JAXAタウンミーティング

「第65回JAXAタウンミーティング in 甲府」(平成23年9月11日開催)
会場で出された意見について



第一部「宇宙を目指す、宇宙を探る-はやぶさの更なる先を目指す工学技術-」 で出された意見



<ASTRO-G(電波天文衛星)の今後の予定について>
参加者:ASTRO-G(電波天文衛星)のプロジェクトについてうかがいます。LUNAR-A(月探査機)のときのペネトレータ(槍型の装置ケース)の開発の反省点ということで、今回フライトモデル製作前にプロジェクトが中止されたという認識なんですけれども、このシステムはうまくいったと思われますか。それとも今回の事象を含めてまだプロジェクトの進め方の改善をされるのですか。
藤井:ASTRO-Gは、開発の途中で残念ながら断念しようとしているプロジェクトです。LUNAR-Aというのはしばらく前にM5ロケットの2号機として打ち上げを予定したプロジェクトで、残念ながら衛星制作までいっていたのに、打ち上げられなかったものです。相模原キャンパスにある展示ロケットは、それを打ち上げるためのロケットで、その意味で実物ですので、是非ご覧になっていただきたいと思います。ASTRO-Gはこのときの問題を十分踏まえた結果、大きな予算を使う前にプロジェクトの中止を決められたと思っています。一方で、そこまでも行く前にさらに早く止められたのではないかという疑問もあるでしょう。そこは非常に難しくて、科学では挑戦的であることが必要だけれども、そのことは当然リスクを伴うわけです。そのリスクを完全になくすことは難しく、それと挑戦的であることの秤はなかなか難しいんですが、ある段階でさらに慎重な議論があったらよかったというのは事実です。ですから、反省点はまだあるというのが先ほどの御質問に対する私の答えで、これから先の衛星開発に生かそうということで、今これらをまとめているところです。

<研究者の確保について>
参加者:「あかつき」の金星への投入が遅れると聞きました。そうすると特に理学系の研究者の方々を長期間キープするのにご苦労があると思うので、その辺をお聞かせください。
藤井:全くその通りというのがお答えです。例えば先ほどの「電波天文衛星ASTRO-G」ですが、残念ながら中止したとなると、電波天文分野は地上からの観測があるので、若い人たちは天文台などの地上からの観測機器利用に移ることができたりします。しかし、一般には衛星や探査機が中止になったりすると、ある衛星で博士論文を書こうとした人が、論文作成のネタ自体を失ってしまうわけです。その場合は海外の衛星のデータを使ったりして皆さん論文を書くわけですが、影響は大きいです。科学衛星が予定通りにいかなかった結果おこる当該分野の人の維持といったことは大変難しい問題です。

<こうのとりの可能性について>
参加者:「こうのとり」は世界からも注目されていると思います。片道なのが残念なのですが、物資を運ぶのに「こうのとり」は非常にいいと思います。
藤井:ありがとうございます。佐々木さんに任せたいと思いますが、その前に2つだけ申し上げます。1つは回収リエントリーを目指したHTV-RというものをJAXAは実現したいと考えていて、さらにその先人間を運ぶということを日本がやるかというのは大きなテーマです。ただ、人を運ぶには安全がとても重要になりますので、国の宇宙開発予算を例えば現在の10倍くらいにしないと難しいので、なかなか自分たちだけでは決められないことです。
土井:「こうのとり」は既に有人宇宙船の信頼性を持っています。というのは「こうのとり」自体、宇宙ステーションにドッキングするからです。宇宙ステーションは有人宇宙施設ですから、有人宇宙船の信頼性を持たない限りは、宇宙ステーションにドッキングはできません。そういう意味で既に日本は、有人宇宙船を作ったということです。では次に何をしないといけないかというと、打ち上げシステムが有人の信頼性を持つようにすることと、大気圏に突入して人が安全に地上に戻ってくる、そのシステムを付け加えるということです。
佐々木:スペースシャトルが引退して、ロシアのソユーズが唯一、宇宙ステーションに人間が行ったり帰ったりする手段なんです。そこに日本も無人飛行で参加して、そして宇宙飛行士を養成することによって得られた有人技術は、25年以上の実績があってたくさんのことを学びました。これを更に発展させて有人飛行を実現させたいという技術者、研究者はたくさんいます。ただ、国全体を見てどう判断するかという、様々な考え方があります。ぜひ皆さんからひと押ししていただけるとありがたいと、実施機関の広報担当としては思っています。

<イプシロンロケットの愛称公募について>
参加者:イプシロンロケットに興味があります。愛称やカラーリングを公募する予定はないでしょうか。
藤井:イプシロンロケットに衛星のような名前をつけるかという話ですね。イプシロン自体が名称であって、今そういう話は多分出ていないと思います。持ち帰って議論させてください。
佐々木:ありがとうございます。我々も是非、国民の皆さんに親しみを持っていただける宇宙活動をやりたいと思っています。持ち帰って、会議でこういった御意見が出ましたということを役員にも報告させていただきたいと思います。

