「第83回JAXAタウンミーティング in 大阪万博とはやぶさ物語」(平成24年10月14日開催)
会場で出された意見について



第二部「小惑星探査への挑戦『はやぶさ』から『はやぶさ2』へ」で出された意見



<「はやぶさ2」の帰還後のミッションについて>
参加者: 「はやぶさ」は、トラブルがなければカプセルを切り離した後、また地球を飛び出して次の旅に出るという予定があったと聞きましたが、「はやぶさ2」にも同じような予定は視野に入っていますか。
吉川: 「はやぶさ」は最終的に化学エンジンが壊れてしまったので、地球に戻ってきたときに地球衝突を回避できなかったのですが、もしエンジンが使えれば、どこか別の小惑星に接近できればなという考え方がありました。「はやぶさ2」は、どこかほかの小惑星に接近するような軌道でもいいですし、JAXAの中で太陽、地球系のラグランジュ点に深宇宙港をつくったらどうかというアイデアがあって、そのラグランジュ点に行ってみようというアイデアもあります。ただ、これはまだ決まっていなくて、「はやぶさ2」が戻ってくるのを確認できたときに、次どこに行くかを考えたいと思っています。

<「1999JU3」の名前について>
参加者: 「はやぶさ2」の次の目的地の「1999JU3」という惑星にどんな名前がつくと思いますか。もし吉川先生が名前をつけるとしたら、どんなお名前をつけますか。
吉川: これは実は非常に悩んでいるところで、この「1999JU3」という小惑星も発見したのはイトカワを発見したグループと同じで、アメリカのマサチューセッツ工科大学の「LINEARプロジェクト」という小惑星を観測しているプロジェクトが発見しています。「イトカワ」のときにも、「はやぶさ」の打ち上げに成功した後にお願いして、「イトカワ」という名前を快くOKしてくれました。「はやぶさ2」のターゲットの名前は私もいろいろと考えていますが、なかなかいいものがなくて、どうしようか悩んでいます。今のところ全くの白紙状態です。今後もしかして皆さんに公募するようなことがあるかもしれないですし、我々が決めるかもしれません。ただ、発見したのは、アメリカのグループですから、我々が勝手に名前をつけられません。なので、「はやぶさ2」の打ち上げが成功したら、また「LINEARグループ」にお願いしようと思っています。

<(1)衛星・探査機の名前の付け方について、(2)JAXAへの就職方法について>
参加者:(1)「はやぶさ」や「しずく」という名前は、公募して決めるのか、それともJAXAの人たちが考えて決めるのでしょうか。
(2)また、どのようにしたらJAXAに就職できるのか教えてください。
吉川:(1)「はやぶさ」の場合、もともとは「MUSES-C」というミッション名、コードネームでした。打ち上げる前はずっと「MUSES-C」と言っていました。打ち上がった2003年5月9日に、打ち上げ成功を見て「はやぶさ」という名前がつきました。この場合は「はやぶさ」のプロジェクトの中で決めてしまいました。JAXAの場合、公募をして衛星の名前を決める場合もありますし、プロジェクトで決める場合もあります。「はやぶさ2」についてはどうなるかよく聞かれますが、「はやぶさ2」には、コードネームがないので、打ち上がった後、名前を変えるか、まだ決まっていません。ただ「はやぶさ」という名前が有名になり過ぎてしまったので、今さら名前を変えられないのではないかという話が大きいです。
小鑓:(1)「こうのとり」につきましては公募しました。いろんなお名前をいただいて、一番多い名前ではありませんでしたが、いろんな方の意見を聞いて決定しました。ただ、ロケットには愛称をつけていないので、「こうのとり」もロケットに近いということで、当初は、愛称をつけないという話も出ていましたが、やはりつけることになりました。
西浦:(1)水を観測する衛星「しずく」、また、輸送機「こうのとり」は全部平仮名です。これはあえてそういった基準の中で皆様に考えていただいて、応募してくださいとお願いして、だれにでもわかるように、そして日本らしい名前というのがその条件の中に入っています。
名村:(2)JAXAというのはいろんなことをやっています。宇宙航空は幅広い分野なので、いろんなことに興味を持って、いろんな夢を持って、探求する心を持って、これをやりたいんだということを強く持って、挑戦してもらえば、JAXAはあなたのことを待っています。
吉川:(2)新聞への投書で、山口県の小学生が「僕も『はやぶさ2』が持ってきたサンプルを研究したい」と非常に元気のいい小学生もいますので、ぜひJAXAに入れるように頑張ってください。

