今も昔も、変わらず宇宙を見守る
追跡ネットワーク技術センター

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筑波宇宙センターの最古参部署

今も昔も、変わらず宇宙を見守る
追跡ネットワーク技術センター

1972年。筑波宇宙センター開設当初から存在する、追跡ネットワーク技術センター。
人工衛星や探査機を24時間365日見守る役割を持つこの部署は、これまでの50年、どのような道をたどってきたのか。センター長の井上浩一に聞いた。

追跡ネットワーク技術センターの歩み

追跡ネットワーク技術センター(以下、追跡N)のある追跡管制棟は、筑波宇宙センター敷地内にある建造物の中でも、初期に建設されたものだ。JAXAの前身であるNASDA時代から同部署は、人工衛星や探査機の追跡管制とそのために必要なパラボナアンテナなどの設備の維持運用を担ってきた。

追跡管制棟(1975年)

追跡管制棟(1975年)

勝浦宇宙通信所(1973年)

勝浦宇宙通信所(1973年)

「NASDA設立当初の職員の多くは電機・重工メーカや通信系企業、官公庁などの出身者や出向社員でした。私が入社した1988年当時、約200名の職員が追跡管制の関連部署に在籍しており、出向者は四分の一程度になっていました。現在はJAXA職員が多数を占める部署になりましたが、当時はさまざまな分野から人材が集まって、追跡管制業務にあたっていたのです」

現在、追跡Nの拠点は、筑波宇宙センターをはじめとして、勝浦宇宙通信所、沖縄宇宙通信所、増田宇宙通信所、臼田宇宙空間観測所、内之浦宇宙空間観測所、地球観測センター(埼玉県比企郡)、美星スペースガードセンター、上齋原スペースガードセンターなど日本全国に9カ所(設置しているパラボラアンテナは国内15局)あり、さらに海外にも4つの拠点がある。しかし、井上が入社した当時は、筑波、沖縄、勝浦、増田、臼田、内之浦、地球観測センターの7カ所のみ。人工衛星の打ち上げの際には、JAXA(当時はNASDA)所有のアンテナだけでは足りないため、海外の宇宙機関からアンテナを借りて業務を行っていたと、井上は当時を振り返った。

管制業務の中核、追跡中央管制室の変化

「開設当時の追跡中央管制室(以下、管制室)は、段差のある室内構造で、正面に大きなモニター、木目調の卓がその前にずらりと並べられていました。職員の勤務はシフト制。24時間絶え間なく宇宙を見守るために、常に誰かが運用卓に着いていましたね」

改装前の追跡中央管制室

改装前の追跡中央管制室

「特に、ロケットの打ち上げから4~5日間、人工衛星の軌道が落ち着くまでは気が抜けなかった」と井上。衛星を見失うことのないよう、100人規模でシフト勤務を行っていたことからも、管制作業の重要さと当時の大変さがうかがえる。

「現在は、国内外すべての拠点からのデータを管制室に収集し、各拠点のアンテナなども遠隔操作ができるようになっていますが、最初期は、管制室からの音声指示に従って、各拠点の職員が設備を運用していました」
今は遠隔操作に加えて設備運用の自動化も進み、各拠点にJAXA職員が常駐していないことも大きな変化だ。

その他、使用する機器の変化について聞くと、「現在と比べると、さまざまな機器が大きかった」と井上は振り返る。

「私が入社した当時は、軌道力学計算には軽自動車ほどの大型計算機を、衛星管制システムには本棚くらいの"小型"計算機を使用していました。前者は管制室には収まらず、熱を持つので冷房完備の専用部屋に設置。しかし技術の進化とともに機器が小型化し、今ではすべて管制室内に設置できています。インターネットの普及で通信手段も変化し、必要がなくなった機器も多々あり、管制室の様子もずいぶん変化しましたね」

現在の管制室は、段差のあった床面がフラットになり、かつて正面に配置されていた大型モニターも撤去されている。その代わりに、各デスク前に複数のディスプレイが設置され、必要な情報を目の前で確認できる仕様になった。

現在の追跡中央管制室
現在の追跡中央管制室

「宇宙と地上をつなぐために」
追跡ネットワーク技術センターの役割と思い

「時代とともに、さまざまな要請に応じてシステムを変更、進化させてきた追跡Nですが、私たちの使命は当時と変わっていません。人工衛星の追跡管制と必要な設備の維持運用であり、宇宙空間にある人工衛星とそれを使う人を結びつけること。このことに、変わらず力を尽くしています」

使命を貫きつつ、具体的な業務には変化もあったと語る井上。例えば、開設当時から同部署が担当していた業務は、①アンテナをメンテナンスし使用計画を立て運用する、②衛星管制を行う、③軌道決定と軌道伝搬(予測)を行う、④システムを開発する、という4つだった。

しかしここから時を経て、②の衛星管制が、それぞれの衛星を所掌している部署に業務移管。そして近年、新たにスペースデブリ(宇宙ゴミ)から人工衛星を守るために、スペースデブリの観測業務も担うようになったのだ。

上齋原スペースガードセンター(左)と美星スペースガードセンター(右)から、スペースデブリの観測を行うイメージ
上齋原スペースガードセンター(左)と美星スペースガードセンター(右)から、スペースデブリの観測を行うイメージ

「前世紀からデブリ関連の研究は行ってきましたが、今世紀に入ってからスペースデブリの問題が注目されるようになり、JAXAでもその対策に乗り出しました。私たちが行うのは、デブリを観測しつつその軌道を予測し、衝突を避けるために人工衛星の軌道を調整するというもの。これもまた、常に宇宙と人工衛星たちの様子を見守っている私たちだからこそできる大切な業務だと考えています」

30年以上前と、現在の追跡Nの業務に関わっている井上は、同部署のやりがいについて、最後にこう語った。

「追跡Nは、あまり光があたらない部署かもしれません。しかし、メンバーは皆、私たちがロケットや人工衛星たちを常に見守る、という自負を持って業務にあたっています。緊張感を持って全てのプロジェクトに関わり、それぞれのミッションを下支えできることに誇りを持っているのです」

センター長となった今も、「やっぱり現場で運用卓に座っていたときが楽しかった。画面の向こう側に人工衛星や管制設備があると、思い描きながら仕事をできることがなによりの喜びでしたね」と語る。

今も昔も宇宙と地上をつなぐ部署であり、絶えず宇宙を見守り続ける追跡N。その視線の先にさまざまな宇宙ミッションの成功があるのだ。

Profile

井上 浩一

追跡ネットワーク技術センター
センター長
井上 浩一

東京都生まれ、埼玉県育ち。入社後、中央追跡管制所(現追跡ネットワーク技術センターの前身)に配属。地球観測衛星の開発、地球観測衛星の地上システムの開発、超小型衛星(50kg級)の開発運用等を経て現職。趣味は、高校から始めた合唱(男声合唱、混声合唱)。これまでに、東京文化会館、サントリーホール、東京芸術劇場、オーチャードホール等での演奏に参加。

取材・文:笠井美春

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