小惑星トリフネまでギリギリまで接近
この夏、「はやぶさ2」が拡張ミッションに挑戦
小惑星トリフネにギリギリまで接近
この夏、「はやぶさ2」が
拡張ミッションに挑戦
小惑星探査機「はやぶさ2」は、2020年12月6日、
小惑星リュウグウからのサンプルリターンに成功した。
そしてその後も宇宙探査を続け、いよいよ今年、
2026年7月に小惑星トリフネへのフライバイという拡張ミッションを実行する。
ミッションのチーム長、三桝裕也にその内容を聞いた。
「はやぶさ2拡張ミッション」とは
小惑星探査機「はやぶさ2」は今から約10年前、2014年12月に打上げられた探査機だ。2018年6月には小惑星リュウグウに到着。2020年12月にリュウグウにタッチダウン(接地)して、その表面物質(サンプル)を地球に届けるという大きな功績を残した。そして、このサンプルは世界中で分析され、惑星の起源や、地球の水の起源、生命誕生の謎などを解き明かすための貴重な材料となっている。
大仕事を終えた「はやぶさ2」だが、実はその後も宇宙に残り、さまざまな宇宙探索に挑戦するべく、拡張ミッションを進めてきた。それが小惑星探査機「はやぶさ2」拡張ミッション 、愛称「はやぶさ2♯」(ハヤブサ・ツー・シャープ)だ。
背景に4つの星形で描かれたシャープには、拡張ミッションがさらに挑戦的であり、ランクアップしているという意味が込められている
「『はやぶさ2#』拡張ミッションのハイライトは大きくふたつ。そのひとつが今年2026年の『小惑星トリフネへの高速フライバイ』、そして、もうひとつが2031年の『小惑星1998 KY26へのランデブー』です。フライバイとは、天体の近くを高速で通り過ぎるミッション。今回『はやぶさ2』は、秒速5kmの猛スピードでトリフネに近づき、わずか0.1秒で通り過ぎます。そしてその瞬間に搭載するカメラでその様子を撮影し、トリフネの構造やどのような物質でできているのかなどを解明するための材料を集めます」
一方、2031年に予定しているランデブーは、目標とする小惑星1998 KY26と同じ軌道に探査機を飛行させ、速度などを合わせて接近して観測を行うミッションだ。ここではリュウグウミッションと同様にタッチダウン(接地)にも挑戦する可能性がある。
「2026年は『はやぶさ2#』にとって初の大きなミッションの実行年です。ミッションを実施予定の7月まであと数カ月。今まさにミッションへの準備を着々と進めています」と語る三桝は、本取材の直前まで「はやぶさ2」と通信を行っていたと言う。
「現在、『はやぶさ2』は地球から見るとおよそ牡羊座の方向、1.9億km程度離れた位置にいます。あまりにも遠いため、通信をするのに片道10分も時間がかかってしまうのですが、太陽光パネルの電力を使って通信機器を動かし、寒ければ自らヒーターを起動するなど、元気に宇宙を飛んでくれています」
小惑星1998 KY26とトリフネをめざすプランの誕生
そもそも、なぜ「はやぶさ2」は拡張ミッションを行うことになったのかを問うと、三桝は「『はやぶさ2』にまだ残っていたリソースを活かせば、さらなる挑戦ができる可能性があったから」だと答えた。
「『はやぶさ2』はリュウグウでのミッションを終えた時点で、燃料が半分ほど残っていました。つまり、これを使えば探査を延長することができる。そう考えた私たちは、いくつかの拡張プランを考え始めました」
「せっかくならば、もう一度小惑星へのランデブーなどに挑戦したい」という思いがチームメンバーにはあった。だからこそ無数にある惑星の中から「残りの燃料でランデブーができる小惑星」を探した。そしてさらに小さなチャンスも逃すまいと、その道中で観測できる小惑星はないかなどの検討を重ねた結果、たどり着いたのが、小惑星1998 KY26と小惑星トリフネだった。
「小惑星1998 KY26は、10分に1回自転している、直径数10mほどの小さな小惑星です。地球の1日は24時間ですが、1998 KY26の1日は10分間。ここまでの高速自転小惑星に、いまだ人類が到達したことがありません。だからこそ、この観測には意味があります。
一方でトリフネは、『はやぶさ2』の先行機である『はやぶさ』がかつて到達した小惑星イトカワに似た形状で、直径は約500m。5時間で1回自転している小惑星です。いわば一般的な小惑星だからこそ、今回フライバイして写真を撮ることで、同じような小惑星の組成分析などに役立つ情報が得られる可能性があります。このように両者ともに貴重な探査ができるということで、このふたつの天体に狙いを定めたミッションが実行されることになりました」
