「第65回JAXAタウンミーティング in 甲府」(平成23年9月11日開催)
会場で出された意見について
第二部「国連宇宙部の宇宙活動-国際宇宙ステーションを越えて」で出された意見
<宇宙でのエネルギー開発について>
参加者:脱原発や自然エネルギーの開発などが、日本だけでなく世界中で課題となっていますが、宇宙でのエネルギー開発は何かありませんか。
土井:いろいろ行われていますが、代表的なものは、太陽電池パネルです。宇宙ステーションでは太陽エネルギーを太陽電池パネルで電気に変えて使用しています。今では家庭用に市販され、環境を壊さない自然エネルギーとして普及してきています。太陽電池パネルは、半導体に太陽の光を当てるとその中で電気が生じるという仕組みで、この半導体の性能は、昔は光エネルギーの5~10%ぐらいでしたが、効率が上がってきています。半導体は宇宙でつくると、太陽電池パネルの効率が上がり、安くできるのではないかということで、宇宙空間で半導体の結晶を作るという実験が行われて来ました。より高性能の半導体を作ろうという努力がますます行われていくと思います。将来的には宇宙軌道に大きな太陽発電ステーションをつくろうという計画も出てきています。地上では夜のために8~12時間ぐらい連続して太陽発電ができない時間がありますが、宇宙ではそういうことはありませんし、雨も降らない、曇りもないということで、非常に効率よく太陽エネルギーを電気に変換することができます。
<国連大学でのワークショップについて>
参加者:渋谷にも国連大学がありますが、そちらでワークショップなどを開かれることはあるんでしょうか。
土井:日本にも国連の機関があります。国連大学と呼ばれいて、人文科学系の研究をしている研究機関です。これまで私たち宇宙部と直接関係はありませんでしたが、そこを通してワークショップやセミナーをやることは可能だと思います。
<大気圏突入の様子について>
参加者:映画などを見ると帰還するときに大気圏に入るとガタガタ揺れたり、周りが炎に包まれたりしていますが、本当ですか。
土井:ひとつは本当で、ひとつは間違っています。秒速8kmという速度で大気圏に突入するので大気との摩擦が起こり、スペースシャトルの表面は鉄が溶けるぐらいの温度になります。外を見るとオレンジ色の高温の空気が流れているのがわかります。こちらは本当です。ところが、スペースシャトルでの帰還を2回経験しましたが、全く振動がありません。普通の飛行機に乗っているよりも振動がありませんでしたが、1度だけ振動があったときがあります。それは音速の壁(マッハ1)を越えたときに少しだけガタガタしただけでした。スペースシャトルというのはすばらしい宇宙船だなと思います。
参加者:僕も宇宙飛行士になりたいです。
土井:頑張ってね。
佐々木:是非日本でもガタガタしない宇宙船を開発して、宇宙飛行士になって乗っていただければなと思います。待っています。
<火星計画について>
参加者:かつてアポロ計画を目前に見て、非常にハッピーな時間を過ごしました。宇宙計画は子どもたちに夢を与えるものではないかと思っています。また火星計画についても同様に夢を与えるものだと思います。この火星計画は一国だけでできるものではないと考えており、国際宇宙ステーションのような国際的なプロジェクトになるのではないかと想像していますが、お考えをお聞かせください。
土井:アポロ計画による月面着陸でアームストロングが月の上を歩いて、そのとき地球上の9割ぐらいの人たちがそれを見て感動を覚えたのではないかと思います。そういう計画をこれからは私たちが創っていかなければいけないなと思っています。また子どもが夢を持つということに何が必要かというと、私は本物に触れることが必要だと思うんです。昆虫採集や魚釣りをして自然に触れ、生命の尊さを知り、そのような中で子どもは学んでいきます。私は、火薬を混ぜてロケット花火を実際に作ってみて、爆発したことがありました。そういうことをやりながら学んできました。それが大切なんだなと思います。火星に行くミッションとか、現在いろいろ考えられています。私自身はまず月に行って、恒久的な月基地をつくって、月を全部調べて、それから火星、小惑星に行くのかなと思っていますが、そういう夢を与えるミッションもこれからどんどん出てくると思います。
藤井:火星のミッションは必ずしもまだプロジェクトになっていないので、競争の中にありますと申し上げている段階です。火星のミッションがいつ実現するかはまだはっきりしていません。宇宙科学、探査の計画のほとんどは世界協力で動いています。その中で競争していく部分と協調していく部分を使い分けて行っていく必要があります。
<宇宙に行った際のイメージについて>
参加者:このシアターにいる方は誰も宇宙に行ったことがなく、宇宙を広いとか無重力とか漠然としたイメージしか持てません。土井さんは宇宙に行ったとき、どんなイメージを持ちましたか。
土井:宇宙に行って一番感動したのは地球を見たことです。今はハイビジョンなどで宇宙ステーションから見た地球というのを見る機会があると思うんでが、一番感動するのは昼間でも空が真っ暗で、丸い地平線を持った青く輝く地球が目の前に存在しており、その地球の存在感に一番感動を覚えました。次に不思議だなと思うのは無重力の世界で、地上ではなかなか体感できないですが、一番近い感覚はプールや海に潜ったときの感覚に近いです。でも、ずっと潜っていても息は苦しくならないし、水のような抵抗があったり、水が目に入って痛くなるようなこともありません。すごく気持ちいい感覚です。体中の筋肉がリラックスできる世界が宇宙に存在しています。是非行って体験してみてください。
