ISSでの166日間、月やその先の宇宙へ
受け継がれる油井亀美也宇宙飛行士からのバトン

将来の月面・月周辺での活動風景(イメージ図)
ISSから撮影された地球(日本上空)(油井宇宙飛行士撮影) クレジット:JAXA/NASA
ISSでの166日間、月やその先の宇宙へ

受け継がれる
油井亀美也宇宙飛行士からのバトン

2026年1月15日、油井亀美也宇宙飛行士が
ISS(国際宇宙ステーション)から地球に帰還した。
2025年8月2日の打上げからおよそ半年間。
油井宇宙飛行士はISSでさまざまなミッションを遂行してきた。
今回はその内容や、今後のISSミッション、宇宙探査への期待などを
油井宇宙飛行士自身に語ってもらった。

大西宇宙飛行士との再会でスタートした、ISS滞在

「今回は、クルーの健康上の問題で予定よりも1カ月早い帰還となりましたが、地上スタッフの皆さんが万全の準備をしてくださり、安全に帰還することができました。ISSを離れて地球に戻る道中、クルードラゴンの窓から見えた満天の星は本当に美しかったですね。大気圏突入時にコマンダー(船長)のジーナが『プラズマを見るためにキャビンの電気を少し暗くしましょう』と提案してくれて、キャビンの中から綺麗なプラズマを4人で見ることができました。後日、地球から撮影した大気圏突入時の写真を見ると、宇宙船全体が火の玉のように発光していて。『このなかに自分もいたのか』と不思議な気持ちになります」

油井宇宙飛行士はそう帰還時の様子を振り返った。微重力環境に長期間滞在していたため、地球の重力による身体の重みが懐かしかったという。

クルードラゴンからの退出直後、地上スタッフに手を振る油井宇宙飛行士 クレジット:NASA/Bill Ingalls
クルードラゴンからの退出直後、地上スタッフに手を振る油井宇宙飛行士 クレジット:NASA/Bill Ingalls

「2回目のISS長期滞在ミッションだったからか、1回目の時よりも、各段に身体が地球の環境に順応していくのが早かったですね。着水から数時間ほどで歩くこともできました。着水船に携帯用のゲーム機を持ち込んでもらっていて、地球に帰還してすぐにそれで遊んだりしていたのがよいリハビリになったのかもしれません(笑)。1回目はとにかく緊張しましたが、今回は落ち着いて過ごすことができました」と本人も語ったが、そこには、ISSで油井宇宙飛行士の到着を待っていた同期の大西宇宙飛行士の存在も大きかったのではないだろうか。

「10年ぶりのISS。そこで大西さんと再会できて最高の気分でした。日本実験棟『きぼう』には本当に多くの機器があり、それを使いこなさなくてはなりません。だからこそ現地で細かな注意事項なども共有でき、とてもありがたかったです。ほんの数日間の同時滞在でしたが、日本人宇宙飛行士2人がISSで一緒に過ごせたことが素直にうれしかったですね」

SpaceX Crew-11クルーがISS到着時に撮影したISS第73次長期滞在クルーとの様子(上)
ISSで再会した油井宇宙飛行士と大西宇宙飛行士(下)
SpaceX Crew-11クルーがISS到着時に撮影したISS第73次長期滞在クルーとの様子(上)、ISSで再会した油井宇宙飛行士と大西宇宙飛行士(下) クレジット:JAXA/NASA

大西宇宙飛行士との綿密な引き継ぎを終え、油井宇宙飛行士は計画されていたミッションを実施していった。ここからはそのミッションのうちいくつかを紹介する。

新型宇宙ステーション補給船「HTV-X1」を、
緊張のなかでキャプチャ

ISS日本実験棟「きぼう」外観 クレジット:JAXA/NASA

ISS日本実験棟「きぼう」外観 クレジット:JAXA/NASA

油井宇宙飛行士のISS長期滞在ミッションのキャッチコピーは、「明るい未来を信じ、新たに挑む」だ。そこには、「きぼう」での実験や技術実証を、月や火星の国際宇宙探査につなげていこうという思いが込められている。行われたミッションも「将来有⼈宇宙探査に向けた⼆酸化炭素除去の軌道上技術実証」、「宇宙環境が植物の細胞分裂に与える影響の解明」、「⽕災安全性向上に向けた固体材料の燃焼現象に対する重⼒影響の評価」など、宇宙探査の未来、そして宇宙技術の社会活用につながる内容が多くあった。

