地球を見守る衛星が観測した2023年の夏

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海面水温・海氷・陸地にも猛暑による変化が

地球を見守る衛星が観測した2023年の夏

2023年の夏は、日本各地で災害級の猛暑となり、世界でも最高気温を記録するなど、
地球規模の温暖化を肌で感じる夏だった。

そんななか、地球の変化を人工衛星で観察し続けている第一宇宙技術部門では
特設サイト「気候変動2023」をオープン。
このサイトの記事制作に携わった吉澤枝里と中田和輝に、
「2023年の夏、地球に何が起こっていたのか」を聞いた。

海と陸の変化をとらえる 地球観測衛星

2023年の夏、地球は異常な暑さを経験した。WMO(世界気象機関)は、2023年7月が地球において観測史上最も暑い1カ月だったと報告し、これを受けてアントニオ・グテーレス国連事務総長は「地球温暖化」ではなく「地球沸騰化」の時代が来たと警鐘を鳴らした※①。

「なぜ、地球はこんなにも暑くなったのか」
現在、世界各国のさまざまな機関がそれを解き明かそうとしているが、そこで利用されているデータのひとつが人工衛星による地球観測データである。第一宇宙技術部門の吉澤は地球観測衛星のとらえた2023年夏のデータについてこう語った。

「JAXAでは陸地、海洋、大気の状態を観測するために複数の地球観測衛星を運用しており、この夏の暑さは衛星の観測データにも表れていました。例えば日本近海の海面温度が上昇したまま下がらない状態が続いている、南極域の海氷が例年よりも少ない状態になっている、世界の各地で熱波が発生しているなど、例年に比べて明らかに変化していたんです」

これを受けて、第一宇宙技術部門では特設サイト「気候変動2023」を開設した。従来からさまざまな分野での利用を目的として、「G-Portal」(地球観測衛星データ提供システム)で多くのデータを無償提供してはいたが、そのうえで今回は「さらなる情報提供を」と、猛暑に関する観測データを詳しくサイト内で紹介しているのだと吉澤は説明した。

「特設サイトでは、海面水温・海氷・陸地の3つをテーマに記事を公開しました。地球規模での気候変動に関心が集まっている今、衛星の観測データの変化を見ていただくことで、地球環境の変化にさらに興味を持ってほしいと思っています」

「しずく」がとらえた海面水温の高温化

JAXAが取得している衛星データにおいて、この夏、特に大きな変化が見られたのは、水循環変動観測衛星「しずく」によって取得された、海面水温のデータだったと、吉澤は言う。

「『しずく』は、地表や海面、大気などから自然に放射される『マイクロ波』と呼ばれる電磁波を観測することができる衛星です。海面から放射されるマイクロ波の強度を測定し、0.5℃の精度で海面水温を観測することができます。この『しずく』が、2023年の3月以降から地球全体の海面で高温状態が続いていることをとらえていました」

全球(南緯60 -北緯60度)の月平均海面水温の季節変化の推移
						観測衛星:Aqua/AMSR-E (2002年6月-2011年9月)、「しずく」GCOM-W/AMSR2(2012年7月-)(2011年10月-2012年6月は観測無し)
全球(南緯60 -北緯60度)の月平均海面水温の季節変化の推移
観測衛星:Aqua/AMSR-E (2002年6月-2011年9月)、「しずく」GCOM-W/AMSR2(2012年7月-)(2011年10月-2012年6月は観測無し)

さらに夏になると日本近海、特に東北・北海道沖で平年より5℃以上も高い海面水温を観測。通常は常磐沖から東へ向かう黒潮続流が、三陸沖まで北上したことが、東北・北海道沖の高水温をもたらしたと言われている。

日本近海(北緯20-50度、東経120-160度)における
						2023年7月のAMSR2月平均海面水温の平年差分布
						(平年値はAMSR-E、AMSR2観測で取得された月平均値より計算)

平年との差(℃)

日本近海(北緯20-50度、東経120-160度)における2023年7月のAMSR2月平均海面水温の平年差分布
(平年値はAMSR-E、AMSR2観測で取得された月平均値より計算)

「この高水温は、今年、北海道を含む北日本に記録的な猛暑をもたらした要因のひとつである可能性が高いと言われています※②。さらに地球全体の海面水温の観測データによると、世界各地で異常気象を引き起こすきっかけになり得るエルニーニョ現象も、この夏には発生していました」

(1)2023年8月22-26日の5日平均海面水温の平年差
						(□で囲まれた海域はエルニーニョ監視海域を表示)、
						(2)エルニーニョ監視海域での5日平均海面水温の平年差の時系列。
						(平年値は気象庁が公開している月平均海面水温(1991-2020年)をもとに計算)
(1)2023年8月22-26日の5日平均海面水温の平年差(□で囲まれた海域はエルニーニョ監視海域を表示)、
(2)エルニーニョ監視海域での5日平均海面水温の平年差の時系列。
(平年値は気象庁が公開している月平均海面水温(1991-2020年)をもとに計算)

エルニーニョ現象とは、赤道太平洋東部の海面水温が平年より高くなり、その状況が1年以上継続する現象のこと。これが日本だけでなく、世界各地で発生している異常気象にどのように影響をしているのか。その詳しいメカニズムはまだ解明されておらず、現在、さまざまな機関がこれを解き明かそうとしている。

