JAXAタウンミーティング

「第70回JAXAタウンミーティング in 別府」(平成23年12月17日開催)
会場で出された意見について



第二部「宇宙に出てはじめて分かる地球のこと~日本の太陽系探査・スペース天文学の挑戦~」で出された意見



<イトカワについて>
参加者: 「『はやぶさ』が向かった先が何でイトカワなんだろう」と思っていまして、手ごろで近くて何かわからないから調べに行こうということで正しいでしょうかというのが1点と、先生が本当のご専門の宇宙からの望遠鏡から見たときにはジャガイモの形だったけれども、近づいたらイボだったというのは、「はやぶさ」がとった画像でイボだったというのがわかったのか、先生が打ち上げた宇宙の天文台から観測して精度が上がったからイボだったとわかったのか、その2点を教えてください。
阪本: では、後者の方からお話をしたいと思います。イボだとわかったのは、「はやぶさ」が近寄っていったからです。なぜイモだと思っていたのかというと、これはより大きな天体というのはイモの形をしているからです。これまでに幾つもの探査機がかなり大きい、差渡しが数十kmあるような小惑星に行って写真を撮っていて、それがすべていわゆるイモの形をしていました。いびつな形で、しかも表面にクレーターがある。それの縮小コピーだと我々は思っていたわけです。ところが、実際に近寄って写真を撮ってみたら、そのでこぼこがひっくり返っていた。我々は大変驚いたわけです。いびつな形をしているというのは、事前にアメリカのチームがレーダーで電波を当てて、その反射を見ることによって発表していたので、形がピーナッツ型、おおむねいびつな形をしているというのは事前に知っていました。それから1点目の、なぜイトカワを選んだのかということですが、理由は幾つかあります。一番重要なポイントは、イトカワという天体が地球近傍小惑星と言われる地球の軌道に非常に接近してくる天体だからです。大部分の小惑星というのは火星軌道の外側、木星軌道の辺りまで含むいわゆるメインベルトというところに、およそ50万個が今、知られていますが、そこに行こうと思うと火星の軌道を更に超えるところまで探査機を送り込まなければなりません。これは非常に困難です。ところが、地球の軌道をクロスするような天体でしたら、我々が持っている今のロケットでも送り込むことができる。ですから、その地球近傍小惑星の中からピックアップしようというのがまず第一でした。もう一つはサイズが小さいことです。これまでに大きな天体というのは探査がされていましたが、けた違いに小さい。差渡しが500mしかないような天体というのは、それほど遠方の天体はそもそもうまく見えないんです。ですが、地球近傍小惑星の中にはそういう小さなものが含まれていましたので、その中から小さいものをピックアップした。 あとは打ち上げのタイミングに、そこに接近することができるかどうかという軌道の情報とか、余りに高速でスピンをしていると着陸をしようと思ったらぶつかってしまうので、スピンのレートが遅いことですとか、ありきたりのS型と言われる石ころでできた小惑星であることとか、そういう条件を課していったところ、イトカワを含む数個しか残りませんでした。そのうちの打ち上げのタイミングがドンピシャなものはイトカワしかなかったので、そこに行ったということです。

