彗星や小惑星が地球にぶつかったらどうなってしまうのか?
そんな不安を持ったもじゃもじゃ博士とぼさぼさ博士は、岡山県の山中にある謎の施設の噂を聞きつけました。その施設では日夜地球を小惑星から守るための観測が続けられているというのです。
地球の平和を守るその施設の名前は「美星スペースガードセンター」。施設で観測を行っているのは「日本スペースガード協会」。なにそれかっこいい。
これは行ってみるしかありませんね。
というわけで、やって来ました岡山県。「美星スペースガードセンター」は岡山県井原町の山中にあります(「美星」は旧町名)。でこぼこと連なる丘を縫うように進んでいくと、ひときわ高い丘の上にありました。おおお!
じゃーん! これがスペースガードセンターです。すごい! 秘密基地みたいだ! 早速潜入!
潜入写真(ウソです。もちろんちゃんと事前に連絡して、許可を頂いて見せて頂いています)
スペースガードセンターに勤める浅見先生にお話を聞きました。
「スペースガードセンターといっても、小惑星を撃ち落としたりはしません」
え? そうなの?
スペースガードセンターというのは、地球に接近する小惑星や、地球の軌道上にある使わなくなった衛星などの「スペースデブリ(宇宙ゴミ)」の観測を行っている観測施設です。
施設の左右の塔の上にそれぞれ口径1mと50cmの望遠鏡が据え付けられています。
いってみれば、小惑星やスペースデブリ専門の天文台ですね。美星スペースガードセンターはこうした用途専用の天文台としては日本初の施設です。
普通、天体観測を行う望遠鏡は、目標の天体を詳しく調べるために比較的狭い範囲を観測するような設計になっています。逆に、この美星スペースガードセンターの望遠鏡は、なるべく広い視野を持つように設計されています。視野の直径は3度。視野の中に満月が6個も並べられる大きさです。広い範囲を一度に観測することで小惑星をなるべく見逃さないようにしようというわけです。
もうひとつは素早く動くこと。地球に接近する小惑星や地球の周囲を回るスペースデブリは、夜空の中をとても早く動きます。この動きに望遠鏡を合わせなければなりません。美星の望遠鏡は1秒間に2.5度のスピードで動かすことができます。そんなにゆっくりなの? と思うかもしれませんが、このサイズの望遠鏡としては格段の速さです。
これがスペースガードセンターの1m望遠鏡。この望遠鏡で夜空を観測して小惑星を見つけたり、すでに見つかっている小惑星を詳しく調べたりします。
中はこんな感じ。おおきい! 普通の望遠鏡と違うのは見える範囲がとても広いこと、そして素早い動きに対応していることです。
こちらがコントロールルーム。先ほどの望遠鏡で撮影された画像はここに送られて分析されます。小惑星は太陽系の中を飛び回っているので、夜空の星々と比べるとずっと早く大きく動きます。星を追いかけるように望遠鏡を動かすと、早く動く小惑星が画面の中でこのように動いて見えるんです。
見つけた小惑星は、60万個登録されているデータベースと照合して既存の小惑星なのか、新しいものなのかを判別します。観測された情報は、小惑星の情報を管理している国際天文学連合(IAU)の「マイナープラネットセンター」という組織に送られます。ここでは世界中から集められた観測情報を元に小惑星の正確な軌道を割り出します。
知っている小惑星だったら外れ? いえいえ、既存の小惑星を観測するのも重要な仕事です。一度観測しただけでは小惑星の軌道を正確に把握する事はできません。世界中の同じような施設と協力し合いながら、同じ小惑星を何度も観測して正確な軌道を割り出します。他の観測施設で発見された小惑星を追跡して正確な位置を観測するのもスペースガードセンターの重要な役割の一つです。
美星スペースガードセンターでは、2014年までに1000個を超える新発見の小惑星を見つけました。そのうち複数回観測されて番号が付けられたものが360個ほどあります。すごい!
