月極域探査機(LUPEX)プロジェクトが進行中

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月極域探査機(LUPEX)プロジェクトのイメージCG

インドと協働で「月に水はあるのか」を調査

月極域探査機(LUPEX)プロジェクトが進行中

近年、国際的に月探査の動きが活発化しており、
JAXAもインド宇宙研究機関(ISRO)とパートナーシップを結び、
月極域探査機(LUPEX)プロジェクトに取り組んでいる。
なぜ今、人類は月を目指すのか。そこでどんな調査をしようとしているのか。
プロジェクトメンバーの井上博夏と藤岡夏に話を聞いた。

国際協働で月の極域をめざす

月極域探査機(LUPEX)プロジェクトは、月の水などの資源探査と、月での表面探査技術の獲得を目的とする取り組みだ。国際協働プロジェクトとして、JAXAが月面を走るローバ(探査車)を、インド宇宙研究機関(以下、ISRO)がローバを運ぶ着陸機を担当。NASAや欧州宇宙機関(ESA)の観測機器もローバに搭載される。

現在、アルテミス計画(月に再び宇宙飛行士を送り、月面に滞在して持続的な探査活動を行うことを目指す米国主導の計画)に代表されるように、国際的に月への関心が高まっている。その理由について、LUPEXプロジェクトで国際協力や着陸候補地の選定などを担当する井上が説明する。

「近年、さまざまな観測データの解析結果により、月極域に水があるのではないか、といわれるようになりました。月極域とは、いわゆる月の北極および南極周辺のことです。この地域にもし水が⾒つかれば、将来月で人類が活動する際のエネルギー源として利用できるかもしれません。そういった理由から、各国が月探査への取り組みを積極的に進めています」

このような国際的な流れの中、LUPEXプロジェクトの意義について、ローバの開発を担当する藤岡はこう語る。

「LUPEXプロジェクトでは月にある水の量や質を調査します。このデータを、将来、月面における人類の持続的な活動の検討材料として役立てたいと考えています。また、月面の過酷な環境下でも作動するローバや着陸機の技術の獲得は、宇宙探査を進めていくうえでとても重要です」

月面を観測するイメージ動画

計測や走行に高度な技術を持つ、ローバの開発

JAXAが開発しているローバは、自走して水がありそうな地域を探し、ドリルで地面を掘って土壌をサンプリング。採取したサンプルをローバに搭載した観測機器で詳細に分析し、データを取得する計画になっている。

「今回ローバに使っている、レゴリス(月の砂)の含水率を測る機器、掘削およびサンプル採取をする機器、その他、走行系やバッテリー部分には、世界初や世界最高水準の技術もあります。それらの機器を積んだ数百㎏級のローバを月に運んで動かすこと、そして、採取したサンプルをその場で計測するという挑戦的なプロジェクトです」

現在はローバの基本設計フェーズに入っているという藤岡。試作品を作り、走行試験を重ねる中で、苦労することも多いと話す。

走行試験の様子

走行試験の様子

「走行試験では、月の砂に似せた砂を実験場に敷き詰め試作品を走らせています。どのくらい柔らかいと実際の月面に近いのか、どのくらいの凹凸であれば進むことができるのかを何度も調整、検討しています。また、クローラ(ローバのタイヤにあたる部分)の沈み具合なども慎重に評価し、微調整を繰り返しています。簡単に答えは見つからないですね」

ISROとのパートナーシップ

一方井上は、ISROとの調整を進めている。

インド出張時の様子(前列右から2人目が井上)

インド出張時の様子(前列右から2人目が井上)

「ISROは月の周回衛星の運用や月着陸機の開発を行うなど、高い技術力を持っています。LUPEXプロジェクトではISROが今まで開発してきた月面ローバよりも一回り大きなローバを作る予定です。JAXAの持つローバや計測、解析技術などを合わせて、国際的にもインパクトのある内容にしたいと考えています」

コロナ禍によりオンラインでの会議が続いていたが、先日インドに出張してきたという井上。

インドでの打ち合わせの様子

インドでの打ち合わせの様子

「開発の進捗・方向性や、JAXAのローバとISROの着陸機の接合部分をどう作っていくかなどを直接話せたことで、有意義な会議になりました。今後は、各分野のワーキンググループでオンライン会議を重ねつつ、対面の機会も定期的に持つ予定です」

LUPEXプロジェクトが照らす未来とは

打ち上げについては2024年度以降の予定となっているLUPEXプロジェクト。今後の動きについて井上はこう話す。

「私の担当領域で⾔えば、具体的な着陸地点を決めていく必要があります。現在、⽉の南極域に着陸を予定しています。この地域は⽔が存在する可能性が⾼いと⾔われていますが、日照や通信条件が良好、かつ平らな着陸しやすい場所がとても限られています。そのため、他国と着陸地点が被る可能性があることから、最適な場所を⾒極めたら、早期の表明をめざしたいですね」

⽉の⽔について詳しいデータが得られれば、⽉で暮らせる可能性だけではなく、⽔を使って⽉でエネルギーを作り、さらに遠くの天体に⾏くことが可能になるかもしれない。⼈類の活動領域の拡⼤に向けて開発は進んでいる。

*LUPEXプロジェクトの進捗はSNSでも随時発信中。
https://twitter.com/lupex_jaxa

Profile

井上 博夏

国際宇宙探査センター
月極域探査機プロジェクトチーム
研究開発員
井上 博夏(いのうえ ひろか)

神奈川県出身。制御工学分野を専門とし、LUPEXプロジェクトの着陸地点解析やローバの広域経路計画等に従事。また、ローバ運用のための地上システム開発に携わる。美味しいものを食べること、ゲーム配信やアニメを見ることが日々の楽しみ。

藤岡 夏

国際宇宙探査センター
月極域探査機プロジェクトチーム
研究開発員
藤岡 夏(ふじおか なつ)

東京都出身。テラメカニクス分野(砂と機械の相互力学)を専門とし、LUPEXプロジェクトのローバの走行試験等に従事。また「日本の国際宇宙探査シナリオ(案)2021」の改訂に携わる。休日はつくばの豊かな自然の中で馬術競技に挑戦中。

取材・⽂︓笠井美春  編集︓武藤晶⼦

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