<やってみたい研究について>
参加者: お金や時間が無尽蔵にあるとすれば、実はこういう研究をやりたいなど、曖昧なもので構いませんのでお聞かせください。
吉川: 私自身、専門は天体力学といって、惑星でも小惑星でも、あるいは探査機でも人工衛星でも、宇宙を飛んでいる天体の軌道を計算するというのが専門になりますが、大学院のころからずっと小惑星の軌道計算をやってきました。小惑星は今59万個発見されています。これは6月時点の話なので今はもっと増えていると思います。この図は、小惑星の分布の様子ですが、この小さな点が小惑星です。真黒くなっているところが、アステロイドベルト、小惑星帯です。小惑星の数がどんどん増えている理由は、地球に接近する天体、地球にぶつかる天体を早めに見つけようという活動が今、世界的にも活発なためで、それでどんどん小惑星が見つかっているのです。私自身がやりたいことですが、こんなに数多くある小惑星のうち、まだごく一部しか探査されていません。もしかすると、中には金属でできたものもあるかもしれません。また、木星の近辺には、トロヤ群というものがあって、地球から遠いところにあるので、地球に隕石が落ちてこないので、物質がどういうものかもわかっていません。まだまだ小惑星は無限の可能性があり、知らないことがたくさんあります。ぜひ調べてみたいです。ただ、1個の小惑星を調べるのも大変なので、私が生きている間には、「はやぶさ2」や外国のミッション等がありますが、あと数個しか調べられないと思います。それでも、是非、未知の天体を調べてみたいと思っています。
小鑓: 小さいころから自分で有人ロケットをつくりたいというのが夢で、誰もが行ける宇宙を目指して有人ロケットをつくっていきたいと思っていますが、残念ながらそろそろリタイヤする年も迫ってきて、今後は若い人にやってもらえるよう指導していきたいと思っています。

<有人による惑星探査について>
参加者: 「はやぶさ2」「はやぶさ3」とあるかもしれませんが、「はやぶさ」に乗って人間と機械が一緒に小惑星を探査するということはありえますか。
吉川: そういうことができるといいですね。「はやぶさ」と「はやぶさ2」はほとんど大きさが同じで、惑星探査機としては割と小さな探査機です。木星の軌道付近まで行きたいとなると、モデルチェンジをして、大型の探査機をつくらなければいけません。ただ、これでもまだ人は乗れません。だから、小鑓さんに頑張っていただいて、人が乗れる探査機で小惑星まで行ければ非常におもしろいなと思っています。アメリカは、火星に人を送りたいと思っていて、火星に行く前に月に人をもう一回送ろうという案と、地球に接近したときの小惑星に人を送ってみて、最終的に火星まで行こうといったことを考えています。さらに、具体的にどうやったら小惑星まで行けるかということをNASAはいろいろと検討しています。小惑星は引力が弱く、着陸や離陸は簡単にできるので、今の技術でもちょっと頑張れば小惑星ぐらいだったら人が行けるのではないかと思います。そんなことができるといいですね。火星までは遠いですが、地球に近づいた小惑星だったら可能性があるかなと思っています。
小鑓: 自分の開発した有人宇宙船が月に行って、火星に行って、小惑星に行く、ぜひその夢を見てみたいですね。

<希少金属の小惑星について>
参加者: 金属でできた小惑星があるかもしれないと言われていましたが、もし、金のかたまりが浮いていたとすると、それそのものを持って帰ってくることができれば、予算的な問題が解決し、夢のある話ができるのではないかと思いますが、技術的には可能なのでしょうか。
吉川: 小惑星まるごと持って帰ってくるということですが、これはアメリカのベンチャー企業がそんなことを言っているようですが、これはなかなか難しいと思います。変な形をした「クレオパトラ」という小惑星があって、MetalのMのM型小惑星といわれていますが、本当に金属かどうかわかりません。ただ、スペクトルでみると金属っぽいスペクトルで、たぶん鉄が主成分だと思います。鉄以外にも、多分、希少金属も含まれていると思いますが、金のかたまりというのはなかなかないと思います。でも、金属がたくさん含まれている小惑星はあるはずです。地球は小惑星のような小さな天体が集まってできたわけですから、小惑星にも金属をたくさん含んだものがあるはずですよね。ただ、こういったものをまるごともってくることは、技術的に非常に難しいです。将来的に資源というものがどこまで利用できるか未知数ですが、少なくとも利用できる小惑星があるかないかを今のうちから調べておくことは、将来の人類にとって役立つのではないかと思っています。