「きぼう」のグローブボックスで実験を行う油井宇宙飛行士

「きぼう」のグローブボックスで実験を行う油井宇宙飛行士 クレジット:JAXA/NASA

「ISSでは、どのミッションも無事に遂行することができました。これは地上スタッフとの連携、手厚いサポートがあったからこそ。本当に感謝しています。なかでも二酸化炭素除去技術のミッションは、今後の宇宙探査においてとても重要なものでした。ISSのなかで⼆酸化炭素除去装置を運転し、地上での性能と比較するための実証データを取得したのですが、よい成果を出すことができました。将来的にはこの技術を月探査用に改良し、アルテミス計画で日本が開発を任されている有人与圧ローバにも活用していく計画となっています」

また、日本の新しい補給船、新型宇宙ステーション補給機HTV-X1の把持(キャプチャ)は「とても緊張感がありました」と、振り返る。

「HTV-Xの開発に本当に多くのスタッフが力を注いでいましたし、NASAやJAXAの皆さん、地上スタッフからも多くのサポートを受けていたので、この成功はミッションの最優先事項だと感じていました。ISSから見たHTV-X1は、金色に輝いていて本当に美しかったです」

ISSロボットアームにキャプチャされたHTV-X1
ISSロボットアームにキャプチャされたHTV-X1 クレジット:JAXA/NASA

油井宇宙飛行士は、1度目のISS長期滞在時にも当時の補給機「こうのとり」のキャプチャを経験している。その経験があったからこそ、今回は冷静に挑むことができたという。

「ミッション実行時にはジーナ(クルードラゴンのコマンダー)が私の隣で細やかなサポートをしてくれました。私がアームの操作に集中している間は、彼女が地上との交信を担当。無事にHTV-X1をキャプチャできたときは、ほっとしました。とはいえHTV-X1の高い性能のおかげもあり安定した飛行をしてくれていたため、実は『こうのとり』の時や地上訓練よりも、本番の方がキャプチャしやすかったです(笑)」

HTV-X1のハッチを開けた際には、整然かつ丁寧に荷物が積み込まれていることに驚いたという。そして、『こうのとり』から引き続き輸送している日本のフレッシュな生鮮食品をはじめ、多くの物資が無事に届いたことに喜びを感じた。

HTV-X1与圧モジュール ハッチオープンの様子 クレジット:JAXA/NASA
HTV-X1与圧モジュール ハッチオープンの様子 クレジット:JAXA/NASA

「荷物に破損がないか、内部の空気が汚れてないかなどを細かくチェックしましたが、全く問題ありませんでした。さすがだな、と感心するとともに、HTV-Xのこの技術があれば、将来荷物を月まで運ぶことも、ドッキングによって人を移動させることなどもできるのではと楽しみになりました」

HTV-Xは、今後もISSに荷物を運び続ける。次にISS長期滞在ミッションを行う予定の諏訪宇宙飛行士や、アサインを待つ米田宇宙飛行士も地上でキャプチャのシミュレーション訓練をすでに受けているという。

「諏訪さんも米田さんも、とても上手でした。今回の経験を地上でしっかりふたりに伝え、安心してキャプチャに臨めるようにできればと思います」

撮影した数十万枚の写真が、多くの場所で活かされていく

ISS滞在中、ともに過ごしたクルーとどのような関係だったのかと問うと、油井宇宙飛行士は、「なんでも助け合える家族のようだった」と答えた。

「今回は、私含め4人のクルーたちと一緒にISSに入りました。クルードラゴンのコマンダーのジーナ、パイロットのマイケル、私と同じくミッションスペシャリストのオレグ。それぞれ年齢も経歴も違いますが、助け合いの精神にあふれた本当に仲がよいチームでした。ミッションはもちろん、私の眼鏡がどこかに飛んで行って無くなってしまったときも、みんなが一生懸命探してくれて(笑)。休日は誕生日やクリスマスを祝ったり、ISSオリジナル競技のオリンピックを開催してリフレッシュしたり。ミッションも船内生活も常に協力しあっていました」

宇宙滞在累計300日を記念してISS第74次長期滞在クルーに祝ってもらう油井宇宙飛行士
宇宙滞在累計300日を記念してISS第74次長期滞在クルーに祝ってもらう油井宇宙飛行士 クレジット:JAXA/NASA

滞在中、油井宇宙飛行士が分刻みのミッションのなかで時間を作って行っていたのが写真撮影だった。

「宇宙からの風景をぜひ多くの人に伝えたいと思っていました。SNSに投稿すると、たくさんの方が反応してくださってうれしかったです。コメントは本当に励みになりました」

