「はやぶさ2」を全体俯瞰して
約1年にわたり、現在開発中の「はやぶさ2」小惑星サンプルリターン・ミッションに関する解説記事をお送りします。
まず、「はやぶさ2」の三つの意義を説明します。「はやぶさ2」の目標小惑星1999JU3は、「はやぶさ」が訪れたイトカワの石質とは異なる炭素質組成で、水や有機物を含む可能性があります。標本を直接分析して太陽系宇宙の生い立ちや生命の起源に肉薄できれば、“宇宙科学”を前進させることができるでしょう。それが一つ目です。二つ目は、「はやぶさ」ではたくさんの不具合が生じましたが、それらを克服してより完全な探査機を実現させ、宇宙を自在に往来する独自能力を発展させるという“宇宙工学”上の目標です。三つ目は、人類の活動領域を宇宙へ拡大させる“宇宙探査”(Space Exploration)の意味合いにおいて、日本独自の小惑星探査を推し進めることです。
私たちには、日本が先鞭をつけた、天文単位からオングストロームスケールに至る「小惑星サンプルリターン観測法」を維持・発展させる根拠と地の利があると主張します。「はやぶさ」の成功に刺激され、米欧においても複数の小惑星探査計画(OSIRIS-REx、MarcoPole-R、Asteroid Redirect Mission)が準備されつつあり、宇宙活動のこの分野において日本は初めて追われる立場になりました。米国は小惑星を有人宇宙活動の拠点とする考え方を示していますし、2013年にはチェリャビンスク隕石が地球に落下して大きな被害をもたらしました。「はやぶさ2」で得られた知識を小惑星有人探査や隕石衝突回避などに還元して世界協働宇宙活動に貢献できれば、日本の独自性や利益を保ちながら、世界から一目置かれる地位を得られるでしょう。
はやぶさ2」ミッションは、約600kgの探査機をH-IIAロケットにて2014年度冬に打ち上げて、イオンエンジン加速と地球スイングバイを組み合わせたΔVEGA(Delta-V Earth Gravity Assist)航法にて目的天体に2018年ランデブーし、リモートセンシングの後、標本採取のための着陸運用を複数回行い、再度イオンエンジン動力航行にて2020年に地球に帰還する計画です。成功基準はかなり高く設定されていて、Minimum Successとして1999JU3へのランデブー・遠隔観測とインパクタの衝突、Full Successは衝突により起こる現象の観測・分離ロボットの着地・サンプリングの実施と地球での回収・分析、さらにExtra Successは小惑星地下物質のサンプリングです。
本ミッションは国際的な広がりを持って実施されています。DLR(ドイツ航空宇宙センター)からMASCOT分離ロボット(Mobile Asteroid Surface Scout)が提供されます。NASA(アメリカ航空宇宙局)からはDSN(Deep Space Network)による追跡と軌道決定支援を受けます。世界中の科学者を動員してHJST(Hayabusa 2 Joint Science Team)やHSAC(Hayabusa 2 Sample Allocation Committee)を組織し、太陽系科学を推進します。帰還カプセルの回収は、再びオーストラリアにて実施予定です。
図1 | 「はやぶさ2」ミッションパッチ |
さて、恒例となりました(?)ミッションパッチを公開させていただきます。直方体形状の主構造に2翼の太陽電池を擁する探査機全体像が中心に描画されています。下面(-Z面)に多くの観測装置・搭載機器を配し、右側面(-Y面)にMASCOT分離ロボット、正面(-X面)にスタートラッカー、帰還カプセル、赤外分光器(NIRS3)が見えます。背面(+X面)のイオンエンジンからプラズマジェットが噴射されています。下方にはまだ見ぬ小惑星表面を、上方には太陽系の外側から内側へ向かって火星・月・地球(国際宇宙探査協働グループ[ISECG:International Space Exploration Coordination Group]のロゴマークをオマージュ)を望みます。そして「はやぶさ2」の来し方行く末を示す黄色い矢印。パッチ全体形状は上面(+Z面)に搭載された2式の円形平板アンテナをモチーフにしています。
図2 | 「はやぶさ2」探査機とプロジェクトメンバー |
本連載第1回の最後に、「はやぶさ2」プロジェクトメンバーを紹介しましょう。昨年実施された一次噛合せ試験時に全貌を現した探査機を背景に写る彼らこそが、私が全幅の信頼を寄せる同僚たちです。集合写真には入っていなくともJAXA内や協力企業に、たくさんのメンバーがいます。いよいよ彼らと共に誰も見たことのない深い宇宙に、我々の宇宙船でこぎ出します。「はやぶさ2」ミッションに乞うご期待。
(くになか・ひとし)