「あけぼの」運用終了、おつかれさま! ― 「あけぼの」の歴史と軌道の変化
2015年4月24日(金)
- プロジェクト
- 人工衛星・探査機
2015年4月23日、磁気圏観測衛星「あけぼの」が26年間の長きにわたる運用を終えました。これは長期にわたって宇宙空間の過酷な環境にさらされたことで、複数の機器が使えなくなったこと、そして高度が下がり太陽電池に光が当たりにくくなったことなどが理由です。
あけぼの概観
「あけぼの」は、元々はオーロラが光るメカニズムを明らかにすることを目指して1989年2月22日、内之浦宇宙空間観測所からM-3SIIロケット4号機で打ち上げられた磁気圏観測衛星です。オーロラは太陽からくる電気を帯びた粒子の流れ「太陽風」が地球の磁気圏と相互作用することで発生します。でも、太陽風がどのように地球の磁場と相互作用をするのか、その具体的なプロセスやメカニズムは明らかになっていませんでした(実はいまも多くの謎が残されています)。それを観測するのが「あけぼの」のミッションでした。あけぼのはオーロラを発生させるエネルギーを持った粒子の流れの振る舞いが季節によって変化すること、それによってオーロラの光り方が季節で違うことなどを発見しています。 |
「あけぼの」が紫外線で撮影したオーロラ |
「あけぼの」の観測期間は当初1年の予定でした。それが26年間にわたって運用されたことで、地球の磁気圏に関するとても貴重なデータが得られました。地球の周囲にあるヴァン・アレン帯と呼ばれる放射線帯の活動は地球の磁場を介して太陽の活動と密接に結びついています。「あけぼの」はこの太陽の活動とヴァン・アレン帯の変化について新しい知見をもたらしてくれました。これは何年間にもわたるデータの蓄積があってのことです。 さて、「あけぼの」が運用できなくなった大きな理由の一つは高度が下がったことです。打ち上げ当初は、最も地球から離れる地点で10500kmありました。それが26年間で約4000kmまで下がりました。これによって太陽電池に太陽の光が当たる時間が短くなり、十分な電力を生み出せなくなってしまったんです。
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「あけぼの」軌道図 インタラクティブ版 |
大きいほうが打ち上げ当初の軌道、小さいほうが現在の軌道です。ずいぶん小さくなっていますね。でも地球から一番遠くなる場所(遠地点)だけが下がり、地球に最も近づく場所(近地点)はほとんど変化していません。なんだかちょっと不思議な感じがしますね。実はこの高度の変化を引き起こしているのは地球の大気です。
「あけぼの」の高度変化
地球の周りを回っている人工衛星は、速度を変えると軌道の大きさが変わります。そのとき、速度を変えた場所の高度は変わらないという性質があります。つまり、地球に一番近づく地点で速度を変えると、大きく変化するのはその反対側、地球から一番遠くなる地点だということです。
さて、「あけぼの」の場合、地球に一番近づく場所は270km、国際宇宙ステーションよりずっと低いところです。ここにはわずかながら大気があり、空気抵抗で少しづつ速度が下がります。逆に一番地球から離れる場所にはほとんど空気はありませんからここでは速度は変わりません。一番低いところで減速するので一番高くなる場所の高度が下がり、一番高くなる場所では速度が変わらないので一番低いところの高度は変わりません。「あけぼの」の軌道の形はこうやって変化したんです。
とはいえ、空気の抵抗で下がる速度はほんのわずかです。何年もかけて少しづつ、少しづつ高度が下がった結果、これだけ軌道の形が変わったというわけです。この軌道の形の変化は「あけぼの」の26年間の歴史そのものなんです。
ちなみに、運用をやめたからといってすぐには落ちてきたりはしません。「あけぼの」はこれまでと同じように少しづつ高度を下げながら、地球に近づいてきます。いずれは地球に落ちてきますが、おそらく何年も先のことでしょう。
ともあれ、長きにわたる運用お疲れさまでした!