油井宇宙飛行士は、打上げ前から帰還後までに計485件の投稿を行った。ISSから撮影した写真のなかには、世界各地の夜景や富士山、台風、オーロラなどがあり、私たちはこの投稿で、宇宙から何がどう見えているのかをうかがい知ることができた。さらに、衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)や防災科学技術研究所と連携し、自身の撮影画像と、地球観測衛星による観測画像を組み合わせた情報も発信した。

「初めての試みでしたが、この連携によって、私の写真だけでは伝えられない、地球の気象や災害などの情報も科学的解説を加えて発信することができました。私が撮影した、九州の線状降水帯、オーストラリアの森林火災、インドネシアの豪雨などの画像に、各機関が衛星写真と客観的情報を加えてくださったので『人の眼』と『科学の眼』の両方から地球を見る体験を、皆さんにお届けできたのではないでしょうか。また、衛星による地球観測画像が防災や天気予報にどう活用されているのかなども知っていただくことができたのではと思います。今回、地球観測チームから『黄砂の分布状況を知りたい』と依頼を受けて、タクラマカン砂漠の写真を撮ったことがあったのですが、これにより確かにタクラマカン砂漠から季節外れの黄砂が日本に襲来していることが見てとれました。ISSからの写真を加えることで、黄砂襲来に関する説得力のある発信ができ、とてもよい気づきとなりました」

(写真上)ISSから撮影されたオーロラ
(写真下)タクラマカン砂漠(油井宇宙飛行士撮影)
(写真上)ISSから撮影されたオーロラ/(写真下)タクラマカン砂漠(油井宇宙飛行士撮影) クレジット:JAXA/NASA

油井宇宙飛行士が今回のISS滞在で撮影した写真は、数十万枚におよぶ。これらは現在、JAXAのWEBアプリ「Earth Diary」にて無料公開中だ。現在はこの写真を活用して、高校生を対象とした出前授業などもスタートした。今後も教育イベントや授業など、教育分野でも幅広く活用されていく予定となっている。

次は諏訪宇宙飛行士。若い世代へ信頼のバトンをつなぐ

油井宇宙飛行士に続き、次にISS長期滞在ミッションに臨むのは、諏訪宇宙飛行士の予定だ。

「訓練の様子も見てきましたが、諏訪宇宙飛行士は、本当になんでも器用にこなせる優秀な宇宙飛行士です。彼がISSでミッションに取り組みやすいよう、私も諏訪宇宙飛行士のISS長期滞在に向けた準備に加わっています。この貴重な機会を楽しんでたくさんの経験を積んできてほしいですね。アドバイスするとしたら、私のように野菜が嫌いだと滞在中の食事に困るので食べ物の好き嫌いはなくしておいたほうがいいです(笑)。得意な写真撮影についてはいつでも聞いてください」

後輩へのメッセージに続いて、油井宇宙飛行士は先輩たちへの感謝もにじませた。

「これまで、日本人宇宙飛行士の先輩方が国際的なミッションで信頼を築いてきてくれました。そのおかげで今、私たちは難しいミッション、挑戦を任せてもらえています。日本人宇宙飛行士として、今後もその信頼をつないでいきたいですね。そのためにも、今後は後輩の育成などにも力を注いでいこうと思います」

さらにインタビューの最後には、来るアルテミス計画、そしてその先の宇宙開発に向けての想いも語った。

「国際ミッションであるアルテミス計画では、月に挑戦します。ここで日本は、有人与圧ローバの開発を任されるなど重大な役割を担っています。しかしこの実現にはまだ多くの課題があり、さまざまな技術が必要です。ぜひ、宇宙開発に皆さんの技術を活かしてください。宇宙に挑戦することは、明るい未来を切り拓くことです。多くの方に自分事として捉えていただき、日本の技術力を結集させて、一緒に月へ行きましょう。JAXAは、今後も多くの方と連携していくことを楽しみにしています」

Profile

油井 亀美也

有人宇宙技術部門
宇宙飛行士運用技術ユニット
宇宙飛行士グループ
宇宙飛行士

油井 亀美也 (ゆい きみや)

1970年長野県生まれ。2015年、第44次/第45次長期滞在クルーとしてISSに約142日間滞在。滞在中は、宇宙ステーション補給機「こうのとり」5号機のキャプチャを含むロボティクス運用などを実施。第73次/第74次長期滞在(2025年8月~2026年1月)でもHTV-Xのキャプチャなどを含む多くのミッションを実施。ISS滞在日数は累計306日となった。

取材・文:笠井美春 編集:武藤晶子

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