ゲーム教材「LUNARCRAFT」、リリース

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LUNARCRAFTリリース画像

JAXAが作る、遊んで学べるMinecraftの新「月ワールド」

ゲーム教材
「LUNARCRAFT」、リリース

「宇宙が子どもたちの心に火をつける」をモットーに
多くの教材を制作してきた宇宙教育センターが、2023年12月、
新たなゲーム型デジタル教材「LUNARCRAFT(ルナクラフト)」を公開した。
月面をモチーフにしたこのゲーム教材では、一体どんなことが学べるのか。
制作を担当した宮崎直美、鈴木圭子に聞いた。

ゲーム内で体感することで、月の世界を学んでほしい

今回JAXAがリリースしたLUNARCRAFTは、世界中で人気のメタバースゲーム「Minecraft(マインクラフト)」に作られた新ワールドだ。LUNARCRAFTの設定は2050年の世界。ユーザたちは宇宙船に乗って「100人ほどが住むようになっているかもしれない月」に向かい、そして月の開拓をスタートする。

「『きみは将来どんな月面の世界を作りたい?』 とオープニングで語りかけるのですが、その言葉どおり、ゲーム感覚で自由に月ワールドを作ることができます。月面を探検し、思い思いの建物を作ったり、限りある資源を活用して開拓していくうちに、地球とは違う月の環境を自然と体験し学ぶことができる、そんなゲームになっています」

上:LUNARCRAFTオープニングシーン 下:宇宙船が月へ向かうシーン 上:LUNARCRAFTオープニングシーン 下:宇宙船が月へ向かうシーン
上:LUNARCRAFTオープニングシーン 下:宇宙船が月へ向かうシーン

宮崎はそうLUNARCRAFTの内容を説明し、制作のきっかけについて語った。

「きっかけは新事業促進部に届いた、外部からのアイデア提案でした。新事業促進部は民間企業の宇宙利用促進や、さまざまな機関とのビジネス共創などを進めている部署で、そこに『一緒にMinecraftに新しい月ワールドを作りませんか』というお話が来ていたのです。 一方、私たち宇宙教育センターでは、学校や教育施設などの教育現場で使用できる多様な教育教材を作る中で、『どうすれば子どもたちに楽しく宇宙を学んでもらえるか、そこから興味を喚起できるか』をつねに考えてきました。その視点において、『ゲーム上で月面環境を作り、プレイヤーにそれを体験してもらう』というこの提案は、とても面白いと考え、宇宙教育センターでの企画制作を進めることにしました」

さらに鈴木は、Minecraftを活用したこの提案について「Minecraftはすでに世界中に幅広いプレイヤー、ファンが存在するため、学校などの教育現場以外でも非常に多くの方にプレイいただき、夢中になってもらえる可能性があると感じた」と言う。

「何より魅力的に感じたのは、Minecraftの世界には正解がないことです。自分で考え、自分なりの答えを探していくというところがこのゲームの魅力であり、この点は月面環境や宇宙開発を学ぶことと、大変相性がいいのではと感じました」

JAXAならではのリアルな月面を再現

こうしてスタートしたLUNARCRAFTの制作は、宇宙教育センターだけでなく、たくさんの部署の協力を得ながら進められた。主なプロジェクトメンバーは宮崎と鈴木、そしてこの提案を宇宙教育センターに持ち込んだ新事業促進部やJAXAの衛星の観測データを取り扱う地球観測研究センター(EORC)の職員などだ。さらに外部からは日本初のプロマインクラフターのタツナミ シュウイチ氏やゲーム・メタバース制作企業からの協力を得た。

LUNARCRAFTトップ画像
LUNARCRAFTトップ画像

加えて、月面環境をよりリアルに再現するため、JAXAの月惑星探査データ解析グループ(JLPEDA)には、月の鉱物の組成や、月の表面構造などの監修を依頼。その他にも、2024年1月に月に着陸した小型月着陸実証機SLIM(スリム)や、今後打ち上げ予定の月極域探査機LUPEX(ルペックス)を登場させるなど、関連するあらゆる部署からの協力を得て制作を行った。

「LUNARCRAFTの世界は、2007~2009年に活躍した月周回衛星『かぐや』の取得したデータを軸に作られているので、現実に近い設定になっています。JAXAが作るからには可能な限りリアルな月面環境を作っていきたい。そんな私たちの思いに、多くの部署の皆さんが快く応えてくれ、JAXAならではのLUNARCRAFT、月ワールドを作ることができました」

