持続可能な宇宙利用をめざして。

持続可能な宇宙利用をめざして。
飛び交うスペースデブリにできること
宇宙を飛び交うごみ、スペースデブリ(以下デブリ)。運用を終えた人工衛星や、打ち上げロケットの上段、爆発や衝突により発生した破片などが、宇宙には1億個以上も存在する。
JAXAでは持続可能な宇宙利用に向け、さまざまな角度からデブリ対策に取り組んでいる。たとえば、デブリを観測し(1)、捕まえて取り除く(2)。あるいは、 打ち上げるロケットが自ら大気圏に再突入するよう設計したり(3)、運用中の人工衛星や国際宇宙ステーション(ISS)がデブリを避けたり(4)。将来的には 人工衛星にエネルギーを注入する(5)ことで、そもそもデブリを出さない方法も考えられている。※番号はトップのイラストに対応しています。
今回の特集では、特に「観測」「除去」「発生防止」焦点を当て、プロジェクトに取り組む5人の研究開発員に語ってもらった。
LOOK:軌道上にあるデブリを、観測する
JAXAが取り組むデブリ対策のひとつが、現在宇宙を飛び交っている人工物体を観測すること。JAXAでは「宇宙状況把握(Space Situational Awareness、以下SSA)システム」を使って、地球近傍のデブリを監視している。
24時間365日、地上から宇宙を見守る追跡ネットワーク技術センターで、SSAシステムの管理・運用を行う渡邊優人は「人工衛星は、私たちの生活のインフラを支えています。その人工衛星が飛び交う宇宙空間を安定的に利用するためには、『宇宙物体の見える化』が大事です」と言う。
「SSAチームでは、大きくふたつの役割を担っています。ひとつが、システムの司令塔である『SAKURA』の運用です。SAKURAでは、デブリの観測計画を作ったり、観測したデータからデブリの軌道を明らかにしたりしています。また、米国などから入手する情報に基づき、JAXAが運用している人工衛星へのデブリの接近が見つかった際に、各人工衛星のプロジェクトチームと連携してデブリ回避の支援をしています。そのほか、デブリが飛行する予定の軌道を計算し、いつ・どこへ地球の大気圏に再突入するか予測も行っています。

もうひとつの役割は、観測設備の管理・運用です。JAXAには美星(びせい)スペースガードセンターと上齋原(かみさいばら)スペースガードセンターという2つの施設があります。美星スペースガードセンターには、直径1mと直径50㎝の主鏡を持つ光学望遠鏡があり、通信衛星や気象衛星などがある静止軌道帯のデブリを観測しています。一方、上齋原スペースガードセンターは、高度200~1,000kmほどの地球に近い軌道帯を観測するレーダーがあり、これらの観測施設の整備や改良を行うことも私たちの仕事です」
渡邊の専門分野は、レーダーシステム。2020年にJAXAに所属するまでは、デブリ課題を身近に感じたことは多くなかったと言う。
「デブリに関する業務に携わって以来、デブリ課題は宇宙開発、宇宙利用において取り組むべきものだと、強く再認識するようになりました。今ではSSAシステムを中心に、デブリ観測に関わる全範囲を担当しています。課題に関わる業務に、自身の専門分野を活かして取り組めることに喜びを感じています」と語った。

REMOVE:軌道上を飛行するデブリを捕まえ、除去する
観測から捉えたデブリに、どう対処していくか。JAXAがさらに研究・開発を進めているのが「近づき、捕まえる」ことで、大型デブリの除去を行う技術だ。JAXAではこのプロジェクトを「商業デブリ除去実証(Commercial Removal of Debris Demonstration、以下CRD2)」と名付け、民間企業と共に進めている。
軌道上を飛行する物体を捕まえる。その技術は世界的にも確立されておらず、公開情報で確認できる範囲においては、まだ誰も成功したことがない。
「デブリは軌道上を秒速7~8km、弾丸のような速さで飛行しています。デブリと、それを捕まえる人工衛星がカーチェイスしているようなもので、とても難しい技術なんです」と、CRD2を担当する研究開発部門の佐々木貴広は言う。
「CRD2では、ふたつの段階に分けてデブリ除去の実証を行います。軌道上に長期間存在する『ロケット上段デブリ』をターゲットに、接近・撮影を行ったのがフェーズⅠ。こちらは株式会社アストロスケールが商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」を開発し、ターゲットであるデブリの撮影等を成功させ、JAXAの求める目的は全て達成しました。
現在挑戦しているのは、フェーズⅡです。そこで目指すのは、実際にデブリを捕まえて、将来大気圏に再突入していく軌道まで移動させてから、自分は安全な軌道に移動すること。2~3年後にはその人工衛星を打ち上げようと、必死に取り組んでいるところです」

