JAXAタウンミーティング

「第52回JAXAタウンミーティング in 高知工科大学」(平成22年11月7日開催)
会場で出された意見について



第二部「はやぶさ小惑星探査機のイオンエンジン」で出された意見



<イオンエンジンのトラブル回避策について>
参加者: イオンエンジンの中和器とイオン源をクロスして使う回路をあらかじめ設置していたのは、そのようなトラブルを予想していたのですか。
國中: 予測していました。いざという時のために、いろいろな方法やバックアップ手段を考えて、「はやぶさ」のイオンエンジンには、予め仕込んであります。重くなるのではないかという指摘ですが、そこは工夫次第です。いかに重くならずに、また、乗せる場所をいかに増やさないで、冗長性を増やすかがエンジニアの手腕の見せどころです。この回路を取り付けるために要した重さは、たぶん1gから5g程度と思います。

<(1) 日本の有人飛行の可能性について (2) 現在の世界の宇宙開発の状況について>
参加者: (1)日本の宇宙開発技術はすごく優れていると認識を新たにしましたが、今後、国産ロケットで有人飛行は可能になるのでしょうか。
(2)アポロの頃は、随分世界の宇宙開発の進歩のペースが速かったと思いますが、現在の世界の宇宙開発の状況はどうでしょう。
舘: (1)日本の有人ロケットの話ですが、これは技術的な形で言うとH-IIBロケットと、HTV(宇宙ステーション補給機)というISS(国際宇宙ステーション)に物資を運ぶ補給機がありますが、これらをうまく使うことによって人を将来的には送って帰還させることができるのではないかと思います。また、ロケットもこれらの仕様に合わせるような形での開発ができないわけではないと思いますが、そのためには経費もかかりますし、それ以上にリスクが必ず伴うため、このリスクを国民の皆さんが許容するかという問題も入ってくると思います。できるからと言ってすぐやるべきかというとなかなか難しいと思います。
本間: (2)世界をどう見るかは結構個人に依存するため、私の個人的な感想ですが、アポロ時代と今と何が変わっているかというと2つ変わっているものがあり、一番顕著なのは宇宙開発をする国が非常に増えてきています。自前の人工衛星を例えばアジアで言うと日本、韓国、中国、インド、タイ、マレーシア、台湾、オーストラリアが保有しています。要するに宇宙開発を行う国の数が非常に増えてきており、量的には非常に広がってきています。もう一つの特徴は、現在、アポロのような非常に大きなプロジェクトがだんだんやりにくくなってきています。おそらく、今はISSがアポロに匹敵する大きな計画ですが、その先、どうなるかはよくわからないところがあります。今後は、1個の巨大プロジェクトを皆で行うことは、そう簡単には出なく、それぞれの国が自分の得意なことをどんどんやっていく、例えば日本の場合は、「はやぶさ」の後継機を行ったり、日本でしか行えない地球環境の観測を行う、ヨーロッパはヨーロッパで違うアプローチをとっていくことになるかと思います。技術的な進歩は停滞していないと思います。
國中: (2)単に技術論だけでは宇宙開発は語れないところがあり、アポロの時代はご存じのように東西冷戦の時代でした。アメリカと旧ソ連が対峙し、その環境の中でアメリカ側のアポロがあったと思います。現在は冷戦時代ではないわけで、例えばISSは多くの国が参加しています。これはある意味、世界が互いに相手を知って、協調し合うための試験でもあります。そういう機会を通して他国の人達の活動を知り、互いに認めあって共同体をつくっていくという、1つのテストシミュレーションでもあるかと思います。宇宙という場を題材に国際協調は進んでいるという言い方もできると思います。単純に月に行きました、月から石を持って帰ってきましたという科学もしくは技術の尺度から見たときの成果だけではなく、人類全体が新境地を得るための別の尺度で見たときに、かなり進歩しているのではないかと思います。

