「第63回JAXAタウンミーティング in 福岡」(平成23年7月18日開催)
会場で出された意見について
第二部「『はやぶさ』がもたらしたもの-世界初の挑戦-」で出された意見
<宇宙空間を模した実機実験について>
参加者:「はやぶさ」を開発される上でさまざまな装置をつくられたと思いますが、その上でシミュレーション実験、実機実験という工程で行われたと思いますが、どのように宇宙空間を模して実機実験を行ったのですか。
久保田:宇宙機、人工衛星もそうですが、宇宙で使うためには宇宙環境で動かないといけません。ですから真空の試験や、ロケット打ち上げの衝撃振動、熱の対策という通常の試験はもちろん行いますが、小惑星に降りてサンプルを取るという試験はなかなかできません。特に重力が小さいところ、大体1万分の1とか10万分の1の重力を実現するのはなかなか難しいのです。当時は北海道、岐阜県に落下塔というものがありまして、4.5秒なり10秒間、小さい重力環境をつくることができます。名古屋の飛行機を使いますと約20秒間、100分の1Gぐらいできます。そういうところで弾丸を打って回収する試験や、タッチダウンする試験、ターゲットマーカーを落して跳ね返らないことの確認試験を行いました。小惑星はどんな形をしているかわかりませんので、学生さんと紙粘土でいっぱい模型をつくり、写真を撮って確実に着陸できるかという地上試験をしました。ご質問のように宇宙機、人工衛星、探査機がうまく動くには、いかに地上で試験をするかというのが非常に大切で、開発するよりも実は試験をしている時間が非常に長いのです。試験を通して課題を洗い出しました。
<(1)「はやぶさ」のカプセルの開封方法について、(2)ロケット打ち上げ見学について>
参加者:(1)「はやぶさ」のカプセルは、イトカワの真空のところで密閉されたと思います。中が真空のものを開けるのは非常に大変だと思うのですが、どのように開封したのですか。(2)ロケット打ち上げの瞬間を生でみたいと思っていますが、ニュースなど見て、今日打ち上げだったんだなと後になって気づくことが多いです。「はやぶさ2」など何年に発射しますよということは聞きますが、何月何日なのかというまではよく分かりません。ウェブの方で探しましたが、そのような情報はなかなか見つからないので、打ち上げの時期を教えてください。また、ロケットの発射を見に行くツアーを組んでいただくことを検討いただければと思います。
久保田:(1)私は「はやぶさ」カプセルの解析班に入っているわけではありませんので、聞いた範囲で話しますと、カプセルは蓋が開いたままの状態で打ち上げて、イトカワで入ってきたサンプルを取ったら蓋を閉めます。蓋を閉めるときには「シールド」といって、中のものが外にでないように、逆に外から空気が入らないように密閉するような形で完全にシールドをします。大気圏に突入すると、温度は若干上がることはわかっていたので、物質によっては気化する、いわゆる岩石が気体になる可能性もあることも考えて、その気体が外に漏れないようにシールドで密閉しています。地球に戻ってカプセルを開けたら最後は円筒形のものに入っているのですが、それを相模原の解析室に持って行き、まずはクリーンルーム、非常に空気のきれいなところで人は手だけが入るようなところで開けますが、開けるときにいきなり開けるのではなくて、徐々にきれいな空気を入れて開けたと聞いています。ですから、飛び散ったら取れなくなってしまいますから、そういうことがないようなやり方で工夫して、しかも人間が手でそのままやるというよりは、グローブをして外からやるような、手術のような形でやったように聞いています。非常に小さいものはロボットアームで精細な作業をして分析したと聞いています。それ以上は私も情報を得ていません。(2)「はやぶさ2」は今、開発を進めているところですけれども、打ち上げが2014年の夏、秋ということしか書いていないと思いますが、打ち上げる時期というのは期間が何日か、例えば1週間とか10日あって、そのいつにするかというのはまだ決まっていません。ロケットで打ち上げますので、打ち上げ場のいろいろな方との調整というのが必要で、すぐには決まりません。しかも一番いいときをねらって打ちたいというのもありますので、それはいろいろな条件で変わってきますので、打ち上げの直前にならないといつ打ち上げますというのが報告できないのは我々も残念なんですが、逆に帰って来る時間は決まっていますから、これは何月何日何時何分までわかります。打ち上げに関してはいろんな条件で決まりますので、前もっていつ打ち上げますというのは報告が難しいのです。わかった段階でお知らせするようにはしていますので、是非いろいろとニュースに着目していただければと思います。
