大西宇宙飛行士、こんにちは!(前編)

2016年5月30日(月)

  • プロジェクト
  • ホシモの部屋
  • 宇宙飛行士と国際宇宙ステーション(ISS)
このエントリーをはてなブックマークに追加
大西宇宙飛行士、こんにちは!

(初出:2015年8月21日)

大西宇宙飛行士Google+によると、2016年5月27日、ソユーズ搭乗最終試験に合格したそうです。いよいよ国際宇宙ステーションに向かう大西宇宙飛行士。2015年8月のインタビュー記事をご紹介します。


* * *

2009年に963人の応募者の中から選ばれ、2011年7月にISS搭乗宇宙飛行士として認定された大西卓哉宇宙飛行士。2015年7月、日本に訓練で一時帰国した機会に、ファン!ファン!JAXA!編集部がお話をききました。
ご自身のことや来年にひかえた国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在への意気込み、また同期で7月からISS長期滞在を始めた油井亀美也宇宙飛行士や、海底に設置された施設でチーム行動能力などの向上を図るNEEMO訓練に臨んだ金井宣茂宇宙飛行士のこと、ロシアの訓練でのビックリ話…いろんなお話を聞いちゃいました。その様子を3回にわけて掲載します。

前編は、注目が高まる油井宇宙飛行士の姿と日本が開発したISSへの物資補給「こうのとり」の把持(キャプチャ)について公開します!

同期が知る、油井宇宙飛行士のすがた

― 同期の油井亀美也宇宙飛行士が、国際宇宙ステーションで活躍中ですね!
大西さんから、油井さんにお会いした当初と今の印象で変わった点・変わらない点についてご紹介いただけますか?

油井さんに最初にお会いしたのは、もちろん選抜試験の時です。2次選考が終わり、3次選考に誰が進むかわからない段階で、その時に残っていた受験者で飲みに行きました。その時点で、何人か同業のパイロットの方が残っている、その中に航空自衛隊パイロットの油井さんという方がいる、というのは知っていました。
戦闘機乗りの方ということで、角刈りの筋骨隆々としたマッチョな人というイメージを勝手に思い込んでいたんです。ところが、普通にお話していた方が実は油井さんで、本当に失礼ですけど、僕のイメージからはかけ離れた、ごくごく普通の穏やかな方で、それがすごく新鮮でしたね。

宇宙飛行士養成棟 閉鎖環境適用訓練設備

いざ最終選考に進んだ時、油井さんもやっぱり進んでいらした。選考の一ステップである閉鎖環境試験(※)を受けましたが、穏やかな油井さんが群を抜くリーダーシップでグイグイと他の9人全員を引っ張っていき、暗黙の了解で「油井さんがリーダー」という雰囲気ができあがったのを、今でも鮮烈に覚えています。
その当時から油井さんが変わられたかというと…全然変わっていないですね。見た目も人への接し方も変わっていないし、僕たちは宇宙飛行士に選抜されてから6年間さまざまな経験を積んできたのですが、数週間後に打ち上げを控えるに至っても気負いを全く感じさせない。油井さんのすごいところだなと思います。

※ 1週間外界との直接の接触を絶った環境で、10人が共同生活しながらいろいろな課題を与えられる試験

― 大西さんはご自身のGoogle+で、打ち上げ前に油井さんと再会された時の様子を書いてらっしゃいましたね。スーパーポジティブな油井さんの姿が書かれていましたが、本当に、いつでもあんなに前向きなんでしょうか。

本当に、いつも前向きですね!
打ち上げが一度延期されたとき、僕も含めて周りがちょっと心配しました。打ち上げ本番に向けて緊張感を高めていたと思うので、急に延期になって油井さんは大丈夫かな…と。でも、油井さんはお会いしたらすぐテレビゲームの話をされるような、本当に普段と変わらない様子で、ある意味、肩透かしを食らいました(笑)。

― 私なら延期でがっかりしてしまいそうです。

僕も会う前は、打ち上げ延期のことを話していいのかな…って考えていたんですけど、油井さんがあまりにも普段どおりだったので、何もなかったかのように接しました。同じ立場として思うのは、打ち上げ延期のようなロケットに関することは、僕ら宇宙飛行士がどうこうできることではないので、技術者の方々の仕事を全面的に信頼して、自分は自分のできる事をするしかない、ということですね。

つかめ「こうのとり」

― 油井宇宙飛行士といえば、8月19日に打ち上げられた「こうのとり」5号機をロボットアームでキャプチャする(つかむ)予定ですね。 「こうのとり」などの補給船をキャプチャする時って、どの程度、人間が関与しているのでしょうか? 旅客機のように自動操縦になったりしますか?

