Nancy Grace Roman宇宙望遠鏡からの観測データを受信するため
Nancy Grace Roman宇宙望遠鏡からの観測データを受信するため
美笹深宇宙探査用地上局での
システム整備が進行中
2026年度にNASAが打ち上げを予定しているNancy Grace Roman宇宙望遠鏡。
NASAの旗艦クラスミッションであるこのRoman計画に、
JAXAは国際協力パートナーとして参加し、Romanからの観測データを受信、
NASAに伝送する計画となっている。
この準備を進める美笹深宇宙探査用地上局の森 光太朗に現在の整備状況などを聞いた。
Nancy Grace Roman宇宙望遠鏡とは
NASAの大型旗艦計画として、2026年に打ち上げが予定されているNancy Grace Roman宇宙望遠鏡(以下、Roman)。
現在、宇宙ではハッブル宇宙望遠鏡(以下、ハッブル)やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(以下、JWST)などが活躍しているが、まずはこれら宇宙望遠鏡とはどんなものかを森に聞いた。
「宇宙望遠鏡とはその名の通り、宇宙空間で運用される望遠鏡。地球の大気の影響を受けずに天体観測できるのが特徴です。Romanは口径2.4mの大型宇宙望遠鏡で、主力装置である近赤外線の広視野観測装置WFI(Wide-Field Instrument)と、コロナグラフ装置CGI(Coronagraph Instrument)を搭載しています」
Romanの持つ広視野観測装置WFIは、ハッブル望遠鏡の装置と同等の測光精度・空間分解能で、その200倍の視野を持つ観測装置だ。これにより広い視野で遠くの銀河や超新星を精密・大量に観測することができる。一方でJWSTは、Romanよりも一回りほど大きい6.5mの口径を持ち、より高解像度で遠くの天体を詳細に観測したり、波長スペクトルを観測して天体までの距離や詳しい性質を調べたりすることができる。
「RomanとJWSTは兄弟のような関係で、広い視野を持つRomanが広大な宇宙空間から観測すべき天体や銀河を見つけ、それをJWSTで詳しく観測しにいくというような活用の仕方ができます」
宇宙のなりたちと、地球外惑星の存在を調査するRoman
では、2026年に打ち上げられるRomanには、どのようなミッションが課せられているのだろうか。
「Romanはたくさんの計画を実行予定ですが、なかでも大きなミッションがふたつあります。ひとつは銀河や超新星を観測し、ダークエネルギーの謎を解明するというものです。1920年代、宇宙が膨張していることが、ハッブルの観測によって発見されました。長年の謎であった『宇宙の様子(有限なのか、無限なのか、膨らんでいるのか、止まっているのか、しぼんでいるのか)』が解明されたのです。1990年代にその膨張が加速していると判明し、次の謎である『どのように膨張しているのか』が解決しました。しかし、まだ解明されていない謎があります。それが、『なぜ膨張が加速しているか』です」
宇宙が加速膨張している原因は、おそらくダークエネルギーと呼ばれるものの仕業だと考えられている。しかし、いまだにそのメカニズムは解明されていない。Romanは、数億個の銀河や数千個の超新星を精密に観測することで、ダークエネルギーが宇宙の形成・進化や、膨張にどのように関係しているのか調査しようとしている。
「Romanのふたつ目のミッションは、系外惑星の調査。簡単に言うと、『太陽系以外には、どのような惑星が存在しているのか』、その全体像を調べることに加えて、『地球のような惑星がどこかに存在していないか』を調べることです」
国際パートナーとして、日本の技術でRoman計画を支える
今回、JAXAはこのRoman計画にNASAの国際パートナーとして参加している。この計画におけるJAXAの役割について、森に聞いた。