<(1)あかつきの状況について、(2)イカロスの今後の運用について>
参加者: (1)母校の大学の衛星が「あかつき」と一緒に打ち上げられてから興味を持つようになったんですが、「あかつき」が軌道修正されましたが、今後どういう状況なのかということと、(2)「イカロス」がたしか今年度までの運用だったと思いますが、来年からはどういう見通しなのか教えてください。
阪本: (1)金星探査機「あかつき」の状況ですが、2010年5月21日に打ち上げられて、半年がかりで金星に近寄っていき、昨年12月7日に逆噴射をして金星を周回する軌道に入る予定でしたが、打ち上げ後、半年経ったところで初めて1発勝負で強烈に噴くということを行いましたが、その半年の間に燃料を送り込む弁のところに塩のようなものが付いてしまい、それが十分送られなくなるという状況になり、そして燃焼の際の混合比、燃料と酸化剤の混合比が想定の範囲を超えてしまいました。非常に高い温度で燃焼して、現在我々が想像している内容で言いますと、恐らくメインエンジンが破損したのではないか。そのために当初予定していた推力の2~3割程度しか得られずに、金星の周回軌道に入れることができず通り過ぎてしまったわけです。その後どうなっているかと言いますと、金星のやや内側を回る軌道を回っています。内側を回っていますので、金星よりも早いスピードで太陽の周りを回っています。しばらくすると金星を周回遅れにさせることができるわけです。そのときに再投入すべく現在いろんな調整を行っています。メインエンジンは全く使えなくなっていますので、そこで使う予定だった酸化剤をすべて捨てて、まず探査機の重さを軽くしました。姿勢を制御するために持っている小さなエンジンのうちの4つを同時に噴射させることによって、そのメインエンジンでやるはずだった逆噴射というものを今後行っていくことにしています。現在の予定で言いますと、2015年に金星に再会合いたします。そこでもう一度チャレンジをして、そこで一発勝負で入れるというよりは、その後、適切なタイミングにチャレンジできるようにということで、恐らく2015年にはその準備を行います。図がありませんのでうまく説明ができませんが、とにかく私もその説明を工学関係のパートナーから聞いたときに、すごいなと思ったぐらいの極めて粘り強い運用をやろうとしています。そういう意味で「はやぶさ」と同じような不屈の挑戦をせざるを得ない状況になっておりますけれども、我々はまだあきらめていません。ぜひ投入したいと考えています。
(2)「イカロス」については非常に順調です。当初予定していたことを基本的にすべてやり終えつつあるというか、エクストラのことを今、一生懸命いろいろ考えて、せっかくの機会ですのでやれることを全部やろうということで、さらなる挑戦をしようとしているところです。運用自体についてはお金もかかることですので、それを今後どうしていくのかについてはJAXA内で更に検討していく予定になっています。

<かぐやについて>
参加者: 制御落下された「かぐや」ですが、制御落下に至った簡単な理由と、分離された衛星が今どうなっているのか、わかる範囲でお教えください。
阪本: 制御落下という言葉がありましたけれども、これはどういうものかというと、自然に落ちてしまいましたというのではなくて、ここに落としますというところをねらって落とすということです。「かぐや」は制御落下をすることによって我々が観測することのできる表面、先ほど私は下面と呼びましたが、そのねらったところに落ちました。閃光を観測することができたわけです。なぜ落としたのかということですが、月というのは重力的にいびつな天体でして、ほうっておくと軌道がどんどん形が変わっていくんです。長細い軌道に変わっていきます。長細い軌道に変わることによって、月に一番近いところのがどんどん月面に近づいていき、最終的には月面に接触してしまうことになるわけです。「かぐや」の場合にはそういうことがありますので、ときどき燃料を噴射することによって軌道を丸い軌道に保持していたわけですが、当然、積んでいる燃料には限りがありますので、それには限界があったということと、あとは完全に上空100kmのところで予定した観測をすることができましたので、そこから今後どうしていくのかという議論をして、最終的には軌道をどんどん下げていくことによってこれまでに見えなかった小さな構造を観測することができる、そういう道を選んでいったわけです。「かぐや」は当初予定では10か月の運用の計画でしたけれども、ロケット側で、要はH-IIAの軌道投入精度がパーフェクトでしたので衛星側の燃料が余っていて、その余った燃料をフルに活用することによって、当初予定を大幅に上回る1年半に及ぶ観測を継続することができました。最後も技術的な挑戦もやりたいと思っていましたので、我々が思っているところにきっちり落とすことができるのかというのをぜひ技術的に確認をしたい。そのためには表面に落とす必要があったということで、そこに制御して落としたわけです。

