JAXAタウンミーティング

「第83回JAXAタウンミーティング in 大阪万博とはやぶさ物語」(平成24年10月14日開催)
会場で出された意見について



第一部「大型無人輸送船『こうのとり』」 で出された意見



<往還機の開発について>
参加者: HTVが活躍していますが、HTVは100億ぐらいする非常に高価なもので、今お聞きしていたら有人宇宙も海や砂漠に落とすような形をしていますが、NASDA時代のHOPE計画のような往還機の開発は行わないのでしょうか。
小鑓: HOPEもスペースシャトルの小型のようなもので、有翼の往還機です。そうすると、どこかに着陸させなければいけませんので、着陸させるためのたくさんの機器などを積んでいかなければなりません。カプセルだとよけいなものがないので、降ろすのに非常に楽で、経済的、技術的に高くなく降ろすことができます。昔のアポロのカプセル形式なので、これだけでは夢がないので、2段式で、飛行機みたいなもので運んで、その上に乗せたものが宇宙に行って帰ってくる。そういう方式も検討されていますが、当面はカプセルタイプの研究が進んでいるところです。

<有人飛行の時期について>
参加者: 「こうのとり」で日本人を宇宙に送るのは、いつごろになりますか。
小鑓: 私が総理大臣になったら10年後ぐらいには送れるようにしたいですが、今の日本はお金が少なくてなかなか厳しいので、今、一生懸命頑張っています。あなたが大きくなったころにはできるように、頑張りますので一生懸命勉強してください。

<有人飛行の目的地について>
参加者: HTV-Rの話を1つ飛ばして、有人宇宙船化の希望をお話しいただきましたが、有人を飛ばすからには目的地が必要だと思います。現在ISSは2020年ごろまでは運用する話が出ていますが、ISSなき後は、日本独自の宇宙ステーションを想定するのか、あるいはアメリカが検討している火星や小惑星の深宇宙への有人探査に向けた日本独自の有人輸送を提供するのか、どういったことを想定しているのかお教えください。
小鑓: 現状は、ちょっと寂しいことを言うと、有人宇宙活動というのはまだ日本国政府ではすることを認められていなくて、研究段階でしかありませんが、2つあると思います。低軌道へ人を運ぶことと、探査ということで月や火星に人を運ぶという2つがあると思います。やはり大事なのは皆さんの税金でやっているということで、最終的に、これは私の昔からの夢ですが、誰もが宇宙に行くことができるような宇宙開発をしたいと思っています。そういう意味では低軌道というのは絶対なくならないと思っていますし、火星や月とか人間の根源的な知的興味もありますので、それも絶対なくならないと思っていて、2つの柱ではないかと思っています。
参加者: 個人的には、こっそり酸素ボンベを背負って種子島からHTVの与圧室に潜り込めないかと思っています。(笑)

<有人化のリスクについて>
参加者: 有人化の話はいい話だと思っていますが、それをするに当たって100%の安全性を保障するということはかなり難しいと思います。0.0何%の確率で事故が起こるかもしれないリスクがあります。このようなリスクがあっても、有人化をするメリットを語る活動や政治家に啓蒙したり、あるいは国民にも有人化にはリスクが伴うという覚悟をしてもらう活動をしているのでしょうか。
小鑓: 有人宇宙活動の本質を多分突かれているのだと思うのですけれども、日本はそういう議論を避けてきているところがありました。絶対安全なシステムというのはあり得ないので、しないことが一番安全です。今の宇宙ステーションやHTVは2フェイルセーフと言って、故障やクルーのミスオペレーションなども含めて2つ同時に起きても安全にしなさいという要求で行っています。でも3つの不具合、故障がどこかで起きた場合には、もしかすると人が死ぬかもしれません。そのリスクをとれるかというのは国民的議論をしなければいけないと思っていますが、そういう議論をするのは日本だけです。アメリカはもう送っていますし、ヨーロッパは今はお金がないので有人をやっていませんが、チャンスがあればやるのは当然だという言い方をします。今、行っている宇宙飛行士は、自分たちはリスクを覚悟して、そういうことをよく知った上で彼らは宇宙に出かけています。当然、遺書も書いていますので、彼らはそういう覚悟はしています。将来問題になるのは、我々一般の人間が宇宙に行ったときで、ものすごい安全性を確保しなければいけないですし、今の宇宙開発でも十分ではなくて、日々信頼を重ねていく、不断の努力をしていかなければいけないですし、そのリスクに対して日本国民が死に対して受け入れられるのか、そういう議論は真摯にやっていかなければいけないと思っています。
西浦: 国々によってリスクの受け止め方がだいぶ違います。欧米社会ですと、国のために危険や事故の可能性も承知の上で、それよりも、国のため、人類のために役に立てるということを大きな喜び、また誇りに思うわけです。ですから、ご家族もたいへん誇らしく思いますし、結果がどうあれ、そうした覚悟のもと、自己責任のもと、宇宙に行っているので、万が一のことがあったときに、国のせいだ責任だというようなバッシングにはなりません。むしろヒーローとして、マスコミも世論も、彼らを讃え、国民が一丸となって大統領以下、喪に服して、あらゆる礼拝や、メモリアル行事が盛大に行われて、全国民でお祈りを捧げるという感じです。それだけ、万全な技術が備わっているとも言えます。ですから、国民性やメディアのあり方も違うので、これから先、私たち日本国民の覚悟がどのようなものになっていくのか、みんなで考えていかなければいけないのかなと思っています。

<宇宙開発の国際協力について>
参加者: これから有人も含めて宇宙開発をしていこうと思えば、莫大な予算が必要ですが、今後予算を上げていくのは難しい状況にあると思います。その中で1つの手段としては国際協力で、特にインドは宇宙開発に最近力を入れていて、そういった国と協力して宇宙開発を行っていくことはお考えではないでしょうか。
小鑓: 当然、国際協力は大事だと思います。ただ、有人でも先ほどお話したように探査の話と低軌道の話があって、日本として独自に持たなければいけないコアな技術というものがあると思っています。低軌道に関しての人を送って帰す技術は、協力とかではなくて、日本独自で必ず持たなければいけない技術だと思っています。しかし、探査で月や火星に行きますとなると、これはとても一国ではお金が賄えませんし、それぞれの得意分野で国際協力をする必要があると思っていて、探査の世界では国際協力というのは非常に重要なことになるのではないかと思っています。

<有人宇宙開発予算額について>
参加者: 有人の宇宙開発をしていく上で、どれぐらいの予算があれば可能になるのでしょうか。
小鑓: いろんな試算のやり方はあると思いますが、私は数千億から1兆円ぐらいではないかと思っています。もっとかかると言う人がいますけれども、今の日本の技術力をもってすれば、それぐらいでできるのではないかと思います。お金ができたらできるように、少なくとも日本国民としてこういうことをやろうというビジョンだけはみなさんとつくりたいと思っています。今は非常に厳しい財政事情なのでなかなかできないかもしれませんが、国民の皆さんの支持さえあれば少しずつ、一歩ずつでも進めることができると思います。
参加者: ぜひ募金にも協力させていただこうかと思います。
西浦: ありがとうございます。心強いです。今、小鑓プロマネから数千億から1兆というお話がありましたが、全てもろもろ含めると、ということですから、有人ロケットを開発するだけだともう少し少ないお金でできると思います。皆様からのご寄付も、その一部になるかもしれません。どうぞよろしくお願いいたします。

<i-Ballについて>
参加者: 今回HTVでi-Ballが搭載されて、地球大気圏にリエントリーした後、どういう状態になっているかというものを測定されたということでしたが、段階を積んでいくというのは当然必要なことですが、「はやぶさ」のミッションで一度、試料のサンプルリターンをされているので、同じようなリエントリーのものを小さいものであっても搭載して、それで実際にできるかどうか、テスト的に何か地上までおろす予定はありますか。なぜ今回はされなかったのかお教えください。
小鑓: 今回i-Ballを積みましたが、HTVに積んで一緒に落とすので、破壊しても安全なところに落とさなければならないので、ニュージーランドの東方海上とチリの西海岸の間の南太平洋に落としています。そこまで拾いに行くのにお金がかかるので今回は回収していません。また、「はやぶさ」はカプセルで小さいので、耐熱材は、耐熱性があれば、多少重くても良いのですが、これが人を乗せるような大型のものになると、軽い耐熱タイルの技術開発が必要となります。また、日本近海に落とそうとすると落とせる領域を狭くしたいので、i-Ballなどでどういうふうに破壊されているかのデータをとって、いわゆる「落下分散域」と言っていますが、破片が落ちる分散域を狭めることができれば日本近海に落とすことができるので、そういう基礎データをとっています。

<宇宙エレベータについて>
参加者: 先日、テレビで民間企業が「宇宙エレベーター」に取り組んでいるというのを拝見したのですが、JAXAさんと関わりがあるのかお教えください。
西浦: 大変、関心は持っています。同時に大林組さんのプロジェクトチームの方々とも、私個人は交流があります。非常に素晴らしい夢のあるお話だと思っていて、気持ちは非常に応援しています。ただ、オフィシャルな開発協力事業のようなものはありません。大林組さんのほうでも、まだ設計図の段階のようです。ただ、技師長にお話を伺うと、着々と、ケーブルをはじめ、いろいろな新しい素材であるとか、基地はこういうふうに創るとか、準備は進めていらっしゃるようです。ただ、いつ実現するかという話になりますと、30年後ぐらいになるのではといった感触でした。私どもJAXAとしては、人を宇宙に運ぶ手段としては、ロケットを考えています。輸送機「こうのとり」の開発で、既に物資を国際宇宙ステーションに運べているわけですから、人が運ばれて安全に帰ってこられるような開発を、一所懸命に、集中してやっているところです。

<アボートシステムについて>
参加者: 有人ロケットの脱出装置の研究などは始まっているのでしょうか。人が宇宙に行くのが実現するのは、その開発の実現と同じころと考えていいのでしょうか。
小鑓: クルーの脱出するような装置につきましては、これもまだ検討段階です。こういうものが必要だから基本的なことをやっている段階で、まだ具体的に話ができているわけではありません。

<各国の宇宙開発の目的について>
参加者: いろいろな国々で宇宙開発をやっていますが、それぞれの国が違う目的を持ってやっているのか、それとも1つの目的に向かって、それぞれの国が競争をしながらやっているのかどうかお教えください。
小鑓: 非常に難しい質問で、いい質問だと思います。1つの国で、自分たちだけでやっているという、先ほど言いましたけれども、国でぜひやらなければいけないもの、持たなければいけない技術、先ほど言いました有人の技術ですとか、ロケットを打ち上げる技術。基本的なところを国で持たなければいけない。衛星をつくる技術もありますし、衛星を運用管制する技術は持たなければいけない。でも、一国ではできない、お互いの得意なところを持ち寄ってやるような、例えば、月や火星の探査などは、これらはお互い協力してやっています。あと、国際宇宙ステーションも15カ国が同じ目標でやっています。そういう意味で国際協力と独自路線というのは両輪だと思っています。

