大西宇宙飛行士、こんにちは!(後編)

2015年9月10日(木)

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大西宇宙飛行士、こんにちは!(後編)

2016年、国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在ミッションに臨む大西卓哉宇宙飛行士。2015年7月、日本に一時帰国した機会に、ファン!ファン!JAXA!編集部がお話をききました。

いよいよ後編。訓練からかいま見えた異国の文化、そのなかで、コミュニケーションをとることや、人類が力をあわせてミッションに取り組む意義について、大西宇宙飛行士が語ります!

宇宙飛行士の訓練から見えてきた「お国柄」

― 6年間の訓練でアメリカとロシアを行き来していると思いますが、各国の違いや特色はありますか?

ロシアで訓練を受け始めて、アメリカとの訓練方法の違いをはっきり感じました。例えば、電子レンジの使い方を教わるとします。
アメリカの訓練は、「これを温める時は、電子レンジのドアを開け、物を入れてドアを閉め、時間を選んで加熱ボタンを押してください。チンと鳴ったら出来上がり。これでもしうまく温まらなかったら連絡してください」と。軌道上で機器を使う宇宙飛行士が知っているべき、本当に最低限の操作手順を教えてくれるのがアメリカ式。
ところがロシアの場合は最初に「電子レンジとはどのような機器か勉強しましょう」と言われます。まず電子レンジで物が温まる原理の説明から始まる。説明はロシア語なので、最初の1年間の座学期間はチャレンジングでしたね!毎晩夜中の1時2時まで勉強する、まるで受験生のような生活でした。

― ハードな訓練だったのですね

ハードといえばハードでしたが、やはり自分が乗る宇宙船のシステムをより深く理解することは大きいと思います。
米ロの訓練方法の違いには理由があると、僕なりに思っています。
ISSは基本的にほぼ24時間、データ中継技術衛星を使って地上との通信が確立されています。大抵の場合は地上からのサポートを受けられるので、宇宙飛行士は何かあれば地上に聞けるんです。
けれどもソユーズ宇宙船は、基本的にロシア上空を通過している時しか通信できません。実は、24時間のうちほとんどの時間はクルーだけで飛んでいるんですよ。通信できない時に何かあったら、自分たちで考えて対処しなければいけないので、基本的な仕組みからすべてを知っておく必要がある。
根本的な宇宙船の運用方法の違いが、どこまで、どの程度、訓練で教えるかといった方針の違いにつながっている気がします。

ISSのロシアセグメントで使用される手順書の読み方を教わるISS第48/49次長期滞在クルーの大西宇宙飛行士

― アメリカとロシアの宇宙センターや訓練拠点について、ここが違う!という部分はありますか?

そうですね、たとえばロシアは訓練センターに生き字引のような人が多いんですよね。もう何十年も前からそれだけを教えていらっしゃる方がいます。僕がソユーズ宇宙船の訓練時に座学ですごくお世話になった教官も、先日70歳の誕生日を迎えられたのですが、現役バリバリで働いていらっしゃるんですよ。さすがに高齢で現役ではありませんが「俺はガガーリンの頃からいるぜ」みたいな人も。何人かのスペシャリストが訓練を支えているというのは、ロシアならではだと思いますね。アメリカでは、インストラクターの方は皆さんお若いですね。たぶん僕より年下の方ばかりだと思うんですけど。また、どんどん人が入れ替わっていくところなども特徴。

また、僕が訓練の時に生活するのはロシアの「星の街」です。星の街は訓練に集中する環境が整っているので、勉強や訓練は大変ですが生活自体はすごく楽です。徒歩圏内に全て揃っていますし、一般の人は普通入れない街なので娯楽がない。訓練に没頭できる環境という意味ではピカイチです。
アメリカのヒューストンは、車を1時間走らせて買い物に行くとか、外に遊びに行こうかって誘惑が多いという意味で大変だと思います。長期滞在訓練中の飛行士は、普段自宅を留守にする時間が多い分オフの日は自宅で家族と過ごす時間を大切にする方が多いですね。 国の違いは面白いなって思います。

3人のNext~自身のISS長期滞在に向けて

― 金井宇宙飛行士が7月20日から14日間、NEEMO訓練をしました。この訓練を先に経験している大西さんが考える、重要なポイントをみなさんに教えて下さい!