<他惑星への移住について>
参加者: 人類は将来火星とか地球以外の星に住むことはできるんでしょうか。
阪本: 「住む」というのがどういうレベルなのかによると思います。例えば現在、我々は宇宙ステーションを運用しています。これは住んでいるのとは違うと思います。宇宙飛行士は地球に住んでいて、そして宇宙に出張をしています。半年の長期出張をしているんです。そして地球に戻ってくると最初に温泉に入りたいとか、そういうことを言うわけです。ですから、我々はまだ宇宙に住んだことがありません。将来、月面基地あるいは火星基地というのは必ずできると思います。ですけれども、それはやはり私は出張の範囲なのではないか。要するにそこで何かやるべき仕事があるので、そこに仕事をしに行って、そして仕事が終わったときに現地解散はきついので、ちゃんと地球に戻って来られるという仕組みをつくっていくんだろうと思うんです。そういう意味では「住む」ということにはならないのではないかと思います。もう一つ、私自身非常に強調しておきたいのは、地球の環境が今、非常に危ういというか。人間がいろんなやり方で地球を壊してしまうのではないか。その際に全人類が滅亡する前にノアの箱舟でどこか別の星に移住する、要するに逃げるということができるのではないかとひょっとしたら皆さんはお考えなのかもしれないですね。それは非常に危険な考え方だと私は思っています。その理由は簡単で、火星は地球に比べて空気は1%しかありません。その95%は二酸化炭素で、極冠のところではドライアイスになっています。あの星は寒過ぎて空気が凍っている星なんです。月には空気すらありません。そういった死の世界を我々が永住することのできる星に変えていくというのは、非常に困難なことです。それをもし人間がやり切る力を持っているのであれば、我々が生まれ育ったこの星をより住みやすい星にとどめておくことができるはずです。それがもしできないのであれば、我々がもし気まぐれでどこか別の星に出て行ったとしても、それはごく短期間のことであって、将来的に汚れた星の数を2つあるいは3つと増やしていくに過ぎないのではないかと思うんです。ですから、ぜひ宇宙に挑戦していくのはいいと思いますが、宇宙に逃げるということは我々は決してしてはいけないし、それは恐らく意味がない。宇宙というのはそんなに甘いところではなくて、極めて厳しい。だから我々は挑戦をしているんです。むしろ、宇宙はそういうところだというのを全人類が共通認識を持って、そしてこの星を何とか力を合わせて守っていく。そういう、宇宙飛行士が宇宙ステーションにおいてやっているようなことを、ぜひ70億人いる我々宇宙船地球号の乗組員が肝に銘じて実施していくべきなのではないか。そして、そのことについてメッセージを出していくというのが、我々宇宙に携わっている人間の責務だと思っています。

<はやぶさ2について>
参加者: 新聞で「はやぶさ2」の予算が相当圧縮、削減されるという方向で動いていると掲載されていました。今このタイミングで予算圧縮されるということは、「はやぶさ2」も2014年の打ち上げタイミングに間に合わないということですから、イコール即計画中止と非常に危機的状況にあると感じています。「はやぶさ2」のために何かできることがあるか教えてください。
阪本: 「はやぶさ2」は非常に困難な状況というか、打ち上げのウィンドウは一番早いのが2014年7月でして、その後、幾つかのウィンドウが残されていて、2015年度打ち上げという可能性もまだ残っています。困難な状況ではあるんですけれども、その中で全員が下を向いてしまうのではなくて、上を向くというところに予算を苦しい中でも「気持ちの復興」みたいな予算、使い方をぜひ政府の方にもお願いをしたいと思っています。JAXAの外というか、そういったお立場でどのようなことをしていただくのがいいのか。これは本当にいろんなやり方があると思うんです。応援いただいたことによってJAXAが困るということはないとお考えいただきたいと思います。応援いただいたことでひいきの引き倒しみたいなことは起きないとお考えください。我々が幾ら中から「これは重要です」と御説明申し上げても、それは当事者ですので説得力というのはおのずと限りがあります。そんな中で、実際に税金を納めて、そしてこの国を支えてくださっている皆さんが、自分たちの言葉でこの事業の重要性、緊急性について訴えていただく。それは別に政府にお話をするだけではありません。予算が最終的に通るか通らないかはいろんな状況がありますので政府にお任せするにしても、その気持ちを共有するというのは非常に重要な、そして我々JAXAだけではやり切れないプロセスですので、ぜひ御協力いただきたいと思います。
寺田: 実際に「はやぶさ2」といいますか、その予算折衝もJAXAが文科省を経由して行っていて、そのときに後ろ支えというか、国民の声があるとないとでは予算を要求する迫力が全然違います。新聞記事があのような記事を書くこと自体が、むしろ新聞記者も応援してくれているわけです。その反応で皆さんがこれは大変だと思うことが、その新聞記者に伝わって、それで何とか支えなければいけないということなので、やはり皆さんの気持ち、表現の仕方はいろいろあると思いますが、支える気持ちを持っていただくことが、まさにプロジェクトを支えることになると思います。
西浦: 博物館が年間30億の維持予算がかかる。それの2.5倍、「はやぶさ」後続機の予算要求があるのは、随分大きな額ではないか、といった声がお役所から聞こえたりします。でも、我々としては、全く比べられるものではないではないというのが、当然の気持ちです。そういった面でも皆様の強い支持、そうしたお声が、例えば新聞社、テレビ局などに投書という形によって反映され、マスコミ全般で取り上げられて、後押しされれば、ひとつの世論というものができます。それだけでも本当に深い意義があると思っていますので、引き続き応援をよろしくお願いします。