舘:(2)ロケットの打ち上げ日ですが、大体1か月ぐらい前になりますと、宇宙開発委員会にいつ打ち上げますという報告をします。それで了承されますと、通常オープンになって新聞等に書かれていると思います。JAXAの衛星であればそれはいつ上げますというのを決めます。オープンになっていますのが、8月28日に情報収集衛星を打ち上げることになっています。JAXAの衛星ですと大体1か月くらい前には打ち上げを決定します。
続いてツアーについてですが、例えばこの前の「こうのとり2号」の打ち上げなんかを見ますと、非常に多くの人が行きます。多分、行くとなると種子島に行くのがまず大変になると思います。我々職員ですら大変な状況なので、多分民間のツアーがあるんだろうと思いますが、JAXAだけで何かツアーを組むということはできないと思います。まず宿がそんなにないので、やるなら野宿覚悟で行っていただくとか、そういうことも含めて考えていただければと思います。
西浦:(2)「こうのとり」の打ち上げのときは私も行きましたが、ちょっと飛行機に乗ってすっと行くというような条件ではなく、乗り継ぎなどで結構大変です。また、1か月前に打ち上げのスケジュールが確定しましても、現地に着いてから気象状況で翌日に延期になるとか、当初の日程どおりに入っても、そこで2~3日足止めということもあります。
<「はやぶさ」のサンプル採取方法について>
参加者:「はやぶさ」みたいなサンプル採取方法は、例えば彗星とか小さい惑星の衛星など、どんな小惑星にでも有効なのですか。
久保田:「はやぶさ」は、鳥のように近づいて行って瞬間的に取るというやり方をしたわけですが、これは小さい天体で特に有効な方法だと思います。大きい天体であれば着陸することもできると思いますが、「はやぶさ」の場合はもし着陸したとすると、そのときの衝撃で姿勢が傾くのです。ちょっと力を受けるだけで傾いていくので、小さい天体で着陸するのはかなり難しい技術です。もう一つ、小惑星は昼間に降ります。夜に降りると何も見えませんので昼間に降ります。そうすると真空のところで昼間に降りると小惑星の表面は非常に熱くなっています。大体イトカワの場合120℃ぐらいと思っていましたから、そうすると万一長時間着陸しているとすると、底面にあるカメラなどはみんな壊れてしまいます。ですから、タッチした瞬間にサンプルを取って戻ってくるというやり方が、ああいう小さい天体には有効だろうと、これはNASAの人もそう考えているみたいです。ただ、弾丸を打って取るのがいいのか、あるいはとりもち方式などいろんなアイデアも出ていました。それは天体によって違うかなと思います。岩石のようなものはああいう弾丸で砕くというやり方もあると思いますし、違う天体に行くと全然想像がいかないものや、例えば金属のようにかたかったらだめなわけです。そういう場合には違うやり方になるのでしょう。表面に落ちている石を拾うようなやり方になるのかもしれません。ですから天体によってはいろいろな方法があると思っていますが、少なくとも金属以外であれば何かしら取れるのではないかと考えた方法です。
<「ミネルバ」について>
参加者:小惑星の表面に降ろすローバーのぴょんぴょん跳ねるという、すごく面白い方法がありましたが、あれも小さい天体しかできない方法でしょうか。
久保田:よく聞いていただきました。実は私もミネルヴァというロボットを開発したメンバーの1人なのですが、小さい天体で例えば車輪で動くようなロボットというのは、実は車輪を少し動かしただけで浮いてしまいます。浮いてしまうと車輪を回しても姿勢が変わるだけで、前に進みません。逆にぴょんぴょん跳ぶやり方がいいかなということで、重力が小さい天体に有効です。どのぐらい有効かというと、大体100分の1以下の重力だとエネルギー的にもぴょんぴょん跳んだ方が有効です。月だとなかなか跳ぶのは難しいのですが、火星の衛星フォボス辺りになると、ああいうぴょんぴょん跳ぶやり方がいいですし、逆に車輪で動こうとすると難しいと思っています。ですから行く天体に応じてどんな方法で探査するか決まってきて、ここは惑星探査の醍醐味で、我々科学者が大変興味を持つところになります。
