BEYOND CONSTRAINTS A ROMANCE FOUND IN ENGINEERING

nomena代表でエンジニアの武井祥平さん(左)と、JAXA角田宇宙センター所長の富岡定毅(右)。
nomena代表でエンジニアの武井祥平さん(左)と、JAXA角田宇宙センター所長の富岡定毅(右)。

BEYOND CONSTRAINTS A ROMANCE FOUND IN ENGINEERING 制約の向こう側
エンジニアが見出すロマン

武井祥平nomena創設者・エンジニア

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富岡定毅角田宇宙センター所長

宮城県角田市にあるJAXA 「角田宇宙センター」は、ロケットエンジンの研究・開発と試験を担う国内随一の拠点だ。また、高度な技術を持つ試験設備は、エンジンの開発だけでなく、企業や大学、NASAを含む海外機関にも開かれている。その現場を訪れたnomena代表でエンジニアの武井祥平さんと同センター所長の富岡定毅が語ったのは、制約を楽しむ姿勢と、機能から立ち上がる美しさ。そして、「宇宙を仕事にする時代」を目指す共創の未来だった。

「わいわい」が創造を生む

富岡

角田宇宙センターは、1965年の開所以来、宇宙推進技術に関する材料・要素技術の研究から、ロケットエンジンの開発・試験までを一貫して行う研究開発拠点として発展してきました。現在も、一回しか使わなかったロケットエンジンを何度も使えるようにする研究や、ロケットエンジンとジェットエンジンを組み合わせて、地上から宇宙まで飛行機のように飛べる複合エンジンの研究など、次世代を見据えた挑戦が続いています。

富岡所長の案内のもと、角田宇宙センターにある多様な設備を見学していく武井さん。写真は、液酸・液水エンジン供給系試験設備の一部で、ロケットエンジンの心臓であるターボポンプを試験するためのもの。ポンプを廻すのに使った燃料は安全に焼却する必要があり、写真の巨大なバーナーを使って燃やしてから排気する。

富岡所長の案内のもと、角田宇宙センターにある多様な設備を見学していく武井さん。写真は、液酸・液水エンジン供給系試験設備の一部で、ロケットエンジンの心臓であるターボポンプを試験するためのもの。ポンプを廻すのに使った燃料は安全に焼却する必要があり、写真の巨大なバーナーを使って燃やしてから排気する。

武井

シャトルバスで移動しながら見学してみて、敷地の広大さと試験設備の多様さに驚きました。

富岡

敷地面積は約170万平方メートルで、東京ドーム約37個分とも言われています。点在する各施設には、ロケット燃焼器や軸受といった専門領域に特化した研究者が所属し、先進的な技術開発に取り組んでいます。

液酸・液水エンジン供給系試験設備の排気用バーナー。燃焼処理される燃料の発熱量は原発一基分にも比する。
液酸・液水エンジン供給系試験設備の排気用バーナー。燃焼処理される燃料の発熱量は原発一基分にも比する。

武井

外部の方が試験場を利用することもあるそうですね。

富岡

はい。当センターが所有する試験設備は、JAXAの基幹ロケットの試験に使用するだけでなく、企業や大学、そしてNASAをはじめとする海外宇宙機関との共同研究にも提供されています。また、新たな取り組みとして「官民共創推進系開発センター」を建設中です。完成後はスタートアップ企業に向けて、ロケットエンジンの研究開発に必要な設備とノウハウを提供していきます。

武井

ロケットエンジンの試験に取り組むスタートアップ企業にとって、最初に直面する課題は試験設備の確保です。既に設備が整っている場所があると、「形にしてみたい」という思いをすぐに行動に移せるようになりますね。

準備中の官民共創推進系開発センターの外観。

準備中の官民共創推進系開発センターの外観。

富岡

当センターの設備の中には、設置から30年目にしてようやく本格的に活用され、いま世に出ていく技術を支えているものもあります。逆に設備が既にあって、長い間にノウハウをためてきたので、新しい開発を支えることができているのです。だからこそ、当センターが培ってきた技術や知見を広く社会に提供し、宇宙開発に貢献していきたいと考えています。

武井

宇宙に関心のある人は多いけれど、仕事にしようと思う人はまだ少ない。私自身も高専で電気工学を専攻したからこそわかるのですが、工学を学ぶ人にとって航空宇宙は最高峰の憧れの世界です。これまでは遠い存在だと感じていましたが、角田宇宙センターに訪れ、人工衛星を打上げるというチャレンジが、思いのほか身近に感じられました。官民共創推進系開発センターを中心に、誰もが宇宙を仕事にできる時代が来たら面白いですね。