これをふまえ、「JAXAは今後も地球観測を継続し、蓄積した観測データを広く提供していくことで、気候変動研究に貢献していきたいと考えています」と吉澤は語った。

変化する南極域の海氷面積

この夏では、「南極域の海氷面積にも異常な変化が見られた」と、吉澤に続いて、中田は説明した。

「『しずく』は日本近海だけでなく、北極域と南極域での海洋観測も行っています。これまで、北極域における海氷の減少はよく語られてきましたが、南極域の海氷はあまり変化がなかったために注目されてきませんでした。しかし2023年9月(南極域では冬)、もっとも拡大する時期での南極域の海氷面積が、衛星観測史上の最小値を記録するなど南極域にも変化が見られました」

AMSRシリーズの観測データから取得された年代ごとの南極域の海氷面積の季節変化
AMSRシリーズの観測データから取得された年代ごとの南極域の海氷面積の季節変化

南極域の海氷面積のデータに変化が見られ始めたのは、2016年頃だった。下の図のようにその後の2017年2月には過去最小値を記録。その後も海氷面積は低いまま停滞し、2022年、そして2023年と続けて過去最小値を更新した。

上:南極域の海氷面積の年最小値の推移
						下:海氷面積の過去最小を引き続いて更新した2022年と2023年の2月に
						AMSR2が観測した海氷密接度分布
上:南極域の海氷面積の年最小値の推移
下:海氷面積の過去最小を引き続いて更新した2022年と2023年の2月にAMSR2が観測した海氷密接度分布

「こうした南極域の海氷減少は、温室効果ガス排出に伴う長期的な南極海の温暖化によってもたらされている可能性がある、と最近では指摘している研究者もいます※③」

南極域の海氷減少は、地球全体の海面上昇や、海氷で生活をする動物の生態系に影響を及ぼす可能性がある。

「南極域の海氷減少が原因で、皇帝ペンギンのヒナが、ベリングスハウゼン海のあるコロニーで全滅していたとの報告もあります。地球環境、そして生態系を守るためにも、私たちは衛星観測をもって、海氷減少の原因特定、今後の動向把握に貢献していきたいと考えています」と中田は語った。

(1) 2023年6月3日、(2) 2023年9月9日にAMSR2が観測した南極域の海氷密接度分布
						図中の灰色領域は南極大陸を表し、白線は過去45年間の海氷域のそれぞれの日における
						平均的な拡がりを表している。
						(1)では黄丸で示す海域で顕著な海氷損失が見られる。
						3カ月経過した(2)の分布においても全体的に張り出しが弱い状態が続いている
(1) 2023年6月3日、(2) 2023年9月9日にAMSR2が観測した南極域の海氷密接度分布
図中の灰色領域は南極大陸を表し、白線は過去45年間の海氷域のそれぞれの日における平均的な拡がりを表している。
(1)では黄丸で示す海域で顕著な海氷損失が見られる。
3カ月経過した(2)の分布においても全体的に張り出しが弱い状態が続いている

「しきさい」の観測データを
熱波および大気汚染の状況把握や対策に

最後に「2023年の地球は、海だけでなく、もちろん陸上の観測データにも変化が起きていた」とふたりは語る。この変化をとらえていたのが気候変動観測衛星「しきさい」だ。

「地球全体の高温化が進んでいる昨今、地球のさまざまな地域で熱波が発生し、森林火災が起こりやすい状況が続いています。そういった状況を検知できるのが『しきさい』のデータです」

例えば、『しきさい』が2018年から蓄積してきた地表面温度データを用いることで、熱波や森林火災がどこで発生しやすくなっているかなどの傾向を分析することができます。また、実際に森林火災が起きている場所の検知や、火災に伴う煙の広がり方などを観測できるため、これを被害軽減に活かすことができるかもしれません」

そのほか、「『しきさい』は人為起因のエアロゾルの観測もできるため、大気汚染の状況把握、対策にも活用できる」と、ふたりは言う。「気候変動2023」では、こうした陸上の衛星観測データについても、詳しく紹介している。

しきさいで観測された2023年5月の地表面温度の偏差画像
						カナダ北部で平年+10℃程度高い地表面温度が観測され、
						大規模な森林火災の発生も確認された(RGB画像)
						(第一宇宙技術部門EORC 棚田和玖研究開発員提供)
しきさいで観測された2023年5月の地表面温度の偏差画像
カナダ北部で平年+10℃程度高い地表面温度が観測され、大規模な森林火災の発生も確認された(RGB画像)
(第一宇宙技術部門EORC 棚田和玖研究開発員提供)

「地球をあらゆる角度から見守るデータがJAXAには蓄積されています。ぜひ今後もたくさんの方に利用していただき、そこから、例えば地球環境の保全や、皆さんのよりよい生活に貢献できればうれしいです」

2023年、このように特別な夏を経験した地球は、今後どうなっていくのか。

「海面水温・海氷・陸地」の3つをテーマに、「気候変動2023」を公開したJAXAでは、今後も継続して地球を見守り、観測データを蓄積していく予定だ。

Profile

塚脇 幸太

第一宇宙技術部門
地球観測研究センター
吉澤 枝里(よしざわ えり)

埼玉県出身。主に北極海の海洋物理学が専門で、海洋・海氷監視のための衛星アルゴリズム開発に従事。学生時代に携わってきた船舶観測とうまく組み合わせて、両者の効果の最大化を目指す。休日は初めて購入した車で運転練習。

齊藤 慧

第一宇宙技術部門
地球観測研究センター
中田 和輝(なかた かずき)

北海道出身。衛星リモートセンシングを専門とし、ArCSII(北極域研究加速プロジェクト)の衛星データ利用支援業務に従事。また、衛星データからの海氷物理量推定手法の開発に携わる。趣味はキャンプでまったり過ごすこと。

取材・⽂:笠井美春  編集:武藤晶⼦

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