JAXAタウンミーティング

「第54回JAXAタウンミーティング in 米子」(平成22年12月5日開催)
会場で出された意見について



第一部「H-IIBロケットとHTVが切り拓く宇宙開発の未来」で出された意見



<有人飛行の可能性について>
参加者: 有人飛行に対し、新型エンジンを研究中ということで、日本は、無人探査を優先すべきであるとか、有人飛行に乗り込むべきであるといろいろな意見がある中で、ロケットをつくる現場としては有人飛行の了解が出るのを待っている状況なのでしょうか。
遠藤: 今すぐという話ではありませんが、世界の宇宙機関が有人月探査、有人火星探査について議論しています。今は国際共同で国際宇宙ステーション(ISS)に取り組んでいて、日本の宇宙飛行士はスペースシャトルあるいはロシアのソユーズに乗って宇宙へ行っていますが、やはり日本の宇宙船で宇宙に行ってほしいと思いますし、日本は十分にその技術はあると思っています。ただ、それには資金が必要になるため、日本政府としての意思決定がされることが必要だと思います。私たち現場に携わる者としては、有人宇宙がどのくらい難しいか、どのくらいの期間でできるか、どのくらいのお金がかかるかという具体的なことを示しながら話をしていかないといけないと思います。

<ロケットの軍事利用について>
参加者: 日本では最初、東大の糸川先生がロケット実験を行いましたが、もともとロケットはドイツのフォン・ブラウンが戦争のために使用しました。日本は現在、軍事的には使わない考えですが、将来的にも可能ですか。
遠藤: ロケットの技術とミサイルの技術は非常に類似し、共通している部分が勿論あります。フォン・ブラウンにしても、もともとミサイルをつくりたかったわけではなく、本当は月旅行が目的でした。ロケットの技術は、微妙な技術であることはたしかですが、日本は軍事的に使うという意思はありませんし、今後ともロケット技術は平和的に使っていくことになると思います。

<宇宙開発の国際競争と国際協力について>
参加者: 国際協力と秘密の保持の関係です。リスクの回避の関係から見ると国際的にお互いの国が協力し技術開発を行うことは大事だと思いますが、税金を使っているわけなので、ある程度のラインまでは出すが、それ以上は国の秘密なので出さないというところがあると思います。中国や韓国は、日本の技術が欲しいと思うので、技術が盗まれないかという心配があります。そのあたりのライン引きはあるのでしょうか。
遠藤: 宇宙開発は、世界中で競争と協力を行っています。あるときは、どちらが先に行うかという側面がありますし、一国でできないことは協力しないといけないため、技術をお互いに隠すのではなく、一緒に行うことも勿論あります。何を出して何を出さないかは、日本の競争力を保持することが重要なため、ケース・バイ・ケースで行っています。特にロケット技術は非常に微妙なところがあり、そう簡単には外国も出しませんし、日本も出しません。分野によってケース・バイ・ケースで協力した方がよいものについては協力し、競争をすることもあります。

<ISSに滞在する宇宙飛行士の決め方について>
参加者: H-IIBロケットの話がありました。ISSに日本の「きぼう」も付いているわけですが、ISSの中にいろいろな国の宇宙飛行士、もちろん日本人の宇宙飛行士もたくさんいる中で、「きぼう」の名前まで付けている日本の実験棟があるISSになぜ日本人は常駐できないのですか。
舘: ISSはNASA(アメリカ航空宇宙局)、ロシア、ESA(欧州宇宙機関)、カナダと共同で行っています。日本の持ち分は12.8%になります。その持ち分に従い、日本の宇宙飛行士はだいたい1年から1年半に1回は宇宙へ行きます。6人の宇宙飛行士ですから、だいたい1年から1年半くらいに1人は行ける割合です。
参加者: 現在は実験をされていないということですか。
舘: 実験を行っています。日本人宇宙飛行士だけが行うわけではなく、各国の宇宙飛行士が行っています。たまたま日本人の宇宙飛行士がいないというだけです。

<火星への移住計画について>
参加者: 火星の基地が空想で出ていましたが、ある方の講演を聞いたとき、火星で人間が移住する計画で、苔を研究していることを10年くらい前に聞いたことがあるのですが、現在、その研究は進んでいるのでしょうか。
久保田: 火星は地球に割と似ていますが、空気が少なく、二酸化炭素が地球の空気で言うと100分の1しかありません。人間が住むためにはやはり酸素が必要で、水が必要となると、植物を育てるのが非常に重要です。いろいろな植物が研究される中で、苔も研究されていると聞いたことがあります。いろいろな植物を研究し火星に植えて環境を変え、人間が住みやすいようにするという、壮大な計画の下に研究を行っている人もいます。

<ビジネスへの技術活用の可能性について>
参加者: 宇宙に通信衛星などいろいろな衛星を上げ、我々の生活に活用しようということが全地球で行われています。そういう中で日本は、衛星を宇宙に持っていく成功率も、非常に成功率も高いです。ビジネスとしての技術活用で国際競争力的に非常に高いものがあるのではないかと思いますが、どうでしょうか。
遠藤: 産業ビジネスとしてロケットの打ち上げを大きくしていこう、国際マーケットの水準に価格を下げていくという意図は、開発の当初からありました。現在、H-IIAロケットの打ち上げ費用が100億円弱です。いわゆる商業打ち上げサービスという中では、いいところまできています。従来、日本は漁業者との協定で1年間のうち190日間しか打てないので、ビジネスにするには厳しかったのですが、今年、年間を通じて打ち上げができるようになりました。残念ながら今、円高でどんどん価格競争力は落ちてきていますが、もう少し長い目で見ていくと、ビジネスとしても成長する余地はあると思います。

