基幹ロケット高度化プロジェクト メンバーコラム #5 長尾 直樹

2015年11月18日(水)

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長尾 直樹(ながお・なおき)
基幹ロケット高度化プロジェクトチーム 研究員

LE-5B-2エンジン領収燃焼試験
(写真はH-IIBロケット3号機のもの)

わずか数mmの壁をはさんで、約-250℃という極低温の燃料と約2700℃という高温の燃焼ガスが流れる燃焼室。1mmのずれもなく、毎分40000回転以上で回転するターボポンプ。液体ロケットエンジンは、このような非常に厳しい極限環境においても問題なく機能するとともに、所定の性能を出すことが求められます。そのため、エンジン開発には常にトラブルがつきものです。

私もこの基幹ロケット高度化LE-5B-2エンジンの開発において、様々なトラブルを経験しました。「君が試験場に来るといつもトラブルが発生する。」と何度も言われたくらいです。トラブルの最中は開発担当として非常に苦しい思いをしましたが、今振り返ると物事の本質を考え抜く非常に貴重な経験をさせてもらったと考えています。

様々なトラブルを乗り越え完成した基幹ロケット高度化LE-5B-2エンジン、H-IIAロケット29号機での注目ポイントは60%スロットリング作動です。通常よりも推力を絞る(60%の推力)ことで、ゆっくりと精度よく衛星を所定の軌道に投入することができるようになります。車を駐車場に停める際に全速力ではなく、徐行運転をするのに似ています。LE-5B-2エンジンが60%スロットリングを行う第3回目の着火は打ち上げ後4時間以上も後のことになりますが、ぜひ皆さんも辛抱強く見守っていただければ幸いです。

今回開発した基幹ロケット高度化LE-5B-2エンジン、その歴史は古く、LE-5エンジンシリーズの開発開始は約40年前までさかのぼります。先達の知恵の結晶であるこのエンジンの改良に携わることができたことの感謝と誇りを胸に、29号機の打ち上げに臨みたいと思います。

プロフィール
幼いころから宇宙に興味があり、中学生の時に読んだ「2001年宇宙の旅」の「すごい、星がいっぱいだ。」というフレーズに感銘を受ける。大学では航空宇宙工学を専攻し、2007年JAXAに入社後、宮城県の角田宇宙センターに配属。
いのししが駆け回り、白鳥が羽を休める豊かな自然の中、ロケットエンジン燃焼試験設備の保全業務に従事。2011年筑波宇宙センターのエンジン研究開発グループに配属。以来基幹ロケット高度化プロジェクトの上段エンジンの開発を担当。現在、H3プロジェクトの上段エンジン開発も兼務。