上・下:LUNARCRAFTの描く2050年の月面 上・下:LUNARCRAFTの描く2050年の月面
上・下:LUNARCRAFTの描く2050年の月面

その言葉どおり、LUNARCRAFTの描く2050年の月面には、SLIMやLUPEXに加えて、月着陸船や月面ローバの姿もある。プレイヤーはゲームの中で、ローバに乗ってみることもできるのだと宮崎は語り、「こうした細かい再現ぶりをきっかけに、SLIMやLUPEXがどんなプロジェクトなのかにも興味を寄せてくれるとうれしいです」と続けた。

また、鈴木はLUNARCRAFTを作るうえでは、「地球との違い」「できないこと」にフォーカスしたと明かした。

「例えば、月の重力は地球の6分の1です。地球上と同じように動こうとしても動けない不便さがあり、それを味わうことで『6分の1の重力とはどういうことなのか』を学んでほしいと考えました。

その他にも、通常のMinecraftでは簡単に手に入る食料なども、やすやすと手に入るわけではありません。まず前提として宇宙船に積み込めるものの量には限りがあるので、食料や資源は少しだけしか積み込んでいないのです。つまり、それ以外の食料や資源は現地調達が必要です。でもそこは月ワールドなので動物も植物も存在しなければ、資源も限られたものしかない。じゃあどうする?と、自分自身で考え、必要なものを調達し、作り出していく。そういった点を面白がり、そこから月面環境を知っていただきたいと考えました」

LUNARCRAFTの学びにおけるキーワードは「不便さ」。それをゲーム内で体感することで、「月面環境を学んでほしい」とふたりは語った。

月を知るだけでなく、課題解決、チームプレイを学んでほしい

LUNARCRAFT は公開に先立ち、2023年11月にJAXA相模原キャンパスの特別公開で子どもたちに向けた体験ワークショップを実施した。そこで宮崎と鈴木は「子どもたちが夢中になっている姿に感動した」と言う。

特別公開でのLUNARCRAFT体験ワークショップの様子
特別公開でのLUNARCRAFT体験ワークショップの様子

「1時間は座学で月について学び、その後1時間ほどLUNARCRAFTをプレイしてもらいました。LUNARCRAFTの中で『農園を作ろう』などの課題を出し、それをチームで解決していく内容だったのですが、子ども同士が共同作業をとても楽しんでいましたね。LUNARCRAFTを通してチームメンバーに自分の意見を伝え、役割分担をしながら一緒に課題解決をしていくことを、楽しみながら学んでくれている姿に、とてもうれしくなりました」

ゲーム後のアンケートでは「月ワールドが面白かった」「チームみんなで楽しめた」という声が聞かれた。またワークショップが終わった後も残ってLUNARCRAFTをプレイする子どもたちがいたことに、ふたりは手応えを感じたと言う。

現在、宇宙教育センターのHPで公開しているLUNARCRAFTは、今後さらに、学校や社会教育の場での利用を促進する活動をしていく予定だ。

「学校の授業などで先生に使用していただくLUNARCRAFTのワークショップ用シナリオなどのリリース準備を進めています。また、科学館、自治体における社会教育でも使用していただけるよう、活用サポート活動や、認知度向上にも力を注いでいきたいですね」

めざすのは「面白い!から子どもの好奇心に火をつけていくこと」。いつの日か、JAXA職員や宇宙に関する仕事に携わる若者から「LUNARCRAFTをきっかけにこの世界に入った」という声が聞けるとうれしいとふたりは語った。

※現在「LUNARCRAFT」はパソコン版Minecraftにて楽しむことが可能です。詳しくはこちらからご確認ください。
https://edu.jaxa.jp/contents/other/game/LUNARCRAFT/

※本製品はMinecraft 公式の製品ではありません。Mojang または Microsoft から承認されておらず、Mojang または Microsoft との関連性もありません。
※NOT AN OFFICIAL MINECRAFT PRODUCT. NOT APPROVED BY OR ASSOCIATED WITH MOJANG OR MICROSOFT.
※Mojang ©2009-2024.「Minecraft」は Mojang Synergies AB の商標です。

Profile

宮崎 直美

宇宙教育センター
社会教育⽀援担当
宮崎 直美(みやざき なおみ)

横浜市出身。宇宙教育センターでは地域や企業と連携して宇宙教育を広める社会教育担当。科学館、自治体などで開催する宇宙教育教室の支援や指導者の育成、企業と連携した教材開発などを担う。いま一番の癒しは5羽の文鳥とのふれあいタイム。

鈴木 圭子

宇宙教育センター
学校教育⽀援担当
鈴木 圭子(すずき けいこ)

新潟県出身。宇宙を素材として教育に活かし健全な青少年の育成に役立ててもらうべく、学校の授業づくりや先生方のお手伝いをする学校教育支援を担当。最近の趣味はピアノで昔のアニソンとボカロを弾くこと。

取材・⽂︓笠井美春 編集:武藤晶⼦

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