<イトカワの試料について>
参加者: 「はやぶさ」が持ち帰った試料の中を見て、意外と私が中学校や高校で習ったようなものがあって、そんなに大したことないのではないかと思っってしまったんですが、意味がある発見があったのではないかと期待していますが、いかがだったのでしょう。
阪本: 我々が全く予想しなかった結果が出ています。物質自体は例えば新発見の元素があるかというと、それはありません。通常の物質です。ですが、これは明らかに宇宙から来たものなんです。しかも我々がこれまでに手にしたことのない焼け焦げていない生の、長期間宇宙空間にさらされた状態だったものが我々の手元に入ってきているわけです。今日まだいろんな準備がありますので画像はお見せできないし、私自身もまだ持たされていませんけれども、その表面に物質の情報だけではなくて、宇宙で経験してきた目に見えない砂粒の表面に、更に目に見えないさまざまな傷跡が見えています。これは全く我々想像していなかったことだったんです。詳細はまだお話できないですが、近日中に紹介されると思います。膨大な隕石試料を我々は持っていますけれども、顕微鏡で見ることができる隕石試料と、望遠鏡で見ることができる既に知られているだけで50万個の小惑星との対応関係というのが、これまではついていなかったんです。ところが、我々今回やったのは望遠鏡で見たことのあるあの小惑星の、あの部分から生の状態で持ち帰ってきたものが、手元にある膨大な数の隕石の火の通っていない部分のこれと同一であるという、ダイレクトなリンクをとることができたんです。これは砂粒の量の多寡ではないんです。これはロゼッタストーンです。ロゼッタストーンに書かれていた文字情報というのはそんなに多くない。ただ、あれの発見がなぜ重要だったかというと、あそこに同一の内容が4つの異なる文字と言語で書かれていて、しかもその1つは当時の人たちが読み解くことのできる言葉だったんです。読み解くことのできない暗号だった言葉でおびただしい歴史的な資料が存在していたわけです。それがあのロゼッタストーンのおかげで読み解けるようになってきた。それはですからロゼッタストーンに書いてあった情報が重要なのではなくて、それが辞書になったわけです。我々が今回成し遂げたことの非常に大きなことは、まさにそれなんです。その小さな目に見えない砂粒ですけれども、明らかに辞書になっていて、そして我々が手にすることができなかった小惑星の世界と、手元に豊富にある隕石の世界をあいまいな部分なく結び付けていったんです。これが非常に大きくて、そしてそれは世界中で非常に大きなことだとして取り上げていただいています。

<はやぶさ2のキャンペーンについて>
参加者: 「はやぶさ」がまだMUSES-Cのときに星の王子様に会いに行きませんかミリオンキャンペーンで、名前を応募させていただきました。「はやぶさ2」も同じようなキャンペーンをもう始められたらどうでしょうか。
阪本: それは我々の中でも少し議論していましたが、ものすごく危険です。集めてしまったものを、今後本当に打ち上げられるかどうかわからない。むしろそういったことよりは、まずはこのプロジェクトを走らせる。そこに力を注いで、その後で実際に打ち上げられるんだ、ターゲットはどこなんだということが明確になってから、それを行っても遅くはないのではないかと思います。今このプロジェクトの存続自体がかなり厳しいというか、予断を許さないような状況で、そういったところに注力をするというのが少なくとも私自身は踏み切れないでいます。ですが、とにかく通ったあかつきには、とにかくこのプロジェクトはみんなのプロジェクトですので、我々が科学者あるいはJAXAの人間が独占するということはありません。ですから、自分が参加しているという意識を非常に強く持っていただくためにも、何か皆さんに主体的に関わっていただくようなものを、必ずや実現したいと思っています。
西浦: 現在では、JAXAが主催して、何か仕掛けてしまうには早過ぎる段階です。皆様が、そのようなお声を、オピニオンを持って盛り上げていただくのは、大変ありがたいことだと思います。