<地上との通信のタイムラグについて>
参加者: 今回の「はやぶさ」の件にしても故障が起きた場合、コントロールするための手段として信号を送るためには今のところ電波ですが、その故障を復帰させたり回路を分岐させたりする場合のタイムラグはどういう感じなのでしょうか。
國中: タイムラグに関しては、「はやぶさ」の場合、着陸/離陸したことを紹介しましたが、これらを行ったのは2005年のことです。そのとき、「はやぶさ」は太陽の反対側にいました。光の速さは電波と一緒です。地球と太陽の距離を1天文単位と言います。この1天文単位を光及び電波が走る速さで、8分かかります。そのため、地球からコマンドを打って1天文単位のところまで電波が届き、更に太陽の向こう側にいる探査機に届くまでには2天文単位かかります。受信したという答えが返ってくるのには折り返して更に2天文単位を電波が届かなくてはなりません。つまり電波は合計4天文単位を走ることになります。1天文単位に8分かかりますから単純に32分後にしか答えが返ってこないということです。このような状況では、リモートコントロールで着陸させることはできません。離陸の指令を出したときは既にぶつかっているかもしれないからです。そのため、結果として着陸/離陸は自動運転で行っています。コンピュータにすべての機能を搭載し、自分で判断して着陸し、離陸するといったシステムを組んでミッションを行っています。

<イオンエンジンについて>
参加者: 「はやぶさ」の運用が当初の予定よりも3年延長したと聞きましたが、イオンエンジンのもともとの設計上の運用年数としては何年くらいを予想していたのですか。また、今後イオンエンジンをほかの衛星・探査機等に組み込む予定はあるのですか。
國中: イオンエンジンは運用寿命と言っても、運転していないときは壊れるとは思っていないため、3年間延長したときでも、我々が2007年に帰ってきたときに考えていた4万時間で往復探査、往復航行を行っていました。結果として、4万時間の宇宙作動を行いました。今後の予定ですが、まだ予算が確定していないのですが、JAXAとしては「はやぶさ」をベースに「はやぶさ2(仮称)」のプログラムを走り出そうとしています。「はやぶさ2(仮称)」においてもマイクロ波放電式イオンエンジンの改良型を投入すべく準備しています。ただ、「はやぶさ」を打ち上げたのは2003年で「はやぶさ2(仮称)」を打ち上げようとしているのは2014年です。11年も差があります。逆に言うと11年に1回しかチャンスがありません。この状況では、技術を維持すること、更には改良して洗練させていくことはかなわない状況です。そのため、JAXAの中だけにとらわれず積極的に海外に出て行って、このエンジンが利用できる環境を探そうと思っています。

<(1) 人類移住プロジェクトについて (2) 人工衛星の名前の決定について>
参加者: (1) 先日ニュースでNASAが火星に移住するプロジェクトを考えていると聞きました。JAXAとしては人類を別の星に移住させるプロジェクトはあるのでしょうか。
(2)「みちびき」、「はやぶさ」といった人工衛星の名前は誰が決めているのでしょうか。
舘: (1)人類の移住プロジェクトはさすがにJAXAとして今、取り組んではいません。将来的には行わなければならない時代も来るのかもしれませんが、現在のところ予定はありません。
國中: (1)人類移住計画は、具体的な方向性にはまだなっていません。ISSで世界が協調した活動の予行演習を行っており、例えば将来的、最終的には火星に人間を送ると思います。アメリカはアポロをつくっていた時代から火星に移住することを標榜して月に行きました。月も最終ゴールではなく、火星に向かうための1つの道筋です。今やアメリカも決して経済的には豊かではなく、一国で事業が成し得るわけではないため、多分、国際的な協調の下でしか人間を火星に送ることはできないと思います。前の案では再度月に人類を送り、月に行くことで技術を蓄積し火星に向かおうと考えていましたが、月は重力がある天体です。そのため月にゆっくりと降りて、また上昇して地球に帰ってくるのは、実はエネルギー的に大変難しいです。我々は「はやぶさ」で小惑星に行ったわけですが、新しい別のルートとして、小惑星に人間を送る、小惑星に人間を送ることによって技術を蓄積していく、火星に向かうための技術を習得することを考えています。なぜ小惑星かというと、小惑星は重力が小さいです。そのため、小惑星に着陸する、もしく小惑星から離陸するのに必要なエネルギーはあまり要りません。既に日本は小惑星に行ったことがあり、帰ってきたこともあるわけで、日本は大きな知見をアメリカよりも先んじて持っていると言えます。この方法がもし採用されるのであれば、我々は大きな発言権を持ったことになります。ただ、火星に行くことが決定されたわけではありません。
本間: (2)「みちびき」は愛称を一般公募しました。これは11,111名からいろいろな愛称を応募してもらい、一番数が多い名前を選びました。
國中: (2)「はやぶさ」は、JAXAに統合する前の宇宙科学研究所時代に打ち上げており、内部で公募していくつかの候補の中から決めました。

