ミッションに向けて運用管制室をリニューアル

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リニューアルされたHTV-X運用管制室

宇宙に物資を運ぶ新型の無人宇宙船HTV-X

ミッションに向けて運用管制室をリニューアル

国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶことを目的に
開発が進められている新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)。
その開発と並行して運用管制室のリニューアルを実施した。
生まれ変わった運用管制室、およびこのプロジェクトについて
プロジェクトメンバーの齊藤 慧と開出 理砂に話を聞いた。

「こうのとり」の意志を受け継ぐHTV-X

現在JAXAが開発中のHTV-Xは、「こうのとり」と呼ばれた先代の宇宙ステーション補給機(HTV)の意志や技術を引き継ぐ機体だ。2009年から活躍し、多くの物資をISSに運んできた「こうのとり」が2020年に運用を終了して以降、新しい補給機は待ち望まれてきた。

この新しい補給機の運用を担うのが、運用管制を行う運用チームと技術評価を行う技術チームの2チームで構成されるHTV-X運用部隊だ。

「HTV-Xの主なミッションはISSへの物資輸送です。運ばれる物資は、ISSでの研究や実験などに必要な機器や、宇宙飛行士の生活を支える食糧など。『こうのとり』よりも構造を軽量化し、物資をたくさん運べるように進化しています」
曝露カーゴと呼ばれるISS船外で使用する機器を搭載するための機体システムの開発とインテグレーションを担当している齊藤は、HTV-Xについてそう語る。

新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)のイメージCG
新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)のイメージCG

打ち上げ後の地上システム運用管制や、HTV-X運用のためのソフトウェアの開発を担当する開出は、HTV-Xの特徴についてさらに続ける。
「HTV-Xの与圧モジュールでは、荷物の積み込みが打ち上げの24時間前までできるようになり、『こうのとり』時代の80時間前から大幅に短縮されます。また、電源供給が必要な荷物も搭載できるようになります。これにより打ち上げ直前に実験条件を整える必要がある実験サンプルや、電源供給が必要な冷蔵庫なども積み込み可能になります。さらにISSに荷物を届けた後、最長で1年半は軌道上で実験に取り組めるようになりますし、将来は月周回有人拠点(ゲートウェイ)への物資輸送に対応するなど、今後の宇宙開発への貢献が期待されています」

機能性とチームワークの向上を叶える運用管制室へ

HTV-Xの開発と並行して実施されたのが、運用管制室のリニューアルだ。
運用管制室といえば、宇宙船の運用を支える大切な役割を担う場所だが、今回のリニューアルは一体どのような内容だったのだろうか。

「リニューアル前の運用管制室は、『こうのとり』の時代から14年ほど使われていて、運用チームと技術チームのふたつの部屋に分かれていました。今回のリニューアルではこれをひとつの部屋に改装し、どこで何が行われているのかチーム全体で共有しやすいようにしています。リニューアルの目的はコミュニケーションの円滑化。チーム力の向上です」

開出はこのように語り、リニューアルにおいては「新しくするならば、誰もがモチベーション高く集中して仕事ができる場所にしたい」と機能性はもちろん、快適さ、デザイン性にも配慮したという。何度もメンバーにアンケートをとり、それぞれの意見を取り入れながら内装デザインを決定。どのような什器、音声端末、機器をそろえれば仕事をしやすい環境が作れるのかを考えた。

「リニューアル後の運用管制室は横長になり、どの席からも見やすいように正面に大きなディスプレイを並べて配置。壁面が黒なので、部屋に入ると気が引き締まります。私の席は後方の隅なのですが、顔を上げるとメンバーがどんな動きをしているかが一目瞭然で、以前よりも各チームの状況や空気感を肌で感じられるようになりました」

そう語る開出は、「日によっては8時間以上を運用管制室で過ごすからこそ、集中力を維持できる環境と居心地が大切」と続ける。また、緊急事態に素早く連携して対応するために「チーム内で何が起きているかを全員が把握できるような各担当の配置はとても重要」と続けた。

工事には約2カ月かかり、完成したときは達成感があったと振り返る。
「リニューアルされた運用管制室で初めて訓練に臨んだ日には、一丸となってミッションを成功させよう、と改めて感じました」

HTV-X運用管制室リニューアル工事完成までの様子

ユニフォームやロゴも一新し、より一体感のあるチームへ

HTV-X初号機のミッション・マーク

HTV-X初号機のミッション・マーク

チームワークを大切するHTV-Xプロジェクトでは、運用管制室のリニューアルとともに進めてきた施策がある。それが、「ミッション・マーク」と「ユニフォーム」を新たにすることだ。

「JAXAではプロジェクトごとにミッション・マークを作るのですが、HTV-XのマークはISSに向かうHTV-Xの姿を中心に、宇宙空間には9色の星が輝いているデザインです。これは9号機まであった『こうのとり』の各号機のミッション・カラー。先代の意志を受け継ぎ、ISSの先に描いた月や、さらにその先の未来につな げようという思いを込めました」

このミッション・マークが胸に施された「ユニフォーム」も、従来のウェアから大幅に改良された。

「これまでは作業着という感じが強かったのですが、HTV-Xのユニフォームは、運用管制室と同じ黒が基調のデザイン。軽量で長時間着ていても苦にならず、動きやすいので集中力が高まります。訓練などの際は全員がこれを着用し、一体感を持って臨んでいます」

最近では、NASAとの合同訓練などもスタートしているが、NASAメンバーからも「着用したい」と声がかかり、実際に着ているメンバーもいると齊藤は言う。

「HTV-Xの運用は、ISS全体の運用を担うNASAとの協力が必要不可欠です。こうして同じユニフォームを着ることで、団結力も一層深めていければと考えています」

新たに改良されたユニフォーム
新たに改良されたユニフォーム

ともにJAXAに勤めて3年目で、HTV-Xが人生で初めての宇宙機の開発と運用になる齊藤と開出。今後ふたりは、打ち上げに向けて、さらに厳しい訓練や運用準備に挑んでいく予定だ。

「今は、緊張感とワクワクする気持ちが共存しています。多くの方に『こうのとり』の愛称で親しまれてきた先代HTVのように、HTV-Xもたくさんの方に応援していただける存在になるよう頑張っていきたいです。そのためにも、まずはメンバー全員がワンチームとなってミッションを成功させたいです」

運用管制室での仕事風景
運用管制室での仕事風景

Profile

齊藤 慧

有人宇宙技術部門
有人宇宙技術センター研究開発員
開出 理砂(かいで りさ)

東京都出身。情報システムを専門とし、HTV-X運用管制システムの開発に従事。HTV-X運用管制用ソフトウェアの開発や管制室の機能整備等を担当している。趣味は楽器を演奏すること、カレーの名店を巡ること。

齊藤 慧

有人宇宙技術部門
新型宇宙ステーション補給機プロジェクトチーム
研究開発員
齊藤 慧(さいとう けい)

東京都出身。構造系分野を専門とし、HTV-Xプロジェクトの曝露カーゴのインテグレーション業務等に従事。HTV-Xで実証予定のドッキング機構の開発にも携わる。趣味はゲームでRPGの世界に浸かること、実家の猫と遊ぶこと。

取材・⽂:笠井美春  編集:武藤晶⼦

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