バイバイ、カッシーニ ー 土星探査機カッシーニの最後のミッション

2017年9月25日(月)

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日本時間2017年9月15日午後7時32分、NASAの土星探査機「カッシーニ」が、土星大気圏に突入し、20年間にも及ぶミッションに終止符を打ちました。

カッシーニの大気圏突入の想像図 (Courtesy NASA/JPL-Caltech)

地球から土星まで約15億km、光の速さで約80分かかります。カッシーニからの最後の信号がNASAの管制室に届いたのは日本時間20時55分、モニタに映し出されたカッシーニからの信号を示すスパイクがゆっくりとノイズに埋もれていくのがお別れの合図でした。おつかれさま、カッシーニ。

カッシーニからの信号 突入前

カッシーニからの信号 突入後

ミッション終了直後の管制室 (Photo credit: NASA/Joel Kowsky)

 

カッシーニは1997年10月15日にアメリカケープカナベラル空軍基地から打ち上げられました。1998年4月と99年6月に金星をフライバイ、同年10月に地球をフライバイして、木星に向かう軌道に乗りました。2000年12月には木星をフライバイし、約6年にわたる長旅の後2004年6月に土星の軌道に入ります。

土星の軌道に入った後は、4つの衛星を新たに発見し、2004年12月25日には搭載していたホイヘンス・プローブを衛星タイタンに投下します。ホイヘンス・プローブは2005年1月14日にタイタンへの着陸に成功しました。ホイヘンスは、人類史上、最も遠い場所に着陸した探査機です(2017年現在)。

その後も、カッシーニは土星の軌道を周回しながら、約13年間にわたって土星の貴重なデータを集めてきました。衛星エンケラドスの間欠泉、土星のリングの微細構造、両極の六角形の嵐、挙げれば切りがありません。

エンケラドスの間欠泉
(Image credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

波打つ土星のリング
(Image credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

六角形の嵐
(Image credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

そして2017年、カッシーニは最後のミッションに挑みます。それは、土星本体とリングの間をくぐること。探査機がこれほど土星に近づくのは初めてのことです。そして、このリング面の通過を22回行った後、土星大気に突入してミッションを終えることが決まっていました。これは制御を失ったカッシーニがタイタンやエンケラドスなどに落下して、地球由来の物質で衛星表面を汚染してしまわないようにするための措置です。

グランドフィナーレの軌道

(Credit: NASA/JPL-Caltech)

グランドフィナーレと名付けられたこの最後のミッションが始まったのは2017年4月26日、カッシーニは初めて土星の本体とリングの間を通ります。浮遊するダストで本体が壊れてしまわないように、パラボラアンテナを進行方向に向けて盾の代わりに使って突っ込むという、危険度の高いミッションです。

リング面通過の想像図 (Courtesy NASA/JPL-Caltech)

カッシーニは5ヶ月間に渡る「グランドフィナーレ」を通じてリングと本体の間に驚くほどダストが少ないことを発見したり、土星の内部構造や磁場の調査などを行って、更に貴重なデータを得ました。一枚だけ画像を紹介しましょう。これは、カッシーニが撮影したリング越しの地球と月です。

土星のリング越しに見た地球
(Image credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

2017年9月14日、土星大気への突入への前日、カッシーニは最後の画像を撮影しました。

カッシーニの最後の画像
(Image credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

これはカッシーニが土星の大気に突入した地点を自ら撮影したもの。ぼんやりした画像ですが、画像の下の方に写っている縞模様は土星のリングからの照り返しです。衝突地点は画像の下半分の暗い部分。この写真は土星の夜側から撮影されたものですが、翌15日にカッシーニが突入した地点が撮影されています(土星の自転周期は約10時間)。

2017年9月15日、ミッション最終日。カッシーニはアンテナを地球に向けて蓄積されたデータをすべて地球に送った後、計測機器からのデータを直接送信するモードに入りました。カッシーニが土星の大気に突入したのは日本時間19時31分、約1分後の19時32分にカッシーニとの通信が途切れました。この1分間、カッシーニは残った燃料を使って姿勢が維持できなくなるギリギリまでアンテナを地球に向けて土星大気のデータを送り続けました。これがカッシーニの最後のミッションです。

ミッション終了後のミッションクロック(EOM=End Of Mission)
(Photo credit: NASA/Joel Kowsky)

探査機本体は土星の大気に消えましたが、13年間に渡ってカッシーニが残した土星のデータは研究者の手元に残っています。何年かかっても調べきれないほどたくさんのデータです。これからもそこから新しい事実が見つかるに違いありません。そして、いつか新しい探査機が土星に行く日が来ても、そこで新しい事実が見つかるたびに、かつて同じ場所がどんな様子だったかを調べるためにこのカッシーニのデータが再び脚光を浴びるでしょう。数十年間という長期に渡るデータが残っているというのはそういうことです。それがカッシーニが残したものです。

バイバイ、そして、ありがとうカッシーニ。