<(1) スペースデブリについて (2) 宇宙へ行った生物が地球へ帰ってきた後の変化について>
参加者: (1)イオンエンジンのことをテレビで見てすごいと思いましたが、スペースデブリという形で使われなくなった人工衛星が新しい人工衛星に当たる確率はないのでしょうか。
(2)オタマジャクシやサクラの種子などを宇宙に飛ばして、持って帰ってきた場合、地上にある同じものとどう違うのでしょうか。
國中: (1)スペースデブリの問題は実際に深刻な問題になってきています。約1年前、ロシアの人工衛星とイリジウムという携帯電話の人工衛星が実際に衝突しました。そのため、人工衛星が長い間宇宙にごみとして滞在することに対する準備をしなければならないことが世界的なルールとして準備されつつあります。具体的には、設計するときに軌道寿命を25年にし、25年後には大気圏に突入して消えてなくなるような軌道を作為的に選ぶようにしています。
本間: (1)どれくらいの確率でスペースデブリに当たって人工衛星が壊れるかという問題ですが、私の記憶だと10,000分の1、1,000分の1くらいの確率です。人工衛星は機械なため、例えば10年寿命の人工衛星を設計するときに、10年後にどのくらいの確率で生き延びるかという計算します。これは設計の標準があって8割、つまり、10年使用の人工衛星は10年後に8割の確率で生き延びるように設計を行うのが現在の技術水準です。逆に2割の故障はやむを得ないのが現状です。これらのことから考えるとスペースデブリで人工衛星が壊れる確率は、今日現在は非常に相対的に小さいです。ただ、小さいうちに手を打っておかないと将来、その確率がねずみ算式に増えるのが恐ろしいため対策をとっています。
舘: (2)サクラの種やオタマジャクシの話ですが、サクラの種は、宇宙に行ったからどう違うのかはなかなか難しいと思います。例えば放射線をどれだけ浴びたか、あるいは無重力関係でどうだったかは、サクラの種で証明できるかはわからないと思います。オタマジャクシもその他の生物も、生物は宇宙で育っていく過程では何かあるかもしれませんが、地上に戻ったあと変化があるかは、今のところあまり聞いたことはありません。

