宇宙太陽光発電 上下方向レーザー伝送実験
2017年4月10日(月)
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JAXAが進める宇宙太陽光発電システム (以下、SSPS: Space Solar Power Systems)の研究開発では、宇宙~地上へのエネルギー伝送(送電)の手段としてマイクロ波とレーザーの2種類の方法を検討しています。レーザー方式はマイクロ波方式に比べ、機器を小型にできるというメリットがあるいっぽう、エネルギー伝送が天候条件に左右されやすいというデメリットもあります。今回はレーザー方式のSSPS(L-SSPS)についてご紹介します。
レーザー方式宇宙太陽光発電システム(構想例)
講演やプレゼンテーションで「レーザーポインター」は欠かせない道具となっています。波長と位相の揃った光であるレーザーには、広がらずに遠くまで到達するという性質があります。演者の手元からスクリーンまで、レーザーポインターの光はほとんど拡散せず直進してくれるため、輝点が指し示す場所に聴衆の注意を集めることができるわけです。この性質をエネルギー伝送でも利用しようというのがL-SSPSです。
産業の現場では、レーザーを集中させることで得られる高熱で模様を描くレーザーマーキングや、レーザー切断装置などが活躍しています。受光したレーザーのエネルギーを電力に変える素子(太陽電池と同等のもの)も存在しますので、これらを組み合わせれば、L-SSPSが現実味を帯びてきます。そこにどうしても必要な技術がレーザービームの「高精度の指向制御技術」です。 |
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JAXA研究開発部門はこれ以前にもさまざまな実験を行なってきました。2011~13年にかけ、水平方向500mでのレーザー伝送制御実験を角田宇宙センター(宮城県)で行い、2015年3月には一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構(J-spacesystems)との連携により、マイクロ波による電力伝送のデモンストレーションを行っています。 |
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これまで実施してきた水平方向でのレーザー伝送実験に比べ、さらに宇宙から地上への伝送に条件の近い「上下方向レーザー伝送実験」を行うためには、高いタワーが必要でした。航空機や大気球での実験も検討されましたが、サイズや重量の制約や、実験機器への電力供給の問題、機器そのものの安定を保つことが難しいなどの問題がありました。いっぽう、大出力のレーザーを扱うという実験の性質上、単に高いタワーであればいいというものではありません。
レーザーを直視すると、網膜に回復不能なダメージを負う可能性があるため、人の立ち入る場所では実験ができません。高いからといって、市街地のタワーやビルでは実施できないわけです。また、人が少ないといっても、アンテナタワーのような実験装置を設置して操作するスペースが確保できない塔もNGですし、いくら上下方向だからといっても断崖や滝壺では危険です。ダム堤体なども検討されましたが、周囲の地形が近いことによる大気ゆらぎの問題が避けられません。
そんな中で見出されたのが、エレベーターの研究塔でした。超高層ビル用エレベーターの開発試験をするための塔ですから、超高層ビルと同じくらい丈夫です。電力の供給も問題ありませんし、高所に機器を設置するためのクレーン設備もあります。タワーの足元は工場の敷地内ですから、工場側にお願いして、立ち入り制限区域を設けることも可能となります。
実験をしたタワーは、2010年に世界最高クラスのエレベーター研究塔として建設されました。「G1TOWER」のG1とはグローバルナンバーワンをめざすという意味で、日立製作所創業100年の記念碑的な意味合いも込められているそうです。高層ビルにすると50階建てに相当する高さといいます。
ちなみに同じ茨城県の牛久大仏は台座も含め120m、水戸芸術館のタワーは100mの高さとなっていますが、前述の理由などから実験適地とはなりませんでした。
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レーザー光の方向制御には、メインビームに先立ち、波長や出力の異なる2種類のレーザー光を受電側と送電側で送り合う方式が使われました。 |
このパイロットレーザーの光路を逆に折り返す形で、ビーコンレーザー(図中の小出力レーザー)をタワーから発射。それが目標とする位置で受光できていることを確認したうえで、高出力のエネルギー伝送用レーザー(波長1070nm・350Wクラス)を同じ光路で発射します。吊橋のケーブルを架けるとき、最初に細いケーブルを渡し、徐々に太さを増していくのに似た手法です。
1) 地上から ↑ パイロットレーザー 波長 980nm 出力 0.1W級
2) タワーから↓ ビーコンレーザー 波長 852nm 出力 0.1W級
3) タワーから↓ エネルギー伝送用レーザー 波長1,070nm 出力350W級
3つのレーザー光の装置内での光路の分離/合成には、ダイクロイックミラーと呼ばれる特殊な鏡を使用します。色(波長)によって反射したり透過させたりと異なる挙動を示すミラーです。波長が安定したレーザー光だからこそクリアな分離が可能です。また「高速で動かす制御」がどの程度かといえば、200Hz、つまり1秒間に200回。これにより空気のゆらぎがあっても、安定してエネルギー伝送を維持することができました。
SSPS研究チーム 大橋一夫 研究チーム長(インタビュー当時) |
SSPS研究チーム 研究チーム長(インタビュー当時)の大橋一夫さんによれば、方向制御の出来は「満点でした」といいます。 |
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参考リンク