写真:株式会社アストロスケール
佐々木と同じく、研究開発部門でCRD2を担当する日高萌子は、「デブリの課題には、やはり民間企業との協業も大切です」と話す。
「これまでは、 JAXAが研究開発の第一線で、新しい技術を生み出すことに注力してきましたが、今は開発した技術を使って、産業を生み出していくフェーズに変わってきています。民間企業にビジネスとして参入していただくことで、今後も継続的に課題となるだろうデブリ課題の担い手になっていただけたらと思います。CRD2は、新しい『協業』の形に挑戦するプロジェクトでもあるのです」
佐々木と同じく、研究開発部門でCRD2を担当する日高萌子は、「デブリの課題には、やはり民間企業との協業も大切です」と話す。
重ねて、佐々木は「デブリの課題は、宇宙開発に取り組む各国同士も歩調を合わせ協業していくべきもの。しかし宇宙が誰のものでもないからこそ、ルールやガイドラインの整備や、倫理観を擦り合わせていくのが難しい分野でもあります。その中で、世界で初めてデブリ除去に成功させることは、今後国際的なプレゼンスを高めることにもつながっていきます。日本が、持続可能な宇宙を作るリーダーとなるためにも、まずはCRD2を成功させ、デブリ除去技術を当たり前のものとしていきたいと思っています」と語った。
FOR SAFE:デブリを出さない、安全なプロジェクトを実現する
デブリ対策には「そもそもデブリを出さない」ための取り組みも重要となってくる。
最後に、JAXAが行うプロジェクトが、デブリ発生防止に配慮したものであるために、国際標準を話し合う会合や、JAXA内のプロジェクトチームが打ち上げ前に活用する評価システムを運用する、安全・信頼性推進部の佐藤健一、仁田工美に話を聞いた。
安全・信頼性推進部が開発するシステムは、主にふたつ。
ひとつは、デブリが地上に危険をもたらさないかを評価するツール「ORSAT-J」だ。佐藤は、2016年からこの開発に携わっている。
「ORSAT-Jは、デブリとなりうるロケット上段や運用が終了した人工衛星が、大気圏へ突入した際に完全に燃え尽きるのか、それとも地上に落ちてくる可能性があるのかを評価するものです。燃え尽きない場合は、地上のどこに落ちるのかが問題となるので、打ち上げ前の人工衛星やロケットに対して必ず評価を行うようJAXA内で説明会を行っています。
たとえば、大型ロケット上段のように大きな物体は、大気圏に突入しても溶けきらないと評価されています。主力のH3ロケットもその例外ではありません。そのときは世界地図と見比べて、落下する範囲を予測し、あらかじめ地上に住む人々に影響が及ばない場所に落とす運用をしましょう、とプロジェクトとやり取りを行います」
もうひとつ、JAXAで運用しているのが「TURANDOT」と呼ばれるシミュレーションツール。デブリの衝突による被害を予測するためのツールで、仁田が開発を担当している。
「このツールを使うと、たとえば、ある衛星が今日から1年後まで運用される際に、どのくらいの量・大きさのデブリと衝突する可能性があるのかを推定し、被害の度合いを推測できます。各プロジェクトメンバーに使ってもらい、打ち上げる宇宙機の素材や構造、運用計画を考えていただく上での情報を提供し、アドバイスするのが仕事です」
JAXAのプロジェクトを支援することで、より安全に宇宙利用が行えるように業務に取り組むふたり。仁田は重ねて「安全というのは、難しいミッションに挑戦しようとすればするほど、立ちはだかる壁のように思われやすい分野でもあります。だからこそ、私たちの仕事ではプロジェクトに寄り添う姿勢を大切にしています。生活者のみなさんには、ロケットの打ち上げやISSでの宇宙飛行士の活動に注目するだけではなく、持続可能な宇宙に向けた地道な取り組みが華やかな宇宙活動を支えているんだということを、まず知っていただけたら嬉しいです」と語った。
Profile

追跡ネットワーク技術センター SSAチーム 研究開発員
渡邊優人 WATANABE Masato
埼玉県出身。レーダーシステムを専門とし、スペースデブリに関する運用・設備維持管理・研究開発に従事。犬が好き、特に長毛種。大きなもふもふの犬を求めて、サモエドカフェに行きたい。

研究開発部門 CRD2プロジェクト
研究開発員
佐々木貴広 SASAKI Takahiro
大阪府出身。専門は、宇宙機の航法誘導制御。宇宙デブリ除去や深宇宙探査ミッションに参加。趣味のバックパッカーで、スペインのトマト祭りやタイの水かけ祭りなど世界中のお祭りに参加している。好きなポケモンはオノノクス。好きなジムリーダーはカツラ。

研究開発部門 CRD2プロジェクト
研究開発員
日高萌子 HIDAKA Moeko
茨城県石岡市出身。2020年の入社以来、デブリ除去に関する航法誘導制御や、衛星搭載用GNSS受信機の研究開発に従事している。CRD2プロジェクトでは、相対センサが使用できるまでのランデブフェーズを主に担当。多趣味が高じて、最近カメラを購入した。

安全・信頼性推進部
主任研究開発員
佐藤健一 SATO Kenichi
広島県出身。前職では化学関連企業でプラントの設計に携わっていたが、2016年にJAXAに入構し、安全・信頼性推進部にてロケット打上げ時の安全評価や、スペースデブリ規制ルール/宇宙の交通ルールの策定及びその国際調整に携わっている。趣味は読書と映画鑑賞。

安全・信頼性推進部
仁田工美 NITTA Kumi
神奈川県出身。電機メーカーにおいて真空遮断器等の研究開発、大学院での学位取得を経て2005年JAXAに入構し、帯電放電現象の研究、科学衛星プロジェクト、スペースデブリの防護及びその国際調整に携わっている。保護猫姉妹と暮らして14年。
イラスト:fancomi 文:熊谷麻那
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