金井宇宙飛行士、こんにちは! [後編]

2014年12月12日(金)

  • ホシモの部屋
  • 宇宙飛行士と国際宇宙ステーション(ISS)
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2014年9月末、訓練のため日本に一時帰国した金井宣茂宇宙飛行士に、ファン!ファン!JAXA!編集部がお話をききました。今回は後編です! (前編はこちらから)

模索中、日本の強み・金井宇宙飛行士の強み

宇宙日本食

― 食事の話が出たところで、金井さんは宇宙に行っても食べ続けたい食品や好物、こんなジャンルの食事がないと淋しい、というものはありますか?

金井宇宙飛行士(以下、金井):私は特別「これ」、というのはありませんね。
宇宙食といえば、最近宇宙日本食の候補食品が発表されました(プレスリリース:宇宙日本食の「食品候補」の選定結果について)が、こうやって宇宙日本食が増えることは日本にとって強みになると思っています。
今、日本食は世界でとても人気で、評価やニーズが高まってきていますよね。宇宙食における日本食も潜在ニーズがあると思います。
そのニーズを掴んで宇宙日本食が増えるといい。また、宇宙日本食は、まだ日本人宇宙飛行士しか持っていけないのですが、今後各国の飛行士が持っていくようになるといいと思っています。

― まだ日本人しか持っていけないのですか? 知りませんでした。 どの国の宇宙飛行士も、好きな日本食を選んで持っていってもらえるといいですね! (※編集部注:宇宙日本食の目的と実績について詳しくはこちらをご覧ください。)

― さて、強み、というキーワードが出たところで話を変えさせてください。
金井さんは医師出身の宇宙飛行士の中でも、向井さん・古川さんといった、これまでの先輩たちと異なるご自身の「強み」や独自のアピールポイント、というのはありますか?

金井:うーん、「強み」ですか。今、模索中なんです……。日々反省することが多くて。「弱み」はいくつも言えるんですけど(苦笑)、難しいですよね。
先輩方には、「どんな人も個性がある」と励まされています。もちろん自信過剰はいけませんが、自分を低く見積もりすぎずに、強みというか自分の個性を探しています。

― そうなんですね、驚きました。
ちなみに、宇宙と海と、フィールドは違いますが、前職の医師と宇宙飛行士で、仕事において似た側面もあるのでしょうか。

金井:私は外科が専門だったのですが、外科の仕事でハイライトになるのは手術です。テレビドラマでも、診察シーンのあとはすぐ手術で「メス!」といったシーンが出てきますね。

― はい。「汗!」とか。

金井:「汗」そうですね(苦笑)。でも、ああいうシーンは仕事のほんの一部で、その前に行われる検査・診察・準備といった手術前以外の仕事がほとんどですし、そこが治療のためにとても重要なんです。正確な検査、診察や準備があって……メスをどの位置に並べるのが効率がよいか? といった細かいところまで事前に準備することで、手術がうまくいくんです。
宇宙飛行士も、ISSの滞在業務がハイライトとして注目を集めますが、地上勤務や基礎訓練がとても重要だと思って取り組んでいます。そういった点が前職と今とで共通すると思います。

― メスを置く順番までですか。綿密ですね。様々な業界で「段取り8割」といいますが、事前準備の積み重ねが結果を生むために重要だという点は、どんな職業も共通しているのでしょうね。医師としての前職の専門をそのまま活かせるようなことはあるのでしょうか。

金井:ISSの場合、宇宙飛行士の役割の一つに、応急処置などを行うクルー・メディカル・オフィサーという医療担当があります。これは医学専門の宇宙飛行士でなくても割り当てられます。ISSは地上のフライトサージャン(宇宙医学の専門医)とすぐに連絡が取れるので応急処置をする宇宙飛行士がいれば、まずは良いのです。
ところが、今後月より遠く、火星などに有人探査に行く場合はそうはいきません。火星から地球に通信しても、地球と火星の位置関係次第では返事が来るまでに数十分かかります。何十分も待っていられない緊急事態も考えられます。そういった事態に備えたり対処したり方法や、テレメディスン(遠隔医療)の研究に興味があります。

前職でも、海上を航行する船に同乗して乗組員の健康管理を行う業務に従事していたのですが、すぐに高度な医療を受けられない場所でどのようにするかは常に考えていました。その経験は活かせると思います。

― 月より遠くに探査に行くことになったら、遠隔医療は確実に必要な検討分野ですね。「宇宙船と地球」と「大海原の船と陸地」とは、ある部分で条件が似ていそうです。

「よりたくさんの人が普通に宇宙に行けるような時代に貢献したい」

― 宇宙飛行士の中には有人の小惑星・火星への探査に意欲を示している方もいます。最近油井宇宙飛行士をインタビューした際も、「もっと速く、もっと高く、もっと遠くへ」ぜひ行きたいと聞きました。
また、ちょうど今年は国際宇宙探査シンポジウムが日本で行われ、月より遠くへの人間が惑星探査に行くという話題がでました。
金井さんご自身は、宇宙飛行士としてどこまで遠くに行きたいとか、こんな未来にしたいとか……どういった将来的な希望がありますか?