液酸/液水エンジン供給系試験設備の巨大な排気設備内を見学するふたり。

液酸/液水エンジン供給系試験設備の巨大な排気設備内を見学するふたり。

富岡

官民共創推進系開発センターに角田宇宙センターの外から多様な研究者や企業の方々が集まることは、JAXAにとっても次の技術の開発につながると考えています。角田宇宙センターも、最初は小さなコミュニティでした。志をもった人たちが一人二人と集まり、「わいわい」と議論しながら研究を続け、次第に規模の大きなものを手がけるようになっていった。「わいわい」の輪を組織の外にも広げることで、さらに発展していくはずです。

武井

「わいわい」って、面白い表現ですね。でも、よくわかります。僕がnomenaという会社を創設したのは、大学院時代に抱いていたものづくりへの純粋な欲求を、社会に出たあとも失わずにいたいと思ったからです。純粋な創作活動って、社会人になると一人では継続しにくいものです。だからこそスタジオという場を設けて、ものづくりが好きな人たちが集まれる環境をつくりたかったんです。その感覚は、富岡さんがおっしゃる「わいわい」に近いのかもしれません。

富岡

大学院時代のどのような原体験が、会社設立の動機になったのですか。

武井

少し遡るのですが、先ほど触れたように出発点は高専で学んだ電気工学と、そこで取り組んでいたVR研究でした。VRは「人の脳を工学的にいかに欺くか」という、人間の知覚と工学が交差する領域です。その境界に興味を持ったことから、大学では認知心理学を専攻しました。視野が一気にひらけたのはその頃です。文学、哲学、社会学、建築......世の中にはこんなにも多様な学問があるのだと、衝撃に近い感覚がありました。その後、空間そのものをどう演出するかという視点に惹かれ、空間づくりを行っている丹青社に入社しました。万博パビリオンや展示ブースの制作に携わりましたが、次第に「自分の手でものづくりがしたい」という思いが強くなり、退職して東京大学大学院でエンジニアリングを専攻しました。そこで、棒が伸縮することで形が変わっていく、ロボットのような構造物を研究しました。その体験がnomena設立につながっています。

武井さんが修士課程の研究で制作した、ロッドの伸縮により形状を変化させるロボットMorPhys(モルフィス)。
武井さんが修士課程の研究で制作した、ロッドの伸縮により形状を変化させるロボットMorPhys(モルフィス)。

富岡

どのような特徴がある構造物だったのですか。

武井

「建築が動いたら面白い」という発想から生まれたもので、柱に見立てた棒で三角形をつくり、この棒が15cmから4mまで伸縮することで、ロボットの形が変わっていく構造になっています。一見すると「何かわからないもの」にすぎないのですが、あるとき宇宙を舞台に仕事をされている方の目に触れ、「宇宙展開構造物として、太陽光パネルや基地の設置に応用できるのではないか」と評価をいただきました。自分でも説明しきれないものを、他者が真正面から面白がってくれる。そのことがとても嬉しくて、とにかく楽しかったんです。

印象とは、一瞬で形成されるもの

富岡

武井さんの「何かわからないようなもの」が、いつしか公共性を帯びていくのが面白いですよね。nomenaが手がけた、東京2020オリンピック・パラリンピック聖火台は非常に美しかったです。

武井

ありがとうございます。聖火台のデザインを担当したnendoさんからの依頼で、nomenaが機構の設計を担当しました(P04 写真2)。これは、球体の形状から10枚のパネルが花びらのように開き、炎が灯る仕組みでした。点火後は再び閉じ、元の球体に戻る構造となっていることが特徴です。球体へと戻る動きは「丸く収まる」というコンセプトを象徴する重要な要素でした。

富岡

球体が開いて、そして閉じていく動きがとても滑らかで、思わず見入ってしまいました。

nomenaが機構設計を担当した、東京2020オリンピック・パラリンピック聖火台。Photo by Hiroshi Iwasaki

nomenaが機構設計を担当した、東京2020オリンピック・パラリンピック聖火台。Photo by Hiroshi Iwasaki

武井

開く動作だけであれば、重力を利用した機構で成立しますが、閉じる動きを滑らかに保つためには、球体内部に動力装置を収める必要があります。限られた内部空間に部品を配置し、さらに動作の美しさを制御することが、大きな技術的課題でした。また、パネルを動作させるとき特定の速度域では、共振と呼ばれる振動現象が生じます。しっとりとした質感の動きを実現するために、共振が発生する速度域を可能な限り短くし、振動を抑える調整に時間をかけました。理屈を一つずつ形に落とし込んでいく過程が、結果として美しさを立ち上げたのだと感じています。

富岡

美的な部分は結果としてついてくる、ということですか?

