JAXAタウンミーティング

「第54回JAXAタウンミーティング in 米子」(平成22年12月5日開催)
会場で出された意見について



第二部「『はやぶさ』がもたらしたもの-世界初の挑戦-」で出された意見



<ミネルバについて>
参加者: ミネルバに関して教えてください。
久保田: 「ミネルバ」ミッションでは、「はやぶさ」が小惑星表面に近づいたときに、小さいロボットを落して、ロボットに小惑星の表面をぴょんぴょん飛んでもらい、小惑星表面の微細な構造を観測しようということを考えました。重力が小さいため、NASAが行っている火星ローバのように、車輪で動くロボットはまず動かないと思っており、ユニークなロボットを学生のアイデアをとって、ぴょんぴょん動くロボット、「ミネルバ」を搭載しました。残念ながら「はやぶさ」自身いろいろなトラブルがあり、シーケンスを変えて地球からのコマンドで落しました。分離される前に「はやぶさ」が近づき過ぎてジェットを噴いてしまったため、落す速度が大きくなってしまいました。「ミネルバ」は、現在「イトカワ」と一緒に太陽を回る人工惑星になってしまいました。非常にかわいいロボットで、重さが約600g、カメラを3台搭載、モータも2つ入っており、通信もできるという日本の技術を結集したものです。「はやぶさ2(仮称)」という次のミッションがもしできたら、是非「ミネルバ」の後継機を載せたい、リベンジを図りたいと思います。

<イオンエンジンのトラブル回避策について >
参加者: エンジンが壊れてしまったとき、最初から壊れることを想定して、回路は考えていたことなのか、それとも壊れたという指令が来たときに、みなで考えたことなのか。最終的に化学エンジンとイオンエンジンをつないで還ってきたが、何日くらいかけて考えたのか教えてください。
久保田: いつ寿命が来るかを常に考え、イオンエンジンの運用を慎重に行ってきました。イオンエンジンはプラズマをつくってイオンを出すところと、出したものを中和する2つの機能を持っていて、どちらかが壊れたわけです。我々スタッフはこれでお手上げだと思ったのですが、担当の國中先生が、万が一のときに使う可能性もあると、クロス運転を行うことを開発中に考えていたそうです。開発担当者はトラブルがあっても何とかしたいということを常に考え、最悪の事態になったときにみんなで知恵を絞って、数日で行おうという結論を出しました。

<人工衛星の制御システムの仕組みについて>
参加者: 私は電子制御に所属しているため制御という点で聞きたいのですが、人工衛星の制御システムはどのような仕組みになっているのですか。
久保田: 目的のところに行くためには軌道があり、経路を計画し、その経路に沿って探査機が動くように制御します。制御するものには、いわゆるスラスターでジェットを噴くもの、姿勢を制御するものでホイールといって円盤を回して姿勢をある向きに向けるものがあります。また、そのためには自分が今どこにいて、どういう向きを向いているかを知るセンサも必要になります。それにはジャイロを使ったり太陽や星を見たりして自分の姿勢を見つけます。一番の問題は、自分が今どこを飛んでいるかを知るのが難しいのですが、1つは地球からの電波を使って往復の電波の遅延時間からおおよその位置がわかります。それが約数十kmとか数百kmの誤差になります。ただ、小さい天体に行くためにはそれだけではだめで、搭載されているカメラと距離センサを使って小惑星「イトカワ」に着陸させるということをします。それは、センシングする部分とアクチュエーションする部分から成り立っていて、それをコンピュータが制御します。そのコンピュータは今から15年前につくったもので、一般の方が持っているようなコンピュータではなく、1MIPS~10MIPSといった速度のコンピュータでもできるように、いろいろアイデアを工夫しています。
参加者: CPU自体は16ビットであったり、ビット数はどんなものを使っているのですか。
久保田: 画像を処理するのに時間がかかりましたので、「はやぶさ」では32ビットのリスクチップを使っています。その速度が20MIPSくらいです。処理をもっと速くすることもできますが、熱の問題があります。宇宙で高速なCPUが使えないのは、1つは熱の問題であまり速いコンピュータは使っていないというのが現状です。

<はやぶさを見失った時の対処について>
参加者: 通信が途絶えたときにイオンエンジンの担当者は、どのようなことをしていたのでしょうか。
久保田: 通信を絶ったのは2005年12月~2006年1月ですが、このときはイオンエンジンを使っていない時期でした。我々はとにかく「はやぶさ」を見つけなくてはいけないという、救出操作を行いました。イオンエンジングループは何をやっていたかというと、ときどき運用室に来て情報を仕入れていましたが、私の推測するところはとにかく見つかるのを信じて、見つかった後にどうやって地球に戻るかという計画を立てていたのだと思います。そのときに今までの履歴を調べてイオンエンジンが大丈夫かどうか、あるいはどのような運用をすればよいかを検討していたと推測します。

<断熱材について>
参加者: 筑波の宇宙センターに行ったとき、人工衛星や探査機に金色のフィルムがマジックテープか何かで付けてあったと思うのですが、どのような構造なのでしょうか
久保田: 金色のものは何かというと、多層断熱材(MLI)という断熱材です。宇宙空間では太陽が当たっていないと-170℃以下に冷えますし、太陽が当たると+100℃以上に熱くなります。そうすると探査機の中にある機器、例えばコンピュータは高温になると暴走しますし、低温では動かなくなります。そのため、宇宙空間を飛んでいるときに、外からの熱を守るため人工衛星や探査機は断熱材で非常に薄い膜が6層、7層となっています。ガーゼみたいなものが入っているものもありますが、非常に軽い上に薄くて外からの熱を中に入れない、あるいは中の熱を外に逃がさないものです。スキーウェア等に使われているゴアテックスに応用されています。

<太陽系外への航法について>
参加者: 宇宙戦艦ヤマトみたいな構造で太陽系の外に出て、もう一回地球に戻ってくることは可能でしょうか。
久保田: 太陽系の外に出るのは難しいかもしれませんが、例えば「イカロス」という膜を広げた実験をしています。その延長には木星より遠いところに行って帰ってくる構想があります。これは膜を広げて太陽の力を使うのと、電気推進を併用して使うことを考えており、いわゆる宇宙のヨットです。太陽から力を受けるので外にしか行けないかと思うかもしれませんが、ヨットと同じように内側にも行けます。現在、「イカロス」は、内側の天体、金星に向かっています。戦艦ではありませんが、ヨットのような技術で、遠くに行って戻ってくることも夢ではないと思っています。実際に木星に行くことは検討中です。

<微粒子について>
参加者: 見つかった微粒子のことでお尋ねします。これからいろいろな研究、調査が兵庫県のSPring-8で行われると聞いたのですが、粒を見ることによって約47億年前、太陽系ができたときの状況のいろいろな仮説の中で、どういう仮説の1つの証明になるのでしょうか。
久保田: 「はやぶさ」を始めた当初、一番知りたいことは、やはり太陽系ができたときの状態を知ることでした。そのため、小惑星という小さい天体に行って物質を見るのが確実なやり方であるそうです。当時のやり方でサンプルをとると、1g以上は取れるのではないかという実験データが出ました。宇宙ができたのは137億年と推定されて、そこからかなり経ってから太陽系ができたわけですが、どういう物質ができたかという分析、その成分がどう形成されているかという組成と鉱物のつくり方を見ると、いろいろな仮説の中からある程度絞れると聞いています。どういう物質があって、どういう形成をしていて、それがどのようになっているかを、この小さい粒から推定する作業を行っていると聞いています。そのため、SPring-8やX線分光計、質量分析などの分析装置を用いて、年代をもう少し正確に見つけたり、いろいろなやり方で、いろいろな研究者、研究機関と分析をしていくと思います。

<はやぶさ発見時について>
参加者: 行方不明になっていた「はやぶさ」は、結局どうやって見つけることができたのですか。また、見つけたときの場所は、想定内の場所だったのか、あるいはとてつもなく離れた場所だったのか。
久保田: 通信機器の周波数は温度に大きく影響し、太陽電池に太陽が当たらなくなると周波数が変わってしまいます。送信周波数も受信周波数も初期の設定から変わってしまうことがわかりました。周波数がわからないということで、送信と受信周波数をひたすら変えてコマンドを打ち、「生きていますか」という信号を送信する救出操作をずっと行っていました。あるとき担当者が信号を見つけました。このあたりではないかということで、周波数がわかるとその周波数に合わせてコマンドを送りつけ、信号がより明確になりました。スラスターを使っていないため、「イトカワ」の近くにいるというのはわかりました。どんな状態であるかを知るために、1ビット通信を行いました。信号さえきていれば1ビット通信ができますので、例えば「あなたの機器はオンになっていますか」という質問をすると、「YES」だと信号が高くなり、「NO」だと低くなるという、ハイ・アンド・ローのような形での通信ができ、何千というコマンドを送ると「はやぶさ」の状態がわかり復旧運用しました。

<ミネルバの太陽電池の寿命について>
参加者: ミネルバはぐるっと太陽電池を巻いていますが寿命はどれぐらいあるのでしょうか、もし将来的に奇跡的にキャッチしたときに、ミネルバが生きている確率を教えてください。
久保田: ミネルバは実験用につくったものでほとんどのものが民生品を使っています。ただ、エネルギーは必要なので太陽電池は宇宙仕様のものを使っています。かつ、今の状態はぐるぐる回って均等に温められている状態なため、結構寿命としては思ったよりも長くなっているのではないかと思います。どこかにぶつかることもないため、今も生きているのではないかと思います。通信距離は20kmなため、近づいて通信してもらうと、返事をしてくれるかもしれない、そういう状況です。

<REXJの実施計画について>
参加者: JAXAのプロジェクトでEVA支援ロボットの実証実験(REXJ)という実験があります。当初の予定では来年の終わりくらいに打ち上げ予定だったのが、再来年に延期になっていたような気がするのですが、何かありましたでしょうか。
久保田: REXJはISSでロボットの実験をすることで計画され、開発が進んでいるところだと思います。ペイロード実験という位置付けのため、打ち上げはある意味メインではなく、順番を待ちながら開発を進めているのだと思います。