再び宇宙大航海へ臨む「はやぶさ2」

第12回

再突入カプセル

「はやぶさ2」プロジェクト 再突入カプセル担当
吉原圭介
山田哲哉
(ISASニュース 2015年1月 No.406掲載)

 2010年6月13日の夜中、小惑星イトカワの微粒子を収納したコンテナを搭載した再突入カプセルは、過酷な空力加熱環境を通過してパラシュートを開き、オーストラリアの砂漠に着地しました。それから4年半、小惑星探査機「はやぶさ2」は、2014年12月3日に無事打上げに成功し、新たな航海に乗り出しました。

 「はやぶさ2」の再突入カプセルの役割は、小惑星にて採取した貴重なサンプルを地球に送り届けること。役割は初代「はやぶさ」と同じですが、失敗が許されないという点では、工学実験の側面もあった初代以上です。今回の開発は、重量や形状といった物理的な制約に加えて、開発期間やコストなどの厳しい制約のもと、いかにカプセルの信頼性を向上させるかといった課題に最初から最後まで向き合うものとなりました。

 今回の開発においてカプセルチームが最も大事にしたスタンスが、「初代の開発成果を最大限活用する。ただし、設計結果をうのみにしないこと」でした。当たり前のことのようですが、開発期間が限られる中で、目の前の設計に飛び付くのではなく、要求設定や設計のフィロソフィーに立ち戻って、一つ一つ自らが納得できるまで検討を行うことは、想像以上に骨が折れるものでした。また、完璧な成功を収めた初代の存在は大きく、初代の設計に対し自らの導いた答えを信じて変更を加えるのは、かなりの勇気が必要でした。何度も何度も検討結果を点検し、ある面では新規開発よりもエネルギーを使って開発を進めました。

 このような独特の難しさがある開発ではありましたが、大目的である信頼性向上につながる工夫は、可能な限り取り込みました。再突入カプセルのキー技術となるヒートシールドや空力形状については、初代の分析結果などを踏まえ、極力変更しない方針としました。その上で、再突入中に高熱にさらされるヒートシールドの損耗や温度上昇を評価するための解析に加え、ヒートシールド内の温度勾配に起因する熱変形や再突入中に受ける圧力(動圧)に対するヒートシールドの強度評価、カプセル内部の重要部位(サンプルを収納するエリアや制御回路)の温度上昇について、より緻密な検討を行い、安全に再突入が可能な軌道(経路)の範囲を明確にしました。また、制御回路部については、高信頼性部品の適用を含めて設計の一新を図り、ゼロベースでの検証を行いました。パラシュートを開く方式は、完全に独立した2系統を用意しました。所定の加速度の感知による方法と、タイマーを用いて分離からの時間を規定する方式です。

 以上に述べたような取り組みに加えて、将来のミッションに向けての布石として、新たな機能も追加しました。REMM(Reentry  flight Environment Measurement Module:再突入飛行計測モジュール)です。高速再突入中の熱防御系に関わるデータや機体運動に関わるデータを計測します。厳しい制約の中でこの機能を追加するため、開発に協力いただいたメーカーさんと共に工夫を凝らし、最終的には電池を除いて約70gに必要な機能を詰め込みました。また、世界中から届けられたメッセージを記録したメモリチップも新たに搭載しています。

 今回の再突入カプセルの開発は、2010年の帰還を支えた初代カプセルチームから、若返りした「はやぶさ2」カプセルチームへの技術継承の場にもなりました。開発には多くの苦闘がありましたが、経験者を中心に体制を組んでくださった協力メーカーの方々の多くの助けにより、何とか開発をやり遂げることができました。図2は、探査機に搭載した再突入カプセルです。金色に輝く熱制御材の表面にカプセルチームの面々が映っています。まるでカプセルの瞳に映ったように。「行ってきます。必ずここに帰ってくるから」。そんな言葉が聞こえてくるようです。2020年に、この星で、再びこのカプセルを皆さんと共に迎えられることを切に願っています。

図1 「はやぶさ2」再突入カプセルの構成
図1  「はやぶさ2」再突入カプセルの構成

図2 再突入カプセルに映るカプセルチームの面々
図2  再突入カプセルに映るカプセルチームの面々

(よしはら・けいすけ/やまだ・てつや)



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