武井

実を言うと、スタイリング(意匠)にあまり自信がないんです。フリーハンドで自分にしか描けないような美しい曲線を引く技能や感性は、残念ながら私にはありません。その代わり、工学の知識や経験に基づいて導き出される方程式などの必然の曲線に、説得力のある強さを見出しています。

富岡

確かに、機能的なものって美しいですよね。

武井

ロケットにも通じるものがありませんか?エンジンの配管や設計を細部まで見学させていただき、随所で「美しいな」と感じました。「高温衝撃風洞」や「液酸/液水エンジン供給系試験設備」も、見た瞬間に圧倒されるものがある。決して人を圧倒したくて作っているものじゃないのに、そこに神々しさを感じる。ただ、それはスタイリングとして造形された美しさではなく、必然から導かれた形が結果として美を帯びているのだと思います。

富岡

最後に残ってしまうもの、必然性。それは、まさにロケットエンジンの世界にも通じますね。

武井

そうした「副次的に立ち上がる感覚」や「印象」を、自分の制作では大切にしています。印象というのは、本当に一瞬で形成されるものだと思うんです。何かを目にした瞬間、無意識の領域で自動的に立ち上がる像のようなもの。

富岡

そうですね。

武井

どうすれば、そうした感覚を立ち上げるものをつくり得るのか。それが自分にとって日々大きなテーマですが、例えば時計ブランドのセイコーウオッチとのプロジェクトで制作した「連鎖するリズムのコラージュ」この作品は、「機械式時計はなぜ魅力的なのか」という素朴な問いから始まりました。

nomenaが制作した『連鎖するリズムのコラージュ』。機械式腕時計を分解してその構造を再解釈し、歴史上の時計機構を再現。セイコーの機械式腕時計が0秒を指した時を合図に動き始める仕組み。Photo by Masaki Ogawa
nomenaが制作した『連鎖するリズムのコラージュ』。機械式腕時計を分解してその構造を再解釈し、歴史上の時計機構を再現。セイコーの機械式腕時計が0秒を指した時を合図に動き始める仕組み。Photo by Masaki Ogawa

富岡

剥き出しになった時計の機構が重りによって端から順番に動き出す、洗練された美しさを感じさせる作品でした。アイデアはどのように生まれたのですか。

武井

機械式時計の本質は何なのか。まずは、そのリサーチから始めました。そして、機械式時計を分解して一つひとつの機構を見てみると、人類の創意工夫と発明の積み重ねが連鎖して、技術を進化させてきたことが伝わってきて。とても感動的な体験でした。

富岡

普段は見ることのない、時計の中の小さな世界に入り込んでいったのですね。

武井

まさに、そうです。何より、機械式時計の魅力は電気を使わなくても動き続けられること。そこで、作品に重りをつけて、重力で落ちようとする力だけで電気を使わずに動いていく構造にしました。さらに、時計の中の世界を他の人にも体験してほしいという意図から、時計の機構を剥き出しにする設計へとつながっていきました。

富岡

今のお話を聞いていて、武井さんがエンジニアであると同時にリサーチャーという肩書で活動されている理由がわかってきました。

武井

一方で、制約や条件をいかにクリアするか、ということにロマンを感じている部分もあります。そういう瞬間には、「自分はエンジニアだな」と実感します。

富岡

わかります。私も、「こんなことをやりたい」と難題を持ちこまれたときに、「今ある設備でどうやったらできるかな」と考えるのがとても楽しい。「知恵の絞りどころだな」と気合が入る。制約がないとつまらないし、新しいものは生まれないと思っているフシはありますね。

大阪・関西万博では、民間パビリオンのひとつである「BLUE OCEAN DOME」のドームA・アートピースの制作をnomenaが担当。パビリオンのテーマ「海の蘇生」をもとに、山に降った雨がやがて海へと循環する様を表現した。Photo by Taiki Fukao

大阪・関西万博では、民間パビリオンのひとつである「BLUE OCEAN DOME」のドームA・アートピースの制作をnomenaが担当。パビリオンのテーマ「海の蘇生」をもとに、山に降った雨がやがて海へと循環する様を表現した。Photo by Taiki Fukao

