ISSへの無人補給機HTV-X1搭載
H3ロケット7号機 24W形態の初の打上げ

10月26日に打上げられたHTV-X1搭載のH3ロケット7号機(24W形態)
10月26日に打上げられたHTV-X1搭載のH3ロケット7号機(24W形態)
ISSへの無人補給機HTV-X1搭載

H3ロケット7号機 24W形態の初の打上げ

2025年10月26日に打上げられた
新型宇宙ステーション補給機1号機(HTV-X1)は
10月30日に国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送に成功した。
このHTV-X1打上げを担った、新しい形態のH3ロケット7号機は
どのようなロケットなのか。
H3プロジェクトチームの杉森大造と森 彩乃に聞く。

より大きな衛星などを宇宙に運ぶ、H3ロケット24W形態とは

H3ロケット(以下、H3)は、これまで日本の宇宙輸送を支えてきたH-ⅡA・H-ⅡBロケットに代わる、新たな日本の大型基幹ロケットだ。2024年2月に初めて打上げに成功し、それ以降は安定して多くのペイロード(衛星など)を宇宙に運んできた。そのH3にはいくつかの機体形態がある。

「これまで打上げてきたH3(1号機から5号機まで)は22S形態(H3-22S)という形で、1段エンジン2基・固体ロケットブースタ2本・ショートフェアリングという構成で、全長は約57mです。これに対して7号機は24W形態(H3-24W)で、1段エンジン基数は同じ2基ですが、固体ロケットブースタ4本・ワイドフェアリングという構成で、全長約64mの大きな機体です。固体ロケットブースタの本数が倍になるので、これが生み出す推力も単純計算で約2倍になります」(杉森)

H3ロケット7号機は24W形態(H3-24W)
(上)H3-24W形態、(下)H3-22S形態

H3プロジェクトチームの杉森は、24形態の性能をそう語った。ロケットは、固体ロケットブースタと第1段エンジンの強力な推力で、一気に地上から宇宙へ打上げられる。そしてその後1段機体を切り離し、2段機体に搭載した第2段エンジンを点火し目的の軌道をめざす。22形態も24形態も第1段エンジンの数は同じだが、初動の固体ロケットブースタの数が倍になったことで、より重いペイロード(衛星など)を宇宙に運ぶことができるのだ。しかし、より大きな推力を持つからこその課題もあった。

「推力が大きいということは、その分、打上げ時の音響、振動も大きくなります。大切なペイロードを振動で壊すわけにはいきませんので、いかにして振動を抑え、ペイロードにとって安全な環境を用意できるかが大きな課題でした。そこで今回は、フェアリング内に音を吸収する素材を取り付け、外で轟音が鳴り響いていても、フェアリング内のペイロード、今回であればHTV-X1が揺れすぎることなく、保護できる設計を採用しています」(森)

生鮮食品なども運べる「HTV-X対応型」のH3ロケットに

実はH3ロケット7号機は、24形態のなかでも特に広い衛星フェアリングを持つ、24W形態(24形態+ワイドフェアリング、H3-24W)と呼ばれるH3ロケットだ。これはHTV-Xを運ぶための特別仕様だという。これについて、H3ロケットの構造設計に携わった森に聞いた。

「衛星フェアリングとはロケットの先端部分にある、衛星などのペイロードを搭載する場所のことです。7号機のワイドフェアリングは外径5.4m・長さ16.5mで、今年2月に打上げた5号機のショートフェアリングよりも約6メートル長い仕様になっています。ワイドフェアリングは、HTV-Xの掲げる『カーゴサービスの向上』を実現するために新規開発されたもので、このほかにも、他ペイロードと比較してサイズ・質量ともに大きなHTV-Xの打上げに対応するために、H3ロケット側もさまざまな開発を行ってきました」(森)

H3衛星ロングフェアリング

H3衛星ロングフェアリング

H3衛星ロングフェアリング

フェアリングに設置されたレイトアクセス用大型ドア(赤枠部分)

HTV-Xは通常の衛星とは違い、「国際宇宙ステーション(ISS)計画に不可欠な大型機器や宇宙飛行士の生活を支える荷物を、ISSに届けること」をミッションとしている。先代となるHTV「こうのとり」に比べて、より多くより重い物資を運べる構造となっているため、サイズも重量も大きい。また、もっとも大きな違いは、「こうのとり」では積めなかった、冷凍庫や実験装置などの電源が必要な荷物にも対応していることだ。さらに、「打上げの24時間前まで物資を積荷できる」これまでにない仕様により、より幅広い生鮮食料品や鮮度が重要な実験サンプルを輸送できるようになった。「こうのとり」では80時間前までの積載となっていたため、大幅な短縮となる。

「これを実現するため私たちは、 (縦)1.6m×(横)1.5mの大型ドアを設置したワイドフェアリングを新規開発しました。あとから物資を積み込む、いわゆるレイトアクセス用のドアです。打上げ前、射場でこのドアから生鮮食品などを積み込める、HTV-Xのための仕様となっています」(森)

右)新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)、(左)宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)のフェアリング内レイトアクセスのイメージCG
下部にレイトアクセスドアを設置したHTV-Xでは打上げ24時間前まで荷物の搭載が可能
(左)宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)と(右)新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)におけるレイトアクセスのイメージCG
下部にレイトアクセスドアを設置したHTV-X(右)では打上げ24時間前まで荷物の搭載が可能

こうしたHTV-X対応開発を実現するために、杉森たちは、HTV-Xの開発を進める有人宇宙技術部門と数年にわたってミーティングを重ねてきた。

「HTV-Xチームの皆さんが安心してH3ロケットにHTV-Xを積めるよう、何が求められているのかを丁寧に聞き取りました。そして、ロケット側としては何が変えられて、何が変えられないのかを伝えながら調整しました。開発期間は約9年ほどでしたが、HTV-Xチームの皆さんが非常に友好的で、さまざまなことをストレートに伝え合い、ともに解決策を考えられる関係性を築けました。それが成功につながったのだと感じています」(杉森)

宇宙探査の未来を支えるため、H3の高度化に向けた技術実証も実施

H3ロケット7号機では、さまざまな実証試験も行われた。例えば、ロケットをより安全に遠くまで打上げることを目的とした「自律飛行安全システム」の飛行実証だ。打上げ時、ロケットは地上の安全を確保するために、ロケットを監視する地上局から見える範囲で軌道投入する飛行経路をとる。そのため、経路の蛇行により打上げ能力が制約を受けている。

「自律飛行安全システムは、地上局から見えない場所では、ロケットが自身の力で安全確認を行い、異常があれば自ら判断して飛行を中断する機能です。今回はこのシステムを初めて搭載し、データ取得などを実施しました。この機能が実装できれば、ロケットの打上げ能力を最大限に引き出すことができ、もっと遠くへ、もっと重いものを運べるようになります」(杉森)

自律飛行安全システムの仕組み
自律飛行安全システムの仕組み

その他にも7号機では、MMX等の月惑星探査ミッションに向けて、JAXA地上局がないエリアでも飛行中のロケットと通信ができるようにする「データ中継サービス(TDRS)」の実証も行った。NASAのデータ中継衛星とも連携できるこの技術が確立されれば、今後はもっと自由な飛行経路を取ることができるようになる。

「H3は今後さらに高度化していく計画です。現在、宇宙ビジネスは活発で、衛星などをロケットで打上げたいというニーズは高まっています。こうした声にしっかりと応えていくために高度化を進め、例えば小型衛星のライドシェア(相乗りでの打上げ)機会などを新しく提供できるようにしていきたい考えです」(森)

世界中から「選ばれるロケット」をめざして

7号機の打上げ時は、ともに種子島にいたという杉森と森。それぞれ、どのような思いで打上げを見ていたのかを聞いた。

「私は、種子島宇宙センターの建屋から打上げを見守りました。打上げ前の射場整備作業は、初めて実物を使った作業で、さまざまな課題に直面しましたが乗り越えることができました。打上げ時は、ロケットから送られてくるデータに異常がないことをモニタリングするのですが、HTV-X1分離を確認した瞬間は、本当に安心しました」(森)

ロケット分離直後の新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)イメージCG
ロケット分離直後の新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)イメージCG

一方、杉森は、LCC(Launch Control Center)と呼ばれる、ロケットの管制を行う場所にいたという。

「打上げの瞬間まで何が起こるかわからないので、緊張と期待が入り交じるような気持ちでした。HTV-X1のミッションを成功させるためには、ISSに物資を届けられる軌道にHTV-X1を送り込まなければなりません。ただ、この軌道に投入できるタイミングは、1日に1秒のみ。H3の過去号機では天候不順やトラブル等の場合に打上げ時刻を変更することで対応する選択肢がありましたが、7号機に許された時間がたったの1秒であったことも、緊張感を高めていました。7号機が無事に打上がり、HTV-X1のミッションも成功した今は、本当にほっとしています」

10月30日にISSの次世代ハイビジョンカメラ(HDTV-EF2)により撮影されたHTV-X1の様子
10月30日にISSの次世代ハイビジョンカメラ(HDTV-EF2)により撮影されたHTV-X1の様子

今後も、H3とHTV-Xは打上げが続いていく。それを見据え「これからの打上げも確実に成功させていきたい」とふたりは口をそろえた。そのなかで森は、「高度化を進めることで、H3を、世界中から選ばれ、愛されるロケットにしていきたい」と意欲を見せた。

これに続いて杉森も「H3ロケットをたくさんの方に使っていただきたいですね。H3の開発は、ISSの先を見据えています。ISSよりもっと遠くへ挑戦する今後の宇宙開発に貢献していけるよう歩みを進めますので、引き続き、応援をよろしくお願いします」と語った。

今回H3ロケット7号機が打上げたHTV-X1は、ISSへの物資輸送を終えた後も、今後の宇宙開発のために技術実証プラットフォームとして活用される予定だ。H3とHTV-X、ふたつの挑戦はこれからも続き、その可能性をさらに広げていく。

Profile

杉森 大造

宇宙輸送技術部門
H3プロジェクトチーム
主任研究開発員
杉森 大造(すぎもり だいぞう)

兵庫県出身。2段エンジンの試験などに携わったのち、初期からH3開発に携わり12年目に突入。H3では総合システムおよび安全設計を担当。約10年前から新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)とのインタフェース、対応開発とりまとめを担う。

森 彩乃

宇宙輸送技術部門
H3プロジェクトチーム
研究開発員
森 彩乃(もり あやの)

愛知県出身。種子島宇宙センターで、打上げに必要な衛星・射点の機構系設備の維持・運用を担当。その後、H3開発の構造系を担当へ。HTV-X対応開発の中では主に衛星分離部を含めたフェアリング・衛星搭載系の開発に従事。

取材・⽂︓笠井美春  編集︓武藤晶⼦

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