キャプチャする瞬間までは、本当にたくさんの方が関わっています。
「こうのとり」を例にとると、筑波宇宙センターにある「こうのとり」管制センターにいる管制チーム全員でISSの近くまで接近させるんですね。ISS側の管制チームもヒューストンにいて、それぞれがお互いの問題を解決しながら、やっと補給船がキャプチャ可能な所まで…大体10mほどの距離なんですけど、そこまで移動させるんです。ここまでは完全に地上の管制チームの仕事です。
そこから、いざ宇宙飛行士がロボットアームを操作してキャプチャするのですが、その時に「こうのとり」が自分の制御で動いているとタイミングが合わないんです。たとえば、つかんだ瞬間に「こうのとり」がスラスタ(※)を吹いてちょっと前に行こうとしたら、ロボットアームにガツンとぶつかってしまう。最悪の場合は、ロボットアーム自体を傷付けてしまうことになります。

ISS下方10m地点に近づく「こうのとり」4号機

だから、キャプチャする直前に必ず「こうのとり」の全ての制御を切り、宇宙空間に漂っているだけの状態にします。専門用語で「Free Drift」という状態で、そのコマンド(指令信号)を送るのは宇宙飛行士なんですが、コマンドを送ってから補給船にロボットアームを近づけていって、つかむ瞬間までは完全に宇宙飛行士だけの仕事なんです。そこが宇宙飛行士の見せ場です!

※スラスタ 姿勢制御を行う小さなエンジン。

― つかむ瞬間「まで」?

はい。つかんだ瞬間からは、また地上の管制チームが主役になります。宇宙飛行士がメインになるのはつかむための一瞬なんです。

― そうだったのですか。中継を見ているとキャプチャしたあとの結合まで宇宙飛行士が操作しているものとばかり思っていました。ロボットアームの操作は難しいのですか?

宇宙飛行士の「こうのとり」キャプチャ訓練では難易度が設定でき、easyからhard、さらに高い難易度もあります。「こうのとり」が8の字に動いているのに合わせてロボットアームを同調させ、なおかつ、こう…(身振りをしながら)…回転速度にも合わせながらつかんでいく、そんな究極の状況も想定して技術を磨いています。
ところで、僕は「こうのとり」4号機のISSへのドッキング時に、NASAに管制チームの一員として詰めていましたが、本番の「こうのとり」4号機は…本当に何と言えばいいのか、キャプチャしてくれるのを待っている、正座して待っている。その行儀の良さに日本の技術力の高さを感じましたね。

本番は、これが実物の宇宙船なんだというプレッシャーを除けば、訓練より全然楽です。もっと厳しい状況を訓練で経験しているので、自信もあるんですけどね。
でも違うのは、やっぱりこれが本番だというプレッシャーですね。

― 大西さんも、キャプチャ訓練をしていますね。若田宇宙飛行士や星出宇宙飛行士といった先輩からコツを教わったりしているのですか?

訓練では日本人宇宙飛行士だけじゃなくて、長期滞在を経験したNASAの宇宙飛行士が後ろに座っていてくれて、自分の訓練の様子を後ろで見ながら、適宜助言を下さる機会もあります。そういう意味では、お二方に限らずいろいろな方からアドバイスをもらっていますね。
ロボットアームの操作は個人の技術で、自分で練習するしかないと思うんですよ。ジョンソン宇宙センターに実習装置があるので、僕は時間を見つけて実習するようにしています。自分で技術を磨いて維持していくことは、個々の役割かなと思っています。

「きぼう」ロボットアーム(JEMRMS)の訓練に
おいてシミュレータを操作する大西宇宙飛行士

一方、必ず、操作者とアシストの二人一組でオペレーションするんですけれども、先輩からはその時の2人の協調のコツを教わります。作業の役割分担は明確に決められておらず、組んでいるパートナーとのあうんの呼吸になるので、先輩から「自分の時はこういう役割分担をした」とか「こんなことを相手に横で言ってもらうようにしている」といったアドバイスをもらうことが役立ちます。

大西宇宙飛行士がみずから更新する、Google+ 関連記事

 

中編では、ご自身の訓練についてうかがいます。