藤井:地上ではポケットに物を入れるとそのまま入っていてくれるんですが、無重力だといつの間にか空間に出ているみたいな話を土井さんが以前してくれました。「転ぶ」とか「落とす」というのは地球に重力があるからこそ存在する言葉であるとか、宇宙ステーションでは「転ばないよ」というような話を向井さんから言われたことがあります。
土井:宇宙では壁に当たります。
藤井:宇宙では壁に当たるそうです。我々が当たり前に思っていることがそうではなくて、宇宙に行くとそういうちょっとしたことが分かります。皆さんに、「ああそうかな」と思っていただければいいかなと思います。
<(1)有人宇宙技術イニシアチブについて、(2)宇宙への新たな発見について>
参加者: (1)国連宇宙部が先導して全世界の参画は非常にいいプランだと思いますが、宇宙を利用するのも結構技術的に難しい点もあるかと思います。具体的にどんなことを、どんな枠組みで行うのか、お聞かせ下さい。(2)国連宇宙部に移られ、15か国だけではなく広く途上国を訪問して、途上国の人々や日本でも被災された方々に役に立ってもらえる宇宙の価値について新たな発見がありましたか。
土井: (1)宇宙ステーションの利用を世界に広げるという有人宇宙技術イニシアチブについては、今、調度、国連宇宙部が始めたところです。私たちは、現在、古川さんが行っている宇宙ステーションが飛んでいることを知っていますが、宇宙ステーションが飛んでいるということさえも知らない人たちが世界にはたくさんいます。まず、そういう発展途上国の人たちに宇宙ステーションというのが飛んでいて、それを利用できるんだという情報を世界に広めようとしています。これは宇宙ステーションを運用している15か国の協力を得て、宇宙ステーションの情報を世界に展開します。宇宙ステーションで最先端の科学技術研究をすると言っても、何もないところからすぐ最先端の研究ができるわけではありません。まずは地上で十分な研究ができる施設、人を養成するところから始めなければならないという難しさがあります。でも何も始めなければ始まらない。今、国連宇宙部では地上で宇宙実験の模擬実験ができるような機器を全世界に配布し、宇宙実験に興味を持ってもらい、十分な研究のできる人たちを養成することを考えています。同時に、有人宇宙実験とか微小重力実験というものを知らない人たちに学んでもらうためのテキストブックも作ろうと考えています。第1回目の国連有人宇宙技術イニシアチブ専門家会議を11月14日から18日にかけてマレーシアで開催しようとしています。宇宙ステーションを利用したいと考えている世界の皆さんに参加していただき、これからどうやって宇宙ステーションの利用を拡大していくか、議論したいと考えています。
(2)私自身25年間有人宇宙開発をやっていて、宇宙開発の最先端で働いてきたという自負があったのですが、国連に移って感じたのは、実際に有人宇宙開発というのは、まだまだ多くの国にとっては夢の夢の夢の先の話だということです。自分の国に地図がなく、リモートセンシングという技術を使って宇宙から地上、川の流れ、海岸線を調べる必要がある国がたくさんありますし、病院のない村もたくさんあり、人工衛星を利用して遠隔医療を提供する必要もあります。そういうことでは、有人宇宙技術の前に、人工衛星を利用した無人宇宙技術を世界に展開する必要があります。世界の国々が宇宙開発に参加してもらうためには、より良く宇宙を利用してもらわなければならないと強く感じました。同時に、有人宇宙宇宙技術は、世界がひとつになって宇宙に進出していくために世界が共有すべきものだとも感じています。
<国際社会への日本の貢献について>
参加者:予算や人員的に日本は世界に比べて大きいわけではないですが、国際社会においてこれから日本はどういう立場で貢献していけばいいのでしょうか。また、そのために私たちはどのようにしていけばいいのでしょうか。
土井:核心の質問が出てきました。確かに日本はNASAに比べると予算、人員は少ないですが、非常に高度な技術を持っています。また、やる気というか新しいプロジェクトを次々に行っています。そういう意味で日本が世界に貢献できるものというのはいっぱいあると思います。国連の活動を通して日本は望遠鏡を途上国に寄贈をしてきました。そのような活動自体も既に20年近く行われています。そういう意味で日本はすでに宇宙開発の分野で、国際的に非常に大きな貢献をしてきていると思います。新たな貢献としては、日本実験棟「きぼう」を持っていますので、そこでいろんな宇宙実験をして、新しい知見を獲得し、新しい技術を開発することができます。JAXAは「きぼう」の利用をアジアに展開していこうと考えていますが、これを全世界に展開できると、なお一層素晴らしい成果が得られるのではないかと思います。JAXAが国連の有人宇宙技術イニシアチブに是非積極的に参加していただければと思っています。日本の皆さん、特に若い皆さんは宇宙で世界のために何かしてやろうという強い気持ちを持って、既存のアイデアではなくて、自分の新しいアイデアを持って、世界と戦ってやろうと、そういう姿勢でこれから勉強したり運動したり、頑張っていって欲しいと思います。
<宇宙ステーションでの国際会議について>
参加者:宇宙活動が人類を幸せにしていくためには、私たち人類が率先してその活動に参加し、そのことについて考えていくべきだと思いました。例えば、その一環としてG7のような国際会議を宇宙ステーションの中で実行するというのは、いかがでしょうか。
土井:私は非常にいい提案だと思います。是非佐々木さんがJAXAに持ち帰って、日本政府に提案していただいて、宇宙ステーション、特に「きぼう」で国際会議を世界の平和のために地球を眺めながら、行って欲しいと思います。宇宙から地球を見ると国の境界とか何もありません。すばらしい惑星が1つ存在している。そういう場で国際会議を開きたいですね。どうもありがとうございます。