見学行くならハトヤマ!
2015年10月1日(木)
- 施設見学
- 人工衛星・探査機
CGが今ほど自在に扱えなかった時代に、こんな話を聞いたことがあります。時代劇を戸外で撮影するときには、送電線など現代の人工物が背景に写り込んでしまわないよう、場所選定とカメラアングルの調整にたいへんな苦労があった……。
埼玉県比企郡鳩山町にあるJAXAの地球観測センターも、30年前ならそれにふさわしい場所だったかもしれません。池を取り囲む窪地のような地形の敷地内のどこからカメラを構えても、自前の施設以外の人工物はまったく見当たりません。
「地球観測衛星からの電波を確実にキャッチする」という目的のため、地球観測センターは、電波ノイズ源となる人工物から遮断された場所でなくてはならなかったからです。
施設外の人工物はいっさい見当たらない
ただし、ただ人里離れた場所へ行けば良いわけではありません。 |
日本初の地球観測衛星 もも1号(MOS-1)/もも1号-b(MOS-1b) |
そして1987年(昭和62年)2月に打ち上げられた「もも1号(MOS-1)」から日本の観測衛星の電波を受け始めます。以降、「もも1号b(MOS-1b)」(1990~)、「ふよう1号(JERS-1)」(1992~)の受信・運用を担当し、欧州の「ERS」シリーズも加わりました。 |
2006年1月には、それまでとは格段に性能の高い複数のセンサを積んだ「だいち(ALOS)」が打ち上げられ、地球観測は新たな時代を迎えます。地図作成や防災に役立てられる観測画像はもちろん、皆さんが目にする美麗な地球画像もその成果物のひとつです。
単に衛星の性能だけ上げれば良い画像が得られるわけではありません。大容量の観測データを高速伝送し確実に受信し、データ利用のために必要な画像処理をスピーディーに行い、後日の利用に備え適切な形で蓄積・保管するという一連の仕組みがうまく働いているからこそ、高性能なセンサを積んだ衛星が現実のものとなっている面もあるのだということを、知っておいていただければと思います。
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30年余の歴史を物語る「懐かしい」品物が、同センターに展示されています。データ提供を担う記録媒体です。ごく初期はCCTと呼ばれるオープンリールの磁気テープ。つづいて8インチや5.25インチ、3.5インチのフロッピーディスク。磁性剤が塗布されたプラスチックの薄い円盤(フロッピーとは「へなへなした」という擬音語)をケースに収めたものです。さらにレーザーと磁気を使う光磁気ディスク(MO)や8mmビデオと同じサイズの磁気テープなども使われていました。現在では、将来の利用に向け蓄積・保管されているデータは、同じ情報を複数のハードディスクに重複記録するRAIDディスク装置に収められ、鳩山だけでなく複数の事業所で保管されています。
CCT |
フロッピーディスク |
MO |
これらは保存用の記録媒体。左からD3カセット(約50GB)、LTO(約100GB)、DTF-2(約200GB)、LTO4(約800GB)[記憶媒体(記憶容量)] |
1987年2月19日に打ち上げられた「もも1号(MOS-1)」観測データ。日付欄には3月6日と記されている
もしあなたが地球観測センターを訪れ、1日に何度か行われる受信作業のタイミングに行き当たれば、パラボラアンテナがダイナミックに動く様子を見ることができます。でも、もしアンテナが動いていなくてもがっかりはしないでください。南の空に向けられた直径13mのアンテナのはるか彼方にはデータ中継衛星があり、そのデータ中継衛星は、より低い軌道を周回しながら地球を見守る観測衛星を視野に収めています。もちろん人間の目でその様子を直接見ることはできませんが、世俗のノイズから隔絶された鳩山の地球観測センターへ行けば、地球を見下ろす衛星からのダイナミックな景観が「心の眼で見える」ような気がしてきますよ。
ダイナミックに動くパラボラアンテナ |
静止軌道上のデータ中継衛星に向けられた13mアンテナ |