創造性こそ、
エンジニアリングや研究の本質

武井

富岡さんは、とても純粋にものづくりを楽しんでいらっしゃいますね。JAXAという国の機関で、「絶対の信頼性」が求められ、徹底した検証と慎重さが不可欠な研究・開発に取り組みながらも、ワクワクする気持ちを忘れていない。

高温衝撃風洞(HIEST)は、宇宙往還機や大気圏再突入カプセルが大気圏へ戻る際の環境を再現できる設備。 写真は、内部の点検作業の様子。

高温衝撃風洞(HIEST)は、宇宙往還機や大気圏再突入カプセルが大気圏へ戻る際の環境を再現できる設備。 写真は、内部の点検作業の様子。

富岡

実験するのが大好きなんです。実験は目的があってやるわけで、その目的たるものが社会の役に立たなければ、ただの道楽になってしまう。それは、「求めている人が外にいる」という制約でもあります。その中で楽しむことが、ワクワクの源です。

武井

チャレンジ精神を常にお持ちなんですね。展示エリアで大型液体ロケットエンジンLE-7の実機を見ながら「最初に作ったロケットエンジンはすごく挑戦的だった」とおっしゃったとき、富岡さんの表情がとても生き生きとされていたのが印象的でした。

高温衝撃風洞は、模型を支柱で支えるような擬似的な方法ではなく、風洞内を自由落下させ実際の飛行状態に近い条件で計測が行えるのが特徴。
高温衝撃風洞は、模型を支柱で支えるような擬似的な方法ではなく、風洞内を自由落下させ実際の飛行状態に近い条件で計測が行えるのが特徴。

富岡

堅実に取り組んでいるものの脇で、何か挑戦的なこともやっておかないと、新しいものが出てこない。何か一つの研究が実を結んだら、「次はちょっと違うものを」と新たなネタを立てられないと、我々の存在理由がだんだん薄れていってしまう気がしています。

武井

そうですね。依頼された仕事だけをやっていては、やっぱり面白くありません。「自分がつくりたいものを、つくる」という気持ちを持ち続けることが、とても大事だと思っています。それはアイデアのストックを作ることにもつながりますよね。

富岡

「形にならなくても、次々と物を試す」ことは大事ですよね。私はそれを「引き出しのネタを作る」と言っています。さらに言うと、実はそのネタが増えるのは失敗したとき。私たちの研究において頻繁に失敗するわけにはいきませんが、でも、小さな失敗ができる場があれば、新しいネタが引き出しの中に集まってくる。その意味でも、「官民共創推進系開発センター」の存在は大きいと思っています。

武井

富岡さんは研究者であると同時に、クリエイターの精神もお持ちですね。

富岡

それは嬉しいお言葉です。

武井

エンジニアや研究者も、広義の意味でクリエイターと捉えられるのではないでしょうか。アプローチこそ異なりますが、人を惹きつける何かを創出している点では共通していて、時には理由もわからないまま鳥肌が立つような体験さえ生み出している。こうした創造性がエンジニアリングや研究の本質として、もっと社会に認識されていけばいいなと。もともと抱いていた思いではありましたが、角田宇宙センターの見学と、富岡さんのお話を伺ったことで、その考えはいっそう確かなものになりました。

宇宙固有の問題の解決に挑戦する

武井

ところで、富岡さんはどのような経緯でロケットエンジンの研究を始めたのですか。

富岡

子供のころから飛行機好きでした。大学時代に、「機体を研究するか、エンジンを研究するか」という進路の選択肢があったんです。悩んだ末、「エンジンがないと飛べないな」と思いエンジンの道に進みました。

武井

学生時代から今に至るまでエンジン一筋でいらっしゃるんですね。

富岡

しかも、最初からラムジェットに絞って研究を続けてきました。

ラムジェットエンジン試験設備(RJTF)。未来の高速飛行機や宇宙往環機のためのエンジンを作る設備だ。

ラムジェットエンジン試験設備(RJTF)。未来の高速飛行機や宇宙往環機のためのエンジンを作る設備だ。

武井

どのようなエンジンなのですか?

富岡

高速で流入する空気を押しとどめてやると圧力(ラム圧)が上がります。ここに燃料を燃焼させて推力を得る、ジェットエンジンの一種です。さらに、JAXAが目指しているのは、ラムジェットエンジンの高速用で、音の速さの5倍以上で使えるスクラムジェットエンジン。これが開発できたら、従来のロケットのように酸化剤を機内に大量搭載しなくて済みます。すると、宇宙輸送のコスト低減や、再使用型ロケット・スペースプレーンを実現できる。そんな期待を背負ったエンジンです。

ラムジェットエンジン試験設備は、超音速から極超音速領域で動作する空気吸込み式エンジンの模型を用いた燃焼試験を行うための風洞を備えている。地上での静止大気状態を模擬しながら、各種条件下でエンジン模型の性能や燃焼挙動を検証することができ、実飛行に向けた基礎的なデータの取得に用いられている。
ラムジェットエンジン試験設備は、超音速から極超音速領域で動作する空気吸込み式エンジンの模型を用いた燃焼試験を行うための風洞を備えている。地上での静止大気状態を模擬しながら、各種条件下でエンジン模型の性能や燃焼挙動を検証することができ、実飛行に向けた基礎的なデータの取得に用いられている。

武井

ご興味を持たれたきっかけは?

富岡

日本でスクラムジェットエンジンの研究が始まったのは1980年代で、教授から「スクラムジェットを研究してみないか」と提案されました。話を聞くと「火がつくかつかないか、0か1かの世界だ」と。そこで「これだ!」と思いました。やがて、学会でスクラムジェット研究の第一人者とされる方にお会いし、「角田はいいよ」と勧めていただき、1993年、新卒で角田宇宙センターに入所。30年以上経ち、最近やっと外部のお客さまから「この技術を社会実装したい」と言われるようになりました。

武井

長い道のりでしたね。

富岡

「やっとか」と思っています(笑)。自分自身の経験もあって、角田の施設を、組織の内外を問わず、宇宙に興味を持つすべての人に活用してほしいと考えています。実際、種子島宇宙センターの研究者が「角田じゃないとできない」と言って試験に訪れることもあります。外部の方にも、どんどん使ってもらいたいと思っています。

武井

富岡さんが、官民共創推進系開発センターのお話に熱がこもっている背景が見えてきました。

富岡

「閉ざされた研究所」と想像される方もいらっしゃるかもしれませんが、私自身は大歓迎です。さまざまな人が行き来することで、角田が再び「わいわい」と盛り上がる場所になる。そして、今はまだ想像もできないような形で宇宙開発を進めていくこと。それが私の理想です。

宇宙開発展示室の屋外に展示している大型液体ロケットエンジンは、一般向けに開放されていて自由に見学できる。写真は、LE-5。1975年から国内で開発された、液体酸素と液体水素を推進剤とした実用ロケットエンジン。

宇宙開発展示室の屋外に展示している大型液体ロケットエンジンは、一般向けに開放されていて自由に見学できる。写真は、LE-5。1975年から国内で開発された、液体酸素と液体水素を推進剤とした実用ロケットエンジン。

武井

僕が官民共創推進系開発センターを使う場面は今すぐには想像できませんが、でも、宇宙に関わる仕事はしたいと思い続けています。ひょっとすると、先ほど触れた、棒が伸び縮みする正体のよくわからないロボットが、いつか宇宙の領域とどこかで接続し得るかもしれない。そんな可能性も感じながら。

富岡

試験が必要な時には、角田宇宙センターには設備が揃っていますから。いつでもお待ちしています。

武井

ありがとうございます。私たちの暮らす場所と宇宙は、前提となる環境がまるで違います。だから、宇宙で使う技術やノウハウは一般的な生活には直接役立たないことが多いものですが、それでもなお、その領域に挑むこと自体にロマンがあります。宇宙固有の課題を解き明かしていく。考えただけでワクワクしてきます。

Profile

武井祥平

nomena創設者・エンジニア

武井祥平 TAKEI Shohei

1984年岐阜県生まれ。高専で電気工学、大学で認知心理学を専攻。2012年東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。同年、nomena設立。工学的な視座から前例のない表現の可能性を追求する活動を展開。主な受賞歴に、2024毎日デザイン賞(2025)、東京大学総長賞(2012)など。最近のマイブームは竹トンボづくり。

富岡定毅

角田宇宙センター所長

富岡定毅 TOMIOKA Sadatake

東京都出身。東京大学博士課程修了後、1993年、JAXAの前身である航空宇宙技術研究所(NAL)角田支所に勤務。ヴァージニア工科大学客員研究員などの経験を経て研究一筋の人生であったが、2024年より現職を拝命し日々奮闘中。趣味は料理(別名化学実験)であり至高の息抜きタイム。

撮影:竹之内祐幸
取材・文:吉田彩乃
編集:水島七恵

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