<衛星、探査機等のアンテナの形状について>
参加者:「はやぶさ」、「はやぶさ2」、「あかつき」でアンテナの形状がパラボラアンテナから平面のものに変わっているように思うんですが、あれは何か理由はあるのですか。
久保田:アンテナの形状は、そのときの技術でできるいいものを考えようというのが基本でありまして、あとはどういう姿勢で小惑星に近づいて地球と交信するかということと、もう一つはどのぐらいの通信速度で、どのぐらいのデータの量をやりとりするかということと、もう一つ言うと電力とかいろいろなことが関係してアンテナの形状、方法が変わってきます。「はやぶさ」の成果を得まして今度「はやぶさ2」ではちょっと違う天体に行きますし、方法も違うので若干変えていますし、「あかつき」のときは周回をする予定でおりましたので、そういうアンテナの形式をとっています。技術が進歩したので「あかつき」の更に改良という形のアンテナを「はやぶさ2」搭載を考えているところです。
<微弱な電波の受信方法について>
参加者:何年もかかって届くような遠くの小さな小惑星に、微弱な電波でよくコントロールできるものだなと思っています。小学生にわかるように微弱な電波でのコントロール方法を教えて下さい。
久保田:私もそう思います。特に地球より遠くなっていきますと電波が弱くなっていきます。こちらから指令といいますか、電波を割と広く出すのですが、それをキャッチした探査機が逆にまた信号を出してくるというやり方をしますと、3億kmとか莫大な距離を電波で出しています。長野県臼田にあるアンテナを使っているのですけれども、直径が非常に大きく64mのアンテナです。そういうアンテナを使うと、非常に遠いところでも電波を微弱でもしっかり受信できますが、これが雲ったり雪が降ると電波が弱くなっていきます。特に地球は自転していますから、日本から見えないときには、海外のアンテナを使ったりしています。アンテナが大きいので遠くの電波でも受信できるということを行っているのが「はやぶさ」で、深宇宙の遠い天体への探査のときには使います。ちなみにアメリカは70mのアンテナを持っています。是非もし長野県へ行く機会がありましたら臼田町に寄っていただくと、こんなアンテナがあったのだというぐらい巨大なアンテナを見ることができます。それであったからこそ受信ができたのです。
<小惑星を補足する精度について>
参加者:小惑星を捕捉する精度はどの程度ですか。
久保田:小惑星は、地上の望遠鏡で見ることができますが、光っている小さな点でしかありません。動いているものを観測すると軌道が分かりますが、かなりいい望遠鏡を使っても位置の誤差がだいたい100kmぐらいありますので、500mぐらいの小さな小惑星の位置を正確に求めるということはできません。ですから、電波を使って地上から「はやぶさ」を「イトカワ」に持って行こうとすると、それはできませんでした。そのためにカメラの画像を使って誘導するというやり方を新しくつくりました。今、何万というそういう星が既に見つかっています。「イトカワ」はアメリカのMITという大学の科学者が見つけた小惑星ですが、日本の探査機が向かうということで、ロケットの糸川博士の名前を付けさせていただいたという経緯があります。
<(1)スウィングバイについて、(2)国際宇宙ステーション(ISS)などの広報について>
参加者:(1)「はやぶさ」は、スウィングバイを行って「イトカワ」に到達したということですが、スウィングバイを使わないと到達できなかったのでしょうか。また、「イトカワ」からの帰りはスウィングバイを使っていませんが、行きとかえりの違いを具体的に教えてください。
(2)ISSだったりハッブル望遠鏡であったり、実際に人工衛星等が目視できるという状況にありますが、人工衛星を肉眼で見たことがある方はどれぐらいいらっしゃいますか。(半分ぐらい挙手)。見られることすらご存じない方もいるので、もう少しPRしていただければと思います。実際に目で見ながら、星じゃない1点だけが動いているのはISSだよと教えると、子どもも興味を持つんです。また、友達、両親にも見せると関心を示します。実際に自分の眼で見るというのは一番関心事としては期待できるのではなかろうかと思いますので、その辺のPRも行っていただきたいと思います。