海底の研究施設にいる間は本当に忙しく、朝起きてから夜寝るまで分刻みのスケジュールでそれをこなしていかなければいけないんです。そこでじゃあ何が必要かというと、やっぱりセルフマネージメントですかね。
例えば小さなことですが、歯を磨くことは、夜寝る前といわず、ご飯を食べた後は空き時間にいつしてもいいですよね。自分の身の回りでできることはなるべく早めに済ませ、仕事の時間には集中できるように、開始ちょっと前から仕事の事を考えて準備するといった、タイムライン・マネージメントの極意を勉強する格好の機会です。
このスキルってISS長期滞在でもすごく大事だと思います。若田さんが、NEEMOは一番宇宙ミッションに近い訓練だと、よくおっしゃるんですよ。金井さんも最初は苦労されたかと思いますが、本当に貴重な経験をされたことでしょう!

NEEMO15訓練4日目、岩石サンプルの収集を行う大西宇宙飛行士

― 今年の春、筑波宇宙センターの一般公開で講演をされていましたね。その時、油井さんがビデオメッセージで大西さんを「人の関係を取り持つのが上手、ムードメーカー」と評されていました。 さて、大西さんは自分のキャラクターをどのようにとらえていますか?

僕は自分のことを、あまり取り柄があるようなタイプじゃないと思っています。ただ、色々な人と仲良く仕事したいっていう気持ちを強く持っていて、人と接する時になるべく自分から壁を作らないように心掛けています。
これは旅客機のパイロットの仕事がもとになっています。僕が搭乗していた旅客機の勤務は、二泊三日で同じ機長とチームを組んで、全国を飛び回ったり、他の国へ飛んでまた帰ってくるパターンでしたが、機長が100人200人といる部署だったので、初対面の方と組むことが多かったんですよね。そういった方ともうまく会話を通じてコミュニケーションをちゃんと取って、円滑にチームとして働いていく。人と接するときの心掛けは、やっぱりその時身に付けたんだと思います。
また、宇宙飛行士になって…僕自身は別に何も変わっていないんですけれども、日本に11人しかいない宇宙飛行士なので周りが身構えてしまう空気を感じるんです。でも、そういう時も一人の人間として普通に振る舞うよう心掛けています。

― いよいよ来年は長期滞在ですね。抱負をお願いします。

僕と油井さんと金井さんは、候補者に選ばれた時から認定後も3人で同じ訓練をして、情報交換しながら協力して乗り越えてきました。今は個別のミッションをいただいて3人がバラバラに進むステージに入っていますけど、それでもお互いの情報交換がすごく大事だと思っています。
油井さんは、戻って来られたら長期滞在中の教訓を僕たちに必ず伝えてくれると思うんです。油井さんが学んだことを僕が受け取り、油井さんが積み上げてきたものにさらにちょっと僕が積み上げられるように頑張ります。そして、それをまた次に控えていらっしゃる金井さんに託して(*)、金井さんがまたその上にさらに何かを積み上げる。
同期3人で、これからの日本の有人宇宙開発を盛り上げていくぞ!っていう気持ちで頑張ります。

* 金井宇宙飛行士は8月26日、ISS第54次/55次の長期滞在搭乗員に任命決定しました!

― 最後に読者のみなさまに、メッセージをお願いします!

なぜ人類は宇宙開発に取り組むのか、自分の考えを最後に述べさせていただきます。
現在わたしたちの社会がこれだけ高度な文明社会を築くに至った過程では、「もっと遠くに行ってみたい」とか「まだ行ったことがない所に行ってみたい」、「まだ知らない事を知りたい」…そういった探求心、好奇心が原動力になっていると思うんです。
わたしたちの今住んでいる世界って、携帯電話も普及しましたし、IT技術も進歩し、すぐ世界中の人とつながれるし、すごく便利で恵まれていると思います。僕は、探究心や好奇心を捨ててしまうと、人間は種としての進化が止まってしまうと思っています。
どんなに僕らの生活が豊かになっても新しい分野に挑戦していくことは、人間が種として持ち続けるべき姿勢だと、僕は感じています。その象徴が宇宙ステーションの将来計画だったり、その先の国際的な枠組みの中で実施される宇宙探査です。そういった次世代の宇宙開発においても、日本が引き続き中心的な役割を担っていけるように、みんなで頑張っていきたいと思っています。
僕も一人の宇宙飛行士として微力ではありますが、全力でそれに貢献していきたいと考えています。
ご声援、よろしくお願いします!