熱帯降雨観測衛星/降水レーダ(TRMM/PR)後期運用終了へ

2014年10月14日(火)

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TRMMという衛星を知っていますか? 「TRMM」はNASAとNASDA(当時の宇宙開発事業団、現・JAXA)とCRL(当時の通信総合研究所、現・NICT)が共同で開発した「熱帯降雨観測衛星」です。1997年の打ち上げ以来17年の長きにわたって運用されてきましたが、2014年10月7日に後期運用を終了しました。もともと予定されていた設計寿命は3年ですから、予想をはるかに超えて長いあいだ頑張ってくれたことになります。
TRMMごくろうさま!

熱帯降雨観測衛星「TRMM」

熱帯降雨観測衛星「TRMM」(トリムと読みます)は、その名の通り熱帯地方の雨について調べる衛星です。そんなの地上から調べればいいじゃないかと思うかもしれませんが、そう簡単にはいきません。広大な海や熱帯のジャングル、砂漠などにはなかなか観測地点が置けません。全地球レベルで降っている雨をリアルタイムで調べるには宇宙から見るのがとても有効なんです。じゃあ気象衛星は? ひまわりなどの気象衛星は静止軌道と呼ばれる赤道上空35000kmに置かれています。地球全体をカメラで見るには適していますが、雲の内部の様子など雨が降っている場所をレーダを使って詳しく調べるにはちょっと遠すぎます。TRMMは高度400kmという比較的低い場所から雨が降っている場所を詳しく調べるための衛星なんです。

熱帯地方は地球全体の降雨量の2/3を占めていますが、全地球レベルでの降雨の分布、季節や年単位での変化など分かっていないことが沢山ありました。こうした地域での気象の変化は地球全体の気候に大きな影響を与えていると考えられていて、長期間に渡って観測することで気候変動の理解にもつながります。また台風の発生、発達のメカニズムを調べることができれば台風の予測にも役立ちます。こうした目的から打ち上げられたのが「TRMM」でした。日本が打ち上げと「降雨レーダ」の開発を、NASAが衛星本体と降雨レーダ以外の観測装置の開発を担当しました。これまで、降雨の様子だけでなくエルニーニョ、ラニーニャ現象の観測、台風や豪雨の観測などで活躍してきました。

TRMMがとらえた2014年10月の台風ファンフォンに伴う降雨の様子

1997年11月28日に種子島からH-IIロケット6号機で打ち上げられてから17年以上も運用されてきましたが、高度を維持するための燃料が少なくなり、2014年10月7日で日本が開発した降雨レーダ(Precipitation Radar: PR)による正規の観測が終了しました。長い間ごくろうさまでした!
TRMMは低い高度で運用されているので、空気の抵抗を受けやすく、定期的にスラスタを使って高度を上げてあげなければいけません。スラスタの燃料が底をつき、PRの運用に必要な高度が保てなくなったんです。今後は、実際に使用できる高度より低い高度で試験的な観測が行われることになっています。
なお、NASAのセンサであるマイクロ波放射計(TMI)は、軌道降下中も通常の観測が可能なため、しばらく後期運用が継続されます。こちらはもうひとがんばり!ですね。

今後、こうしたレーダによる降雨の観測は2014年2月28日に打ち上げられたJAXAとNASA共同開発の全球降水観測計画主衛星「GPM」と搭載された二周波降水レーダ「DPR」が担います。GPM/DPRプロジェクトでは、TRMMで培った技術とそこで蓄積された観測結果を元に、地球全体の降雨の様子をより精細に捉え、また雲の中を見通すことのできるレーダ「DPR」を使って降雨のメカニズムを詳しく探ります。GPM/DPRも先輩TRMMにまけない活躍が期待できそうですね。