小惑星トリフネに、ギリギリまで接近を試みる
しかし、「トリフネへのフライバイ」には大きな課題があった。それは、「はやぶさ2」が小惑星などに接近して寄り添いながら観測を実施するランデブー用のカメラ、つまり近距離に対応するカメラしか搭載していないことだ。
「『はやぶさ2』のカメラでは、超近距離まで接近して撮影しないと良い写真を撮ることができません。しかし先にも紹介したように『はやぶさ2』はトリフネに秒速5kmという、音速の約15倍、新幹線の約60倍、つまり東京から大阪に約1分40秒程度で到着できるほどのスピードで近づき、0.1秒で通り過ぎます。しかも対象となるトリフネは直径わずか500m。このミッションでは、『はやぶさ2』が自動制御で超近接フライバイに挑む予定なのですが、まるでミサイルのようなその一瞬でどこまでトリフネに接近できるか......。目標は1㎞の距離までトリフネに近づくことです」
そもそも「はやぶさ2」は、リュウグウにゆっくりと近づいてサンプルリターンをするための探査機だ。そのための自動制御機能はもちろん備わっていたが、これほど高速でフライバイするための機能は備わっていなかった。
「打上げ当初には全く想定していなかった高速フライバイミッションに挑戦するために、私たちは探査機メーカーの協力を得てソフトウェアを組み直し、新たな軌道制御機能を地上から『はやぶさ2』にアップロードすることを進めています。すべてが初めての経験ですが、これら一つひとつの工程で得られる経験や技術も、今後の宇宙探査技術の向上に役立つはずです」
このミッションが、地球を救う技術につながる
「はやぶさ2」の拡張ミッションに期待されている成果は、実はこれまでに挙げたような、新たな小惑星の観測による惑星科学への貢献だけではない。
「トリフネへの超接近フライバイには、探査機への正確な軌道誘導(ナビゲーション)や、探査機自身の高い軌道制御技術が必要になります。これは、地球を小惑星の衝突などのリスクから守る、いわゆるプラネタリーディフェンス(地球防衛)にとって必要不可欠な技術です。将来的には、地球に衝突しそうな小惑星があれば、意図的に探査機を小惑星に衝突させ、地球への衝突を防ぐことも必要になります。そこで役立つ技術をトリフネのミッションで磨くことができればと考えています」
小惑星や彗星といった天体が地球に衝突する、もはやこれは映画や小説のなかだけの話ではない。太陽系には多くの小惑星があるが、特に直径1km以下の小惑星は無数に存在し、今も発見が続いている。これらがもし地球に衝突すれば自然災害につながるかもしれない。だからこそこのリスクに備えるプラネタリーディフェンスへの取り組みが、今、国際的にも重要視されているのだ。
「小惑星に衛星を衝突させ、その軌道を少しだけでも変えることができれば、小惑星が地球に衝突する可能性を低めることができます。ここで大切なのは地球の近くではなく、より遠い位置で衝突を行い、軌道を変えること。遠ければ遠いほど、そのズレが大きく軌道に影響するので、遠い場所での正確な軌道誘導、制御技術がプラネタリーディフェンスの鍵になるのです」
その技術を今回のトリフネで発揮できるかどうか。三桝たち「はやぶさ2#」のメンバーは、今まさに念入りに準備を進めている。
「トリフネへのフライバイは2026年7月5日を予定しています。とにかくより近くへ、衝突ギリギリの位置まで『はやぶさ2』をトリフネに近づけたいと思っています。拡張ミッションは、もともと想定されていなかった挑戦の機会です。チーム全員で、緊張とワクワクを抱えながら、この貴重な機会を存分に活かし切れるよう力を尽くします。ぜひ、多くの方に見守っていただければと思いますので、応援よろしくお願いいたします」
Profile
宇宙科学研究所(ISAS)
宇宙科学プログラムディレクタ付
研究開発主幹
三桝裕也(みますゆうや)
宮崎県出身。入社当初から小惑星探査機「はやぶさ2」の開発・運用に携わり、はやぶさ2拡張ミッションチームのチーム長に。三度の飯よりサッカーが好き説アリ。週末は子どものサッカー応援か、自分のサッカーの試合で潰れる。
取材・⽂︓笠井美春 編集︓武藤晶⼦
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