「JAXAおよび日本の研究チームは、3つの面でRomanを支えていきます。ひとつは、コロナグラフ装置の部品である偏光観測を行うための光学素子と、コロナグラフマスクと呼ばれる部品の高精度のマスク基板を製作し、提供することです。コロナグラフ装置は、明るい中心星(太陽系でいうところの太陽)を隠すことで、その近くに存在する暗い天体を直接観測する装置であり、系外惑星の調査に使用される重要な装置。ここに日本の研究成果をもって協力をしています」
さらにふたつ目として、森は「日本の地上望遠鏡による協調観測」をあげた。
国立天文台「すばる望遠鏡(ハワイ)」によってRomanのダークエネルギー研究の成果を向上させることや、大阪大学のPRIME望遠鏡(南ア)で、Romanと同じマイクロレンズ現象を少し異なる地点から観測することで、より正確な系外惑星調査を行うことが期待されているのだ。
そして最後に森が語ったのが、自らが携わる「美笹深宇宙探査用地上局によるデータ受信」についてだ。
「ハッブルと同等の解像度で、200倍の視野を持つRomanの観測データは膨大になります。NASAもRoman専用ともいえる地上受信局を整備しますが、最大データ量から考えて30~50%ほどのデータしか受信できません。そこで、JAXA局、ESA局での受信が必要になるというわけです」
現在、JAXAの美笹深宇宙探査用地上局(以下、美笹局)では、Romanの観測データを受信するため、K帯受信システムの整備を進めている。
「K帯受信システムは、 Romanからダウンリンクされる信号(観測データ)を受信・復号し、NASAのゴダード宇宙飛行センターに伝送するシステムです。美笹局ではこれまで、ここまで大容量かつ高速のデータ受信をしたことがありませんが、今回の支援をよい機会として美笹局における支援の幅を拡大していく予定です」
Romanシステム全体の取りまとめ役として、2024年10月下旬から美笹局でさまざまなシステム試験を実施している森に、現時点での手応えを聞いた。
「現在は、各メーカで製造された装置や設備を美笹局に設置し、装置単体で試験が完了したものを、JAXAがインテグレーション試験と呼ばれる、システム全体を組み合わせて、想定通りに動作するかの試験を実施しています。試験期間中、一部の試験においてNASAの担当者も美笹局を訪れ共同で作業を実施します。今後、数ヶ月かけて美笹局内での全試験項目を実施し、最終的にはNASAのゴダード宇宙飛行センターと接続して疑似的な観測データを用いた伝送試験を行う予定です。なお、美笹局はそもそも機能の拡張を考慮した作りになっており、そのおかげで試験も非常にスムーズに進行しています」
Romanが、ダークエネルギーの謎に迫れるように
インテグレーション試験は、2025年3月までには終了予定となっている。その作業の真っ最中にある森に、目下の目標を聞くと「地上局の整備をしっかりと完了させることだ」と答えが返ってきた。
「もともと探査機の軌道を決定する仕事をしていた自分が、今、こうしてRoman計画に関わる業務を担当するようになり、人類がずっと解明できていなかった『宇宙誕生の謎、宇宙のなりたちの謎』を解き明かすためのサポートができています。実は、高校時代から『ダークエネルギーの謎』に興味を持っていた私にとって、今の状況は本当に運命的。国際的にも大きなRomanミッションを裏から支えられることは本当にうれしく、やりがいを感じています。日本の技術を持って、世界の天文学を発展させられるよう、最後まで力を尽くしていきたいですね」
自らの学生時代を思い返しつつ、森は最後に「Romanの成果によって、世界の子どもたちがますます宇宙に興味を持ち、ワクワクしてくれたら。そして、そのなかから宇宙に関わる仕事に就く人が出てくればうれしい」と語った。
Profile
追跡ネットワーク技術センター
研究開発員
森 光太朗(もり こうたろう)
神奈川県出身。DSS(Deep Space Station)開発チーム員。Roman計画ではRoman向けK帯受信システム整備のシステム全体の取りまとめを担当。趣味は自転車旅行、登山など。近頃、砂金掘りを始めたがいまだ一粒も採れず。
取材・⽂︓笠井美春 編集︓武藤晶⼦
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