<宇宙太陽光発電について>
参加者: 原発の問題が深刻で重大な問題として国民の課題となっていますが、宇宙に出たときの太陽光の強さを更に凝縮して地球に送り込む。それを更に新しいエネルギーに変えていけばどうだろうかと、素人の考えですが、いかがでしょうか。
阪本: これは宇宙太陽光発電の話だと思います。現在そういう構想のようなものがありまして、宇宙に大きな太陽発電衛星みたいなものを置いて、そこで発電して得られた電力をレーザーかマイクロ波で地上に伝送するという構想も検討されています。実際に机の上で行うだけではなくて、それが実施可能かという必要不可欠な要素技術がございますが、それについてJAXAは勿論ですけれども、大学も含めていろんな検討をしているところです。最終的にそれが経済的にペイをするかどうかというのは、今後の検討を待たなければいけませんので、現時点ではまずは技術的に可能なのかどうかということを我々JAXA宇宙研の方でも行っていますし、JAXAのさまざまな研究部門で検討を進めているところです。
高橋: 国の宇宙基本計画の中でも事業の大きな柱の1つとして、太陽発電の衛星を上げて地上に送るというのが挙げられています。日本だけではなくてNASAとかほかの国も一緒になってやっていますが、まだ研究の段階でして、ただ、原発の問題もありましたので、更に加速して進めていくということだとは思います。ただ、幾つかまだ技術的な難しいところがあって乗り越えなければいけない部分があり、まだ研究中となっています。

<はやぶさの成果について>
参加者: 「はやぶさ」の7年間で得られた成果と、当初の4年間ですべて計画どおりにいった場合の成果というのは、どちらの方がより高かったのでしょうか。
阪本: それはすべて計画どおりにいけば素晴らしかったと思います。もっと目に見える粒子が手に入った可能性があります。それが今回、我々開けた瞬間何も入っていないかと思ったんです。それこそ開けてびっくり玉手箱でみんな毛が抜けるのではないかと思っていたわけですが、それでも非常にラッキーなことにごくわずか含まれていました。予定どおりにいっていれば、もっとサンプルが手に入っていたので、もっと大勢の人たちが喜んでいたはずです。何事も当初予定どおりいった方が、いいに決まっていますが、予定延長になってよかった部分は、1つはイオンエンジンです。要は想定外のことというか、トラブルに対応する能力というものをまたしても身につけてしまいましたので、その部分は、けがの功名というか、トラブルの中で我々が新たに学んだことです。太陽光の光圧を使って姿勢を制御するとか、そんなことは当初予定では全くなかったわけですけれども、そういったことを行ったり、まさかイオンエンジンの中和器から生ガスを噴射して姿勢を制御することになろうとは思いませんでしたけれども、そういう想定外の事態に対応する能力というのを恐らく身につけた。あとはトラブルを発生させる部品を更に洗い出すことができたという、そういう工学的な成果が当初予定では得られなかった大きな成果だと思っています。
高橋: 文系的に言うと、かえって非常に得られるものが多かったんだろうと思います。順調にいっていない中で運用上、チームがいろいろ知恵を出し合って、とにかくやり遂げる。多分皆さんにもその辺りで非常に大きな感動を共感してもらえることができただろうし、あるいは映画が3本もつくられて、公開されているものもありますけれども、計画どおりいったら多分映画をつくろうなんて話は出てこなかったのではないでしょうか。そういうような形で、かえってよかったなと思うことがたくさんあります。そこに参加した運用などをやったチームだけではなくて、日本中、何て日本はすごいんだというふうに海外からも見てもらえるような、非常にいい成果が得られたと私は思っています。
西浦: 広報的にも、今まで宇宙に余り関心のなかった方々にも、注目していただくことができました。その結果、宇宙科学、宇宙開発といった我々の活動、研究に対して関心がより一層広まり、高まったということは、大きな成果だと思います。そして天皇陛下の昨年末の御会見でも御言葉を賜りましたとおり、はやぶさ帰還は多くの国民に感動と希望を与えた。皆が工夫を重ね、力を合わせて困難を乗り越えたということに、大きな感銘を受けたという内容でした。皇后陛下からは、御歌も賜り、そうしたことが、様々な境遇の国民にも勇気や希望、そして感動を共有できたことに繋がりました。

<電磁波について>
参加者: 先ほどの光のスペクタルの表を見て思ったんですが、光も見方を変えれば一種の電波で、エックス線や今、取りざたされているα線、γ線も電波の一種なんでしょうか。
阪本: 電波も光もエックス線も広い意味で言うと光の一種というか、電磁波と呼ばれるものです。ですから、電波、赤外線、可視光、紫外線、エックス線、γ線はすべて電磁波、光の仲間です。α線とかは粒子が飛んでいるものです。β線もそうで、電子が飛んでいるものです。