宇宙ゴミ ― スペースデブリ
2014年3月24日(月)
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「スペースデブリ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 最近映画や漫画、アニメなどでも登場して耳にした方も多いかもしれません。スペースデブリというのは、一言で言えば宇宙に浮かぶゴミのこと。実は、フィクションの世界の話ではなく、実際の宇宙でも大きな問題になっているんです。
スペースデブリって何?
現在地球の周りには、位置が正確にわかっているものだけでも16000個近くの物体が軌道上を周回しています。また、レーダーなどで捉えられない数センチから数ミリのものは数十万個から数千万個以上あるともいわれています。そのうち現在使われている衛星はごく一部でしかありません。大半は使われなくなった衛星や打ち上げに使われたロケット、そしてそれらが壊れて発生した破片などです。これが宇宙のゴミ ― スペースデブリです。
地球の周囲にある位置がわかっている物体を表示したもの。緑色が衛星(使われなくなったものを含みます)、黄色がロケットの上段、赤がそれ以外の破片等です。
たとえば、国際宇宙ステーションのある高度400km付近では、人工衛星は秒速7.5kmくらいで飛んでいます。ライフル弾が秒速1kmほどですからその7倍もの速度です。さらに正面衝突すればこの倍の速度でぶつかるのと同じことになります。もちろん大きな破片が当たればひとたまりもありませんし、小さな欠片があたっても衛星が壊れてしまうかもしれません。どうすればいいでしょうか?
衛星にぶつからないようにするためには?
すぐに思いつくのは、破片にぶつからないように避けるか、ぶつかっても大丈夫なように衛星を頑丈に作るという方法です。実は、位置がわかっているものについては、ぶつかりそうな軌道にある人工衛星や国際宇宙ステーションなどの位置を事前にずらして避けるということが日常的に行われています。もちろん、避けるためには破片の位置が正確に分かっていなければなりません。そのため、アメリカが中心になり世界中の機関が協力して24時間体制で軌道上の物体の観測を行っています。日本でも、美星スペースガードセンター、上斎原スペースガードセンターなどでほぼ毎日スペースデブリの観測を行っています。
上齋原スペースガードセンター[出展:日本宇宙フォーラム]
一方ぶつかっても大丈夫なように衛星を頑丈に作る、というのはなかなか大変です。人工衛星はあまり頑丈に作ると重くなってしまいます。打ち上げるのも大変ですし、その分観測装置などを積む余裕がなくなってしまいます。ただ、人命に関わる国際宇宙ステーションなどでは、小さい破片がぶつかっても大丈夫なようにデブリバンパと呼ばれるガードが施されています。
バンパ(左)とバンパを貼った「きぼう」の船内実験室
運用が終わった衛星や打ち上げに使ったロケットなどは位置を変えることができませんし、避けるのが間に合わないこともあります。もちろん見つかっていなかった破片が衝突することもあります。実際に、2009年にはロシアの通信衛星コスモス2251号とアメリカの民間通信衛星イリジウム33号が衝突して、大量の破片が軌道上にばらまかれました。その後もスペースデブリが原因と思われる不具合がいくつも報告されています。
宇宙のゴミはなかなか自然にはなくなりません。国際宇宙ステーションがいる400kmぐらいであれば、わずかながら空気の抵抗があって1年もあれば落ちてきますが、地球観測衛星などが使う1000kmぐらいで数十年から数百年、GPSが使う高度20,000kmの軌道、あるいは通信衛星や気象衛星などが使う静止軌道36,000kmにもなるとほぼ永久に落ちてきません。しかも、衛星や大きな破片同士が衝突すると、そこから大量の破片が生まれ、さらにその破片が他の衛星にぶつかり...と、どんどん数が増えてしまうんです。
宇宙ゴミを減らせ!
すぐに人工衛星が飛ばせなくなったりはしませんが、このまま放っておけば軌道上がゴミだらけになってしまいます。どうにかして数を減らさなくてはなりません。ひとつは、今すぐにもできること。これ以上ゴミを増やさないことです。
人工衛星を打ち上げるときに余計なものをなるべく出さない。打ち上げに使ったロケットや使わなくなった衛星は地球に落として燃やしたり、じゃまにならない軌道に移動させる。爆発したりしないように余った燃料を捨てたり電池がショートしたりしないように工夫する。軍事目的などで人工衛星をわざと壊したりしない(2007年に中国が衛星を破壊する実験を行って大問題になりました)。こうしたゴミを増やさないための取り組みは、JAXAはもちろん、各国の宇宙機関でも積極的に行われていて、国際的な取り決めが国連を中心に整備されつつあります。日本も、スペースデブリについての国際的なシンポジウムを開催する、国連のスペースデブリ対策会議の議長を務めるなど、積極的にこの枠組みづくりに参加しています。
もちろん、これだけではゴミの数は減りません。数を減らすためには、落ちてくるのを待っているだけではなく、積極的に動かなくなった衛星やロケットを地球に落とさなければなりません。でも、これはなかなか大変な仕事です。なにしろ、こうした宇宙ゴミは秒速7kmで飛んでいますから、うまく速度を合わせて近づいて、捕まえて、落とさなければならないんです。相手はコントロールされていませんから、回転しているかもしれませんし、うまくつかむ場所があるかどうかもわかりません。技術的に非常に難しく、各国の宇宙機関が様々な方法を研究しています。近づいてエンジンを取り付ける、網を投げる、銛を打ち込むなんていう方法も検討されていますが、まだ実用化されたものはありません。
電気と磁気で宇宙ゴミを落とす
JAXAでは、ちょっと変わった方法を使って、この宇宙ゴミを減らそうとしています。電気と磁気の力を使うんです。
導電性テザー(EDT)の原理:誘導起電力を利用して電流を流し、その電流と地磁場との干渉で発生するローレンツ力で高度を下げることができます。逆向きに電流を流せば、高度を上げることもできます。
理科の時間に実験をしたことがあるかもしれません。磁石の磁場の中で電線に電流を流すと、電線に力が働きます(フレミングの左手の法則ですね)。モーターが動くのと同じ原理です。地球は大きな磁石をしていますから、人工衛星に細長い電線をつけて電気を流してあげれば、ロケットエンジンなどを使わなくても衛星を動かすことができます。これが導電性テザーと呼ばれる技術です。この方法で生まれる力はごくわずかですが、時間さえ掛ければ、燃料をほとんど使わずに衛星を大気圏に落とすこともできるかもしれません。
網状テザー(左側)とリール放出機構の地上試験
これが電気を流す電線、テザーです(テザーというのは紐という意味です)。線が一本だと何かがぶつかると切れてしまうので、簡単に切れないように網目状の構造になっています。これは、実際に魚を捕まえる網を作っている企業の協力のもとで作られました。これならば、ぴんと引っ張っても、どこかが緩んでくれるので一度に全部が切れてしまったりしないんです。
この導電性テザーは実用化に向けて、小型衛星などを使って実験が行われている段階です。JAXAでもこうのとり(HTV)を使って、実際にこのテザーを宇宙で使う実験を行うプロジェクトが進んでいます。
スペースデブリの問題は、私たちが宇宙を利用していく上で避けては通れない問題です。また、人類の共有財産である宇宙をどうやって使っていくか、という問題でもあります。日本だけでどうにかなる問題ではありませんし、他の国に任せっきりにするわけにもいきません。今後ますます国際的な協力が重要になってくるでしょう。