「たいへんなことになります」
小惑星が衝突した時の被害は大きさにもよります。直径数百メートルのものでも都市をひとつ壊滅させられるほどの破壊力を持ちます。数十kmサイズのものは地球の気候を変えてしまうほどです。約6550万年前にメキシコのユカタン半島に落ちた小惑星は恐竜を滅ぼす原因になったのではないかともいわれています。
最近になって、十数メートルの小さな小惑星でも大きな被害をもたらす可能性があることが分かってきました。2013年2月、ロシアのチェリャビンスクに小型の小惑星が落下しました。 推定直径10~17メートル。これまで小さな小惑星(隕石)は、地上にさほど大きな被害はもたらさないと考えられていましたが、この小惑星は地上に大きな被害を与えました。 その原因は大気圏に突入した小惑星が超音速となり分裂した際に発生した衝撃波です。人工密集地帯上空を通過したことにより、発生した衝撃波によって建物のガラスが割れたり、そのガラス片が人にあたりけが人が出るなど、大きな被害がありました。
「今のところ、確実な対策はありません」
えっ! そんな...残念ながら現時点では、人類は小惑星を破壊したり、軌道を変えたりする技術を持っていません。現在様々な研究が進められていていて、将来的にはそうした技術が用いられるようになるかもしれませんが、今のところ地球に衝突する小惑星に対して、有効な手段はないんです。がーん!
とはいっても、手をこまねいているわけにはいきません。今できること、それは地球に近づいてくる小惑星を少しでもたくさん、少しでも早く見つけること。そして、小惑星のことを詳しく調べることです。
いちばん重要な事はなるべく早く見つける事です。長く観測できればできるだけ、正確な軌道が分かります。そうすれば、事前に落下する場所や時間を特定できるかもしれません。小さければ衝撃波に対する注意を呼びかけたり、大きければ避難をする時間を確保できるでしょう。何年も前に見つけられれば、何らかの方法で軌道を変えることも試せるかもしれません。
そのためには、常に観測をしていなければなりません。小惑星の観測は休むことはできないんです。それが美星スペースガードセンターが365日休まず観測をしている理由です。それでも、小惑星の観測は、夜それも晴れている時にしかできないので、世界中の天文台が協力して観測を行っているんです。
※小惑星についての観測は、日本スペースガード協会が行っています
宇宙実験室ノート
美星スペースガードセンターで観測しているのは小惑星だけではありません。上でも少し触れましたが、地球の周りを回る「スペースデブリ」の観測も行っています。 スペースデブリというのは、使わなくなった人工衛星や、人工衛星を打ち上げる時にでる様々なパーツ、壊れた人工衛星のカケラなどの「宇宙のゴミ」のこと。
こうした宇宙のゴミは、人工衛星と同じように秒速7kmという超高速で地球の周りを飛び回っています。正面衝突すれば秒速14km、時速5万キロというとんでもない速度です。大きな人工衛星や国際宇宙ステーションなどに衝突したら大事故になりかねません。こうした事故を避けるために、スペースデブリの位置を正確に把握している必要があるのです。
実は、日本にはもうひとつ「上齋原スペースガードセンター」があり、こちらではレーダーを使って比較的低い高度にいるスペースデブリ観測を行っています。美星スペースガードセンターでは、この上齋原のスペースガードセンターと協力しながら、高い高度、主に静止軌道上のスペースデブリの観測などを行っています。
美星スペースガードセンター
http://www.spaceguard.or.jp/BSGC/
上齋原スペースガードセンター
http://www.jsforum.or.jp/ksgc/profiles.html
日本スペースガード協会
http://www.spaceguard.or.jp/ja/index.html
宇宙ゴミ ― スペースデブリ | ファン!ファン!JAXA!
https://fanfun.jaxa.jp/topics/detail/2125.html
[2014.7]