X線天文学の歴史とX線天文衛星

2016年1月22日(金)

  • プロジェクト
  • 人工衛星・探査機
このエントリーをはてなブックマークに追加

日本で6機目となるX線天文衛星ASTRO-Hの打ち上げが間近にせまってきました。このトピックスでは、X線天文学の歴史と日本のX線天文衛星の系譜をひもといてみましょう。

X線天文学の始まり

X線天文学は、1962年にリカルド・ジャッコーニ博士らが観測ロケットを打ち上げ、X線で輝く太陽以外の天体を発見したことから始まりました。本格的に宇宙からのX線を観測できるようになったのは、1970年代に、X線観測装置を積んだ科学衛星を打ち上げるようになってからのことです。





同じ天体を観測しても、可視光で見る場合とX線で見る場合では、こんなに違うんだね。X線で宇宙を観はじめて、これまでと全く違う宇宙の姿がわかってきたんだ!

おとめ座銀河団:
可視光で見ると銀河が点在していますが、X線では銀河と銀河の間を埋めつくすように高温のガスが見えてきます。

X線天文衛星の系譜

X線天文学の初期の時代からこの分野に取り組んできた日本は、1979年の「はくちょう」を皮切りに、1983年に「てんま」、1987年に「ぎんが」、1993年に「あすか」、そして2005年に「すざく」と、これまで5つのX線天文衛星を継続的に打ち上げ、世界をリードしてきました。

日本のX線天文衛星の歴史:
国旗は国際協力を表します。衛星の大型・高性能化に伴い国際協力もより大規模になりました。

日本のX線天文衛星

上の図を見ると、ロケットの能力向上にしたがって、衛星がだんだん大型化してきたことがわかります。ここで日本が打ち上げたX線天文衛星がどのような活躍をしてきたか、改めて振り返ってみましょう。

はくちょう

ブラックホール天体「はくちょう座X‐1」にちなんで命名された、日本初のX線天文衛星。小田稔博士(1971年ブラックホール論文の著者、後にISAS所長)が発明した「すだれコリメータ」の搭載により、X線天体の天空上の位置を高精度で決定できるようになりました。これにより未知のX線バースト源を数多く発見して国際的に高い評価を受け、日本のX線天文学を一気に世界トップレベルへと押し上げました。

打ち上げ日:1979年2月21日 、 1985年 運用停止
サイズ:0.75m×0.75m×0.65m 質量:約96kg

てんま

新開発の観測装置によりエネルギー分解能を2倍以上に向上させて、X線天体源の本格的な分光観測の道を拓きました。主な成果は、わたしたちの銀河系の銀河面に沿って存在する超高温度プラズマからのX線放射(銀河リッジ放射)の発見など。この銀河X線放射の起源と正体の解明を目指して、後続衛星では必ず観測が行なわれるなど、現在まで続くX線天文学の重要研究課題の一つとなりました。さらにX線の性質から、ブラックホールと中性子星を見分ける方法を開発しました。

打ち上げ日:1983年2月20日 、1988年 運用停止
サイズ:0.94m×0.94m×0.89m 質量:約216kg

ぎんが

当時最大級の面積を持ち高感度でX線天体を観測できる新たな観測装置を搭載。日本のX線衛星としては初めて本格的に、わたしたちの銀河系の外にある多数の天体を観測しました。主な成果は、超新星1987A※からのX線の検出成功、遠方の巨大ブラックホールの詳しい観測、多数のブラックホール候補天体の発見、中性子星の磁場の測定などです。この衛星から観測機器を海外研究者と共同開発するなど、国際協力が本格的にスタートしました。
(※わたしたちの銀河系のちかくにある銀河で、4半世紀ぶりに発生した超新星だった。同じ超新星爆発を小柴昌俊博士が岐阜県のカミオカンデを用いてニュートリノを検出し、後にノーベル物理学賞を授与されました。)

打ち上げ日:1987年2月5日 1991年 運用停止
サイズ:1.0m×1.0m×1.5m 質量:約420kg

あすか

日本で初めての本格的X線望遠鏡や世界初のX線CCDカメラ等を搭載したことにより、感度を飛躍的に向上させました。主な成果は、活動銀河核から放射されたX線を詳しく解析した結果、ブラックホールから放出されたものである可能性が極めて高いことを示し、多くの銀河の中心に超巨大ブラックホールが存在することを強く示唆したこと、超新星残骸が宇宙線の加速源であることを示したこと、軟ガンマ線リピーターが中性子星の一種であることの発見、銀河団を満たす高温ガスの挙動の解明、中質量ブラックホールの候補の発見、恒星のフレアのX線観測など、極めて多岐にわたります。また国際公募観測も初めて開始しました。全観測データは世界中の研究者に公開・利用されており、論文数が飛躍的に増えることとなりました。

打ち上げ日:1993年2月20日 2001年 運用停止
全長:4.7m 質量:約420kg

すざく

「あすか」よりもさらにエネルギー分解能、角分解能ともに向上し、感度を高めた軟X線望遠鏡と硬X線検出器を搭載。より広いエネルギー範囲で観測を行いました。主な成果として、終末期にある星で炭素が合成されたことの発見、超新星残骸での元素組成の測定、銀河団でのレアメタルの発見などにより、星から超新星爆発に至る元素合成の歴史を示したことが挙げられます。さらに遠方銀河の分厚いガスや塵に隠されたブラックホールの発見、わたしたちの銀河系の中心で起こる爆発的現象の包括的な観測、超新星残骸や宇宙ジェットでの粒子加速の解明、マグネターと呼ばれる超強磁場天体の研究など、宇宙の高エネルギー現象や、宇宙の構造と進化などの研究が行われました。

打ち上げ日:2005年7月10日 2015年 観測終了
サイズ:6.5m×2.0m×1.9m 質量:約1700kg

これまでの観測成果から見えてきた新たな課題

    日本の歴代X線天文衛星が積み重ねてきた代表的な成果として、
  • ブラックホールの実在を支持する観測的根拠の強化
  • 超新星残骸で宇宙線が加速される直接的証拠の発見
  • 銀河団プラズマ中での重元素の空間分布の解明
  • 中性子星の磁場の精密計測
  • などがあります。

こうして熱く激しい宇宙の姿が徐々に見えてきましたが、それにつれ、より根源的ないくつもの問いが姿を現してきました。どのようにして宇宙が現在の元素量や元素組成をもつに至ったか、巨大ブラックホールが銀河の進化に果たした役割など、新たな課題にASTRO-Hは挑戦していきます。

さそり座にある超新星残骸の一つで、高エネルギー宇宙線が生成され続けている様子



    参考: