「第82回JAXAタウンミーティング in 輪島」(平成24年9月9日開催)
会場で出された意見について
第二部「安心・安全のための衛星通信~災害時の衛星通信~」で出された意見
<(1)災害時の衛星について、(2)宇宙からの資源探査について、(3)小型衛星の打ち上げ費用について>
参加者:(1)東日本大震災のときに、衛星で位置や姿などを確認して人命救助できないのかという疑問がありました。周回衛星では一周何分もかかるので情報が分からないという話がありましたが、なぜそれをわかるようにしておかなかったのでしょうか。静止衛星を打ち上げておけば、日本全国どこでも常にわかるはずです。そういうことはぜひしてほしいと思います。それが、単なるお金の問題なのか、どこがボトルネックになっているかお教えてください。
(2)資源の話ですが、宇宙からの目で海中や地中も見ることができるのでしょうか。海の中も宇宙から見渡すことができれば、漁業資源の確保や海の状態などを知るのに非常に役に立つのではないかと思っています。また、クジラ問題がよく言われていますが、クジラが何頭いるかを1頭ずつ数えられるくらいの精度があれば、動かぬ証拠になるのではないかと思います。漁業だけでなく農業でも非常に役に立つのではないかと思っています。
(3)小型衛星を1基打ち上げるといくらぐらいかかるのでしょうか。
辻畑:(1)今、軌道上に打上げられたアンテナで世界最大口径は22mです。今、我々としては世界最大の30m級アンテナの開発を手がけて、国民の安心・安全に貢献したいと考えています。大型展開アンテナは、世界でその技術を保有しているのはアメリカと我が国だけです。現時点ではアメリカが実績で先行していますが、潜在的な技術ポテンシャルとしてアメリカに負けない技術力を有していると考えています。30m級大型展開アンテナの技術が完成すれば、今、皆様が持っている携帯電話に衛星通信用のチップを追加することによりユ-ザは、通信の方式(地上回線使用するか衛星回線を使用するか)を状況に応じて自由に選択することができるようになります。例えば、災害時などは地上網が破壊されようと衛星を介して自分の安否の連絡や助けを求めることが可能となります。従来は、アンテナが小さいために被災者が大きな端末を持たなければいけなくなります。これは非常に非現実的な話で、国民の利便性に答えていないシステムとなります。今、国に開発を提案しているので、実現するかわからない状態ですが、我々としては、このようなシステムが実現すれば国民の皆様に安心・安全を提供できるものと信じております。過去の通信の宇宙技術を見ると、一般ユ-ザにとっては利便性に欠けることは否めないと思っています。しかし宇宙技術がやっと地上に追いついて、完全に地上の利便さの後姿を捉えられるぐらい、技術が上がってきています。もしこのようなシステムができあがれば、例えば被災者を探すときにアメリカのGPS信号を受信して自分の位置情報について衛星を介して連絡すれば、自分の位置がわかると思います。また、沖に流されても今の構想の衛星だとEEZ海域までカバ-していますので、何百km先という幅広い範囲まで全部見渡せますので、海の中にたとえいたとしても、自分の位置を正確に知らせることができます。
(2)資源の関係は余り詳しくないんですが、衛星の機能だけでなく、見たいものが何かによってセンサーがあるのですが、そのセンサーの感度も非常に重要な事項です。要するに識別してこういうものが見られますとか、例えば海洋の塩分濃度を見られますとか、そういったセンサー開発をあわせて行う必要があります。まだ今のところを見ておりますと、確かに低軌道関係は観測を行って所望の成果をあげています。静止だと常に観測できるメリットはありますが、距離が長過ぎて、必要な分解能が得られない場合が多々あります。まだそこまでセンサ技術が追いついていないところがあります。現在、地球観測関係は低軌道で行われており、衛星のメリットである広域性を活かして観測したデ-タを地上におろし、有用な結果を得ております。最近、打上げました「しずく」も有用なデ-タを地上におろしております。センサ技術については努力をしているところですが、全ての要求に対して100%技術的にはまだ到達できていないところもあるのも御理解いただきたいなと思っています。
寺田:(1)先ほど例えば衛星の数をたくさん打ち上げて、いつでもどこでも見られるようにするという案がありました。これはごもっともな意見ですが、災害が起こったときには衛星はできるだけたくさん欲しいですが、そうでないときにそれほどたくさん必要ではありません。そういうものを平時のときにもたくさんのお金をかけて、衛星を打ち上げて運営しておくかというところがあって、そこのバランスでいつもシステムを開発するときに悩むところになります。ですから、災害時でないときでもいろんな使い方というものをあわせて提案していかないといけないのかなというのが、宇宙サービスを提供する側のいつも悩みになっています。
(2)宇宙から何が見えるのかというところですが、話があったようにいろんなセンサーがあります。カメラに似たようなセンサーもあれば、電波を測るというセンサーもありますが、例えば「しずく」は海面の温度を測ることができます。海面の温度を測ると何がいいかというと、海の温度で「潮目」というものがあります。温度が高いところ、低いところ、潮溜まりの温度がわかると、どこにどういう魚がいるかというのが一目にわかるそうです。ですから、例えば20℃の海面水温があるところにはどういう魚がいて、そこに真っ直ぐ漁に行けばどういう魚が捕まるかというのはすぐわかるという、そんな使い方もあるようです。地底までわかるかというのはなかなか難しいですが、「合成開口レーダー」というもので鉱脈というか、これはもともと日本では資源探査衛星というものを開発したことがありまして、それでどこにどういう鉱脈があるかというのをある程度解明しました。それから、「Lバンド」という波長のセンサーを持っていますが、このセンサーはある程度木とか砂の表面ぐらいは通すことができて、地雷がどこに埋まっているかというのがわかったという使われ方もあります。ただ、さすがに地表面奥深くまではわからないので、宇宙から物を見るというところの限界かなと思います。
西浦:(2)農業、漁業という意味で、今、広報部長の寺田から説明がありましたように、漁業は昔のねじり鉢巻きの漁師さんというイメージではなくて、IT漁業です。ですから船に乗りながらコンピュータを目の前にそういった衛星通信の情報を駆使しながら、何℃だったらカツオの群れがあそこにたくさんいるぞとか、イワシがあそこにたくさんいるからすぐ行くとか、農業の方も「しずく」のような人工衛星が観測したデータによって、こちらは干ばつが起きそうだから、この食材はこちらで安く今のうちに確保しておこう、あるいは、観測データを使った形でお米やお茶を育てる、そしてれらの人工衛星からとった技術を使って育てた農作物には、「COSMODE」という認定マークをつけて販売されていたりとか、国民の食料確保にも寄与しています。
(3)あと一つ、これは辻畑さんにお答えいただくことになりますが、先だって「ASNARO」ができたので話を聞いたら、30~50億ぐらいかかったとのことです。いろいろなタイプがあると思うので、専門家から話をしていただきましょう。
辻畑:(3)小型衛星の値段というのは難しくて、単純に小型衛星だからと言うことで値段が決まるということではなくて、小型衛星がどういう機能、性能を持っているかによって値段が決まってきます。値段は確かに今30~50億円と言われましたが、大体10~50億円程度でしょうか。ただし、日本では小型衛星は小さいので、主衛星のあいた空間のところに入れて有効利用でよく打上げたりしています。もう少し大きくなると打上げ費とか色々なものがかかってきますので一気に値段はあがります。現状、いろいろ工夫してロケットの中にあいている空間があるので、今は、できるだけその空間に入るような安い衛星で、何とかコストもあがらないということでやっています。使うロケットの直径の大きさは大体4~5mで、衛星を打ち上げる主衛星と言っていますが、そこの形状が決まるとあいた空間が決まってきますので、自然にそこに潜り込ませることができます。
< プロジェクトへの応援メッセージについて>
参加者: 実は「あかつきくん」が軌道に乗るときに応援メッセージを出していて、そのときJAXAのホームページに載せていただいています。また、「こうのとり」のときも応援メッセージと「こうのとりさん」の絵を描いて送ってみたらホームページに載せていただいて、それを見て大人のくせに、とてもはしゃいだ記憶があります。「あかつきくん」のときは、空を見ながら子供と一緒に頑張れと手を振っていまして、ちょっと思い入れがありました。正直、たくさん送ってくるのでメッセージというのは、きっと読まずに捨てられるのだろうと自分の中では思っていたので、実際そうやって見てくれていて、とてもJAXAさんが身近に感じられました。それ以来、好きになってしまって、駆けつけているわけですが、これからもこうやってちょこちょこと楽しい思いをさせていただければ、とても光栄に思います。
寺田: 実は私はちょうど「あかつき」と「こうのとり」に挟まれて打ち上げられた「みちびき」という衛星のプロジェクトマネージャーをやっていまして、残念ながら「みちびき」にはメッセージを送っていただけなかったみたいですね(笑)。いろんな方からメッセージをいただきまして、すべてのメッセージを読ませていただき、そのメッセージに対して返信もしました。ですから、メッセージをいただければ、そのプロジェクトの関係者は本当に勇気づけられますので、ぜひまた次のプロジェクトでも皆さんからメッセージをいただければと思います。ありがとうございます。
西浦: 本当にこういったお声が、日々の苦労が報われるなと思う瞬間でございます。本当に嬉しいです。「あかつきくん」関係者にも伝えさせて頂きますね。ありがとうございます。