査です。これは機体が動いてしまう可能性があるので更に慎重に……

結局、フィラエはバランスを崩すこともなく、内蔵電池に残った電力を使って予定されていた初期観測を全て終え、すべてのデータを地球に送りました。そして……

フィラエ:ロゼッタ、僕はちょっと疲れたよ。データは受け取ってくれた? 少しお昼寝しようかと思うんだ。

ロゼッタ:きみはよくやったよ、フィラエ。これまでどんな宇宙船もやったことのないことをやり遂げたんだ。

フィラエ:ありがとう、ロゼッタ。僕やったよ! 初めて彗星に着陸して、そこを調べた宇宙船になったんだ。でもまだこれで終わりじゃないよ……

ロゼッタ:その通り。これから君が送ってくれたデータを分析しなくっちゃ。それに、これから太陽の周りを回りながら、それがどんなふうに変化していくかを調べなくちゃいけないんだ。

フィラエ:僕の彗星での生活は始まったばかりだよ。また、僕の新しいうちのことを伝えるね。おやすみ……

フィラエは、11月15日9時36分、内蔵電池の電力が低下し、冬眠モードに入りました。太陽との角度が変化してフィラエの太陽電池により多くの光が当たるようになれば、またフィラエの元気な声を聞けるかもしれません。楽しみに待ちましょう。それまで、おやすみフィラエ!

さて、いよいよ2014年11月30日には、「はやぶさ2」を乗せたH-IIAロケット26号機が種子島宇宙センターから打ち上げられます。今度は私たちの番です。

※文中の日時は日本時間です。