宇宙との時差は何時間? ―― 国際宇宙ステーションの時間と探査機時間

2015年8月5日(水)

  • プロジェクト
  • 人工衛星・探査機
このエントリーをはてなブックマークに追加

海外旅行にいったことがある方なら、現地の時間に合わせて時計を進めたり遅らせたりした経験があるかもしれません。この我々が普段使っている時間と現地の時間の差のことを時差といいます。私たちが普段使っているのは日本時間(JST)。世界標準時(UTC)と呼ばれる世界の時間の基準になっている時間より9時間早い時刻です。では、宇宙ではどんな時間を使っているんでしょうか?

たとえば、国際宇宙ステーションでは? 国際宇宙ステーションは1日に地球を16周ほどしますから、まさか太陽を基準にするわけにはいきません。そう、ご想像通り、国際宇宙ステーションでは世界標準時(UTC)を使っています。

でも、実は世界標準時以外にも、宇宙でよく使われる時間があります。それはある基準になる日付から測った経過時間です。この時間を使うメリットは時間の計算が楽ちんなこと。決まったスケジュールがあるときに、それまでにどれくらい時間があるかを測るのに単純に足し算や引き算をすればいいので計算がとても楽です。デメリットは、普通の時計の時間に換算するのが難しいことです。

宇宙開発でよく使われる時刻の基準をまとめておきましょう。例にあげた時間は全て、世界標準時2015年8月1日12時00分(日本時間8月1日21時00分)のものです。

DOY (Day Of Year)

その年の世界時1月1日午前0時を基準とした時間。時、分、秒も日の単位に換算して使われることもよくあります。
例) 213.50日

MET (Mission Elapsed Time)

そのミッションが始まった瞬間を基準とした時間。一般的には打ち上げの瞬間からの経過時間が使われます。スペースシャトルのミッションなどで利用されていました。
例) 241/07:37:56  ※「はやぶさ」2の打ち上げからの経過時間

JD (Julian Day/ユリウス日)

世界標準時の紀元前4713年1月1日の正午からの経過日。年単位の時差を測るのに便利なので、天文の分野で使われる日付です。宇宙開発でも惑星や探査機の軌道の計算などには天文学と同じこの基準が使われます。
例) 2457236.00日

宇宙では時間の測り方もいろいろで宇宙飛行士たちは大変ですね... と、話はここで終わりません。地球を遠く離れるともっとややこしくなるんです。その原因は光の速度。

光の速度は秒速30万km、1秒間に地球を七周半もします。宇宙船との通信に使われる電波も光と同じものですから、当然速度も同じです。国際宇宙ステーションくらい近ければほとんど距離は問題になりません。でも、距離が離れるとそうもいかなくなります。たとえば月は38万kmありますから、地球から送った信号が届くのに1秒ちょっと掛かります。たった1秒くらいと思うかもしれませんが、もし自転車に乗っているときに、すべての操作が1秒遅れたとしたらとても道を走れませんよね。

月や他の惑星、小惑星などに向かう探査機では、この光の速度による時差を考慮することがとても重要になります。「はやぶさ2」は、最大で地球から約3.5億kmほど離れます。光の速度で20分ほどです。たとえば、12時00分に「はやぶさ2」に向かって「すぐに小惑星の写真を撮影せよ」という命令を送ったとします。この命令が「はやぶさ2」に届くのは20分後の12時20分。すぐに撮影して写真を送り返したとして、それが地球に届くのはさらに20分後の12時40分です。つまり、地球にいる我々が12時40分に知ることができるのは、「はやぶさ2」の12時20分の状態ということになります。

この、地球で知ることができる、探査機での時間をSpace-Craft Event Time: SCET といい、光の速度で片道にかかる時間のことをOne-Way Light Time: OWLTといいます(往復だとRound-Trip Light Time: RTLT)。また、地球から探査機へ通信を送った時間をTransmission time: TRM、探査機からの通信を受け取った時間をEarth-Received Time: ERT といいます。ちょっとややこしいので図にしておきましょう。

この、光の速度による時間差が20分もあると、万が一探査機に何かあっても地上からは何もできません。なにか起きたのが地球側で分かってから、対策が探査機に届くまでに40分かかってしまいます。そのために、「はやぶさ2」のような探査機には自分自身で考えて行動する能力が備わっています。また、命令を送るにしても、地上から見て今探査機がいる場所にアンテナを向けても意味がありません。20分後に探査機がいるはずの場所に向かって電波を送らなければならないんです。

もし次の機会に、探査機まで◯◯kmみたいな数字を目にしたら、この探査機時間のことをちょっと思い出してみてください。普段私たちの生活の中では出会うことがない、遠い遠いところと話をするために必要な時間です。

関連リンク