久保田:(1)スウィングバイはよくご存じかと思いますが、地球とか月とか大きい天体の近くを通りますと、その天体の重力の力を受けます。その力を利用して探査機の動いている向きを変えたり、速度を大きくしたり小さくしたりすることができるのがスウィングバイ技術です。「はやぶさ」の場合は打ち上げ時期を決めて到達するのに一番燃料が少なく、時間も少なくする軌道を検討しました。「はやぶさ」は2003年5月に打ち上げましたが、そのときの軌道ではちょうど地球を一回りして戻ってきたときの重力を使うと、燃料が少なく済むという一番いい軌道があったので、それを使用しました。それを使わないと行けなかったかということではありませんが、燃料をかなり使ってしまうので、スイングバイをしたおかげで燃料の消費を抑えられました。帰りは遠くの天体で近くにいい星があったならば、それを使う手もありましたが、戻る軌道上にそういう天体がなかったということで使用しませんでした。実はトラブルがありまして、イオンエンジンの1つが最後推力が半分になってどうしようもなくて、お手上げ状態になったときに、クロス運転という言葉を聞いた方もいるかと思いますけれども、2つのエンジンの壊れていないところを組み合わせて地球に戻ってきました。それがうまくいったので戻れましたが、実はクロス運転をしなくても戻れる軌道がありました。もう一度地球の重力を使ってスウィングバイをすると、イオンエンジンの推力が半分でも戻ってくる軌道がありました。ただ、2年待たないといけなく、そのうちにイオンエンジンが壊れない確率というのは非常に小さいので、最終的にクロス運転を行いました。ですから、スウィングバイという自然の力を使ってやるというのは我々が探査を考える上で非常に重要な要素で、常にどこかいい天体はないか探している状況です。
舘:(2)大きなものは見えると思いますが、ISSを是非ご覧いただければと思います。ホームページでいつ来るというのが場所ごとにわかるようになっています。ですから、今日ここの辺を通るのかどうかというのを見ていただければ、見える見えないがわかると思います。結構早いスピードで見えます。都市部でも結構見えますので、是非ご覧いただければと思います。いろいろお知らせはしているつもりなんですが、なかなか皆さんにまで浸透しないというのは実態だと思いますので、もう少し工夫をさせていただきたいと思います。
参加者:先ほどの宇宙ステーションが見える話ですけれども、福岡からM-Vの発射が実は見えました。だから今度イプシロンなども見えると思います。油山の向こう側をずっと発射時間見ていると、インターネットよりも2秒ぐらい早くうまくいっているというのが実感できるので、3年後か4年後に期待して待っていたらいいと思います。
<国際宇宙ステーション(ISS)の動力について>
参加者:ISSはどのような動力で動いているのか。
舘:ボールを水平に投げるとどんどん遠くへ行きます。もし秒速8kmのものすごいスピードでボールを投げたら、地球を1周してきます。宇宙空間で、最初に初速度を与えると、そのままずっと回ります。ISSは現在そういう状態で、力を与えているわけではなく、ただ単に最初の初速で回っています。
<日本の衛星の解像度について>
参加者:原発事故のニュースを見ていますと、近づけないから空から見れば一番いいのではないかと思っていましたが、日本の発表よりも外国の写真が先に公表されて、日本の技術は何をやっているんだという残念な気持ちになりました。なぜ日本の解像度は低いのですか。
舘:「だいち」という衛星は地震の翌日から観測を始めました。残念ながら5月12日にダウンしてしまいましたが、これは被害状況を把握するのにはすごく役立ったと思います。そして、そのデータを政府の方にすぐ出しました。これまで世界各国で地震観測、洪水観測をやったおかげで、今回の震災では、逆に外国からたくさんの衛星データを提供いただきました。解像度の問題ですが、解像度を高めるだけであれば技術的に難しい問題ではありません。ただ、解像度を高めて何をするかが問題で、解像度を良くしたいなら、飛行機を飛ばした方がいいのではないかという議論になります。スパイ衛星は別として、衛星に解像度を求めるのか、衛星はもっと広範囲を見ることを求めるのかによって差別をしていかなければならないと思います。今回の大規模な災害であれば1つのデータでは無理なので、幾つもの衛星の写真をつなぎ合わせないとわからないという大規模な災害には、こういう衛星データでなければ使えなかったと思っています。こういう両面があるということで、解像度だけを高めるという話にはなりません。