<日本のロケット打ち上げ技術の割合について>
参加者: 日本のロケット打ち上げの技術の割合は97%と出ていましたが、ほとんど100%という理解でよいのでしょうか。
遠藤: 97%は国産化率のことで、国産化率を出すときは金額で割合を出していていますが、材料としてはアルミ合金の大きい素材や日本でつくると需要が少ないため高くなるような素材は、アメリカやヨーロッパから買ったりしています。ただ、それは技術がないため買っているわけではなく、効率が悪いため買っています。技術的にできないものはないようにしています。

<スペースデブリについて>
参加者: どんどんロケットが宇宙に打ち上げられると、我々の環境にとって有害なもの、宇宙ごみが増えていく心配はないのでしょうか。
遠藤: デブリは現在、大問題になっていて、発生を防止するための基準つくりをアメリカ、ヨーロッパ、日本を含めて行っています。人工衛星の打ち上げでも用途が終了したら廃棄処分したり、実用中の衛星がいる軌道には長く置かないことを始めています。これ以上広がるとごみがごみをつくる事態になるため、皆で協力していこうというのが現実になっています。
参加者: ロシアで生じたごみは、まだたくさんあるのですか。
遠藤: あります。軌道の低いデブリは何十年かすると徐々に大気中に落ちてなくなりますが、ある程度高い軌道だとほぼ無限に飛び続けます。中国が3年程前に人工衛星の破壊実験を行いました。その際に発生したデブリは、かなり低い軌道をたくさん回っています。中国は、国際的に非難され、同様なことを行わないことが国際的に要請されています。
舘: だいたい10cm以上の大きさのデブリは、アメリカで常に観測しており、その数は13,000~18,000個です。数としては少ないと思います。ただ、1cm以上になるとちょうど米子市の人口くらいあるのではと思います。特にISSだと1cm以下であれば、ぶつかっても貫通しない防護システムをつくっていますが、一番怖いのは、スピードが秒速8kmという猛スピードで回っている関係で、当たると致命傷になるというところがあります。スペースデブリはさほど多くはないと思いますが、当たったときは怖いというのが1番のポイントだと思います。最近H-IIBロケットもそうですが、地球近傍を周回するものは、地球に落して燃え尽きさせることを行います。また、25年くらいで地上に燃え尽きさせ、デブリをつくらないことで進めていますし、なるべくごみを出さないような設計にする動きもあります。

<リブースト機能について>
参加者: 宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)ですが、いろいろなことができて国際的にも評価されていると思います。逆にHTVでできないことで調べてみたら勿論有人飛行などがあるのですが、デブリから逃げたりISSの軌道を上げたりするリブースト機能があります。これは「こうのとり」で今後対応する予定があるのでしょうか。それとも後継機的なもので対応するのでしょうか。
遠藤: リブースト機能は、ロシアのプログレス、ヨーロッパのATVがドッキングするときに行っています。役割分担として、日本は12.8%の役割を果たすのにHTVを提供していますが、その中にリブーストは入っていません。もともとそういう役割はほかの2か国が行うことにしているため、日本の「こうのとり」は自分の姿勢を変えたり、近づいたり離れたりするための燃料は持っていますが、ISSの高度を上げたりするために使うものは、もともと持っていません。ただ、これはほかに役割を分担しているため、特段問題はありません。

<ロケット開発による研究開発の進歩について>
参加者: ISSの中で行われていることについてお聞きします。ロケット開発に伴い新素材がたくさん開発されたことは、多少、私も知っていますが、無重力間の中で新しい素材がどのくらい開発されてきたのでしょうか。30数年前に月に着陸したころ、あるところで無重力下でどのような化学反応がおこるかという意見を出せと言われたことがあり、それから35年以上経ってどのくらい進歩したのか、実際にどんな新素材ができたのか教えてください。
舘: 素材というよりは今いろいろ実験している中で、タンパク質の研究が「きぼう」の中では一番進んでいるのではないかと思います。その1つとして、筋ジストロフィーなどの病気に使えるようなタンパク質の実験を現在行っていますし、あるいは、インフルエンザを予防する研究として、無重力でものすごくよい結晶ができることを利用した実験を行っていると聞いています。臨床実験まで持っていくとなると結構時間がかかると思いますが、実験としては進められていると聞いています。素材という意味では、どんな素材ができたかは詳しくありませんが、例えばチリの落盤事故で閉じ込められた人に、宇宙開発で使われた下着等を外務省を通じてチリ政府に提供しました。なぜかというと非常に抗菌性が高く、においも出ないため長期間着ることができるからです。宇宙で開発した素材がすぐに役に立つかどうかはわかりませんが、いろいろな技術がこれから民間に転用していくのではないかと思います。