ゲームで学べるデジタル教材をリリース

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デジタル教材のイメージ

ひとり一台の教育現場に対応

ゲームで学べるデジタル教材をリリース

2023年、宇宙教育センターは2つのゲーム型のデジタル教材をリリースした。
題材となったのは、実際のJAXAプロジェクトである
火星衛星探査計画(MMX)と小型月着陸実証機(SLIM)だ。
PC・タブレット端末で利用できるこの教材について、
開発やリリースに携わった塚脇幸太と丸岡新吾に話を聞いた。

ゲームの中で、宇宙探査を疑似体験できる教材に

新型コロナウイルスの流行を機にGIGAスクール構想(文部科学省による全国の児童・生徒へ一人一台端末と高速大容量通信ネットワークを整備する取り組み)が前倒しされ、公立の小・中学校ではPC・タブレット端末(GIGA端末)が一人一台支給されるようになった。こうした流れを踏まえてリリースしたのが、宇宙教育センター初のゲーム型教材「火星衛星探査計画MMX 君もJAXAのエンジニア」(2023年3月リリース)(以下、MMXゲーム)と「SLIM:THE PINPOINT MOON LANDING GAME」(同年6月リリース)(以下、SLIMゲーム)だ。

MMXゲームのサムネイル
MMXゲームのサムネイル
SLIMゲームのサムネイル
SLIMゲームのサムネイル

「宇宙教育センターでは、『宇宙が子どもたちの心に火をつける』をモットーに、2005年以降、学校教育支援などを中心に、子どもたちの教育に力を注いできました。そんななかで湧き上がったのが、子どもたちが持つPC・タブレット端末を使って学べる教材を作れないかという思い。そこからゲーム型教材の開発がスタートしました」

そう語るのは、MMXゲームの開発に携わった塚脇。MMXゲームとSLIMゲームの特徴や狙いについても聞いた。

「この教材の大きな特徴はゲームを通して学べること。ゲームの中でミッションをクリアすることで宇宙探査がどう行われているかを疑似体験できる仕組みになっています。ゲームに夢中になっていたら、いつの間にか宇宙が学べる。そんな教材をめざしました」

学校の授業での活用はもちろん、ゲームだからこそ休み時間や帰宅後などでも利用できる教材になっている。

「題材としてMMXとSLIMを選んだ理由は、両プロジェクトともに2023年~24年度を打ち上げ予定としていて、まさに開発が佳境に入っているから(※SLIMは2023年9月7日に打ち上げられました)。それぞれ、どのようなプロジェクトで、なにが行われようとしているか、これをきっかけに多くの子どもたちに知ってほしいです」

プロジェクトメンバーも開発に加わったからこそ、リアルなゲームに

では、ゲーム自体はどのような内容なのだろうか。MMXゲームは、スタート画面を開くとすべてフリガナが振ってあり、小学生でも自分で読んで進められる。MMXのミッションは「火星の衛星、フォボスに行ってサンプルを持ち帰ってくる」こと。ゲームの中ではこれを成功させるために、自らが探査機の設計者となり、サンプルやデータを無事に持ち帰ることのできる機体の設計をしていく。

ステップ3までのうち、ステップ	1では部品を選び火星の周りまで行く探査機を設計していく
ステップ3までのうち、ステップ1では部品を選び火星の周りまで行く探査機を設計していく

SLIMゲームは少し対象年齢が高く、小学校高学年から中学生向きだ。ゲーム内容は、SLIMが月面着陸をするために使う、スイングバイという技術(天体の動きや重力を利用して探査機の速度や向きを変える技術)を体験するもの。スイングバイで月に向かう最適なルートを設計する。

(各ステージ画面)できるだけ燃料を制御してスイングバイを行い月面に着陸する
(各ステージ画面)できるだけ燃料を制御してスイングバイを行い月面に着陸する

「MMXゲームの面白さは、ミッションに応じた部品を選び探査機を設計するプロセスを学ぶことができる点。飽きさせない工夫としてパーツ図鑑なども作り、パーツを収集する楽しみをプラスしています。またSLIMゲームは、文字だけでは理解しづらい軌道の考え方や探査機の運用をゲーム内で学ぶことができ、試行錯誤することでより深い学びが得られます。さらに選択した軌道によりランクが決まるなど、ランクアップを狙って何度も遊べる仕組みになっています」

JAXAならではと言えるのは、ゲームの題材が実際のプロジェクトであり、さらに、ゲーム内のミッションなども「リアリティ」を追求している点だと塚脇は言う。

「ゲームの開発にあたっては、MMXやSLIMのプロジェクトメンバーに入ってもらい、実際のミッションに沿った内容にしました。ゲームだからこそ、楽しく学べることはもちろん、正しい内容を知ってもらうことも重要です。開発においては、楽しく学べることとリアリティの追求、このバランスを取ることが難しかったですね」

図3
図4

MMX探査機(左)とSLIM(右)のイメージCG

続いて、ゲーム型教材の利用拡大を担当する丸岡もこの教材のメリットにも触れた。

「ゲーム型教材の良い所は、子どもたちが能動的に学べることです。自分で選択してゲームを進めていく。時にわざと間違えて、その結果何が起こるのかを知ったり、別の選択肢から得られる未来を体験したり。宇宙を題材として、受け身でない学びを今後も提供していければと思っています」

誰でも、どこでも学べるデジタル教材を強化したい

これらゲーム型教材の今後の活用や、利用機会の増進について聞くと、丸岡は、今後さまざまなアプローチを検討していると語った。

「ゲーム型教材は、今まで以上に、たくさんの子どもたちに楽しんでもらえる可能性をもっています。JAXAのイベントなどで体験してもらうと、とてもいい表情で取り組んでくれるんです。ワクワクしながら、宇宙活動を知ってもらえるこの教材をもっと広めていきたいですね。今後はゲームに触れてもらう機会を増やすべく、学校や科学館、展示会などでの活用を促進していきたいと考えています」

イベントでMMXゲームを楽しむ子どもたち
イベントでMMXゲームを楽しむ子どもたち

また丸岡は、これからの教材開発について、「宇宙教育センターはEducation for Allを掲げ、学びたいという意欲のある人が誰でも宇宙を学ぶことができる環境を整えていこうとしています。そのなかで、インターネットと端末さえあればいつでもどこでも学べるデジタル教材は、ゲーム以外にもYouTubeやPodcastなどさまざま方法があるので、さらに強化したい領域です」と続けた。

すでに、新たなゲーム型教材や映像教材なども開発中だと明かしたふたり。「今後どのようなデジタル教材が誕生するのか、楽しみにしていてください」と語った。

Profile

塚脇 幸太

宇宙教育センター
塚脇 幸太 (つかわき こうた)

神奈川県出身。学校教育の支援を担当。教育現場に対する宇宙教育の実践例や教材の紹介、および、教材開発等に従事。趣味はラーメン屋探訪、テニス、スノーボード。雪山から眼下に広がる景色を堪能した後、滑走するのが醍醐味。

齊藤 慧

宇宙教育センター
丸岡 新吾 (まるおか しんご)

大阪府出身。宇宙教育の国際連携事業や、デジタル教材を用いたSTEAM教育プログラムを担当。休日は小学生の長男(鉄道ファン)と遊ぶことが多い。最近では特急列車や保守車両についてなど、子どもから新たに学ぶことが増え、その成長を日々感じている。

取材・⽂:笠井美春  編集:武藤晶⼦

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