<(1) イカロスの進行について (2) 「みちびき」の精度について>
参加者: (1)「イカロス」は太陽風を受けて飛んでいくため地球から太陽方向には無理と思っていたのですが、金星に向けて飛んでいくということで、サイエンスの解説ではこれはヨットのような感じで飛んでいくとありました。ヨットであればドラッグを防ぐためのキールのようなものが必要だし、逆にヘリコプターのオートローテーションのような効果で金星へ行くとしたら、太陽に引っ張られる重力が必要だと思いますがいかがでしょうか。
(2)準天頂衛星「みちびき」は、精度が1m以内になるとのことでしたが、サイエンスの解説では、電波が地球に入ってくるときに屈折して入ってくることで誤差を生み出すと書いてありました。「みちびき」はどうやって精度を1m以内にしたのですか。1つ考えられることは日本の真上上空を1万kmくらいで飛ぶということなので、ほぼ直角に入ってきて屈折が少ない、あるいはないととらえて測定しているのでしょうか。
國中: (1)「イカロス」がなぜ金星かというと、H-IIAロケットで金星に向かって打ち上げたからです。主のペイロード衛星は「あかつき」という金星探査機だったため目的地は金星でした。イカロスの目的は深宇宙に出ることです。たまたま金星行きのロケットに乗ったため金星に向かったということです。また、「イカロス」は太陽風ではなく、太陽光を受けその力を利用して進んでいます。凧のようとの解説があるかもしれませんが、内向きにも行けます。例えばヨットで言うところのキールに当たるものは、宇宙では公転速度と思ってください。太陽の周りを回っているためもともと公転速度を持っています。地球の場合、秒速30kmで太陽の周りを回っており、この秒速30kmの速度を早くするか遅くするかで、内側に行ったり外側に行ったりすることができます。そのため太陽の光のドラッグを公転速度が速くなる向きに向けるか、遅くなる向きに向けるか、この2つを選択することによって内側にも外側にも両方選択して移動することができます。
本間: (2)「みちびき」は9月11日に打ち上げ、10月末に測位信号を出しました。1か月間くらいはいろいろなチェックが必要で時間がかかったのですが、先週「みちびき」を使って測位ができるようになったことを確認しました。GPSのみだと平均10mの誤差が「みちびき」を使うと1mになるのは2つの技術を使っています。「みちびき」は、ほとんど日本の真上にあります。GPSで自分の位置決めをするのは、地上で行う三角測量と同じです。衛星とGPSの1個と2個があって、そこからの距離を測って自分がどこにいるかわかる、衛星が近づくと距離が正確にわかっても位置は誤差が出ます。真上にあるということは、真上にある準天頂とGPSとの組み合わせを行うと、三角測量をするときの基準になる線が長くとれ正確さが1つ増します。ただこれは一部分で、1mまで精度を上げるのは実は衛星だけの情報では無理です。「みちびき」とGPSを組み合わせ、日本全国で2千数百点ある国土地理院が決めている電子基準点を用います。この電子基準点が「みちびき」とGPSを組み合わせた位置決めをするときにどのくらいずれているのかを日本全体で誤差をとります。例えば電子基準点で正しい位置がわかっているが、衛星からの信号で自分の位置を計算すると、東側に7mずれているというのがわかるとします。そうすると、東側に現在の衛星からの信号を使って位置を決めると、東側に7mずれて位置が出てしまうことを「みちびき」を通してそれぞれのユーザーに送ります。つまり「みちびき」は一種の放送衛星のようなところがあって、自分が信号を出すと同時に地上で受けた誤差の一種の補正情報を伝え精度を上げます。測位衛星の誤差は、電離層を通るときの電波の遅れが一番大きいのはおっしゃるとおりですが、その誤差をゼロにすることはできないため、結果としてどれくらいの誤差がどの方向に出ているのかを瞬時で計測し、補正をかけて1mまで精度を上げるやり方を行っています。
参加者: 「みちびき」は、日本だけのGPS精度を利用するのでしょうか。
本間: 「みちびき」で精度がわかるのは、日本国内あるいはアメリカ、ヨーロッパなどの文明国は電子基準があるためGPSを使いますが、電子基準点がない地域は今のままだと精度が上がりません。そのため「みちびき」の実験計画の中に、電子基準点がない例えば東南アジアでもかなりの精度で自分の位置を確定できるような実験を「みちびき」を使って行います。測位衛星はカーナビでわかるとおり動きますが、電子基準点は動きません。動かない地点を衛星にいろいろな信号をくわえると精度がどんどん上がっていきます。その精度を上げる方法は、電波の依相情報を使います。一旦、電子基準点を衛星を使って設定すると、あとは電子基準点が今日現在ない地域でも精度を上げることができます。近々アジアを中心に実験を展開します。

<イカロスの名称について>
参加者: 小型ソーラー電力セイル実証機「イカロス」とありますが、「イカロス」を広辞苑でひくと「ギリシア神話上の名工ダイダロスの子。父の発明した翼で空中を飛んだが、高く飛び過ぎ、太陽の熱で翼の蝋が溶け海に落ちて死んだという」とありますが、なぜそんな縁起の悪い名前をつけたのですか。
國中: 「イカロス」は、ある単語の頭文字をとってつくったものです。正確には「Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun」です。大気中の翼を用いた飛翔に果敢に挑戦したイカロスのように、宇宙空間における太陽輻射圧を用いた航行プロジェクトに対し、イカロスチームは大変熱意を持って活動しています。