はやぶさ2の旅路(往路編)

2014年12月10日(水)

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いよいよ、「はやぶさ2」の宇宙探査ミッションがはじまりました。今回は、はやぶさ2がたどる旅路、軌道の話をしましょう。

はやぶさ2の最大のミッションは小惑星のサンプルを地球に持ち帰ること。つまり、はやぶさ2の旅は往復旅行です。これは探査機としてはかなり珍しい部類に入ります。多くの探査機は行ったままで帰ってきません。サンプルリターンの多くは月でなされたものです。それ以外の天体については彗星の近傍を通りすぎてのダストの採取などは行われましたが、月以外の天体に降り立ち、サンプルを取得して再び地球に戻ってきたのは先代の「はやぶさ」だけです。

1999 JU3の軌道

はやぶさ2が向かう小惑星1999 JU3は楕円軌道を描く小惑星です。1番太陽に近いところはちょうど地球と同じくらい、1番遠い所では火星くらいの距離になります。

太陽系北極方向から見たイトカワと1999 JU3の軌道

これは、はやぶさ2の目的地である1999 JU3と前回はやぶさが向かったイトカワの軌道を比べたもの。よく似ていますがイトカワの方が少し太陽から遠くまでいきます。じゃあ1999 JU3に行くのはイトカワに行くより簡単ななんでしょうか? 残念ながらそう簡単にはいきません。

黄道面から見たイトカワと1999 JU3の軌道

これは1999 JU3とイトカワの軌道を真横から見たものです。1999 JU3の方が傾きが大きいのが分かるでしょうか? この傾きが問題なんです。探査機は軌道を傾けるのにも燃料を使います。たどり着くのにどれくらい燃料を使うのか、つまりどれくらいの加速が必要なのかという意味でいえば、1999 JU3とイトカワは同じくらい遠い所にあるんです。これが1999 JU3がはやぶさ2の目的地に選ばれた理由の一つです。

地球出発から地球フライバイ

では、はやぶさ2の軌道を見ていきましょう。はやぶさ2が1999 JU3に到着するまで約3半年かかります。まずは1年目。

軌道: 打ち上げ→地球スイングバイ

これが地球出発から最初の1年にはやぶさ2がたどる軌道です。最初の1年は地球からあまり遠く離れず、地球とよく似た軌道をとって太陽の周りをほぼ1年かけて1周し、再び地球に戻ってきます。

地球の軌道と比べると、前半は少し外側に膨らみ、後半は内側に入り込んでいるのに注目して下さい。太陽から離れると軌道上の探査機や天体の動きは小さくなります(これはケプラーの法則と呼ばれる天体の運行を司る普遍的な法則です)。つまり、はやぶさ2は1年目の前半は地球から徐々に遅れていき、後半で速度を上げて地球に追いつく、という動きをします。そしてちょうど1年後、地球を後ろから追い抜くことになります。

地球スイングバイ

打ち上げから1年、太陽の周りを1周したはやぶさ2は、地球のすれすれを後ろから追い抜いて行きます。この時、地球の重力によって軌道が曲げられ、さらに地球が太陽の周りを周る速度をもらって加速します。これが「地球スイングバイ」です。軌道が曲がるのはなんとなくわかる気がしますが、なぜ加速するんでしょうか? ちょっと不思議な感じがしますね。

スイングバイの模式図
※「地球の動きに引っ張られて速度が増える」という部分だけを取り出したもので、正確なスイングバイの図ではありません。

地球とはやぶさ2はともに太陽の周りを回っています。はやぶさ2が地球に近づいていくと、地球の重力に引っ張られてはやぶさ2は加速します。もし地球が止まっていたら、離れて行く時にも同じだけ引っ張られて差し引きはゼロになるでしょう。でも、地球が動いていると、その動きの分だけ余計にはやぶさ2が地球に引っ張られます。これがスイングバイの原理です。

スイングバイを使うと殆ど燃料を使わずに加速し、また軌道を大きく曲げることができます。遠い惑星や小惑星に向かう探査機にはうってつけの方法です。これがはやぶさ2が直接1999 JU3に向かわずに、地球と一緒に太陽の周りを一周する理由です。スイングバイの時には、はやぶさは地球の表面からわずか数百kmという近さの所をすり抜けます。このスイングバイを成功させるためには、とても精密な軌道の制御が必要になります。

地球フライバイから小惑星到着

地球スイングバイによって、はやぶさ2は軌道の傾きを1999 JU3とそろえて、いよいよ小惑星に向けて地球のそばを離れます。ここから1999 JU3まで約2年半の道のりです。

軌道: 地球スイングバイ→1週目

軌道: 1週目→2週目(小惑星到着)

地球スイングバイの直後は、はやぶさ2は1999 JU3の後方、少し内側にいます。しかし地球スイングバイだけでは1999 JU3に到達するには速度が足りません。ここで活躍するのがイオンエンジンです。

イオンエンジン

イオンエンジンは、イオン化した燃料を電気の力で吹き出すという仕組みのエンジンです。特徴は燃費がすごくいいこと。高温のガスを吹き出すロケットエンジンと比べると使う燃料がとても少なくて済みます。その代わりにイオンエンジンが生み出す力はあまり大きくありません。ちょうど手のひらに乗せた1円玉が手のひらを押す力くらいです。こんなに弱い力でも、空気のような動きのじゃまをするものがほとんどない宇宙空間で何ヶ月も動かし続ければ十分な加速が得られます。力が弱い代わりに高効率、イオンエンジンは長い時間をかけて遠くまで行く探査機にピッタリのエンジンです。はやぶさ2のイオンエンジンは、はやぶさに搭載されていたものに比べて推力や信頼性が増した改良型になっています。

上記の軌道図のはやぶさ2を表す赤い線がわずかに螺旋を描いているのが分かるでしょうか? これがイオンエンジンによる加速の効果です。はやぶさ2はイオンエンジンを使って、約2年半かけてゆっくりゆっくり加速しながら1999 JU3に向かいます。1999 JU3に到着するのは2018年夏頃の予定です。

1999 JU3到着!

小惑星に到着したはやぶさ2は、約18ヶ月かけて様々な調査を行います。詳しい地形や表面の様子の調査、着陸、サンプルの採集、小型ローバーや着陸機による調査…… きっとはやぶさ2は私たちの見たこともないような世界を見せてくれるでしょう。そして、そこからまた1年かけてはやぶさ2は地球に帰ります。地球到着は2020年末頃の予定です。帰り道の詳しい話は、またはやぶさ2が小惑星から地球に帰る頃にしたいと思います。

打ち上げから帰還までの6年間の長旅、はやぶさ2から届く旅の便りを楽しみにしていてください。

【参考文献】