<火星への行き方について>
参加者: 有人宇宙船をつくって「1999JU3」に着陸して基地をつくって火星に接近したら、宇宙船を出発させて火星に行ったらいいのではないですか。
吉川: 非常にいいアイデアですね。1999JU3という小惑星は、ちょうど地球の軌道のところから火星の軌道のところまでつなぐような軌道になっています。だから確かに地球の近くで乗り移って、火星の軌道のそばで火星に乗り移ることができれば、これは本当におもしろいです。実際には若干軌道が傾いているので、ちょっとだけ離れていますが、かなり接近しますから、将来的にそのようなことができるようになると非常におもしろいと思います。

<「はやぶさ2」の部品について>
参加者: 「はやぶさ」では故障した部品、リアクションホイール等外国製のものばかりだったと記憶しています。「はやぶさ2」では、純国産の可能性とか教えてください。
吉川: 確かに一番故障が目立ったのが姿勢制御装置、「リアクションホイール」で、最初のタッチダウン前に3台中2台が相次いで壊れてしまいました。これについては「はやぶさ2」では非常に気にしていまして、リアクションホイールを1台増やして4台にして、さらに実際同じものではなくてメーカーも変えています。「はやぶさ」の場合はもともとのリアクションホイールをM-Vロケットの振動条件に合せるように改良したので、その改良がよくなかったのではないかという話もあって、「はやぶさ2」の場合はそういう改良もしなくてオリジナルの製品のまま使うなど、トラブルが起こらないように工夫をしています。それ以外「はやぶさ」でいろんなトラブルがあったわけですが、これは外国製とか日本製ということは関係なく、いろいろとありました。それを全部チェックして「はやぶさ2」の設計に生かしています。見た目はアンテナしか違わないように見えますが、姿勢制御装置、イオンエンジン、化学エンジンなども改良していて、中身的にはかなり工夫して、変わっています。

<ロボットでの探査について>
参加者: 「はやぶさ」に人間のかわりにロボットを乗せたらどうですか。
吉川: いいアイデアですね。「はやぶさ」も「ミネルバ」という空き缶みたいな筒状の小さなロボットを搭載しました。「はやぶさ」のときは、ミネルバは、切り離された後、イトカワの引力が弱かったので飛んでいってしまいました。もし「イトカワ」の上に降りていたら、ぴょんぴょん飛び跳ねながら移動して、写真を撮ったり温度を測ったりして、そのデータを送ってくる予定でした。「はやぶさ2」でもミネルバのようなローバを載せる予定です。「はやぶさ2」の場合は、小惑星の上でぴょんぴょん飛びながらデータを取るということを成功させたいと思いますので、今回は期待してください。今回は失敗しないようにしたいですね。

<ターゲットマーカーへの署名について>
参加者: ターゲットマーカーの署名は「はやぶさ2」でもやる予定ですか。
吉川: 「はやぶさ」のときは1つのターゲットマーカーに88万人の名前を刻んだシートが入っていて、今、そのターゲットマーカーがちゃんとイトカワの上に置いてあります。ですから、後で誰かが行って拾って中を開ければ名前が読めるということになります。私自身は、同じことを是非やりたいなと思っていますが、まだ決まっていません。これからプロジェクトチームで考えたいと思っています。

