基幹ロケット高度化プロジェクト メンバーコラム #8 更江 渉

2015年11月22日(日)

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衛星に「やさしい」ロケットを!

更江 渉(さらえ わたる)
射場技術開発ユニット 主任開発員 (前基幹ロケット高度化プロジェクトチーム)

日本のロケットは、ペンシルロケットに始まりH-IIBロケットまでの間、大きくなっていく衛星に対応するための打上能力向上と高い信頼性の確保に全力を注いできました。しかし、通信衛星や気象衛星などの商業静止衛星を打ち上げるためには、それだけはダメで、衛星に対する“やさしさ”が求められます。そこで、私たちは、衛星に“やさしい”ロケットをめざし、「基幹ロケット高度化」を立ち上げました。資金的な制約により衛星オペレータの“懐(ふところ)”へのやさしさは別の機会(H3ロケット)に見送らざるをえませんでしたが、H-IIAロケットのハードウェアには極力手を加えず、これまで蓄積してきた運用データを最大限生かした技術の追求による改善を目指しました。

今回の開発の目玉の一つは、衛星をこれまでより静止軌道に近いところまで運び、衛星自身の推進薬消費を抑える(=衛星の運用寿命が延びる)ようにすることです。これをロケットのパワーを増強するのではなく、ロケットの飛ばし方を工夫することで実現しました。
具体的には、ロケットを今までより5倍長い時間宇宙空間を航行(「コースト」と言います)させ、さらに2段エンジンを1回多く燃焼させます。そのためには、コーストしている間、機体でどのような現象が起きているのかを今まで以上に正確に把握し無駄を徹底的に排除することで、今の機体が持っている力をすべて出し切る必要がありました。

たとえば、エンジンの冷やし方の効率化です。通常、エンジンを着火する前にはエンジンを十分に冷やす必要があります。この冷却が不十分だと、ポンプの回転数が想定以上に高くなり、最悪、爆発に至る可能性があるためです。
これまではコースト中一定間隔で大量の推進薬を流しエンジンを冷却していたのですが、今回は、従来の1/30以下の小流量で効率的に冷却する新しい方式を導入し推進薬の消費を抑えました。この方法のメリットは、冷たい推進薬による直接的な冷却だけでなく、液体の推進薬が気体になる際の気化熱の冷却効果が期待できることです。その一方、液体100%ではなく、気体も混じった複雑な流れになる上、微小重力特有の影響が大きくなるため、沸騰現象などの流体の挙動や冷却効果の推定が難しく、技術的ハードルが高くなります。そこで、地上で真空チャンバを用いた試験(重力の影響が排除できないがたくさんのデータが取れる)、H-IIAロケットの打ち上げの機会を利用した飛行実験(データ数は極めて少ないが、実環境でのデータは取れる)、小型のロケットを用いて真空・微小重力の環境を作り小さな実験模型を使った飛行実験(模型になるが、物理現象を把握しやすい)、そして数値解析といった様々な手段を組み合わせて、現象・メカニズムの把握を図り、開発を進めました。

29号機の打ち上げは、日本発の商業衛星の打ち上げになります。これは、基幹ロケット高度化による“やさしいロケット”の技術開発と打ち上げサービス会社による懸命な営業活動が表裏一体となって初めて実現したものです。打ち上げに向けては、いろいろな方のご協力を得ながらできる限りのことはしてきたつもりです。
初の商業衛星打ち上げを成功させ、H3ロケット、そしてその先に繋げたいと思います。

プロフィール
小学校2年生のころ、スペースシャトルに関する学研まんがを読み宇宙への憧れを感じました。しかし、その後、宇宙に行くにはとてつもなく高いお金がかかると知り、誰もが宇宙に行けるような「スペースシャトル」を作いたいと、NASDA(旧宇宙開発事業団、現JAXA)に入りました。
入社後、日本版スペースシャトル「HOPE-X」の開発に携わるも、H-IIロケット打ち上げ失敗で同プロジェクトはキャンセルに。その後、当時の「次期ロケット」の立ち上げに数か月かかりましたが、今度はH-IIAロケットの打ち上げ失敗によりその原因究明と対策をすることになりました。H-IIAロケットが打ち上げ失敗から立ち直った2009年以降は、「基幹ロケット高度化」のプロジェクト管理、ロケットシステム担当として、立ち上げから開発が一段落するところまで(~2014年)開発に従事しました。
現在はH3ロケットの地上システム開発を行っていますが、近い将来、「スペースシャトル」を実現することを目指しています。

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