JAXA独自のリブレットで、環境にやさしい航空機の実現をめざす

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飛行試験用に貼り付けられたリブレット(黄色の矢印部分)

サメ肌を模した微細な縦溝(リブレット)が、航空業界の課題を解決

JAXA独自のリブレットで、
環境にやさしい航空機の実現をめざす

「航空機をいかに燃費よく飛ばすことができるか」
これは航空業界における普遍的な課題だ。
これに応える解決策のひとつが、サメ肌を模した微細な縦溝で流れを制御する
「リブレット」だ。
JAXAが独自に研究開発を進めてきた、「JAXAのリブレット」について、
航空環境適合イノベーションハブの栗田充に聞いた。

燃費のよい航空機を。長年の課題にJAXAの技術で応える

リブレット技術とは、サメの肌からヒントを得た空力技術だ。

航空機の燃費をよくするには、機体の空気抵抗を減らすことが重要になる。それを実現するために、もっとも効率のよい方法が、航空機の抵抗で最も多くの割合を占める機体の表面摩擦抵抗を低減すること。そして、これを叶える技術の1つがリブレットなのだ。

JAXAは、現在、リブレットの実用化に向けて性能試験などを進めており、その研究開発に携わってきた栗田は、JAXAのリブレットについて、こう説明する。

リブレットの拡大サンプル(影の部分から、シートに溝がついていることがわかる)
リブレットの拡大サンプル(影の部分から、シートに溝がついていることがわかる)
リブリットの形状と効果のイメージ

リブリット効果イメージ図

「リブレットとは機体表面に微細な縦溝(旅客機の場合、溝の間隔は約0.1㎜)を施す空力技術です。通常、空気抵抗を減らすためには、機体表面は凹凸のない方が効果的だと考えがちなのですが、あえて微細な縦溝を作ることで、機体表面に速い流れの空気があたる面積を少なくします。それがリブレットで表面摩擦抵抗が減る原理です。このリブレットについて、JAXAはどのような形状にすれば最も高い空力性能(空気の流れから受けるさまざまな影響を制御する力)を持つかも研究しています。」

空力性能・施工性・耐久性の向上が実用化への鍵に

空力性能の向上について栗田は、「多くの方々からご協力をいただきながら、技術を積み重ねている」と語る。

飛行状態を模擬したJAXAの風洞試験でリブレットの空力性能を評価する

飛行状態を模擬したJAXAの風洞試験でリブレットの空力性能を評価する

「リブレットの表面摩擦抵抗を低減させる性能を確かめるために風洞試験設備にこもって、実験を繰り返し続けました。本当に効果的なリブレットをつくることができるのだろうか、と不安になることもありましたが、同僚や施工メーカらとともに粘りに粘って、微細な調整と実験を繰り返し、めざましい空力性能を発揮するリブレットをつくることができました」

しかし、性能のよいリブレットが完成しても、実際の航空機に適用するためには、まだまだクリアしなくてはならない課題があった。それが、施工性と耐久性のさらなる向上だ。

JAXAのリブレットでは、実用化に向けてエアラインや施工メーカとともに、既存の航空機塗料を用い、転写シート成形法と、レーザー加工法の2種の施工方式を研究している。これらの手法で、いかにスピーディに航空機全体にリブレットの施工ができるかが、実用化の鍵なのだ。

転写シート成形法(左)と、レーザー加工法(右)
左:転写シート成形法(Ⓒオーウエル株式会社) 右:レーザー加工法(Ⓒ株式会社ニコン)

例えば、現在エアライン各社が運航している旅客機の稼働率は非常に高い。そのため、リブレット施工のために運航を停止して時間を確保することは難しい。よって、通常の整備の時間内で、機体へのリブレット施工ができる高い施工性が求められるのだ。

一方、耐久性においては、2022年7月から日本航空株式会社の運航機体(JAL機)での飛行試験を行っており、2023年2月には、その成果について羽田空港のJAL格納庫でメディア説明会を実施した。

JAL機に貼り付けられたリブリット(黄色の矢印部分)
JAL機に施工されたリブレット(黄色の矢印部分)

「JAL機による耐久性を確認する試験は、実際に運航中の機体にJAXAのリブレットを施工して行われています(7.5×7.5cm 程度の小面積の施工)。2種の施工方法(転写シート成形法、レーザー加工法)について、実機運用環境で1日6回程度の飛行サイクル、通常運航用の定期的な機体洗浄、整備、点検などを実施して、1,500時間の飛行を終え、リブレットの空力性能が維持されているか評価しています」

今後は、短時間での施工方法や、より効果が大きい形状を開発するなど、「JAXAのリブレット実用化技術」を確立させたい考えだ。

日本の航空機の国際競争力を向上させ、他の分野にも利用拡大を

「空力性能、施工性、耐久性を高めて、JAXAのリブレットが実用化すれば、空を飛ぶすべての航空機にこのリブレットを施工できる日が来るかもしれません。そうなれば、航空機のCO2排出量は削減され、地球温暖化の防止に私たちの技術を生かすことができます。一機でも多くの航空機を、環境にやさしい機体に生まれ変わらせたい。持続可能な未来の実現において意義のある研究開発だからこそ、しっかりと実用化の道筋をつけていきたいと考えています」

実用化においては、JAXAだけでなく、これまで研究開発をともにしてきたさまざまな企業、エンドユーザーであるエアラインや施工メーカとの連携も必要不可欠だ。

「JAXAのリブレットが実用化まであと少しのところまで来られたのは、ここまで一緒に研究開発を進めてきた多くの企業や大学の方々、同僚の協力があったからこそ。それぞれの力を集結させて、JAXAのリブレットを世の中に広めていきたいです」

飛行実証試験で協力したエアライン・施工メーカと作成したシンボルマーク
			  RiblEt Flight RESearcH for carbon neutralの略称からRefreshと命名した
飛行実証試験で協力したエアライン・施工メーカと作成したシンボルマーク
RiblEt Flight RESearcH for carbon neutralの略称からRefreshと命名した

Profile

栗田 充(くりた みつる)

航空環境適合イノベーションハブ
主任研究開発員
栗田 充(くりた みつる)

兵庫県出身。航空機開発のための風洞計測手法として、感圧塗料(PSP)計測や表面摩擦抵抗計測の研究開発に従事。現在は飛行実験、風洞実験、CFD等を駆使し、航空機の表面摩擦抵抗低減のためのリブレット技術の研究開発を推進中。空気抵抗の低減は航空機に必要不可欠な技術。エネルギ消費やCO2の低減が望まれている中、環境によりやさしい航空機を目指して研究開発を進めている。

編集:武藤晶子 取材・文:笠井美春

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