宇宙技術で地域課題の解決を。 APRSAF-28、3年ぶりの現地開催

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宇宙イノベーションのさらなる活用を呼びかける

宇宙技術で地域課題の解決を。
APRSAF-28、3年ぶりの現地開催

2022年11月、ベトナム・ハノイにて、
第28回アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF-28)が開催された。
コロナ禍はオンライン開催となっていたが、今回は3年ぶりの現地開催。
「持続可能で豊かな未来への架け橋・宇宙イノベーション」をテーマに
4日間開催された同会議について、
調査国際部の館下由美子と、新事業促進部の高田真一に話を聞いた。

現地開催だからこそ、ネットワーキング(異業種交流会)を増やす

アジア・太平洋地域宇宙機関会議(Asia-Pacific Regional Space Agency Forum: APRSAF)は、この地域における「宇宙利用の促進」を目的として1993年に設立された。

各国の宇宙機関や行政機関、民間企業、大学・研究所など様々な組織が参加するこの会議において、JAXAは事務局を担当。今回も共催機関である文部科学省、ベトナム科学技術院と連携しつつ、テーマやプログラムを決定する運営委員会を取り仕切り、開催準備をリードしていく役割を担った。

事務局として活動をしてきた調査国際部の館下由美子は、APRSAF-28の準備や開催内容を、こう振り返る。

「2020、21年はオンライン開催となっていたAPRSAFですが、今回は久々の現地開催。まずは集まることに意義がある会議にしなければと考えていました。コロナが発生する前、2019年のAPRSAF-26は名古屋開催だったのですが、25周年の節目となったこの会議で採択されたのが、『名古屋ビション』です。ここで掲げられたのは、今後10年間のAPRSAFにおける取り組みの方向性。『広範な地上課題の解決の促進』『人材育成や科学技術力の向上』『地域の共通課題に対する政策実施能力の向上』『地域のニュープレイヤーの参画促進と多様な連携の推進』などの方針が示されました。

それをうけてAPRSAF-28のテーマは、アジア・太平洋地域の共通課題、特に近年、解決が重要視される持続可能性にまつわる地域共通課題と地域の経済発展への貢献に焦点を当て、『持続可能で豊かな未来への架け橋・宇宙イノベーション(Bridging Space Innovations Opportunities for Sustainable and Prosperous Future)』に決定しました」

分科会の1つ、宇宙法政策ワーキンググループの様子

分科会の1つ、宇宙法政策ワーキンググループの様子

4日間のプログラムでは、前半2日間は各種分科会が開催され、後半2日間はプレナリーセッション(各国の政府・宇宙機関や民間企業のトップなどによる講演やパネルディスカッション)が実施された。各国の宇宙機関におけるトップレベルが集まるとあって、その準備も綿密に進められた。また、現地開催だからこそできる直接交流の場も設けた。

「会期中は、ネットワーキング(異業種交流会)の場を意図的に多く作りました。何気ない会話や自由な議論から、異なる地域の共通課題に気づくこと、思いもしなかった宇宙技術の活用案が発見できることがあります。交流機会を多く作ることで、新たなアイデアやパートナーシップの偶発的な誕生を引き出したいと思いました」

Face to Faceでさらに有意義な出会いと発見の場に

APRSAF-28の中では様々な分科会、ワークショップも開催された。その1つが「宇宙産業ワークショップ(以下、SIWS)」だ。アジア・太平洋地域の宇宙産業を発展させるために、APRSAF参加国および参加団体を代表するパネリストたちとともに宇宙産業の現状と課題について議論することを目的としたSIWS。これをリードした新事業促進部の高田真一は、オンラインでは得られない効果を、実際にベトナムで感じたと語った。

SIWSのパネルディスカッションの様子

SIWSのパネルディスカッションの様子

「私は初めてAPRSAFに参加したのですが、各国から集まった政府関係者、企業、研究組織の皆さんが、宇宙産業の今について語り合い、各地の社会課題をどう解決していこうかと議論する様子を、目の当たりにすることができました」

SIWSでのパネルディスカッションでは、世界の宇宙産業の次のステップや、商業宇宙産業促進のために政府に何ができるか、また、宇宙技術の社会実装、宇宙ステーション利用についてなど、幅広いテーマで議論が交わされた。

高田が、特に現地開催ならではの企画だと感じたのは、最終日に設けたラウンドテーブル(様々な組織、立場のメンバーが円卓を囲み自由に意見交換を行うこと)だという。

「政府関係者や企業関係者、学生など立場の違うメンバーが同じ卓を囲んで、活発に意見を交換していました。柔らかな雰囲気の中で、宇宙技術をどのようにして社会に活用するかという議論に加えて、それが実現できる仕組みをどう構築するかなどが議論され、とても貴重な機会になったと感じました。

ラウンドテーブルの様子

ラウンドテーブルの様子

オンラインではどうしてもコミュニケーションが制限されますし、様々な意見が飛び交う場づくりをするのは難しいものです。今回のラウンドテーブルのように、短時間で、組織のトップと学生が同じようにアイデアを出し合う機会を作ることができたのは、現地開催ならではの効果だと言えます」