金井:今、宇宙探査には2つの流れがあると思います。1つは火星や小惑星など、遠くへ探査に行くこと。油井さんは確かに、「遠くへ行きたい」と言っています。もう1つは宇宙旅行など、一般の方がもっと普通に宇宙を行き来できるようにすること。
私は後者に興味があります。宇宙旅行に誰もが行くようになったら、きっとそこには医師が必要でしょう。よりたくさんの人が普通に宇宙に行けるような時代に貢献したいです。

― 確かに宇宙旅行は、世界各国の民間企業が募集を始めたりして、盛り上がっていますね。一方JAXAのモニターアンケート調査で、以前「宇宙旅行」についてアンケートしたところ、安全性の面を懸念する方も少なからずいました。宇宙旅行に医療が整備されれば、安心して行ける人が増えそうですね。

金井:JAXAのモニターさんだと、とにかくリスクを承知で宇宙に行きたい! という人が多いのだろうと思っていましたが、躊躇する声もあるんですね、意外です。ますます医療の需要がありそうです。

― 目指せ、宇宙の開業医! というところでしょうか(笑)

金井:そうですね(笑)。
同期の油井・大西宇宙飛行士と3人で「日の丸宇宙船」の話をすることがありますよ。
油井さんが船長、大西さんはパイロット、私は後ろでお客様の面倒をみるからね、って。それで、その宇宙船はもちろん種子島から打ち上げるんですよ。

― わぁ、その宇宙船、乗ってみたい!!

Ascan報告会 / 2010年4月11日 左から大西・油井・金井宇宙飛行士

今を一生懸命に、楽しむ

2009年アスキャン(宇宙飛行士候補者)クラスのみんな。
(出典:JAXA/NASA)

― さて、金井さんは2009年の9月に宇宙飛行士候補生として採用され、ちょうど5年が経ちますね。宇宙飛行士に認定されてからは3年。宇宙飛行士になるまで、そして認定されてからも、様々なことがあったと思いますが、諦めない気持ちはどのように維持しているのでしょう。

金井:いやぁ~、正直「やってられるかー!」と思う日もあります(笑)

― ええっ! 私も一介の社会人ですので、そう思う日があります(笑)。なんだか親近感が湧きます。
宇宙飛行士といえば強いヒーローというイメージも先行しますが、気持ちが沈む時や荒れる時もあるんですね。

金井:宇宙飛行士といえども人間ですから、そこは皆さんと変わりません(笑)。ただ、そんな中でも楽しみを見つけるようにしています。
先輩にも「今を楽しめ」と言われています。「やってられるかー!」と思っても、こんな貴重な経験ができて楽しい。
つらいことや泥臭いこともたくさんありますが、好きだから続けられますね。
また、たくさんの人が宇宙飛行士に応募して、なれなかった。その中で私は選ばれて訓練させてもらっていることに感謝しています。皆の代表でここにいるんだって。だから本当は「やってられるか」なんて言っちゃいけませんね。

― ありがとうございます! その言葉に私も励まされました。
では、そろそろお時間なので、最後に一言メッセージをおねがいします。

金井:皆さんのコメントが聴きたいです! ご感想、質問。
今、私達は何を発信したらいいのか、掴みきれていないんです。皆さんが何を思っているか、ぜひぜひ生の意見がほしいです。

― ええっ。それは、呼びかければすぐ声が集まる気がします。一般の方も、自分の質問や感想を読んでくださってくれている、という手応えがあれば、とても多くのコメントが集まると思いますよ。
でも、ま…まずは、宇宙飛行士を目指す子や、そうでなくてもこの記事を読んでいる一般の皆さんにメッセージをいただけますか?

金井:そうでした(笑)。
私自身そうしていますが、今を楽しむことが大事です。
振り返ると、小さい頃から宇宙飛行士になりたいわけではなかったけど、その時その時で興味のあることに打ち込んで楽しんでいました。それが今につながっています。
ですから、今やっていること……運動でも、ゲームでも、その時々で自分の好きなことを見つけて、一生懸命に夢中になってほしいです!

(インタビュー:2014年9月末)

金井 宣茂(かない のりしげ)

JAXA有人宇宙ミッション本部 宇宙飛行士運用技術部 宇宙飛行士

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