<国内への広報について>
参加者: 有人飛行をするには、予算的にもリスク的にも国民的な支持が必要だと思います。悲しい話ですが、日本は外国で支持されて初めて国内でも支持されるという傾向があると思います。JAXAが開発された技術で海外でも利用されているものが結構あると思うのです。例えばHTVは、スペースシャトルが引退した後に、ISSへ外部の設備を運べる唯一のものだと聞いていますし、ドラゴン宇宙船のドッキングシステムは、HTVのライセンスと聞きました。もしそれが事実であれば、海外で採用された事例をもっと国内に対しアナウンスし、宇宙開発に興味ない人にもアピールすることができると思いますが、どのようにお考えでしょうか。
小鑓: 通信機器、HTVが近づいていくときの近傍通信システム(PROX)は売れています。これはドラゴンではなくてシグナスというオービタル・サイエンス社がつくっている宇宙船です。そういう広報活動が下手と言われれば下手です。事あるごとにマスコミの方へお話していますが、マスコミの方はそういうことをなかなか書いてくれません。
西浦: 反省するところです。幅広にプレスリリースをしているのですけれども、なかなかキャッチしてくれる事柄とそうでない事柄とがあります。確かに日本全体として、海外から逆輸入的な形ですと注目していただけるというのが風習としてあるようで、それを克服するべく私ども一丸となって、より強固な広報体制を組んでいきたいと思っています。また、海外でも、日本ではどのような宇宙開発が行われているか、一般的には聞こえてこないと、よくご指摘を受けます。今もですが、特にこれからは、国内に限らず、いわゆる、ジャパンプレゼンスを定着させていく国際広報もしていかなくてはならない時代になりました。そうすることによって、世界にわが国が信頼に値する国だと見てもらえますし、真の相互理解と尊敬の念のもと、円滑な関係が構築できると思うのです。

<「こうのとり」の梱包について>
参加者: 私は、流通関係の仕事に就いて、海外から飛行機で送ったりトラックで送ったりするだけでも結構外がつぶれています。「こうのとり」で運ぶ実験器具、精密機器たくさんあると思うのですが、地球で使っている実験機器のレベルのもので宇宙に送れるのですか。また、「こうのとり」の内部構造もすごく機能的に、梱包もすごくきれいですが、内部構造のこだわりとか、ここはすごいんですみたいなことはありますでしょうか。
小鑓: なるべくたくさん荷物を積まなければいけないということで、あらゆるところに詰めるような努力をしています。それでトラックの荷台に直接積むのではなくて、引き出しみたいなところに入れて、クッション材を詰めて運んでいます。ロケットですと直接構造のところにくっつけていたので、結構打ち上げのときの振動、音、熱など結構厳しかったのですが、「こうのとり」はそういう梱包の仕方を工夫していて、普通のものであれば運べます。

<尖閣諸島購入募金との金額差について>
参加者: JAXAで募金活動を行っているとお伺いしています。一方で東京都も尖閣諸島の買い上げのときに、わずか数日で億単位のお金が集まったようですが、この違いは私も正直よくわかりませんが、本当はもう少し集まってもいいのではないかと思っていますが、いかがお考えでしょう。
名村: 皆さんの関心の高さと比例したのかもしれませんが、こういう場でもぜひ協力したいという意見をいただいています。我々もこういう活動をしていますとか、JAXAはこういうことがやりたいので、皆さん、力を貸してくださいとしっかりアピールしていくべきと思っています。
小鑓: 国民の民族意識に訴えているところがあって、宇宙開発も本当はそこもしなければいけないと思っています。今回話はできませんでしたが、有人宇宙開発も中国が成功させて、後ろを走っていると思っていた中国が私たちを追い越して、背中がだんだん見えにくくなってきているところまで先に行っています。その後、後ろから近づいてきているのはインドです。そのうちインドにも抜かれるかもしれません。日本として、本当にこんなことでいいの?と。今まで指導してきた中国に抜かれて、インドに抜かれて、宇宙開発はこれでいいの?と。そういうふうな訴え方もあるのかなと思っています。
西浦: 国民性でしょうけれど、日本人は奥ゆかしく、近隣諸国を競争相手とか敵とみなして煽るようにしむけて、だから頑張らねばというやり方は、どうも日本的ではありません。つい遠慮がちになってしまいます。中国は国をあげて一丸となって、宇宙関連予算も潤沢ですから、有人飛行も成し遂げています。羨ましいですね。そうした我が国の出遅れている部分は、決して技術の未熟さではないというところも、美しく、麗しい形で皆様にもっとアピールしていけたらいいなと思って、いろいろと考えているところです。