また、館下も各所で小さなミーティングがいくつも開催される様子を見て、直接交流の効果を実感したという。さらに、参加者の層にも大きな変化が見られているからこそ、今後も現地開催の利点を生かし、さらなるコミュニケーションの活発化を図りたいと続けた。

「APRSAFは、スタート当初は宇宙機関だけの集まりで、テーマも研究開発がメインでした。しかし、ここ数年で宇宙産業をめぐる環境が大きく変化し、民間企業が主体となる動きが活発化しました。これにより、『宇宙技術はどのような課題に活用することができるのか』、また『宇宙技術での課題解決を、どう社会実装するのか』という議論がメインテーマにあがるようになり、今では、参加者の約4割が民間企業、団体になっています。

つまり、参加者の皆さんがAPRSAFに強く望んでいるのは、研究技術の発展だけでなく、『どのような人と、どのようなソリューションができそうかを見つける場』であること。これを叶えるためにも、APRSAFを『有意義な出会いと発見の場』にしていく必要があると考えています」

来たるAPRSAF-29、30に向けて、幅広い参加を呼びかけたい

今回のAPRSAF-28では、例えばベトナムの水田で出るメタンガスの量を、人工衛星を利用して調べ、気候変動の予測に役立てたり、災害対策や農業支援に宇宙技術を役立てたりするアイデアが挙がった。今後のAPRSAFでは、こうした具体的な活用アイデアがさらに活発に出てくるようにしたいと考えている。

「次回のAPRSAF-29はインドネシア、APRSAF-30はオーストラリアでの開催を予定しています。現在、すでにAPRSAF-30の準備をスタートさせているのですが、オーストラリアは、民間の宇宙利用が非常に進んでいる国です。今回のAPRSAF-28のように活発な意見交換が起こることで、宇宙技術を使った社会課題の解決、社会実装が一気に進むかもしれません。各国からの参加者にとって、学びや有意義な出会いの場となるよう、準備を進めていきたいと考えています」

今後のAPRSAFへの意気込みをこう語った館下は、さらに幅広い人への参加も呼びかけていきたいと続けた。

「現在、APRSAFは参加者に特別な制限を設けていません。趣旨に賛同し、参加を希望すれば、どのような団体でも参加できますし、学生の参加も可能です。だからこそ、宇宙産業に興味のある人はもちろん、地域課題で困っている人にも課題を共有する場として活用して欲しいと考えています。課題共有が、技術活用の可能性がある企業や団体との出会いのきっかけになるはずです。ぜひ、パートナーとなる企業を見つけ、産業の関心を得る機会にしていただければと思います」

高田もこれに頷きつつ、今回感じた各国参加者の熱量やネットワークをつなぎとめることのできる場を、もっと作っていくことも大事だと続けた。

「APRSAFは年に1回の大きな会議です。各国のキーパーソンが集まるその機会を生かすために、随時、小さなシンポジウムなどを各地で開き、APRSAFに向けた下地作りをしていければと考えています。せっかく出たアイデアを埋もれさせてはいけませんから」

さらに高田は、「今後もAPRSAFでは実際に課題を保有するAPAC(アジア太平洋)地域のさらなる発信機会の確保に努め、宇宙産業に参画する・したい方と関わることで、APACの課題解決に直接つながる場にしていきたい、このような意欲のある多くの方に出席して欲しい」と呼びかけた。

「各地の課題を理解し、アジアでの活躍の場を得るのにとてもいい機会になります。これをトリガーとして各企業が成長し、アジアの社会課題を解決。アジア市場への進出を掴んでほしいと考えています」

現地開催で多くの出会いや課題解決のきっかけを創出したAPRSAF-28。次回開催もまた、幅広い領域での機会創出の場となることが期待される。

APRSAF-28の集合写真
APRSAF-28の集合写真

Profile

館下 由美子

調査国際部
参事
館下 由美子

東京都出身。衛星部門での衛星データ利用に関する国際協力交渉や調達関連業務の他、 アジア協力推進室や世界銀行(米国)での長期派遣研修等におけるアジア・太平洋地域との 国際協力業務の経験を経て現職。子どもとの戦国時代の名所めぐりが目下の楽しみ。

高田 真一

新事業促進部
事業開発グループ
参事
高田 真一

兵庫県出身。ロケットエンジン開発、宇宙ステーション補給機「こうのとり」開発・運用、米国・ヒューストンでの国際調整業務、ミッション企画等を経て、現職。 有人宇宙・宇宙輸送ビジネスの共創(J-SPARC)、産学・JAXA連携による超小型衛星ミッション創出及び民間宇宙輸送サービス活用(JAXA-SMASH)、新事業・国際業務を推進している。趣味はアメフト観戦。「アメフトは、アメリカ人との対話ツール」。

編集:武藤晶子 取材・文:笠井美春

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