<優秀な人材の確保について>
参加者:JAXAには様々なプロジェクトがあると思います。その中で、一番欲しいというか、乗り越えなければならない壁を教えていただきたいと思います。
藤井:大変難しい質問です。人員も予算もみんな欲しいですが、特に私たちがやっている宇宙科学では優秀な人材の確保が一番と言いたいところです。予算があっても優秀な人材がいなければ、挑戦的なことは実現できません。メーカーにお任せという姿では絶対にうまくいかないので、自ら手を動かすというのが私たち宇宙科学の進め方です。それは是非維持したい。そのためにはある一定の頻度で優秀な人、若い人たちが様々な新しいことを学べるようにできればというのが、一番の思いです。
佐々木:研究や開発、そして判断をする人。人材と言っても様々な人が要ると思いますが、やはり人が一番大事だと思います。宇宙に対して何らかの情熱を少しでも持ってくださる方がいれば、サポートしていただく。人が何かを起こすのではないかと思っています。

<来場者へのメッセージ>
参加者:今日、会場に来ている若い人達に是非こういう人になってほしい、どういう分野を学んでほしいというアドバイスをいただけたらと思います。
藤井:米国出張の際に古道具屋で見つけたパネルが私の部屋にかざってあります。そこには「Wish it, Dream it, Do it」と書かれているのですが、最後の「Do it」が大事で、思い描いたりするのに留まらず、手を動かすところまでやるということを普段から考えてほしいと思います。例えば自分が希望する学校や分野に行けないということがあるかもしれません。そういった場合でも、すぐに悪いと思わずに、発想の転換をしてみても良いかもしれません。前向きに考えていくことが、一番大事かなというのがメッセージです。
参加者:ありがとうございました。頑張っていきたいと思います。
藤井:宇宙科学にも是非参加してください。
佐々木:良い御意見をいただきましてありがとうございます。是非若い人も一緒にやりたいと思っていますので、扉をたたいてください。

<デブリ対策について>
参加者:今、地球の周りには使われなくなった衛星が、たくさん飛んでいると思います。そういうものがごみと言われる時代になったとき、どうしていくのでしょうか。
藤井:これも佐々木さんにお答えいただくのが適当かもしれませんが、現在、これから打ち上げる衛星は、きちんとその処理をどうするかということを予め考えることが義務づけられています。過去のものについては、軌道が低ければ地球に落ちてきますから、最後はほとんど燃え尽きてなくなる。ただ、そうでないものについては、スペースデブリという問題で、JAXAの中でも様々な努力をしています。
佐々木:確かに宇宙活動を50年以上世界でやっているので、使われなくなった衛星は宇宙にまだたくさんあります。そして残念ながら、宇宙で何らかの事情でばらばらに壊れてしまった破片というのもたくさん飛んでいます。これを回収するのはなかなか難しいところではあります。ですから、余りたくさんの破片に壊れないような宇宙機にする等、国際的な決めごとも考えています。日本もデブリをどうするかという問題を議論するチームのメンバーに入っていて、研究者、企業の皆さん、宇宙機関がそれぞれ参加して様々な議論が行われています。日本からの提言を国際コーディネーションチームにも上げて、まだ法律にはなっていませんが、協力していきましょうという動きになっているところです。
土井:国連で宇宙のごみ問題は非常に大きな問題として考えています。まず宇宙のごみがどのようにできるかということを考えると、一つは人工衛星が壊れたり、燃料が漏れ出して爆発したりしてできるようなもの。もう一つは人工衛星同士が衝突してごみになるという、大きく分けて二つあります。人工衛星が劣化してだんだん分解していくという場合は、人工衛星が壊れないように、使い終わったら燃料は全部捨てて、時間が経っても爆発しないようにする。そういう国際的ルール作りをしています。もう一つ、衛星をどんどん打ち上げると宇宙も狭くなって、衛星同士が衝突することがあります。実際にそういう例は既に何件かあります。ですから国連の取り組みとしては、打ち上げた人工衛星の軌道をしっかり報告してもらう。そして、アメリカの人工衛星を追跡するステーションと連絡を取り合って、衝突しそうになればその人工衛星の軌道を少し動かして、衝突する可能性を減らすという活動がますます大切になってきます。ただ、将来的には今のままだと人工衛星が増えていきますから、どんどん宇宙のごみは増えていきます。是非、今、若い皆さんが参加して、宇宙のごみを積極的に取り除くというシステムを開発していただければいいなと思います。
藤井:そういう技術研究はJAXAの中でも幾つかされています。