<サンプル採取方法の改良について>
参加者: 「はやぶさ」のときは、サンプルの収集があまりうまくいかなかったようにお聞きしましたが、その点について今回は改良されたところがありましたら、詳しくお教えください。
吉川: 前回はこの筒(サンプラーホーン)が表面に触った瞬間に、弾丸が打ち出されて、表面をくだき、破片が筒の中を上がっていって、カプセルに入るというやり方をとりました。表面が砂か砂利か岩かなど事前にわかっていれば、それに合った取り方をしますが、行くまでは、小惑星の表面がどうなっているかわからないので、いかなる表面でもサンプルが採取できる方法を採用しました。「はやぶさ2」の場合も「1999JU3」の表面がどうなっているか全くわからないので、同じ方法で行います。ただ、「はやぶさ」のときは、弾丸が打ち出されませんでした。サンプラーホーンが表面に触った瞬間に弾丸を打ち出せという命令は出ていましたが、弾丸が下手に打ち出されるとまずいのでいくつか安全装置があり、その安全装置が外れていなくて、実際に弾丸は打たれなかったのです。このように理由はわかっているので「はやぶさ2」のときは、そういうトラブルがないようにチェックし、同じようなメカニズムで行います。ただ、ちょっとだけ工夫もしていて、先端を内側に折り曲げることで、もし表面に砂があると、その折曲がったところに砂が入り、そのまま探査機を上昇させ、急停止することで、砂だけ慣性の法則で上がり、サンプルを採取することができるようにしています。

<「はやぶさ2」の広報について>
参加者: 神戸での吉川先生がお話された一言の中に、「『はやぶさ2』は『はやぶさ』のときのような、少なくとも映画になるようなことはない」とおっしゃったのが非常に印象に残っていて、我々一般のほうからすると、言葉は悪いですけれども、興味を引くネタが少なくなるというようなことにもなると思うのですが、「はやぶさ2」の広報をどのように行うのかお教えいただければと思います。
吉川: 「はやぶさ2」は「はやぶさ」のように何かトラブルがたくさん起こって、それらが全部解決できればいいですが、解決できなかったら大変なので、トラブルが起こらないほうがいいかなと思います。「1999JU3」という小惑星は、お団子みたいな形ということしかわからず、表面がどうなっているか、実際こんな形をしているかどうかも行かないとわかりません。だから、ここに何か驚きがあるのではないかと思っています。ただ、ハードウェア的なトラブルで映画にはならないでほしいと思っています。
西浦: 吉川さんがおっしゃったとおり、ドラマがあると困ります。演出するわけにはいかないので、ただただ無事にミッション完了を見守っていきます。
名村: 「はやぶさ2」は、トラブルに対してのドラマチック性ではなく、いろいろと世界初のことが出てくると思いますので、成果そのものを十分盛り上げて、映画ではないにしても、JAXAとしてアピールする機会、皆さんによく知っていただける機会をつくっていきたいと思います。
吉川: 確かに「はやぶさ」のときは、皆さんから多くの反響があって大変でした。皆さんから興味を持っていただくことは、本当に嬉しいことですが、「はやぶさ2」は成果で皆さんの興味を持っていただくようにしたいと思います。
西浦: そうした意味で私どものホームページもさらにわかりやすく、そして見やすく、検索しやすく、エキサイティングな映像も充実するように改善していきたいと思います。

<「はやぶさ2」の打ち上げロケットについて>
参加者: 「はやぶさ2」の打ち上げは、2014年がだめなら2015年という話を聞いています。もし、2015年だとH-IIAの能力や軌道の関係でH-IIAでは厳しいのではないかという話を耳にしたことがあるのですが、どうなのでしょうか。
吉川: どこかで情報が間違って伝わっていると思います。メインのウインドは2014年で、2015年はバックアップウインドですが、そこもH-IIAでの打ち上げ予定です。

<「はやぶさ」と「こうのとり」のランデブー技術について>
参加者: 「はやぶさ」と「こうのとり」は、対象の目標に対してゆっくり接近していってアプローチするというところが似ていると思うのですが、共通点と相違点はありますか。
吉川: 「はやぶさ」「はやぶさ2」はアプローチするときに、1つはレーザー光線で距離を測りながら行くというのと、画像でターゲットマーカーをモニターして、水平方向のスピードを合せるという制御をして、表面に触る瞬間は垂直方向から触ってさっと逃げるということをしています。「はやぶさ」はそれが数メートルずれても関係ないのですが、HTVはずれてしまったらまずいですから、さらに精度よく制御されているのだと思います。
小鑓: 同じですね。レーザーを使った測器を使っています。光を当てて戻ってくるときの角度のずれだとか時間差だとかで制御します。それと国際宇宙ステーションに人がいて電波が送れるので、その電波も両方使っています。