JAXAタウンミーティング

「第52回JAXAタウンミーティング in 高知工科大学」(平成22年11月7日開催)
会場で出された意見について



第一部「地球を見る、世界をつなぐ-人工衛星のはたらき-」 で出された意見



<人工衛星で観測した場所の誤差について>
参加者: 人工衛星で観測した場所において誤差がうまれるとのことですが、その誤差はどの過程でうまれ、どの程度の誤差があるのですか。
高知工科大学: 例えば陸域観測技術衛星の「だいち(ALOS)」だと2.5mおきにデータがありますが、2.5mと2.5mの間はよくわかりません。また、位置を特定するために星の位置を測っていますが、その星の位置を測る分解能も精度は決まっているため、精度によってどうしても誤差はうまれてしまいます。あとはその誤差をどう補正するかですが、我々は地上で観測し補正しています。

<地球温暖化の影響について>
参加者: よく地球温暖化についてテレビなどで二酸化炭素濃度が増えているとの報道が多いと思いますが、別の意見では酸素濃度が非常に減っていることでいろいろなウイルスも繁殖し、病気が起きたりすることがあると聞いたことがあります。実際にそういったデータの研究があるのでしょうか。
本間: 二酸化炭素も含め一般的に温室効果ガスという言い方をします。温室効果ガスはいろいろな種類がありますが、今わかっているのは地球の空気の中にあるいろいろな気体の中で、二酸化炭素が温室効果ガスとして6割の影響を及ぼし、次にメタンが2割、残りの2割はいろいろなガスが少しずつ寄与しています。二酸化炭素とメタンを観測すれば温室効果ガスの8割は観測できます。温室効果ガス観測技術衛星の「いぶき」は、実はメタンも観測しており、「いぶき」で温室効果ガスの約8割はわかってきます。また、酸素濃度は、おそらく変わっていないと思います。しかし、温暖化に伴っていろいろな伝染病が少しずつ広がっている例があります。一番特徴的なのは、マラリアです。マラリアはご存じのとおり蚊が人を刺して、その蚊が生き延びることができるにはある程度暖かくなければなりません。地球全体のマラリアの蚊が住んでいるエリアがどんどん広がっているらしく、それがちょうど各地域の温度上昇と非常によく一致しているようです。そういう意味で温暖化が進むと、今までの地域になかった新しい感染病が出てくる恐れがあるため、かなり深刻な問題になっているようです。これは、WHO(世界保健機関)が中心になって温暖化の影響が人間の健康にどのような影響を及ぼすかの研究を精力的に行っています。

<人工衛星の活用について>
参加者: 私は大豊町の京柱峠付近で地滑り防止工事などに携わっています。あの辺りの地滑りは不確定で表面から航空写真などを撮っても見えないのですが、人工衛星でわかるようにはできないのでしょうか。
高知工科大学: 私自身、人工衛星を専門とする前は地滑りをずっと研究していました。京柱は、非常に緩やかで緩慢です。我々は、人工衛星は地滑りに対して期待しているわけではなく、地上からレーザー観測したり、地上で写真測量を行うことで対応しています。あくまでも人工衛星を使った災害検出は、地震や大雨で大規模に崩れることを想定しています。

<地球温暖化と太陽の熱量の関係について>
参加者: 地球温暖化といえばおおかた二酸化炭素が増量しているとなっていますが、昔と比べて太陽の熱量等が増大していることはありませんか。
本間: 太陽はご存じのとおり、11年周期で盛んになったりおとなしくなったりします。太陽の発生するエネルギーは正確に測られており、今の温暖化では説明できないくらいの小さな量であることがはっきりしています。勿論、太陽から熱が出れば地球は暖かくなりますが、その量は今、観測されている変化と比べると非常に少なく影響が小さいです。

<人工衛星から観測できる地球の状況について>
参加者: 高知県で問題になっているシカの食害や耕作放棄地、山が荒れている部分も人工衛星からわかるのでしょうか。
高知工科大学:食害は林や森の中の現象であり、人工衛星がとらえられるのは森の上の状況なため、食害の被害が深刻になり人工衛星がとらえたときには、既に遅い状況なため難しいと思います。一方、耕作放棄地に関してはかなり可能性が高いと思っており、水田として利用されていたところが現在利用されなくなってくると、土地被覆の変化がわかります。灌水して水をため穂が出てという一連の変化のパターンに対し、放置されているとずっと草が生えている状態が続くので、時間分解能を上げて観測することができれば可能になると思います。「だいち」は44日ごとにしかデータがとれないので難しいと思いますが、次期衛星のGCOM-Cであれば3日おきにデータがとれるので、可能性は高いと思っています。

<人工衛星の軍事への利用について>
参加者: 中国の四川の地震なども観測できたと言っていましたが、その当時、中国は情報を隠していたと思いますが、軍事機密などについても観測はできるのですか。
本間: 大規模な災害が発生したときは、世界の宇宙機関がボランタリーとして緊急観測をして、災害発生国に送る仕組みがあります。「だいち」による観測データはこの仕組みの元で中国の防災機関に送りました。中国からは感謝状が贈られてきました。「だいち」は軍事機密を観測できません。なお、人工衛星から地球を見るときの一般的な話ですが、人工衛星から撮影し、これは何であるかを特定するには、現地に人がいて、水田とか、枯れた木をまず調べておき、それを人工衛星で見ると例えば水田ならばこういう色に見える、木が枯れるとこういう色に見えるということで、1対1の対応表をつくります。これは地球全体でつくる必要はなく、代表的なところでつくっておきます。そうすると例えば中国の四川省で大きな地震が起こったとき、地崩れはどう見えるかは別のデータがあるため、そのデータで見えたものを使い分析しました。

<陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」の後継機について>
参加者: 今日の話を聞いていて「ALOS」はすごい、災害監視はすごいと理解が深まったのですが、「ALOS」 は2005年度に打ち上げられており耐用年数も過ぎているのではと思います。今、止まると災害監視ができなくなる気がしますが、次の計画はあるのでしょうか。
本間: 次の計画は「ALOS-2」と「ALOS-3」があります。「ALOS-2」は、今の計画では2013年度に、その2年後に「ALOS-3」を打ち上げる計画です。ただ、これは100%国の資金で開発しているため、予算がどうなるのかによってかなり影響を受けます。

<北極の氷と地球温暖化の関係について>
参加者: 北極の氷の面積には気候的な影響があると思いますが、最小値を更新したからといって、一概に温暖化の影響と断定できるのでしょうか。
本間: 実際に温暖化で北極圏の気温が上がっているのはわかっています。断定しているかはわかりませんが、気温が上がった結果、氷がどのくらい減っているかは人工衛星でわかります。また、別のデータを使うと北極の氷の厚さもわかり、以前より薄くなっているのがわかっています。そのため、氷の全体の体積が上から見る面積と同時に厚さも減ってきているため、氷がどんどん減ってきているのはやはり温暖化の影響からだと思います。ただ、この状況を喜んでいる人も結構います。例えばヨーロッパとアジアを結ぶ際、現在はスエズ運河を通っています。飛行機の経路を見てわかるとおり、ヨーロッパに行くときは北極経路で行きますが、もし夏に北極の氷がなくなると、夏の間はスエズ運河を通らず最短距離でアジアに船で運べます。これは特にロシア人が歓迎しており、人間の経済活動から見たらプラスとマイナスがあります。
また、気象情報を専門にしているウェザーニュースとJAXAで共同研究を結び、北極の氷がいつごろどれくらいまで減るかという予報を出そうとしています。北極海航路の予測を出す、そうすると、日本からヨーロッパに行くときにスエズ運河を通る国と、最短の北極から通る船でかなり経済効果が異なってくると思います。このように温暖化はすべての人にとって悪いかというと、必ずしもそうではありません。ただ、変化するスピードが速すぎてついていけない人が多いのは問題です。また、二酸化炭素の問題は、新聞等にあるように、排出権取引という一種の財産権のように取り扱おうとしています。そうすると科学的な取組みも大事ですが、政策的な取組みとして二酸化炭素の国際間の取引を行う際の目盛が必要になります。これは、国際的に共通のものでないと国際的な取り決めになりません。何を目盛とするかは、1つは各国が自分の国はどのくらいの二酸化炭素を出したという自己申告制で、もう一つは世界中を同じ計測値で測る、これはいわゆる人工衛星のことを言っています。

<二酸化炭素が地球温暖化に及ぼしている影響への人工衛星のかかわりついて>
参加者: 二酸化炭素が地球温暖化に寄与していることは、いろいろ研究がされていると思いますが、経済活動で二酸化炭素が排出され温暖化になったのであれば、過去に地球が温暖化になった時期がなかったのか、初めて体験しているのかを聞きたいと思いますし、もし過去に温暖化があり、経済活動が盛んでないとすれば一体その理由は何だったのでしょうか。二酸化炭素が温室効果に影響していることは実験してわかると思いますが、人工衛星からCO2自身が実際に温暖化に影響しているかを調査することができるのでしょうか。ただ赤外線でここに二酸化炭素がありますとか、ここが温暖化になっていますよということではなく、人工衛星を使って地球上にある二酸化炭素が温暖化に影響を及ぼしているかをつかむことができるのでしょうか。
本間: おそらく気象変動に関する政府間パネル(IPCC)でもまだ最終的な結論は出されていないと理解しています。そういう意味では、多くの科学者が言っているかなり有力な仮説という言い方になると思いますが、地球全体のモデルをつくっています。世界中の研究者がスーパーコンピュータを使っていろいろなタイプのモデルをつくっています。日本では、1つは気象庁の研究グループ、もう一つは東京大学の気候研究グループという大きなグループがあります。世界中では何十という研究グループがコンピュータ上で二酸化炭素濃度、太陽の活動の問題、空気中のちりや水蒸気といったいろいろな要素で非常に複雑な地球全体のシミュレーションを行っています。その結果は、あるモデルだと100年後には4~5℃上がる、別のモデルでは1℃か2℃しか上がらないのではないかというように非常にばらついています。ただ、今のまま二酸化炭素を排出し続けて気温が一定、あるいは気温が下がると示すモデルはありません。コンピュータシミュレーションで一番大変なのは、データをどのように入力するかです。日本の人工衛星で初めて地球全体の二酸化炭素のある地域における分布がわかったのは、実は今まではそのデータがなかったため地上の観測点のデータを推測で入力していました。当然データが足りないとコンピュータシミュレーションがいかに厳密につくっても誤差は大きいわけです。そのため、人工衛星が温暖化問題である程度貢献できるのは、コンピュータシミュレーションを行うときの地球全体のデータをもれなく提供できるということです。温暖化のメカニズムに対し人工衛星は直接関与することではなく、コンピュータシミュレーションや地上のいろいろなものと組み合わせたうちの1つの要素と考えています。