天候を見極める!ロケット打ち上げ

2016年2月10日(水)

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H-IIAロケット18号機打上げ当日の朝焼け

X線天文衛星ASTRO-Hを搭載したH-IIAロケット30号機の打ち上げがせまってきました。当日のお天気が気になりますね。
これまでのH-IIA、H-IIBロケットの打ち上げ延期の主な原因は「天候」によるもの。天候不良によって多くの打ち上げが延期を余儀なくされているのです。

天候による打ち上げ延期の重要キーワード

JAXAではロケット打ち上げ時間帯の強風、大雨、雷発生の可能性について予測し、その可能性が高いと事前に延期を決めています。
天候による延期プレスリリースでよく聞かれるフレーズは次のようなもの。何度か打ち上げに注目している方は、聞き覚えがあるのではないでしょうか。

  • 氷結層の発生
  • 天候悪化が予想されるため

どうしてこれらの理由で打ち上げが延期されてしまうのでしょうか。

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「氷結層」とは、雲の中の0℃からマイナス20℃の層のことを指します。氷結層では氷の粒が衝突し合うことで電気を帯び、その衝突が激しい場合は落雷へとつながることが知られています。ロケットに雷が落ちると、機体や搭載機器にダメージが生じ、ミッションを達成できなくなってしまいます。
打ち上げ時に雷が鳴っていないから大丈夫とは言い切れず、高速で飛行するロケットが氷結層を含んだ雲の中を突っ切ると、雷を誘発してしまう可能性があるので打ち上げを延期するのです。

「天候悪化が予想される」ケースですが、ロケット打ち上げ時の気象条件は10以上の厳しい制約がかせられています。ここでは例として、H-IIBロケット試験機打ち上げ時の打ち上げ主要制限を取り上げます。

対象制約条件
1. 機体移動時は制限風速以下であること。 [制限風速] 22.4m/s(最大瞬間風速)
2. 発射時においては、制限風速以下であること。[制限風速] 20.0m/s(最大瞬間風速)
1. 発射時の降雨は8mm/h以下であること。
2. 機体移動開始後の降雨は15mm/h以下であること。
3. 機体移動開始後は降氷がないこと。
積乱雲の中を飛行経路が通過しないこと。
発射前及び飛行中において機体が空中放電(雷)を受けないこと。(ただし発射時の詳細な気象観測による。)
1. 射点を中心として半径10km以内に雷雲のないこと。
2. 飛行経路から20km以内に発雷が検知された場合には、しばらく発射を行わないこと。
3. 飛行経路が雷雲や積乱雲等の近辺を通過する場合には発射を行わないこと。
高層風 1. SRB-Aの落下点が落下予想区域内にあること。
2. エンジン舵角が制限値以下であること。
3. 飛行中の機体が受ける荷重が設計荷重を超えないこと。

確実な打ち上げ成功のため、シビアな判断をしています。

雷雲観測精度の向上

予定した日時に打ち上げられるかを精度よく予測するべく、JAXAは日々、気象予測に関する研究を行っています。
ロケット飛行中に雷を誘発するリスクを予測するために、これまでは氷結層を含む雲の厚さのみを観測していましたが、この30号機から、氷結層高度が低くなる季節において、新たにレーダを用いることにしています。
レーダからの反射強度を用いて、雲の内部にどの程度の氷が存在しているかを推定することで、従来より精度よく雷の発生するリスクを予測することができるようになりました。


打ち上げを支える気象係

航空機から見た雲

安全にロケットを打ち上げるため、天候の観測・予測は欠かせません。ロケット打ち上げの4日前から気象係は24時間体制で、雨、風、雷などを監視します。
打ち上げ当日は、バルーンによる風の観測、気象レーダなどによる地上からの観測に加えて、打ち上げ2時間前に航空機から雲を観測し、打ち上げの可否を判断しています。

正確な気象データの取得と、判断手法の研究が、打ち上げ成功を支えているんですね。